時刻は朝七時。
俺、
別に家族と死別しているわけではない。
進学が決まった学校の場所の関係で数か月前からアパートで一人暮らしを始めているだけだ。
一人暮らしをする前に親に色々と心配されたが、スマホが普及している今の世。簡単に連絡がとれるのだ。
流石に過保護すぎると言うか、親とのジェネレーションギャップを感じざる負えなかった。
さてのんびりと自己紹介している暇はない。今日は朝から学校で約束があるのだ。
身支度もほどほどに、朝食の菓子パンを牛乳で流し込み、家を飛び出る。
そしてー、振り返って鍵を閉める。
周囲を見て、奇妙な一連の行動を誰にも見られていないことを確認。
するとアパートの正面入り口から顔見知りの女性が目に入った。
「あら、正人くん? おはよう」
挨拶をしてきてくれたのはお隣に住んでいる
朝食を買いに行っていたのか、片手に買い物袋。もう片方の手は壁を伝わせながらこちらに来ている。
彼女、普段は眼鏡をしているのだが、あまり似合わないからと言って出掛ける際は外している。
コンタクトも眼に異物を入れるようで怖いと言い、拒否している。
いるよね~、そういう人。
そういうところ、言うまでもなく大・好・きデス!!
「京子さん、おはよございます!」
朝風呂派なのか、彼女は朝会うときはいつもほのかに髪を濡らしている。
流れる春の風が、未だ残る湯の熱とシャンプーの香りを届けてくれる。
これだけで笑顔になれる俺は現金な奴だ。
「今から学校?」
「はい。と言っても早めに行って友達たちとゲームをするのが目的ですが」
「ふふっ、学生さんらしくて良いわね」
クスリと笑う彼女を見て自分の頬が赤くなっていくのがわかる。
ぶっちゃけて言うと俺は彼女に恋をしている。
だからか、仕草一つ一つ可愛らしく思ってしまい、直視することが出来ない。
その長い髪も、その普段見せている落ち着いた表情も、高くもない低くもない平均的な身長も。ついでに言うと、彼女の一番のチャームポイントの大きいおっぱいも好きだ。
それぐらいぞっこんだ。
そんな彼女の部屋になんと何回かお招きいただき、お邪魔させてもらっている。
言うまでもなく俺は片想い勢としては勝ち組。両想い勢には敵わないけどなッ!!
「京子さんは今日お仕事ですか?」
誤魔化すようにはにかみ笑い、彼女に問いかける。
もし違うと答えられたらどうするつもりなのか。あるはずもない答えを己の中で探す。
「ううん」
答えはまさかの否。思わずドクンと心臓が大きく跳ねる。
どうする?
どうする……じゃない、話を続けろ、俺。
学校なんてどうでもいい。
友人なんてどうでもいい。
どうにかして彼女との関係を発展させたい!
だが彼女の言葉は続いた。
「今日は友達とショッピングなの。なにかお土産買ってきてあげるから楽しみにしててね」
それを聞き、酷く落胆した。
ただ表情でその感情を露見させるのは流石にヤバいので、張り付いた笑みを見せ、その場をやり過ごす。
「マジっすか! いや~、嬉しいな~。お土産楽しみにしてます!」
「うん。……あっ、ごめんね。友達と約束があるのに長々と話しちゃって。学校頑張ってね」
渾身のグッドサインも軽い微笑みで受け止められる。
あげく気を使わせてしまい、彼女はそのまま自室にフェードアウトする。
パタンと扉が閉まる音が聞こえてから数秒後。
完全に彼女が部屋でくつろぎだしたのを確認すると俺は大きなため息を吐き、駐輪場に向かう。
自転車を走らせる。
受ける風はいつも爽やかなのに、今日はなんだか同情されているような。
そう感じたのはきっときのせいではないのだろう。
学校につくまでの道中、何度も何度もため息を吐いた。
これでもかって、身体の空気が全部抜けるぐらいため息を吐いた。
おかげで信号待ちしていた時におばあさんから饅頭をもらってしまった。
ごめんなさい。
そんな気の入らない状態でゲームでをしてもいい結果が出るはずなく。
対戦したらパーフェクト負けするわ、協力プレイしたら足を引っ張るわで散々だった。