不意な口付け。舌が口の中に入って来る。
大好きな彼女のモノなのに、異物が入ってきたようで気持ち悪い。
気付けば彼女を拒絶し、弾いていた。
「あ――――」
口内の唾を飲み込む。
その中には彼女の唾液も含まれていたのだろう。飲み込んだのに
それでも負けず吼える。
「い、いきなりなにするんですか! キスなんて恋人でもないのに!!」
「やってみないとわからないんでしょう?」
弾かれた彼女は何事もなかったかのように立ち上がり、上の服を脱ぎながらこちらに迫って来る。
男ゆえに憧れたあの胸も露出しているのに、全然興奮しない。
「私はね、正人くん。貴方のことが欲しいの」
再び俺の頬に触れる京子さん。
見つめ合うその眼はいつもの優しいものではなく、酷く冷たい、生気を感じないものだった。
「夢、叶えさせてよ」
その言葉は変わらず淡々としたものだったが、どこか震えているように思えた。
ただそれで受け入れるかどうかは別問題で、俺は必死に抵抗し、彼女を突き飛ばそうと両手を伸ばす。
「止めて、京子さん! 正気に戻って!」
「私は至って正気よ」
しかし先程と違い、京子さんは俺の両手首を掴み、壁に押し付けた。
喧嘩慣れしていない俺は手首にかかる力に驚く。
全く抵抗できない。
とてもじゃないが女性の力とは思えない。
「ごめんね、これでも元運動部なの。帰宅部の学生さんに負けるほど劣っていないわ」
そう告げると空いてる手で俺のベルトを、そしてズボンを解く。
その手法は鮮やかで、手慣れていることは見て取れた。
「あっ、あぁ……」
その間、俺は情けなく悲鳴を上げるしか成す術が無かった。
恐怖という感情が胸奥に渦巻いているのに、陰茎のほうは純粋に見事な女体を見て喜んでいるようだ。
テントを張っているパンツは丁寧に脱がされ、それは跳ね上がり、姿を現す。
「あら、学生さんなのにずいぶんたくましいこと。凡な大人より立派よ」
褒めているのだろうか。
怖くて顔を背ける俺の耳元でそう囁くと、頬にキスをする。
手の拘束が解かれる。そして俺の手を持っていた彼女の手は顔横の壁に付けられた。
今なら、逃げることが出来る――――。
だが身体中、まるで金縛りにあったように上手く動かすことが出来ない。
「見て。正人くんのおちんちんが私の中に入っていくよ」
スカートをたくし上げると、なんと彼女はその下になにも穿いていなかったようだ。
宣言から間を置かず結合されていく股間を見せつける。
普段は摩擦熱ぐらいしか感じない陰茎は、まだ先端しか入っていないというのに彼女の体内の熱を感じ大きく反応する。
ぷちゅ、ぷちゅと弾力のある肉を弾き、熱の籠る奥に向って行くのが理解できた。
手でも足でも無いのに理解できる感覚に戸惑いしか湧かない。
ぐねぐね道をまっすぐにする。
自身の陰茎で大きさも形も矯正するような感覚は本当なら征服感を感じさせるものなのだろう。
だが使われている今は逆に屈服させられているようにも感じる。
「やんッ!」
「あうっ!?」
彼女が短く喘ぎ声を上げると共に陰茎が彼女の中に一気に沈んでいった。
陰茎の先端がなにか壁にぶつかったのを理解する。
そこから動こうとしない彼女。
だが体内では何かがうごめき、先端の横を甘く揉んでいるように感じる。理解できない現象に思わず声を上げ問う。
「なにこれ……なんなんだよ、これ!」
「んふッ、わかる? その甘く吸ってるとこが子宮口。赤ちゃんが出来る部屋の入口よ」
「あかちゃん?」
オウム返しのように問う俺に、彼女はなにか気付いたのか。頬に指を沿わせ問う。
「いま、何してるか理解してる?」
「セックス……」
なにも間違ってないはずだ。なのに彼女は首を横に振った。
「違うわ。ただのレイプよ。貴方は愛玩具と何も変わらない。ただ違うのは貴方はれっきとした生物だと言うこと」
彼女はいつもの彼女のように優しく説明する。
しかしパニック状態の自分は彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「そこに愛はないのよ」
だから彼女が寂しく零したその言葉の意味も理解できなかった。
「でもそうね。結局はセックス。正解かもしれないわ」
それを隠すように京子さんは身体を激しく動かし始める。
完全に精を搾り取ろうとする、女性という獣の本性をむき出しにした状態に移行した。
「きゃうッ、あぐっ、あぁ!! きょ、コッ、サンンン!! や……め、ッ!」
拒もうと虚しく宙を漂う手は奇しくも恋人のように、平と平を合わせた形で繋がれる。
「セックス、って、いうのはね……ンッ! 子供を、作るためにッ、行うものなの……。アダルトビデオの、ような、ヤぁン! 遊戯とは……違うのッ、よ」
いつも自分の手で疑似的にやっている行為は全てこの時のため。
望もうが望まないだろうが、結合してしまったが最後。女の膣壁で男の陰茎を興奮させて射精を促す。そして子供を妊娠する。
妊娠させてしまったら責任を取り、夫婦にならなければならない。
それはある意味望んだ関係ではないのか? 拒絶する必要はないはずだ。
なのに、なんで俺はこんなに泣いて拒絶しているのだろうか。
理想の崩壊?
〝初めて〟に対しての恐怖?
あぁ、頭の中が真っ白に溶けていく。
この瞬間だけは、もうなにもかもどうでもよく思えた。
「ああああああああああぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」
「ッッつい!!」
京子さんの動きが止まる。
理由は簡単だ。俺が射精したからこれ以上、絞り取る必要が無くなったから。
もう彼女的には俺は不要な存在に成り下がった。
彼女は俺の陰茎を身体から引き抜き、零れ落ちそうになる精液を体内に押し戻す。
その視線はどこか寂しそうではあった。
ただなんで彼女が寂しそうなのかは理解できなかった。
そしてふと問いかけてくる。
「ねぇ、夢。叶ったと思う?」
と。
その問いに激しい苛立ちを覚えた。
それはきっと悪い方向にあえて持って行っているにもかかわらず、叶うはずがないと嘆いている彼女に苛立ったからだろう。
そう彼女に言えばよかったのに、俺は逃げるように一言吼えるしかできなかった。
「知るかよッ!」
俺は素早くズボンを直し、自室に逃げるように帰る。
そして部屋の鍵をかけ、カーテンも全部閉め、完全に閉じこもるようにし、さきほど何が起きたのか思い返す。
これは望んだ関係?
違う。こんなもの望んでいない。俺は彼女を……。
『貴方のことが欲しいの』
違う、違う、違う! 同じなのに、違う!
もうわけがわからない。気が狂ってしまいそうだ!!
そこにノック音が響く。
扉の先に誰がいるか、考えるまでもないだろう。
「正人くん」
好きだった人の声が室内に響く。
俺は耳を塞ぎ、それを聞かないようにする。
「ごめんなさい」
一枚の壁の向こうから微かに聞こえた彼女の声。
それを最後に何も聞こえなくなり、そして代わるようにこの部屋には俺の絶叫が轟いた。
恋は思った以上に苦く、いつまでも心を蝕む。
むかし、身体を重ねれば解り合えると何かのドラマか本で見たことがある。
あれは嘘だ。なにも解らなかった。ただ背負う必要がない重責が増えただけだ。
簡単に嫌いになれればいいのに。
そう思うのに浮かぶのは彼女の愛らしい笑みばかり。
それはもはや呪いと言っても過言ではないだろう。
忘れることが出来ない。
嫌いになることが出来ない。
ならばせめてもう会わないようにしてくれ。
そう願いながら俺は布団に身篭り、現実から逃避した。
◇
願いとは面白いものだ。
前向きの願いを叶えるためには人生そのものを捧げるほど努力しなければいけないのに、後ろ向きの願いはとても簡単に叶ってしまう。
事実、その日以降、彼女とは全く会わなくなった。