水商売は汚いと罵る者たちがいる。
それは淫らに身体を売ることが汚いと言っているのか。
人気だけで金をむしり取ることを汚いと言っているのか。
わたしにはどちらか判らない。
でもどちらにせよ別に汚いとは思わない。
だって、それを心の拠り所にしている人間がいるのだから。
テレビで煌びやかに輝くアイドルと何の違いがあるのか。
むしろCDを何百枚買っても外れるお手々繋ぎや座談会より、一定のお金を出せば身体を好きに出来るこちらの方が良識があると思う。
望むのだったら握手一時間してあげるわよ? 楽だし。
私の名前は花守 京子。
成人してお酒も飲める年齢。仕事は風俗、いわゆるデリヘルというものをしている。
でもきっと心は子供なのだろう。
だからあの子に憧れを抱いた。
◇
デリヘル=デリバリーヘルスというものは基本性交は禁止になっている。
これはソープなんかでも一緒。
それは何故か。
日本は淫らな国ではない、とお堅い面を守るためだ。
でも一緒にお風呂入ってたら恋に落ちちゃって、エッチまでしちゃいました~ってのがテンプレ口実だ。
無論、本当に恋に落ちる事なんて万が一程度の確率で、ほとんどが追加チップ目当てかたまたま相手のイチモツに目がくらんだ色欲魔か。二つに一つ。
私の場合、当然前者でほとんどの客と身体を交えている。
更に追加してくれれば無理ない程度のオプションもつけている。
人は〝更に〟という言葉に弱い。支払える範囲なら簡単に視野に入れてしまえる。
もっともその金に目がくらみ、〝更なる〟お金に手を伸ばそうとする私たちも当てはめられる言葉なのだが。
今日もまた私の指定が入ってきた。
男性従業員の運転の元、指定されたラブホテルに向かう。
その際、車内は無言。
というのも味気ないので男性従業員が話しかけてくる。
「最近調子どーよ」
「特に。あのリピのおっさんが最近来ないから最悪から普通に戻りました」
「ははッ、そう言えばキョーコちゃん嫌ってたな」
「だってシャワー無しで身体舐めさせてくるんですよ? 最低、マジあり得ない。仕事じゃないなら殴ってます」
「あー、悪い。想像しただけで気持ち悪くなってきた。ちょいコンビニに一時間ぐらいこもっていい?」
「ダメでしょう。遅刻しちゃう」
「だよな。ははは」
特別な職種と思われているが、店員間の話は特段ほかと変わらないだろう。
嫌な客がいたら愚痴る。
客の前では明るく振舞う。
何も変わらない。
程なくしてラブホテル前に到着した。
黒い車が止まったと言うのに一流ホテルのような出迎えは無い。
リムジンではないからか。……関係ないか。
「じゃ、近くでぶらついてるから終わったら連絡くれな」
「りょーかい。いってきまーす」
適当な挨拶を交わし、私はラブホテルに入る。
そして受付に事情を話し、部屋の場所を教えてもらう。
エレベーターに乗り、目標の階のボタンを押す。
ガタンという音とともにエレベーターは私一人を連れ、上に昇っていく。
ふと壁に背を預け、後部を見る。
そこは鏡になっており、学生でもないのに制服を着ている自分が映っていた。
低くもなく高くもない身長。高校生と間違われても仕方ないかもしれない。
他人事のようにそう思う。
ただ視力の問題上、顔は見えず、姿もおぼろげだ。
そう。そこに映っているのは私じゃない。空似の誰かだ。
そう思い込み続けることでこの仕事を続けられる。故に他人事のように思える。
そう思うものの、軽蔑の眼を止めることが出来ない。
我を忘れ、鏡に睨み続けているとエレベーターはチンと音を鳴らし、到着したことを知られてくれた。