※この作品はR-18です。

【完結】色無き少女と深紅の乙女達   作:ウルハーツ

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第3章 友達・桜 のぞみ
第0話 導入


「無垢~!」

 

 帰ろうとしていた無垢の背中を見つけて声を掛けながら近づいた。こっちに気付いた彼女は振り返って何処か安心した様子を見せる。……その光景は最近見られる様になったもの。

 

 

 私の名前は桜 のぞみ。無垢とは同じクラスで、付き合いは中学くらいから。最初の出会いは確か同じ班だったってだけ。喋る事の出来ない無垢に友達って言える子は当時恐らくヒナタくらいしか居なくて、でもあの時ヒナタと無垢は別々のクラスだったから頼れる相手が居なかったんだと思う。で、話す事が出来ないなんて知らなかった私は男女2人ずつの班で自分以外の女子って事で当たり前の様に声を掛けた。

 

「私は桜 のぞみ。そっちは?」

 

『【佐伯 無垢】』

 

 分かり易く自分の名前にカギカッコまで付けたメモを見せながら自己紹介する彼女に誰でも喋れないなんて分かりそうなのに、私はどうしてメモで話すのかを聞いてしまった。別にそれが悪かった訳では無いんだけど、今では少し無神経だったかも知れないと思ってる。だけど正直、あの時は私も不安があったから。友達だった相手が尽く同じクラスなのに、私だけが1人別のクラスになってしまった。だから最初に出来た班の同性と仲良くしたいと思ったのは仕方ないと思う。出だしをミスれば今後の学校生活に支障が出るから。

 

 それから私は無垢と話をする程度の関係になった。まだ仲が良いとは言えない様な関係。でも班で行動する様な事になったら男子よりも無垢と話す事が殆どだった。と言っても本当にその時だけ。……とある授業の時までは。

 

 班で活動する授業の1つ、職業体験。それで私達の班はなし崩し的に保育園へ行く事になった。私は別にどこでも良かったけど、男子の方は別に行きたい所があったらしい。でも結局負けて、流れのままに保育園に決まった。男子はやる気が無かったけど、私はやるからにはしっかりやるつもりでいた。勿論、無垢もそうだったと思う。

 

 保育園へ行った時、無垢はやっぱり子供達から喋れない事について聞かれた。無垢はそれにメモで答えていたけど、子供達は読むのが大変らしくて途中で彼女から離れてしまった。多分、表情が変わらないのも少なからず影響してたと思う。男子は2人で適当に話していて子供の相手はしないせいで、自ずと私の元に子供達が集まって来る。それでてんやわんやになってしまった中、無垢の傍には何時の間にか列が出来ていた。

 

「え、何やってんの?」

 

 何人かの子供に乗られながらも思わず聞いてしまった私に、無垢は耳が外れてしまったクマのぬいぐるみを見せて来た。手元には針があって、それには糸が通されていて……それを治しているのは一目瞭然だった。そしたら、1人の女の子が教えてくれる。「壊れたクマさんをお姉ちゃんが治してくれるって!」、と。

 

『私は……子供の扱い、上手く無い』

 

「え? あ、うん。だね」

 

『でも何も出来ない訳じゃない』

 

 そうメモで答えて治すのに手を動かし始めた無垢は、数分でクマの耳を元通りにくっつけた。そうしたら他の子供達もあれを治して欲しい、これを治して欲しいと言い出す子が。結果、私は子供達に群がられて無垢は裁縫教室的なものまで始める事に。当然、子供達に針は持たせてなかったけど。

 

 職業体験が終わってクタクタだった私達は学校への帰路を歩く中で、自然と保育園での出来事についての会話になった。当然何にもしなかった男子が保育園での出来事を真面に話せる訳が無いから、無垢とだけ。

 

「はぁ~疲れたね。もう子供はこりごりかも」

 

『桜さん、人気物だった』

 

「佐伯も一杯治してたじゃん。結局何個ぬいぐるみを直したわけ?」

 

『12個』

 

「それ、もうちょっとした業者じゃん」

 

『頑張った。子供は来なかったけど』

 

「……もしかして、ちょっと妬いてる?」

 

「……」

 

 話をして行く内に私は無垢が子供達に好かれなかった事を悔しく思い、また好かれていた私を妬いてる事にも気付いた。そう分かった途端、私の事を人気者と書いた事も含めてやきもちだったのだと気付いて……途端に私はそんな彼女を可愛く思う様になった。

 

「もう少し笑えば良いんじゃない? ほら、ニコッて」

 

「……!」

 

「えぇ。それ、笑ってるの?…… っぷ、あはははは!」

 

 私の言葉に表情を歪めるだけで余り笑えているとは言えない無垢の顔を見て、私は徐々に可笑しい気がして大声で笑ってしまった。男子達が驚いた様子でこっちを見て来るけど、そんな視線を知らずに爆笑。思えばこの時、私はやっと無垢の事を少し知る事が出来た。余り表情は変わらないけど、実際は感情豊かな女の子で……何処か子供っぽくて可愛い子だって。

 

「ははっ、ふぅ……ねぇ、無垢(・・)。明日提出する記入表、一緒に書かない?」

 

「?」

 

 私の誘いに一度首を傾げてから頷いて了承した無垢。自分達が何をして、どうだったのかを記入するレポートの様な物が今日の宿題としてまだ私達には残っている。何もしなかった男子達にはきっと、書けない部分もあると思う。でも私達はお互いに全力で子供と向き合って接していたから、問題は無い。私は自然と無垢の手を引いて、さっきよりも軽くなった足で学校へ向かった。

 

 

 あの日から、私と無垢は本当に友達と呼べる様な関係になったと思う。それから今もこうして一緒に居られるのは、偶然が重なった結果。

 

 私は無垢の傍に近づいて、この後何処かに行かないかと誘う。……だけど、無垢は首を横に振って私の誘いを断ってしまった。今日も家事の当番なのかと聞けば、少しの間を置いてから頷いた無垢。でも私には分かる。今日、無垢は家事の当番じゃない。それに無垢は今、とても疲れてる。

 

「ねぇ、何か困った事があったら相談してね?」

 

『ありがとう』

 

 無垢はお礼の言葉を書いた紙を私に見せてから、離れて行ってしまう。

 

 どうして無垢が疲れているのか。どうして最近付き合いが悪いのか。私はその理由に心当たりがある。あの女の言葉が本当なら、きっと

 

「……これの、せい……だよね」

 

 私は鞄から自分のとは違うスマホを1台取り出す。それは数日前、名前も素性も分からない変な女の人に渡されたスマホ。明らかに危険なこれを今でも持っているのは、あの時あの人が行った言葉が気になっているから。

 

『余り悩んでいると、他の子に大事な子を取られちゃうかもね?』

 

 これを貰ってから少しして、無垢は全然誘いに乗ってくれなくなった。何かに怯えている時もあって……それがこのスマホに入ってる遠隔操作への警戒なのはもう知ってる。これを使えば、離れたところにいても無垢の身体を好きな様に出来る。最初は疑ったけれど、実際に下駄箱で(・・・・)悶える無垢を見れば本物だって分かった。

 

「誰か分からないけど、無垢は渡さないから」

 

 決めた。これのせいで無垢が私の隣に居られないなら、私がこれを使って無垢を隣に立たせる。




常時掲載

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