※この作品はR-18です。

【完結】色無き少女と深紅の乙女達   作:ウルハーツ

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桃田 みここと獣耳を生やす元日

 新年。初詣などで賑わう隣町の神社にて、みここは着慣れない巫女服の姿で笑みを浮かべながら接客していた。彼女は花の女子高生。欲しいモノを買う為に、忙しくなる時期に合わせた短期のバイトでここに来ていた。

 

 最初は働かなければいけない事を嫌々に、だがそうしなければお金も入らない事で渋々といった様子だったが、そんな彼女の心も今は喜びと楽しさに溢れていた。それは接客業の魅力に気付いた訳では無く、自分の隣で静かに同じ仕事をする存在。

 

「……」

 

「え、えっと」

 

『1回100円。振って、一本出す』

 

 何も言わずにおみくじの入った容器と使い方を文字で見せて説明する無垢の姿がそこにはあった。なんとみここがお金欲しさにバイトへ来た様に、無垢も短期バイトでここへやって来たのだ。それは恐ろしい偶然。だがみここはその偶然に初めて信じてもいない神様へ感謝した。バイト先の神社がどんな神様を祭っているか心底なんてどうでも良い。初詣は仕事最後の日にしようと無垢と約束して、仕事だから元日の元旦から最後の日まではずっと一緒。

 

「(あぁ~。先輩の巫女服姿、可愛いぃ~!)」

 

 そして視線を向けては、制服姿とテニスウェアくらいしか見た事のない無垢の新しい装いである巫女服姿にみここは悶える。並んでいるお客さんが待ちぼうけを食らうが、正直みここにはもうどうでも良かった。それも相まって無垢の仕事が増えるのだが、時折みここの思いを察する女性達もいて奇跡的にそれほど問題にはならなかった。

 

 無言で無表情に仕事をする無垢の姿は静寂ながらに目立つ。客の中にはその態度を気に入らないといった様子の者もいるが、そこは問題にならない様に予め無垢の居る場所にだけ『喋れません』と簡潔な注意書きが一行で書かれていた。

 

「(神主さんも分かってるよね~!)」

 

 みここは無垢がバイトの面接へ来た時の事を思い出した。事情があって声が出せない事を真っ先に伝えた時、神主はそれに少しだけ困った様子を見せた。因みにここの神社の神主は一回り以上年の離れた女性であり、接客業で声が出せない事は致命的だと悩んでいたところで、既に合格して本番が始まる元日の数日前から指導を受けていたみここが通りがかる。

 

――――――へ? 佐伯先輩!?

 

――――――みここちゃん、彼女を知ってるの?

 

――――――あたしの先輩です!

 

 思わぬ場所での運命的な出会いにみここは大興奮だった。そして神主は態度が悪くても見た目は間違いなく良いみここが明らかに慕っている無垢を只者ではないと考える。面接中にも関わらず、そんな事は知らないと無垢を抱きしめて愛でるみここの姿を見て神主は良い予感がして採用を決めた。

 

 声が出ない致命的な問題。それはみここが無垢から極力離れず、その会話の受け答えを代わりにする事で解決した。無垢は必要な応答を頷くなどで済ませ、大事な事などの確認も問題なく伝わる。そしてもう一つの問題、みここの接客態度についても自然と解決した。

 

 神主はみここの態度の悪さに最初、頭を悩ませていた。人が居ない事で採用はしたものの、その見た目だけではフォローできない生意気な態度。どうしようかと悩んでいたものの、無垢が来てからのみここは良いところを見せようとしてなのか、無垢と働ける事になって嬉しいのか、最高の笑顔で気分良さげに接客をする様に。笑顔で、楽しそうな様子で、無垢が居るからと周りはそのついでかもしれないがそれなりに礼儀を持って。

 

 

 朝から昼まで、ひっきりなしにやって来るお客さん。流石に途中で休憩する時間もあり、みここは無垢と一緒に別のバイトの子へ仕事を任せて休憩を迎える。着替えるのは時間が掛かるため、服装はそのまま。お客さんの中に混じれば働いていると思われて休憩にならないため、人気のない場所へ。

 

「先輩♪ これ、付けてみません?」

 

「……」

 

「なんか神社の中に落ちてたんですよ。先輩が付けたら可愛いと思って、持ってきちゃいました!」

 

 みここがどこからか取り出したのは、カチューシャに動物の耳がついたモノ。左右に猫の耳が付いたものと狐の耳が付いたものを持ち、それを進める姿に無垢は理由も聞いて少しだけ冷たい目を向ける。だがそんな視線にダメージを受けても、みここは引かない。それ以上に無垢の猫耳、狐耳の姿が見たかった。

 

「……」

 

「猫耳ですか? 流石先輩、分かってますね!」

 

 無垢が選んだのは猫耳のカチューシャだった。それを受け取り、少し眺めてから……頭に装着。

 

――――――ポンっ!

 

「……へ?」

 

「!?」

 

 突然、無垢はピンク色の煙に包まれる。そしてその煙が晴れた時、頭に猫耳を生やした彼女の姿がそこにはあった。カチューシャについていただけだった筈の猫耳が、何故か生きているかの様にピクピクと動いている。

 

「び、ビックリしたー! わぁ! 先輩、可愛いぃ~!」

 

「……っ!」

 

「あれ、先輩?」

 

 みここが猫耳を付けた無垢の姿に感激する中、変な感覚を覚えた無垢は自分の頭に手を延ばす。その手が猫耳に触れた途端、その身体は反応する様に震えた。無垢にしか分からない事だが、その猫耳には確かに感覚があったのだ。それもかなり敏感で、触れただけで身体が痺れるくらいに。

 

『本物』

 

「はい? 本物って、その猫耳がですか? いやいや、カチューシャだったじゃないですか~!」

 

『感覚がある』

 

「まさかまさか……あ、じゃあ触ってみますね!」

 

「!」

 

 制止する声は出せず、言葉で見せる間もなかった。みここは信じないまま、無垢の頭に生えた猫耳へ容赦なく触れる。ふわふわな触り心地を楽しむみここだが、無垢が身体を震わせて目も徐々に蕩け始めているのに気づいて……ようやく理解する。

 

「え、本当に……本物?」

 

 驚き固まるみここに、力なく無垢は凭れ掛かった。耳を触られ過ぎて、力が入らなくなってしまったのだろう。少しの間をおいてやっと我に返ったみここは、自分の手に持っている狐耳のカチューシャを見る。嫌な予感がしてそれを片付けてしまおうとしたその時、みここの腕を無垢が掴んだ。

 

『私だけは嫌』

 

「へ? あ、ちょっと先輩!?」

 

 少しの間で回復した僅かな力で、無垢はみここの持っていた狐耳のカチューシャを奪うと同時にその頭へ装着させた。危惧した通り、みここの頭についた瞬間、彼女の身体を無垢と同じ様にピンク色の煙が包む。……そして、みここの頭にも狐耳が生えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、神様の悪戯かもね? 取り敢えず時間だし、そのまま仕事初めてくれる?」

 

 猫耳と狐耳をそれぞれ生やした二人を見た神主は最初ふざけているのかと怒ったが、起きた事を説明するなり頬を掻きながら納得した様子で仕事をする様に指示を出した。何か心当たりがあるのか、それを聞いている暇はない。神社はまだまだお客さんで溢れているのだから。

 

「お姉さん、可愛い!」

 

「あ、あはは……(凄い恥ずかしいんだけど~!)」

 

 コスプレのつもりで最初から付けているのなら、心構えも出来ただろう。だが本当に生えてしまって、息を付く暇もなく人前へ出る事にまでなってしまったみここは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも接客をしていた。

 

 一方、猫耳が生えても無表情のまま変わらない様子で仕事をする無垢。みここの様に褒められてもお礼のつもりで頭を下げてお辞儀をするが、その行為を撫でて欲しいと勘違いしたお客さんに耳を撫でられて立てなくさせられる一幕も。

 

 想定外の恥ずかしさや問題によって、空も暗くなった頃。ようやく一番忙しいであろう元日のバイトを終えた二人は、耳を隠す為にフードを被りながら疲れ切った様子で帰路を歩いていた。未だ頭には獣耳が生えており、神主曰く『明日には消えてると思うよ?』との事。何も分からない以上、二人はそれを信じる他に無い。

 

「はぁ~、明日もあるんですよね~」

 

『どうしよう』

 

「? 何がですか?」

 

『これで帰るのは良くない』

 

「……確かに」

 

 隣町だからこそ殆ど居なかったが、戻れば近所や同じ学校の人間にこんな姿を見られる可能性がある。それをみここは許せない。同様に無垢も見られたくない上に、家へ帰れば姫子が待っているため、猫耳の姿を見せてしまう事に。

 

「隣町。明日もバイト……はっ! 良い考えがあります!」

 

「?」

 

「この際、何処かにお泊りしちゃいましょうよ! 二人で!」

 

「……」

 

 少し悩んだ末に、無垢はスマホを取り出した。相手は姉の姫子であり、その内容は『このまま隣町で泊まって明日のバイトへそのまま出る』というもの。何度か聞こえて来る通知音から、余り良い反応は得られていないが、みここと一緒である事も伝えて……結果的に無垢は許可を得る。

 

『みここは、大丈夫?』

 

「あたしは勿論! それじゃあ、何処かホテルでも探しましょう!」

 

 この後、泊まれる場所を探す事になった二人。だがお正月料金の高さや、空いている部屋の少なさに悪戦苦闘。結果的に見つけられたのは、ちょっとだけ如何わしいホテルだった。

 

 

「先輩、せっかくだから愛でていいですか?」

 

『優しくして』

 

「は~い!」

 

 ピンク色の光に包まれながら、みここはその日無垢の猫耳を思う存分堪能する。因みに無垢もみここの頭を仕返しに撫でようとするが、先に手を出されていた事で力が抜けていた事もあり、体格差も相まって一方的に弄ばれたのは仕方のない事である。




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