【持田 あずさ編】第1話
私の名前は持田 あずさ。学生として過ごす傍らで、読モなんかもやっている。
最近は読モから少し外れてグラビアなんかをやる話も出て来ていて、私自身悪い気はしていない。正直身体とかには自身があるから、そこそこ上手くはやって行けると思っている。でもそんな私の自信は、グラビアアイドルとしての先輩……南雲 さゆきと出会って少しだけ薄れてしまった。
容姿なんて好みは人それぞれだから、別にそれに関して負けたつもりは無い。だけど先輩から聞かされた悪い話。所謂ネガキャンを聞かされて、グラビアアイドルってものの厳しさや怖さを知る事になった。そして、それでも続けている先輩を普通に凄いとも思った。まだやるかどうかは判断する段階でどうしようかは迷っているけど、何時か決めなければならない。
「お待たせ」
「先輩、お疲れ様です」
「敬語はいいって。それより、どうするか決めたか?」
今日はそんな経緯で仲良くなった先輩と買い物をする約束をして、私は街へ繰り出していた。お互いに仕事も学校も無い休日。何度か相談に乗ってもらっている内に大分親しくなって、先輩からは敬語を外す様に言われる程。流石に年上の先輩を相手にタメ口を使える程神経は図太く無いけど、お願いされているなら受け入れるべきだとも思う。そんな先輩から問い掛けられたのは、当然グラビアアイドルの件について。決めるのは私自身だって先輩は言うけど、それでもやっぱり気になるらしい。
「まだです……じゃなくて、まだ」
「そっか。まぁ、急ぐ必要は無いからじっくり考えな。そんじゃ、買い物するか?」
私と先輩。この街の事を詳しいのがどっちかと聞かれれば、多分どっちもと答える事になる。仕事へ行く傍らに寄る事が多いこの街の店は大概知り尽くしているから、何処が良い店かも分かる。先輩と私の知識があれば、下手な買い物はしない筈だ。
「……」
「? 先輩?」
ふと、前を歩いていた先輩が足を止めた。何かを見て浮かべる表情は少し険しい。何だと気になって先輩の視線を追えば、街の隅っこで男2人にナンパされているのか話し掛けられる女の子の姿がある。帽子から僅かにはみ出る白い髪。白と紫のパーカーワンピを纏ったその姿は、同じ女でも可愛いと思える様な出で立ちだった。大分小っちゃいけど、もしあれが本当のナンパなら男達の趣味は危ない気がする。
「っ! 不味いっ!」
先輩が急ぎ足でそこへ近づき始める。よく見ればその女の子は男2人に話し掛けられて怯えているみたいで、1歩ずつ足を後ろへ進めていた。そしてそのままゆっくりと建物と建物の間、路地裏へ入り始めている。多分、あの男達も気付いてる。寧ろ人混みの少ないそこへ入らせるためにかなりしつこく話し掛けてる様にも見えた。
「あんたら、子供に何やってんだ!」
「あぁ? うぉ! デッケェ……」
「お姉さん達、この子の知り合い?」
男達を相手に一切物怖じせずに言い切った先輩。その声に振り返った男は先輩の胸を見て本音を隠せていない。まるで猿みたいに胸へ視線が釘付けなのは、見ていて嫌悪感しか湧かない。女の子から私達へナンパの相手がシフトしたらしいけど、当然こんな奴らに付き合うつもりなんか無い。私は先輩に目配せをすると、男達の間を強引に通って女の子の前に立った。
「行くよ」
「……」
私の言葉に女の子は帽子から僅かに目を覗かせてこっちを見る。無表情なのに、何処か驚いている事が分かる不思議な顔。私が強引にその腕を掴めば、抵抗もせずにその子は着いて来る。しつこい男達が道を邪魔するけど、思いっきり睨めばそれだけでそいつらは怯んで道を開けた。
先輩がもう1度男達を睨んで足止めをしてから、私達は逃げる様にその場を離れた。ちょっと早歩きになって、あの2人への嫌悪感から女の子の腕を握る手にも力が入る。何とか人通りの多い、大丈夫そうな場所へ到着した事で私はそれに気付いて焦りながら腕から手を離した。……女の子の腕は少しだけ、赤くなっていた。
「ごめん。痛かった?」
「……」
「全く、こんな子供に普通ナンパしないだろ」
「男って、マジで最低……でも君も危ない時は大声を出したりして助けを求めるべきだったよ」
「……」
謝った私に女の子は首を横に振って、早歩きだった私達に遅れて合流した先輩の悪態に共感しながらもう1度話し掛ける。だけど私の言葉に女の子は何も答えなかった。まだ怯えているのか、私達と話したくないのか……少なくともあの男達の知り合いだったって事は無さそうだから、最初の方だとは思うんだけど。
「あ、居た居た! 無垢ー!」
「!」
「ん? なんか、こっちに手を振ってんのが居る」
「あれって……のぞみ!?」
「あれ? あずさ!? 久しぶりじゃん!」
周りの人の喧噪で私には聞こえなかったけれど、先輩は聞こえた様である方向を指差しながら言った。私がそれを追って視線を向ければ、子供の頃に交流があった友達……桜 のぞみがそこには居た。
適当なファミレスに入った私達は、のぞみと女の子。私と先輩で隣り合わせに座って話をしていた。特に買い物をする以外にやる事の無かった私達は女の子の事も気になって、のぞみの誘いを受ける事にした。因みに女の子がナンパにあっていたって話をした時、のぞみはその子の身体をペタペタ触って何もされていないか確認。その際、腕が赤かった事で男を殺しに行きそうな雰囲気だったのを何とか止めた。……これで私が掴んだからって言ったら危険な気がしたから、男達に罪は被って貰ったけど。
「一応、自己紹介。私は南雲 さゆき」
「桜 のぞみです。こっちは佐伯 無垢」
「……」
「あずさと桜は小学生の頃の同級生って言ってたけど?」
「うん。中学に入る時にバラバラになって、それっきり」
「南雲さんとあずさはどんな?」
「私、今は読モやっててさ。仕事上の経緯で知り合って、色々先輩には相談に乗ってもらってる感じ」
「そっちは? 姉妹って感じには見えないけど?」
「同級生です。無垢はこう見えて、高校生なんですよ!」
「……」
自己紹介をしながらそれぞれの関係を話す中、一切喋らない女の子……佐伯が高校生であると知った私達の反応は全く同じだった。正に開いた口が塞がらない。のぞみは私達の反応が予想通りだったのか、面白そうに笑っている。そんな中、佐伯はドリンクバーで取って来たジュースを飲みながら無言のままだった。
「えっと、本当に17歳?」
「……」
一応の確認で質問すれば、佐伯本人が頷いて答える。さっきから一切喋らないのは、何故だろう? 最初は怯えていたからだと思っていた。でも今は仲が良さそう……といっても一方的にも見えるけど、知り合いであるのぞみが一緒だからそれは無い筈。話したくないのか、それとも話せないのか。
「……」
「ん? どうしたの?」
「……」
「うーん。あ、もしかしてこれが欲しいの?」
突然佐伯がのぞみを突いてから、彼女の持つ鞄の一部分を指差し始める。そこにあったのは可愛いペン。のぞみはそれに気付いて佐伯に渡すと、受け取った彼女はコップの下に敷く白い紙のコースターに何かを書き始める。今更気付いたけど、コップの下に敷いているのとは別に何枚か持って来ていたらしい。そしてそこに書いてあったのは、多分私達に向けられた言葉。
『助けてくれて、ありがとう』
「……もしかして、佐伯は」
「うん。無垢は声が出ないんだ。もしかして無垢、メモ用紙忘れちゃった?」
先輩の言葉にのぞみが答えてくれる。どうやら何時もは話が出来る様にメモとペンを持っているらしいけど、それを忘れて来てしまったらしい。のぞみが「おっちょこちょいだなー」と楽しそうに返事をする中、私は今まで喋らなかったのが怖がられている訳では無かった事に内心で安堵していた。
先輩と私。私とのぞみ。のぞみと佐伯。それぞれに互いの知り合いが居る中で、友達の友達。そのまた更に向こうの相手が居る空間は普通気まずい。なのに不思議と話をする私達の中にそんな空気は無かった。佐伯が話を出来ないからって、仲間外れになんてしない。寧ろ先輩は佐伯が自分に近しい年代の姉が居ると聞いて、少しお姉さんっぽさを出し始めていた。目上の人に言う事じゃ無いけど、ちょっと可愛い。
「それじゃあまた会おうね、あずさ!」
「うん。佐伯もまたね?」
『また』
「今度は変なのに絡まれない様に、気を付けな」
それから小一時間程度話をして、私達は解散する。新たに佐伯のメルアドが追加されたスマホ。先輩も交換してたけど、果たしてこれを使う時が来るのかは分からない。私からすれば友達の友達。先輩からすれば後輩の友達の友達。あの場は間にのぞみが居たけれど、居ない状況で連絡をする時が来ると私は思えなかった。
常時掲載
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