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【持田 あずさ編】
あたしの名前は南雲 さゆき。小さな芸能事務所でグラビアアイドルをしている。
最近、後輩になるかもしれない持田 あずさから相談を受ける事も多かったあたしは今日。ロケバスで快晴な空の下、撮影現場である海へやって来ていた。撮影の内容は至ってシンプル。砂浜の上で水着を着て、景色と共に写真を撮るだけ。事務所の大きさからそれほど大きな仕事を受けられる訳では無いけれど、グラビアアイドルらしい仕事だ。
「じゃ、今日もよろしくね。さゆきちゃん」
「お願いします」
プロデューサーとして一緒に着いて来た男と一緒にロケバスから降りる。あたし以外にもグラビアアイドルが何人か居て、順番に撮影して行くらしい。あたしは用意された水着に着替えて、その時を待った。撮影は順調。少し遊びに来ていた一般の人達が撮影の物珍しさから野次馬になっている様だけど、問題は無かった。
「見てくださいよ佐伯先輩! 本物の撮影現場ですよ!」
「……」
ふと、そんな女の子の声が聞こえて来る。少し前に知り合った子も確か苗字が『佐伯』だったなと思い出しながら視線を向ければ、そこには桃色の髪を束ねた水着の女の子と……佐伯が居た。紛う事無きあたしの知り合いである佐伯、佐伯 無垢だ。膝上まであるパーカーを羽織って帽子を被り、その髪色と肌を隠しながらも綺麗な太腿から下は露わになっている。きっとあの下には上下共に水着を着ているんだろう。あたしはまさか居るとは思わなくて、開いた口が塞がらなかった。
「さゆきちゃーん! お願いしまーす!」
「あ……は、はい!」
何でここに居る? 偶然遊びに来ていただけ? まぁ、あたしの日程を知っている筈が無いし、なにより知ったところで態々ここへ来る理由も無い筈だ。とすれば、やっぱり唯の偶然? 一瞬だけど目が合ったし、この後話し掛けた方が良いのか悩む。とにかく、今は撮影に集中しよう。
フラッシュに晒されながら、カメラマンの指示に従ってポーズを撮る。最初の撮影は滞りなく終了。水着の変更や日差しの関係で何度か撮影をするらしくて、待機する時間が多々あったあたしはプロデューサーに許可を取って一度ロケバスから降りる。年の為にTシャツを着て、下はさっきの佐伯と同じ様にそのまま。ちょっと胸がキツイけど、水着のまま歩くよりは良い。
「先輩も写真撮りましょうよー!」
『撮らない』
「えぇー!」
「ちょっといいか?」
「はい? って、あれ? さっきの撮影に参加してた人ですよね!」
「あ、あぁ。……お前は、佐伯の友達か?」
「そうですけど……え!? 先輩、芸能人の人と知り合いだったんですか?」
『少し前に知り合った』
あたしと佐伯が知り合いと知って、そいつは物凄く騒がしくなった。確かに芸能人と知り合いって、それだけでも大きなステータスに見える。佐伯は特にそれを自慢する様子も無く、騒ぐ隣の奴を放ってあたしにメモで話し掛けて来た。その内容は『撮影?』。見て分かるだろうけど、会話の始まりとしては当たり前の内容。
「今日はここでグラビアの撮影なんだ。佐伯は遊びに来たのか?」
『みここに誘われた』
「みここ?」
「あ、あたしの事です! この前テニスの試合があって、部の慰安旅行でこの辺に来たんです。で、あたしが頼んで佐伯先輩も一緒に来て貰ったんです!」
「テニス部の慰安旅行って、佐伯はテニスをやってるのか?」
『やってない』
「エースのあたしが頼んだんですから、断られないですよ~!」
「……」
騒がしい奴、みここの口振りからしてこいつはよっぽどテニスが上手いらしい。それこそ1人で部活を支えられる程の腕なんだろう。普通は許されない様な我儘が許されてるのは、間違い無い。佐伯の様子を見るに、結構強引に連れて来られたらしい。でも格好や話をするみここに向けた優し気な目から察するに、迷惑とも思ってなさそうだ。にしてもやっぱり佐伯、高校生には見えない。大きく見えて中学生くらいだ。隣のみここも何方かといえば幼げだけど、まだ高校生で通用するのに。
「まぁ、顔を見たから挨拶したかっただけだから。楽しめよ」
「はい!」
『撮影、頑張って』
「あぁ」
知り合いと出会った時の義理みたいなものは果たした。あたしは2人の傍から離れると、ロケバスに戻る。何をしていたのか聞かれて正直に知り合いが居たと伝えてから、撮影風景を眺めながら自分の番が来るのをあたしは待った。
「頑張って、か……」
プロデューサーに言われた事なら何度もある。けど思えば他の誰かから言われた事なんて、あったか覚えてもいない。佐伯が心から応援してくれてるのは伝わった。声では無いけど、あんな純粋な言葉を掛けられたのは何時以来だろうか。
「さゆきちゃーん!」
掛けられた声にあたしはロケバスから降りて撮影に参加する。不思議と何時もより楽しく感じた撮影は、カメラマンからも称賛されるものだった。
雷鳴が響き渡る。あんなに快晴だった空が今では暗雲の立ち込める薄暗い空に変わってしまった。急な天候の変化で撮影は中断。カメラマン達の予定を考慮して、明日もここで撮影する事になったあたし達は近場の旅館へ泊まる事になった。流石に部屋も1人部屋とはいかないけど、仕事をしてればこんな事もある。あたしは特に文句を言うつもりも無く、自由行動になると同時に部屋を出た。仲良くもない奴らと一緒に過ごさなきゃいけない事を憂鬱に感じながら、まずは砂浜で過ごしていたから身体を流したかったんだ。
「?」
「は? 佐伯!?」
脱衣所に入ってすぐに、あたしは佐伯と2度目の再会をした。余りにも予想外過ぎて少し大きな声が出てしまったけど、周りの視線が一瞬集まった程度で特に問題にはならない。あたしは佐伯の傍に近づいて、声を掛ける。「どうしてここに居るんだ?」と。
『テニス部の慰安旅行』
「それは昼間聞いた。って、もしかしてその旅行の宿泊場所って、ここなのか!?」
佐伯は頷いて肯定する。こんな偶然があるものなのかと少し面白く感じたあたしは、佐伯と一緒にそのまま温泉に入る事になった。仕事仲間に仲の良い奴は居ないから、1人で入るつもりだったんだ。……だからこうして見知った相手と一緒に温泉を楽しめると予想して無かったあたしは、ちょっと嬉しく思った。
「昼間は楽しんだか?」
「……」
「そういえばみここは居ないんだな?」
「……」
「あーっと……部活の奴らと別々って感じか?」
温泉にメモ帳は持ち込めない。だから佐伯と話をする時には、頷くか首を横に振るだけで答えられる様な内容で無ければならない。何度か反応を見て予想出来るのは、みここはテニス部の人間だから常に別行動って訳にはいかない。温泉に入る時には部員達と行動する事になった様で、みここに呼ばれただけの部外者である佐伯は単独行動になったらしい。で、温泉に入ろうとしてあたしと再会した。
「部屋とかはあるんだよな?」
「……」
「あのみここって奴と同じ部屋か?」
「……」
両方とも頷いて肯定される。って事は中々眠れなさそうだ。昼間のあの騒がしさから思うに、大分あいつはテンションが高い。あずさの友達で佐伯の友達でもあったのぞみって奴もそうだったけど、多分あいつ以上だ。『今日は寝かせませんよ!』とか言って、騒ぎ続ける気がする。
一方的な会話ながら意思疎通をして、あたしと佐伯はお互いに身体を洗い合う。誰かに背中を流してもらうのなんて初めてかもしれない。それにあたしがやるときはなんていうか、子供特有の柔らかさを感じて少し恥ずかしくなった。佐伯は子供って年じゃ無い筈なんだけど、身体は見た目相応らしい。
「ふぅ~」
「……」
「ははっ。気持ちよさそうだな?」
湯船に浸かると身体に染み渡る様な暖かさが心地良い。ふと隣を見れば、常に無表情な佐伯の目が少し細目になって見るからに気持ち良さそうだった。……本当に可愛い奴だな。
「この後、暇か?」
「?」
「あたしも今日はここに泊まるんだ。けど、相部屋の奴と仲が良い訳じゃないからさ。居心地悪いんだよな」
殆ど無意識だった。このまま部屋に戻っても言った通り居心地が悪い。だから適当に旅館の何処かで時間を潰して、寝る時だけ部屋に戻ろうって考えだった。けどもし佐伯が一緒に居るなら、少しは潰す時間も楽しめそうな気がしたんだ。みここがどれだけ部の時間に縛られているのかは知らないが、居ない間はあたしが預かってても問題ない筈。
佐伯は少し悩む様に考える仕草をした後、頷いて了承した。取り敢えずこの後、コーヒー牛乳は奢ってやるとして……何をするか。あたしは温泉から出て後に想像していた憂鬱だった筈の時間が、少し楽しみになっていた。
常時掲載
【Fantia】にて、オリジナルの小説を投稿しています。
また、一部二次創作の先行公開や没作の公開もしています。
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