グラビアの撮影2日目。昨日は夜まで佐伯と一緒に過ごしてから、探しに来たみここが来て解散。部屋に戻ったあたしは同じ仕事をする奴らと適当に表面上の会話をしつつ、眠りについた。
再び海へ向かう事になって、ロケバスへ乗り込む前に旅館から出る手続きをするのを待つ事になったあたし達。あんまり狭い場所でジッとしているのも嫌だったあたしは終わるまでバスに乗らず、外で待っていた。そんな時、聞き覚えのある声が聞こえて来る。それは騒がしいみここのもので、話す相手は相も変わらず佐伯だった。けど話をしている途中で顧問だと思う大人に呼ばれて、面倒そうな顔をしながらも佐伯から離れたみここ。結果、1人きりになった佐伯が周囲を見回して……あたしと目が合った。
「まだ時間掛かりそうなのか?」
「もう少し掛かるかな?」
「そっか。ちょっと外れるから、出発の時に呼んでくれ」
あたしはプロデューサーにそう声を掛けて、佐伯の元へ近づいた。流石に仕事とプライベートは分けるべきだとは思ったけど、どうせ何もしないで待ってるんだったら別れの挨拶でもして置きたかった。昨日の夜に聞いた話だと、テニス部について行く形で今日も行動するらしい。昨日は海だったけど、今日は何処なのか。それは本人もみここも知らなかった。
「昨日は眠れたか?」
「……」
「そっか。まぁ、大変そうだけど頑張れよ」
『さゆきも、頑張って』
「あぁ」
海で掛けられたのと同じ様な応援。だけどその応援は何か特別だった。あたしは不思議と無意識に佐伯の頭に手を置いていて、佐伯は見上げる形があたしを見て来る。身長差のせいで上目遣いになってて、柄にもなくキュンとしたのは内緒だ。
「さゆきちゃ……ん……んん!?」
「っと。それじゃあな」
カメラマンの隣であたしを呼ぶプロデューサー。それを聞いてあたしは佐伯と別れる。どうやら手続きは終わったらしく、ロケバスへ乗る指示をされると思ってたんだけど……あたしが近づいた時にプロデューサーとカメラマンの様子が何処か可笑しかった。何か、ありえないものを見る様な目であたしを見て来るんだ。
「な、なんだよ?」
「……さゆきちゃん。あの子、君の知り合いかい?」
「あぁ、そうだけど?」
「……ちょっと行ってくる。さゆきちゃんも着いて来て!」
「は? お、おい!?」
プロデューサーはカメラマンと目配せしてから、佐伯の方へ向かい始めた。訳が分からないままあたしもついて行けば、佐伯に話し掛けるプロデューサーの声が聞こえる。
「君、一緒に撮影に出て見ないかい?」
「?」
「何言ってんだよ!?」
「さゆきちゃんと一緒で良い。ううん、寧ろ一緒になって映って欲しいんだよ」
『どういう事?』
「あたしにもさっぱりだ。ちゃんと説明しろって!」
佐伯がメモで字を書いて答えた仕草に戸惑っているプロデューサーを横にして、あたしは本当に混乱するしか無かった。それから我に返ったプロデューサーは佐伯が喋れない事を受け入れて、やっと説明をしてくれる。と言ってもその内容は凄く短くて、単純なものだった。
「さっき、君と居たさゆきちゃんの顔が素晴らしかったんだよ! カメラマンの方も同じ感想だったみたいでね」
「佐伯と居た、あたしの顔?」
「面倒見の良いお姉さん、って感じだったよ。凄く柔らかい笑顔。今までの撮影では一度も見た事無い、自然な笑顔だった」
笑っていたつもりは無かった。でも言われた言葉が本当なら、あたしは笑っていたんだろう。基本的に撮影で見せる笑顔以外は、自分でも仏頂面が多いと分かっている。そんなあたしが、佐伯と話して本当に笑ってたのか……?
「時間は長く取らない! 親御さんが居れば、是非話だけでもさせて欲しい!」
「いや、こいつは……」
「先輩……って、何かありました?」
見た目のせいで誤解しているプロデューサーに佐伯が高校生である事を教えようとした時、離れていたみここが戻って来る。あたしの事は普通に受け入れたみたいだけど、男であるプロデューサーには警戒しているみたいで佐伯との間にみここは入り込んだ。突然知らない奴の登場にプロデューサーがまた戸惑ってるけど、あたしとしてはみここに気になる事がある。昨日あんなに騒がしかったこいつが、何か少し元気ない感じだったからだ。
「あたしのせいでちょっと巻き込まれただけだ。そっちこそ、何かあったのか?」
「うぅ……先ぱぁ~い!」
「?」
あたしの質問に膝から崩れ落ちそうになりながら佐伯へしがみ付いて情けない声をあげるみここ。話を聞くと、どうやらこの後テニス部が向かう場所には人数制限があり、佐伯の事を忘れていた顧問が数に追加するのを忘れて予約してしまったらしい。みここの分は枠があるが、佐伯は入れないって事だ。一応佐伯は個人的に着いて来ている事になっているらしく、別行動を取る事になれば顧問を見て居られない。……つまり、佐伯を帰らせろって言われたも同じって訳だな。
「き、君は今いくつなんだい?」
『17』
「プロデューサー。こう見えても佐伯は高校生なんだよ」
「先輩と一緒に居たかったのに~! こうなったら、あたしも一緒に帰ります!」
『駄目。ちゃんと、参加する』
「うわぁ~ん! 先ぱぁ~い!」
「……どう収拾つけんだよ、これ」
佐伯の年齢を知って戸惑うプロデューサーと、泣きつくみここへ無情にも答える佐伯。何か目の前の状況を色々面倒に感じたあたしは、思わず頭を抱えてしまった。
佐伯はテニス部とは別行動になった。そして、テニス部へ着いて行く予定だった佐伯は時間が開いた。つまり暇になったって事で、あたし達の撮影へ着いて来る事になった。異例も異例の状況だけど、説明するプロデューサーとあたしの顔を見たらしいカメラマンの必死な説得で監督からOKも出た。で、あたしは一時的に保護者的な感じで佐伯と一緒に行動する事になる。
まさか仕事でも一緒になるなんて誰が予想する? 本当にありえない事だ。けど、不思議と悪い気はしない。ロケバスで待機する事になって、あたしと佐伯が同じバスへ乗り込んだ時。先に乗っていた同じグラビアアイドルの視線が佐伯に集まって、少し黄色い声が聞こえ始めた。
「南雲さん、その子は?」
「えっと、何て言えば良いのかな……撮影協力者?」
「え? その子もまさか、グラビア撮るの?」
「いや。そうじゃ無いんだけど……」
普段はあんまり話し掛けて来ない癖に、今だけはグイグイ来る。あたしが話す横では別の奴が佐伯に話し掛けていて、何か飴とか貰い始めていた。そいつは高校生だと言いたいけど、それをさせてもらえる暇さえ与えられない。結局バスが出発しても、佐伯は人気者だった。大人しか居ないこんな場所に現れた可愛い子供だから、仕方ないのかもしれないけど……何かイライラする。
「佐伯。ここに座れ」
バスの中は左右で2席ずつ、横1列合計4席。そこであたしはグラドルの集まる中央の右側窓際に座って、隣の席に佐伯を座らせる。待ち時間、佐伯に夢中な他の奴らが不満に思わない様に通路側に座らせた。けど、やっぱり気に食わない。声が出ないと知った奴らは頷いたり出来る質問ばっかりしやがるし、佐伯も律儀に1つ1つ反応して答えるし。あたしは騒がしい声を隣に聞きながら、流れる窓の外の景色へ気を反らし続けた。
佐伯を交えての撮影は変な気分だった。基本的にはカメラマンの指定したポーズを撮って撮影するのが当たり前だ。時には胸を強調したり、時には美脚を強調したり。お色気を狙うものが多いのはこういう仕事だから多くて当然。あたし以外の奴らは思った通りの姿勢で撮影されて行く中、自分の番が回って来た時。あたしが指示されたのは一言だった。
「それじゃあさゆきちゃん、彼女を可愛がってあげて」
「……は?」
意味が分からなかった。可愛がるって、まさか暴力を振るう訳じゃない。愛でるの方なのは誰だって分かる。でも、何をすれば可愛がった事になるのか正直全く分からなかった。戸惑ってしまった私は中々行動出来なくて、そんなあたしにプロデューサーが声を掛ける。「何時も通りな感じで良いんだ!」と。何時も通りって、何だ?
「?」
「どうしろってんだよ」
『……遊ぶ?』
困ったあたしへ昨日と同じ水着にパーカーを着た姿の佐伯はメモを見せて、撮影用のビーチボールを拾う。それで良いのか全然分かんなかったけど、あたしは誰にも止められなかった事で取り敢えず思いつくままに行動した。佐伯とキャッチボールみたいにビーチボールを投げ合ったり、砂で何かを作ったり。高校生とは思えない、子供っぽい遊び内容。まぁ、あたしだって他に何にも思い付く訳じゃなったから良いんだけどさ。……本当に高校生なのか疑いたくなる。
『大丈夫?』
「あぁ。心配すんなって」
この状況が不安なのはあたしだけじゃない。撮影に参加させられて、よく分からないままにカメラを向けられた佐伯はこれで良いのかと不安に感じている様だった。でも佐伯は言ってしまえば振り回されているんだから、気負う必要なんか無い。無表情なのに感じる不安気な視線を受けて、あたしは朝の様に頭へ手を置いた。昨日の夜にも頭を撫でる事はあったけど、やっぱり触るなら直接の方が良いな。外に居るせいで旅館前でも今でも、帽子が邪魔をする。
「はい、OK! 一旦捌けて!」
「……な?」
何が良かったのかはあたしもさっぱりだった。でもOKが出たのなら、それで良い。何時もと違う撮影は変な気分だけど、そんなに悪い気はしない。
それから何度か交代しながら、あたしは佐伯と一緒にカメラで撮られ続けた。流石に全部が全部一緒って訳じゃ無い。時には何時も通り指定されたポーズの写真を撮る時もある中、そんなあたしが居なくなってすぐに佐伯の周りには他の奴らが群がり始める。男も多い撮影現場で撮影されるあたし達の元に突如現れた癒しと思えば、人気も仕方ないのかもしれないけど……やっぱり気に食わない。
「さゆきちゃん、笑って笑って!」
時々注意されながら、あたしは撮影を進めて行く。佐伯を交えた撮影も何度か熟して、時には別の奴と一緒に撮影する事だってあった。昨日から続けての撮影って事もあって、撮る内容量は少なめ。午前中に大体の撮影が終わって、あたし達は帰る準備をする事になった。因みに佐伯にはバイト代と、協力のお礼として事務所へ帰る途中まで送る約束になってるらしい。街で出会ったって事は、そんなに遠い場所な訳でも無いんだろう。
「シャワー室で砂とかは流しておいてくれ」
海のシャワー室を大々的に借りて、あたし達は各々中へ入る。身体についた潮のベタベタと砂の不快感を流す為に入るんだけど……。
「何でこんなところまで一緒なんだろうな?」
左右が壁になっていて、出入り口だけカーテンで仕切られた狭い空間に何故かあたしと佐伯は一緒になって入っていた。流石にシャワーを浴びるから佐伯の恰好もパーカーを脱いだ水着姿。上下赤のビキニは佐伯曰く、姉が小さい頃のお古らしい。いや、可愛いんだけどな? そんなに時間を急いでいる訳じゃ無さそうなのに、どうしてこうなった? こんなところまで一緒にする必要、無かっただろ。
「あの子、可愛かったよねぇ~」
「ね! 南雲さんが居ない時、また話し掛けてみる?」
「お持ち帰り出来ないかなぁ~」
「あんた、持ち帰って何する気よ?」
「それは……もう。うふふ」
「……」
多分あたし達が入った後に、傍に居る事を知らずに入った奴らが話しているんだろう。そんな会話が聞こえて来る。佐伯本人はシャワーを頭から被っていたせいで聞こえてないみたいだけど、あたしにはバッチリと聞こえていた。……まず間違い無く、佐伯を1人にするのは危なそうだ。
「おいおい、猫みたいに頭振るなって」
頭から被っていた佐伯が水を飛ばす為に頭を振る。長くて白い髪が水に濡れて重みを増しながら乱れる中、見ていられなかったあたしはシャワーを持ってもう1度しっかりと髪を流させる。潮でこんな綺麗な髪がガビガビになるのは、同じ女として我慢出来ない。
「声が出せないって大変だよね、きっと」
「でもさぁ。それってぇ~やりたい放題じゃない?」
「私、あんたの友達止めよっかな……」
「もう、冗談だよぉ~!」
隣から聞こえて来る声に、あたしは咄嗟に頭から思いっきりお湯を流して佐伯には聞こえない様にする。本気で隣の奴が危ない事はよく分かった。そして、同時にそこまで思われる理由に少し納得出来る自分が居た。確かにこいつは可愛い。それに伝えて来る言葉には、不思議な力がある気がする。のぞみもみここも、こいつの事は好きな様に見えた。……でも、あれは友達としてだったか? 犬猫の様な可愛さからか? 多分、違う。
「お前と居る時は心地良いから、だよな」
「?」
「でもでも~、本当にあんな子が自分の為に生きてくれてたりしたらぁ~、幸せじゃない~?」
「……悪くはないわね。幼妻って奴ね。私、そっちの気は無い筈なんだけど」
感情が込み上げてくる。純粋な応援が心地良かった。旅館で一緒に居る時間が心地良かった。一緒に撮影する時間が心地良かった。同じ時間を過ごしている時が常に心地良い時間だった。……あいつらが佐伯を好きなのは、一緒に居て癒されるからだと気付いた時。あたしが即座に思ったのは1つだけ。
【手放したく無い】
「!」
驚きに目を見開く佐伯の顔が間近に映る。他の奴らに苛々したのは、佐伯を取られるかもしれないって無意識に思っていたからなんだろう。きっとこの後、佐伯の家から一番近い場所でロケバスから降りた段階で、あたしはもう今日感じた様な時間を過ごせなくなる。そう思うだけで、身体が震える気がした。
「お前は、麻薬みたいなものなんだな」
「?」
「お前を知ると、もう手放せなくなる。なぁ、佐伯。あたしのモノになれ」
「っ!」
シャワー掛けのある壁へ佐伯を押し付ける。聞こえて来る周りの話声とシャワーの流れる音が混ざりながら薄れる中、あたしは自分の荒い息と心臓の高鳴りをうるさい程に感じていた。
常時掲載
【Fantia】にて、オリジナルの小説を投稿しています。
また、一部二次創作の先行公開や没作の公開もしています。
少しでも興味を感じられた方。下記URLから是非どうぞ。
https://fantia.jp/594910de58