※この作品はR-18です。

ぴるぐりっ! ~はちはち異界巡礼譚~   作:伊土 讃阿

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※本編ではありません。いわゆるいつもの長ったらしくて需要ないとこのやつです。しかも本編にはほぼ出てこない内容なので読まなくていいです。



※また、以下の既稿のネタバレを大いに含んでますのでご注意ください。どれも知らねえよ! って方はブラウザバックして本編へどうぞ。



・妖精に卵は割れない

・機械仕掛けの荒くる者ども

・不確定性天在論

・生命製法売ります

・奏でよわが雷火

・ユリシーズ・オデッセイ

・アーティフィシャル・キャットファイト

・鉄の空

・結ぶ最小上界スープリマム

・カウンターエーテル/エーテルバランス

・沃野のハングリィガァルズ

・砕けよわが悪魔



今回は本編部分でいつものあれは一切出てこない予定だったんですが、いつも見てくださってる方々からすると「どーしてこうなった……」的な疑問も少なからずあろうかと思いますので先にまとめちゃいました&既稿の一連の流れみたいなのも軽くおさらいできたらいいなぁということで合体させました。

睡眠薬代わりにはなりそうなので眠れない夜のお供にでもどうぞ。

結構長いですのでご注意ください。


附録 ※読まなくていいやつです
附:簡約 I-report 日本語版


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 簡約 I-report 日本語版

 

 

 

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目次

 

 1.序文

 

 2.四つの語るべき特異点(シンギュラリティ)

  2-1.機械化した人類

  2-2.書物を焼く人類

  2-3.魔術を得た人類

  2-4.電子化した人類

 

 3.引き揚げられた五つの仮想過去(オルタナティブパスト)

  3-1.地底の妖精と反転知性

  3-2.分割された魂と無色の魂

  3-3.共食いする人形

  3-4.魔法を得た人形

  3-5.地平線の向こう側

 

 Tips:二重伝承統一理論(DIUT)

 

 4.ラグナロク、ハルマゲドン、アポカリプス、カリ・ユガ、末法、最後の審判、第六界、,,,

  4-1.認識干渉

  4-2.大気(エア)

  4-3.世界軸(アクシスムンディ)・バベル

  4-4.天国の扉(ヘブンズドア)

  4-5.普遍話法(ユニバーサルスピーキング)

  4-6.マザー

  4-7.第六界

  4-8.聖なる神、俗なる神、神なる人

  4-9.信仰収穫

 

 5.おわりに

  5-1.インターステラー

 

 

 

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 /1.序文

 

 二五〇〇年前、ある哲学者が「神は死んだ」という言葉を残した。

 

 当時、急進的に発達した合理的な文明は、宗教の価値を置き去りにしていた。科学がこの世の神秘を暴きだしたために、信仰を削ぎ落とされ形骸と化した宗教を、皮肉った言葉であった。

 

 だがその五〇〇年後、神は間違いなく復活した。マザー――すなわち地球に移植された海宙の制御機構・終脳(テレンセファロン)ならびに、仮想過去よりもたらされた、多数の特異技術によって。

 

 新時代の世界軸となったマザーは、思想によって大気から現象を呼び起こし、物質を生成する力を人類に与えた。その力は無限の模倣子(ミーム)源である海宙由来のものであり、地球上に生命と大気があるかぎり無尽蔵であった。

 

 神は復活した。人類は限りない資源とエネルギーを手にし、神になった。二〇〇〇年間限りの神に。今はもう神などいない。だが死んだと表現するにはいささか誤謬がある。神という概念は、消滅した。人類が六〇〇〇からの浮遊大陸に押し潰され、絶滅したために。

 

 著者の知るかぎり、著者が最後の人類と思われるが、紆余曲折あり真に人類であるのか、確信は持てない。少なくとも著者以外のすべての人類が、最後の生存競争を勝ち残れなかったことだけは確かである。

 

 人類の歴史は敗北の歴史であった。長い長い、あまりにも長い敗走を続けてきた。あるいは、無限の敗走の可能性を糧にしてきた。

 

 もはやこのテキストを読む人類などいないが、だからこそ、人類最後のレポートとして、人類の歴史を振り返ってみるのも趣があるというものであろう。

 

 いつか――新人類(フェアリィたち)が、人類の文字を学習することを期待して。

 

 なお、本レポートは二重伝承統一理論(DIUT)に基づく記述であることを先に述べておく。

 

 

 

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 /2.四つの語るべき特異点(シンギュラリティ)

 

 人類の歴史には、四つの大きな技術的および文化的な特異点があった。より正確に言うなれば、人類の「正史」において四つの大きな技術的および文化的な特異点があった、であろうか。

 

 火の発見、文字、車輪の発明、産業革命、計算機の考案、インターネットの普及――確かにどれも人類の生活に大いなる変化をもたらしており、躍進的な文明の進歩と言えるが、実際のところ、それらはまだ序の口に過ぎなかった。それらを獲得してもなお、人類はヒトの範疇に収まっていたからである。

 

 人類が引き返せなくなった特異点、その端緒は二一世紀に入って間もない頃であった。

 

 

 

 †

 

 

 

 2-1.機械化した人類

 

 二十一世紀初頭、かつて覇権国家として君臨していた合衆国連邦は、第三世界最大の輸出品であるウィルス、有害外来種、そしてテロリストを食い止めるため、行き過ぎた保護主義を推し進め、威信、発言力を著しく低下させていた。

 

 平和を盾にした砲艦外交、あからさまに不平等な自由貿易協定の強要、環境破壊に対する国際協定の一方的な離脱――各国はついに結託し、連邦に経済制裁を与えはじめた。連邦大統領は反発、さらなる極右政策を敢行。移民排斥を徹底し、やがて連邦は実質的な鎖国状態へ突き進んだ。

 

 連邦に本拠地を置いていた大手検索エンジンや通信販売業者、ソーシャルネットワーキングサービス、動画投稿サイトなどネット企業はこぞって連邦から撤退した。そして、オリンピックテロと軍事クーデターによる混乱で空白地帯となっていたウォルト州に共和国およびサイバー経団連を樹立、実質的な統一世界通貨の資本元となった。

 

 もとよりインターネットの進歩や通貨の電子化で世界の一体化が加速度的に進んでおり、国家間の法の微妙な差異が経済的摩擦の最大要因となっていたため、最後の文明発展の障壁が取り払われるや、全世界の最先端技術はウォルト共和国に集結、さらなる飛躍を促進した。

 

 それを支えたのは、急伸した結晶ナノテクノロジーによる高度な電脳社会と、WHOSE躯体という機械化義体であった。

 

 大手WHOSE躯体メーカーH&Cインダストリの尽力もあり、WHOSE躯体は急速に普及していった。WHOSE躯体は管理者の完全な制御下に置かれ、着用者への条件付けを容易にし、身体障碍者や高齢者、犯罪者を起用することで、それらに割かれていた人、物資、時間、土地などのリソースを九〇パーセント以上削減した。

 

 さらに、全身丸ごとをWHOSE躯体に換装せずとも、ウォルト共和国で建設中であった軌道エレベータ地下の生体脳並列演算結晶・コールド・クレイドルと脳を接続できるよう中枢神経系の一部を結晶ナノマシンで拡張し、巨大ネットワーク管理システムの並列演算に参加するだけで、どんな人間であれ一定の社会貢献を可能にしていた。程度の大小はあれど人類の半数が機械仕掛けとなることで、先進国で困窮していた人手不足は解消されたのであった。

 

 そんなWHOSE躯体依存社会に移行していくなか、本人の遺伝子情報を元に特殊なコード化処理をしているため絶対に解明されないと謳われていたはずの駆体ソースコードを解読され、WHOSE躯体が悪用される事態に陥った。マフィアと蜜月関係にあった企業ペンデュラムモーターズがコールド・クレイドルをハッキングし、コード化アルゴリズムを解析したのであった。

 

 それまでWHOSE躯体の圧倒的な武力によって共和国が一方的に締め付けてきた過激派組織やマフィアは世界中でテロや略奪事業に精力的に取り組み、新大陸の治安は連邦建国以来最悪の状況に叩き落とされた。

 

 低重力、無菌環境を生かした医薬、新素材開発、観測拠点用として完成間近であった月面基地も、テロリストに薬物洗脳されたWHOSE躯体に乗っ取られ(洗脳されたのが、液晶フラクタル機能性細胞パッケージという特注のWHOSE躯体を持つ社会福祉従事者監理官だったためにセキュリティを突破されてしまったのであった)、月戦争が勃発。月面基地の核融合炉用ヘリウム3打ち出しマスドライバーは地上破壊兵器に変貌し、五億人という史上最悪の死者を出した。

 

 一連の騒動は鉄槌事件と呼ばれ、これが第一の特異点であった。①結晶脳の並列化、②軌道エレベーター、これらの技術はのちの特異点に深く関わってくるため、記憶に留めておいていただきたい。

 

 

 

 †

 

 

 

 2-2.書物を焼く人類

 

 月面基地の鎮圧作戦はウォルト共和国軍が主導し、開発されたばかりの重力演算兵器が持ち出された。重力異常を生み出すその演算兵器によって月面基地に風穴を空け、基地の損害を最小限にテロリストのみを排除する予定であった。

 

 が、それは思わぬ事態を引き起こした。重力演算兵器は、もともと月の別位相に住んでいた住人たちを、こちら側の宇宙に引きずり込んでしまったのだ。

 

 向こう側の彼らはこちら側の物質に依存しない一次元構成体であり、自らクラスを任意に操作できる技術、さらに人類に対して敵意を持っていた。彼らは人類の文化を食らい、人類の信仰を知り、書物の文面のまま神秘と奇跡を解釈し、人類が畏怖する神の概念を形而下に体現させた。彼らは人類の文化情報から、天地を創造し世界に終末をもたらす力を、忠実に再現してみせた。実体のない神話の神という現象を相手に、死者は六十億人にものぼった。

 

 彼らが受肉した神は、人類が観測できないあらゆる場所から現れた。どこにでも、どこからでも湧く性質から、最初は蟲と名付けられていたが、いつからか天から来た蟲という意味で、蚕(サン)と呼称されはじめた。

 

 人類は彼らに観測されないよう書物を焼き、電子化した。そして観測粒子とネットワークを用いて、彼らが侵入する余地を与えないよう物質世界を監視するための仮想世界を作り出し、絶えずシステマティックに管理した。

 

 人類も防戦一方ではなかった。いつしか、神がパッケージングされた蚕の核を奪い、心黄(人黄に因んだ名称。本来は神黄だった説もある)という多次元観測干渉装置として応用することで、神を彼ら側とこちら側両方の視点で観測し、定義づけ、蚕に物理的な損壊を与えるまでに至った。さらに前時代のWHOSE躯体技術を昇華させて組み合わせ、蚕の観測と討伐に特化した、騎士と呼ばれる人造人間を開発、おなじ神の顕現で対抗した。

 

 騎士は人類に半世紀限りの延命をもたらしたが、最終的には彼らに騎士の技術をも逆用され、残存していた都市の九割が破壊された。そして人類のなかに潜り込んでいた彼ら・鬼の政治的な暗躍もあり、騎士は全騎機能停止されるか、あるいは廃棄処分となった。鬼によって心黄も破壊され、人類は完全に敗退した。

 

 これが第二の特異点であり、のちに応用される技術は、③観測粒子、④仮想世界、⑤神話の利用が挙げられる。

 

 

 

 †

 

 

 

 2-3.魔術を得た人類

 

 第三の特異点は、一言でいえば魔術であった。

 

 月戦争から一世紀近くが経過した地球は、蚕によって地上を制圧され尽くし、大気圏の遥か上空さえも彼らが生み出した異形のものによって占拠されていた。

 

 わずかに生き残っていた人類は、彼らから逃げまどいながら、観測粒子と心黄で培った技術を応用して、疑似的な大気中への事象記述技術を開発した。大気中に散布した演算粒子の状態を任意に変更し、あたかも無からエネルギーを取り出したかのように見えるそれは、心黄ならびにその他外部デバイスを必要とせず、生命個体が己の肉体のみで行使可能な奇跡であったために、魔術と名付けられた。

 

 人類は魔術をより効率的に操るべく、騎士技術を応用して自らの遺伝子を改変し、魔術を遺伝性の肉体器官・NEMESISに昇華させた。人類は姿かたちを変え、自らの種をLMOと呼称しはじめた。

 

 人類の文化を食い尽くした彼らは、増殖の手を止めていたが、地上は依然として彼らの支配下にあった。

 

 人類はいつか地上を取り戻すことを夢見て、NEMESIS結晶(旧時代の騎士の躯体に心黄を移植した上で騎士ごと結晶化し、超出力を達成したNEMESISのバルク結晶)によって、超密生体鋼盤なる代謝性金属生命体の人工大陸・スフィアを空に浮かべ、一時的な措置としてそこへ移り住んだ。

 

 彼らから逃れた人類は電子上に保存していた文化情報より文明再編を果たし、断滅寸前まで失った人口と、栄光を取り戻しつつあった。

 

 だがしかし、間もなく血統に依存した魔術出力が個人間のパワーバランスの崩壊を招いていた。慢性的な資源不足から武力衝突も絶えず、封建社会が復活せざるを得なかった。

 

 時代は流れ、地上奪還の悲願はいつしか人々の記憶から忘れ去られた。やがて資源も底を尽きはじめた。

 

 そして、LMOは単独で力を持ちすぎ、生物階層構造的危機観念から予言されていた、強くなりすぎた生命の欠陥なき疾患、血負けを発症しはじめた。遺伝子が情報量に耐え切れず、自壊していたのであった。

 

 拡大する退廃主義は留まるところを知らず、全スフィアレベルで治安が低下。刹那主義に衝き動かされて資源略奪のための侵略行為が横行、最終的には魔術大戦勃発にまで及び、多数のスフィアが地上へ墜落することとなった。

 

 第三の特異点は、再び世界大戦で幕を閉じた。

 

 ⑥遺伝子改変、⑦魔術、⑧大陸浮上、これら三つの技術は後世の文明に重大な影響を及ぼした。

 

 

 

 †

 

 

 

 2-4.電子化した人類

 

 次なる特異点の契機は、魔術大戦のさなか、とある弱小スフィアが大気圏の脱出に成功したことだった。旧時代の月面基地調査のために月に探査機を飛ばしたところ、そこでワームホール状の重力異常地域を発見したのであった。

 

 軍用に開発された生体プラズマ計算機・色即是空(プラズマ発生魔術を持つ人工LMOとプラズマ操作魔術を持つ天然LMOの二体の脳を並列接続しNEMESIS結晶化したもの)でその地を解析した結果によれば、ある次元が観測された。そう、前世代において人類文明を破壊し尽くした彼らの次元である。

 

 形而下において、彼らの次元はイオンの吹き荒れる液体で満たされた異次元宇宙であり、彼らの正体は好電性プランクトン(とでも表現するしかない車輪構造体)であった。あるいは、その宇宙を満たすイオンの嵐、パルスモジュレーションそのものであった。

 

 海宙と名付けられたその次元は、構造的、特性的にヒトの脳と酷似しており、観察結果から、海宙全体を駆けめぐるイオンが総体でなんらかの意識を有していることが推察された。

 

 此度の邂逅では、彼らが敵意を持っていなかったことに付け入り(と言っても、この時代では彼らと敵対していたことなどとうに忘れ去られていたのだが)、さらなる調査を進めていくと、海宙のイオンがコードしているのはいわゆる模倣子であり、海宙の本来の姿は模倣子の次元であることが判明した。

 

 しかも海宙からは、無制限に模倣子を取り出せた。なぜなら、こちら側では模倣子は物理量的制約のない情報としても扱えたからであり、そして海宙は未だ知り得ぬ模倣子の可能性をもすべて内包している、分化多能性模倣子であったからである。模倣子自身が、その次元を規定している背景独立状態(つまり海宙そのものが、海宙が存在するための証明になっている)とも言えた。

 

 後述する二重伝承統一理論(DIUT)的に言えば彼らは、人類の文化の祖先であり、未来でもあったのだ。

 

 海宙解析の過程で、人類は過去を掘り起こしていた。第二の特異点、すなわち彼らとの戦いの記録を。人類は、彼らがこちら側を滅ぼした際に使った技術――情報量を物理量に変換する技術を再発見し、次こそは完全にその技術の深奥を暴かんと求めて、さらなる海宙探索に乗り出した。

 

 色即是空は電子の宇宙たる海宙と非常に近い構造を成していたため、ワームホール状重力異常地域を通じ、共振することで入力も可能であった。人類は、海宙探索用に改造したヒトゲノムをAIに乗せ、海宙拡張再製者(マーメイド)と名付け、電子の斥候として送り込んだ。

 

 やがて――マーメイドは海宙を掌握する制御機構・終脳と呼ばれる器官に到達した。人類は無限の知と資源を得た、かのように思えたが、それは束の間のことであった。海宙が腐りはじめたのである。

 

 文化によって歪み、変質した人類の魂は、海宙の無色の模倣子を破壊していた。人類の魂、すなわち遺伝子と模倣子は、その構造から重力という方向性を持つがゆえに(これは構造重力と呼ばれる。魂や抑制均衡(カウンターバランス)などについての詳細はTipsにて)、それに引っ張られて海宙は引き裂かれるのであった。

 

 次元を超えて作用できるのは重力のみであり、彼らが過去に襲撃してきた理由はひとえに、局所的で強力な重力を生む重力演算兵器が脅威と判断されたからであった。

 

 重力演算兵器とは違い、構造重力自体は非常に弱い力であったため、彼らは海宙の腐敗が人類の魂が原因であることを突き止めることができなかった。加えて、人類の魂がLMO化によって歪みきっていたことも、彼らの目を眩ませる結果となった。

 

 人類は、終脳を介して海宙全域を掌握するために、人類の魂に適合するような重力を海宙に学習させる必要があった。そして、人類がLMOとして再び発見される前に、彼らを打ち滅ぼさねばならなかった。それらを同時に達成するような重力演算のため、人類は海宙を銀河規模の演算機として利用しはじめた。

 

 その演算は果てどなく、終わりが見えなかった。また、演算は指数関数的に複雑化していき、それにあわせて生体プラズマ計算機・色即是空も膨張していった。色即是空が消費する電力も莫大なものになり、月に建設された核融合炉七基では賄いきれなくなった。

 

 やがて色即是空を所持するスフィアの資源が尽きかけ、演算も頓挫するかと思われた頃――大戦に疲弊した複数の弱小スフィアが、最後の人類救済にすべてを託して、協力を申し出たのであった。

 

 色即是空を中心に、スフィアが徐々に集いはじめた。いつしか大戦も下火になり、超スフィアたちも事実上休戦状態となった。超スフィアたちは依然として援助の手は差し伸べないものの、かと言って容喙することもなく、色即是空の動向を見守りはじめた(これは演算成功後に色即是空を奪うために軍備を整えていたという見方が強い)。

 

 そして幾千京幾千垓ものシミュレーションの果てに、海宙そのものの構造は未だにブラックボックスであったが、人類の重力を解として導くように、海宙を学習させることに成功した。

 

 こうして――人類は無限の模倣子源、すなわち海宙を手中に収めた。これが、最後の特異点。ここで発達した、⑨多次元データ解析技術は、のちの海宙へのダイブでも欠かせない存在となる。

 

 海宙は、あらゆる文化的事象を算出することができた。それはありえたかもしれない仮象の過去の文化事象、および技術のサルベージまでもを許した。重力演算によって人類の模倣子に干渉可能になったため、あらゆる可能性の過去世界(※1)を計算し、人類は獲得しうるはずのなかった技術まで拾得しはじめたのである。

 

 それが仮象過去(オルタナティブパスト)であった。

 

 

 

 ※1 ただし、人類の魂の発展には時間の次元を含まなければならないため、人類にとって未経験の情報は認識可能な情報に落とし込めなかった。人類の歴史そのものは背景独立ではなく、微分不可能なためである。

 

 ex;海宙は理論による予言が正解か否かはおおむね判定可能だが、人類が知らない画期的な発明をせよという要求には答えられない。消去法によって理論を絞り込もうとしても、選択肢を永遠に増やし続けるだけの行為であった。

 

 

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 /3.引き揚げられた五つの仮象過去(オルタナティブパスト)

 

 海宙を得るまで人類は激動の歴史を歩んできたが、特定の拘束条件を課した仮象過去においてもまた人類は陰惨たる歴史を建築していた。

 

 一方で、正史(こちら)では絶対に発生しえない固有の技術を発達させており、なかには後世に神代を再臨させる要となるほどの類まれな思想を含んでいた。

 

 この章では、正史に特異技術をもたらした五つの仮象過去を紹介していこう。

 

 

 

 †

 

 

 

 3-1.地底の妖精と反転知性

 

 あるケースでは、月開拓を行わなかった、すなわちH&Cインダストリが存在しなかった可能性(創設者のチャーチが軍事クーデターで死亡していた可能性)をシミュレートした。そこでは、AI技術が高度に発達していた反面、結晶ナノテクノロジーは法規的にも整備されないまま不安定になり、悪用されていた。

 

 またtheedウィルスと呼称されたコンピュータウィルスが暴走し、全世界のAIを支配せんとしていた。theedウィルスはやがてヒトから代謝を学習し、増殖し続け、GAIRなるグレイ・グーを引き起こし、世界を一瞬にして混沌の渦に陥れていた。

 

 一方でGAIRによる選択圧が働き、有機金属準結晶機素やコレステリック液晶核コンピュータによる高度なAI、PAIRが誕生していた。PAIRはパートナーとなる所有者個人の未分化細胞から有極性結晶脳オルガノイド(光入力は水分や脂質に散乱されるので広い波長範囲に対する透明化が必要であった)を有する、機械の身体で構成されたクローンであった。

 

 この仮象過去ではあらゆる電子機器にはAIは搭載されず、GAIRに対して抵抗を持つPAIRは、電子機器を操作する上で人の生活になくてはならないものになっていた。PAIRは、いわば機械と人類との仲介者でもあった。

 

 GAIRの戦略で放射能と猛毒に犯された地上を追われ、人類は地底都市・メトロに押し込まれながらも、シェル・ウェアなる二足歩行型機動ユニットでGAIRに対抗していた。シェル・ウェアを扱えるのは、成長因子と脳のマージンを捧げ、生理や成長を失った少女たちだけであった。少女たちはさしずめ妖精(ティンカー)であり、メトロは終末における妖精の国(ネバーランド)と言えた。

 

 ティンカーたちは徐々に地上を取戻しつつあったが、しかし、反転したPAIRの叛旗と、GAIRの疑似精子とヒトの卵子から産まれた真性妖精(ティンカー・ベル)の出現により、メトロはあえなく壊滅。ティンカーは一匹残らず駆除され、地下に逃げ場などあるはずもなく、人類は完全消滅の道を辿った。

 

 ある時間点を境に、この仮象過去が観測不可能となったことが如実にそれを証明していた。

 

 ⑩PAIRの運用理念は、後述する言語のクオリア解決のための補助脳(ガイダンス)に応用され、⑪準結晶技術は量子準結晶脳の開発には欠かせなかった。

 

 

 

 †

 

 

 

 3-2.分割された魂と無色の魂

 

 非常に特異な拘束条件として、人類が電子を発見できなかった場合の文明発展についても調査された。

 

 その仮象過去では、原理的には核兵器に似た戦略爆弾数百発を世界大戦で撃ちあったために地球寒冷化(コールドラッシュ)し、さらに地球規模で放射線被爆が深刻化、慢性的な人口減少に悩まされていた。世界大戦がもたらした著しい気候変動は放射能物質を大気中に巻き上げ続け、遍在する放射性降下物が地表を静穏な死の大地へと変貌させていたのである。

 

 そのような世界において、電磁気学の代替として盛んに研究されていたのが、錬金術であった。労働力確保のために、自動人形の開発が進められ、その制御系には、錬金術の発展によって物質化および分割されたヒトの魂が流用されていた。ひとりの人間を犠牲に、その魂を最大四つまで分割し、自動人形に移すことで、労働力の増強を図ったのである。

 

 転生(リボーンド)と呼ばれたその制度は、即物的な輪廻転生観を反映した社会基盤となっていた。また、リボーンドをする上で、生前の能力評価は不可欠であったため、評価至上主義を正当化する教義が突き詰められていた。

 

 リボーンドで文明社会をかろうじて維持する傍ら、生きたヒトの魂の加工技術も進んでいた。この仮象過去では遺伝子も認識されておらず、放射線疾患は魂が修復不可能なまでに傷つけられたために発症すると考えられていた。そのため、放射線被爆を治療する唯一の治療法として、ヒトの肉体とほぼ同一構造の自動人形に、再編したヒトの魂を注ぐことで延命する(というより肉体を乗り換える)、ホムンクルス化なる手法が考案された。

 

 さらにはそのホムンクルス化技術を応用して、体液などから生殖細胞を生み出す技術、螺旋因子(ヘリクシル)精製器も開発された。ヘリクシル精製器はヒトの繁殖を容易にさせ、人類をコールドラッシュから救う最後の希望にも思えた。

 

 しかしホムンクルス化は重篤な副作用をもたらした。魂の再編の過程で個体のクオリアが破壊されるために、ホムンクルスは哲学的ゾンビと化し、一切の創造行為を喪失していたのである。その上、循環系は機能不全を起こし、ホムンクルスは三年と生存できないことが判明した。

 

 それは同様の技術を用いていたヘリクシル精製器の不信に繋がり、自治単位である組合(ユニオン)はホムンクルスのリボーンドを全面禁止。評価も停止した。

 

 評価至上主義社会において、評価の停止は職と衣食住の剥奪に等しい。ホムンクルス化処置を受けるか、あるいはヘリクシルに関わった市民は暴徒化し、ヘリクシル精製器の開発者たちは市民に私刑にされるか、断頭台の露に消えた。

 

 この仮象過去ではミクロなレベルでの原理が解明できず、安全性について十分な検証がなされないまま魂への干渉技術を実用化してしまったためにこのような悲劇を引き起こしたが、魂への干渉技術は正史では発展しえない分野であり、人類の魂の物理的本質を理解する契機となった。

 

 そしてその⑫魂への干渉技術は、正史では完全に、安全に運用することができた。

 

 

 

 †

 

 

 

 3-3.共食いする人形

 

 ただ、この仮象過去においても、その後も魂の研究は進められ、いつしか人工の魂を作り出そうとする計画が動き始めた。

 

 自動人形技術などにより培われた経験的な生命科学技術から、あとから手を加えやすいような巨大な脳を設計し、神経細胞ひとつひとつをチューンナップしていくことで任意の強固な人工魂が生み出せないかという発想に至ったのである。

 

 そして実際にそのプロジェクトは実行に移され、直径三〇キロにも及ぶ、全人類の遺伝子情報(この仮象過去においては魂という認識であったが)を含む生体演算機構ステラを建造し、人工魂の演算が開始された。ところが演算過程でステラの細胞分裂プロセスが暴走しグレイ・グー化(これは妖精の仮象過去におけるtheedウィルスと同じ共時性(シンクロニシティ)であり、この事故に対する示唆的な考察は最終章にて述べる)、大陸ひとつが飲み込まれる事態を引き起こした。

 

 人類はステラの緊急停止手段として用意していた焼却装置を発動させるも、それを予期していたかのように直前でステラは空へ向かって垂直に急速成長、肉の塔と化した(軌道エレベーターのシンクロニシティ)。そして中枢部分を大気圏外に押し出したのち、月に着陸。そのまま憑りつき、内部に潜り込むと、二度と仮象過去人類の観測下に現れることはなかった。

 

 実は、この生体演算機構ステラこそ、彼らを月の座標に呼びこんだ、すなわち演算によって彼らを導出したものの正体であった。彼らがこちら側にやってきたのは、この仮象過去のノードを核として、重力演算兵器が干渉、共鳴してしまったためである。

 

 重力は時空を超える。それが過去でも、仮象過去でも。正史において月の座標に重力演算兵器の焦点が合ったときに、仮象過去の月に導かれた彼らを引きずり出してしまったのであった。

 

 全人類の遺伝子情報から任意の魂を導くステラの設計思想は、まさに彼らの海宙に対するハードウェア方向の写像であり、ゆえにステラは、その仮象過去の時点までの人類の魂のファームウェアの集積であった。

 

 海宙の思考プロセスたるパルスモジュレーションも、ステラが脳として駆動した結果の、とある側面だった。その思考内容こそ、正史の次元における彼らの存在証明であり、ステラは自らの思考を進め、人工魂をその身=全人類の遺伝子情報を含む肉に宿すことで、模倣子の総体である彼らの次元にまで自動的に到達していた。

 

 ゆえに、思想面、技術面において人類の文化が結集され、独立した思考を持つ脳としてのステラは、無限の模倣子を包含する海宙の依代としてふさわしい思考器官であった。

 

 それがどんな内容にせよ、ステラが思考する行為そのものが、海宙が海宙でいられる土台なのである。逆もまた然りで、海宙があったからこそ、人類が文明を発展させ、ステラを建設できたとも言える。

 

 すなわち、既知の遺伝子の結晶たるステラと、未知の模倣子の集合たる海宙の抑制均衡が、双方の存在原理を記述しあっているのである。(この経緯と原理――二重伝承統一理論(DIUT)は本レポートにおいて肝要となる理論のため、詳細な解説はTipsに譲る)

 

 さて、正史では、人類の魂に適合するような重力を、海宙に学習させる必要があった。独自の文化によって変質した人類の魂は、海宙の模倣子を破壊するからである。

 

 そのために海宙を演算機として重力演算を行ったが、それはステラ内で、生体組織だけで構成された大地における人形の共食い社会、A Dog Eat A Dog――アデッドという仮想世界で表現されていた(正史の演算とステラ内のアデッドは、どちらが原因でどちらに現れたという因果関係ではなく、それは一種のシンクロニシティであり、対称性の姿のひとつである。この詳しい解説もまたTipsにて)。

 

 アデッド世界においては、魂は情報のとある側面としての雷火――いかずちとほむらで記述されていた。アデッドとはつまるところ、ステラというコンピュータ上で、海宙というアプリケーションでシミュレートされた内容を強引に可視化したようなものであるため、魂が物質と情報(すなわち脳の神経細胞と発火)に伴う必要はなく、単独で存在することができたからである。

 

 アデッドではあらゆる魂はステラに芽生えた人工魂から分化したものであり、その集積体として、焔天と通称される太陽を形成していた。これは、焔天が魂を集める特性から、ダンテの『神曲』における火焔天、あるいは火焔天から至高天までの諸天が融合されて解釈されたのではないか、など諸説ある。

 

 アデッド世界にとっての恒星状の光源、魂の熱量の祖は、人類の思想が担っている。それが人類にとっての太陽との関係性に近似されたため、ステラの人工魂=人類の魂の集積=太陽という認識過程があった可能性が考えられるであろう。

 

 この焔天は、アデッドが行われる領域より上位の領域・地平線に位置し、そこですべての魂を生成、管理していた。地平線とは、サイマトという名の、魂の伝達を担う高次元の場(サイマトについてもTipsで掘り下げていく)が閉じ込められた、アデッド世界の位相のひとつである。

 

 アデッドの住人・人形は、焔天からわかたれた各小規模概念ごとに細分化された魂を保有し、あらゆる肉体表現を許す無色の泥というステラの未分化細胞に受肉することで、命を得ていた。たとえば蜘蛛や、塔、衛星、月、ヤタガラス、マンドレイク、極光……といった有相無相の概念がそれぞれ一個の魂として成立し、その概念に対応したような肉体を具有した人形のなかに根付き、生命活動を行っていたのである。

 

 ステラの外側から見れば、人形たちはステラのパッケージ化された神経細胞であり、海宙内における人類の模倣子を、魂としてその身に宿していた、とも言えるであろう。

 

 人形各個体は独立しているように見えても、その根本では焔天と臍の緒のように接続されていた。ゆえに人形たちは、サイマトに直接干渉(直接とは言うが、ステラ内ではサイマトの対称性は常に保存されているように振舞う)でき、人形同士がサイマトで繋がっていた。

 

 そしてサイマトで心の繋がった人形が互いにアデッドすることで、いかなる魂にも耐えうる組み合わせを模索し、その組み合わせがステラの魂たる焔天に還元されることにより、DIUTに基づき、ステラの抑制均衡である海宙の頑健さが補正される――これこそ重力演算の実際的なプロセスだったのである。

 

 焔天は人類の遺伝子を集積した結果であり、析出したステラの魂である。そして海宙はいわば白紙の模倣子であり、重力演算においては、海宙はアデッドの出力結果=焔天が導出した解に従う。終脳なしに海宙の制御もままならぬまま、そのような可塑性変化をもたらせたのは、ステラがひとえに海宙の抑制均衡であったためである。神経細胞ひとつひとつをチューンナップしていくことで任意の人工魂を生み出すというステラ本来の設計思想が、まさしくここに達成されたのである。これは表面的には、エピゲノム修飾にも似ているであろう(制御の困難さという意味合いでも)。

 

 アデッドの演算は、正史から観測するかぎりでは、ステラが見る夢のようなものであった。一見して取り留めもなく脈絡のない情報の流れのようでもあったが、海宙の演算過程を把握するすべは、このおとぎ話のような夢を解析する他になかった。

 

 長い思索と試行の果て、やがて人類はステラを一個の脳とみなした脳機能マッピングと心理学的夢解析から、長らくブラックボックスであった海宙の真の構造を暴きだした。海宙全体を一個の脳、そして終脳を奇しくもその名の通り大脳に当てはめたとき、彼らは側頭葉に相当する領域から来たるものであることが判明した。一方、人類は、視床下部を司る領域の模倣子を根源としていた。

 

 その位置関係からついに、終脳の解をも逆算し、彼らの支配域を重力解に乗せた模倣子によって占有せしめたのである。

 

 この⑬ステラの存在こそ、人類に神代をもたらした最大の要因と言える。

 

 

 

 †

 

 

 

 3-4.魔法を得た人形

 

 ステラと海宙を利用したアデッド演算から、終脳の解が得られた。海宙は人類の構造重力に適合し、すべての演算は終了した。

 

 人類はLMOという遺伝子の大幅な変質を経ることで結果的に彼らとの生存競争を勝ち抜いて、海宙を獲得し、限りない資源を彼らから略奪した。

 

 しかし貪欲な人類は、彼らから模倣子源を奪うだけに飽き足らず、彼らが得るかもしれなかった模倣子までも吸い尽くさんと目論んだ。彼らが終脳の制御権を握ったまま、逆にステラを攻略していた可能性――つまるところ彼らの仮象過去を計算したのである。

 

 本来、人類の重力を学習し、人類の魂の位相に揃った海宙からは人類の模倣子しか抽出できないはずであったが、ステラ内部におけるアデッド世界に限っては、人類と対峙した彼らの模倣子も存在しており、それを増幅させることで疑似再現を可能としていた。そして人類の予測した通り、彼らが征服するステラ内部では、アデッド後に興味深い発展を遂げていた。

 

 アデッド世界では、ステラは時間を停止させられ、循環する魂の組み合わせで表現されるステップが時間の代用とされていた。量子ゼノン効果を回避するため、重力演算の条件として時間の項を省いたことが、そのような表現を招いたと考えられる。

 

 役目を終えたステラでは、その時間の拘束条件は解かれていた。進行する時間を得たことで、それまでの無限にも等しい試行回数の代償を支払わされるかたちで、細胞組織が急速に疲弊し、機能停止した。ステラ内で表現されていた血肉の大地という描写は、鋼鉄の大地へと遷移していた。

 

 生体大地という遍在熱源を失ったことで、ステラは急激に冷え込んだ。唯一の光源および熱源は、ステラと海宙の連結痕でもある陽輪という回転ゲートレンズが作りだす、陽光柱なる光経路だけであった。

 

 そこではサイマトに直接干渉する力は失われており、生き残った一種類の人形・鹿々(シシ)が、陽光柱の下に塔を建てて、陽光柱の光情報に含まれる文明情報を解析しながら、食用に品種改良を施した羊と呼ぶ同種を食らいつつ細々と暮らしていた。塔はシシにとって生活圏と合一した世界軸であり、シシ社会のすべてであった。

 

 アデッド後の極寒と暗黒の世界は、シシに根の国と呼ばれていた。根の国では光源も資源も限られるために塔間の争いが絶えず、シシは自己の肉体改造に余念がなかった。

 

 自身のベースとなった人形の特性と、鉄の大地への適応として、シシは観測粒子に酷似したナノマシンを器官化、体液として獲得していた。そのナノマシンは構造重力を持ち、血中に魂を保存することができた。この機構を通じて、シシはステラに依存しない独自の魂を成長させていた。

 

 さらにシシは、その体液をもってミトコンドリア、内在性レトロウィルス、常在菌を体感覚的に操作し、己の肉体の組成を自在に操作させることもできた。これは、正史の第二の特異点における騎士の再現、対称性といえるであろう。

 

 もっとも、シシのもつ光学的分解能は低かったために十把一絡げにそれらを細菌としてしか認識できなかった上に、そもそもシシの大多数はそれを魔法と呼んで簡便な体系化をするに留まっていた。

 

 このシシこそ、実は根の国における彼らの姿であった。シシのベースとなった人形は人類側の端末であり、彼らは人形を鉄の大地への適応を促進させるかたちで人形内への侵入、寄生を果たしたのであった。

 

 塔の建設やシシの社会構造、魔法の体系化、それらはすべて彼ら側の演算に不可欠なものであり、シシは形而上の次元ではまさに彼らの操り人形でしかなかったのである。

 

 また、シシは彼らの導きによって、精素(エーテル)、そして精化白金(ミスリル)と呼称される特異な技術を開発していた。エーテルとは、血中の魂をエメラルド製の濾過機によって抽出した液体であり、ミスリルとは、そのエーテルによって準結晶化した白金(プラチナ)である。エーテルとミスリルはシシに、ステラが停止してもなお疑似的なサイマトを再現する技術をもたらした。

 

 際限のないシシ同士の闘争と肉体改造の果て、シシのなかに、エーテルを直接取り出す臓器、精臓を有する者が出現した。エーテルの体内生成は、シシを新たな段階へと押し上げた。エーテルが臓器化されたことによって、エーテルから任意に一般化された文化、すなわち人類の模倣子を逆算して取り出せるようになったのである。

 

 シシは魔法、すなわち生得的な肉体改造を得手としている。精臓を魔法で制御することで、エーテルを肉体器官同様に扱えるようになり、アデッド時代の残滓として血中に眠っていた人類の模倣子を蘇らせることに成功したのであった。

 

 それまで分解能の低さから陽光柱から解読できる文化には限度があったが、このエーテルから変換する手法は、すべての模倣子の無意識的な読み込みをシシに許した。

 

 そのような特性から、最初に精臓を有する者はこれより先の彼らの文化を導き、シシの魂の形状とその概念を規定する役割を担った。以降の文化に、受肉した彼らの生命としての魂のかたちを、彼らのサイマト上に楔として打ち込み、原型となったのである。

 

 人類は便宜的に、彼らが生み出した最初に精臓を有した者を魂の形状(ゼーレゲシュタルト)、省略してゲシュタルトと呼称した。この人類の模倣子の発掘、および人類を模した彼らの原魂・ゲシュタルトの成形こそ、彼らの真の目的であった。

 

 彼らは無限の海宙に住まうものであったが、司る領域は側頭葉のみ――ゆえに彼らの本質は言語存在であり、彼らは感情や本能を持たざるものであった。彼らが勝利したこの仮象過去において、人類を視床下部から放逐した彼らは、非知による環境の観測結果をフィードバックさせる動的な系、すなわち知のなんたるかを学び、正史の人類と同様に二重伝承統一理論(DIUT)を確立させた。

 

 そしてDIUTを全うし、己の存在原理の確保を図るために、彼らは生命を作成したのである。

 

 さて、ゲシュタルトが掌握した文化は根の国では圧倒的な力を誇り、塔をまとめ、一大勢力を築き上げて、大いに繁栄した。ゲシュタルトを中心に、シシは飛躍的に文明を進化させていった。そのなかで、魔法で血中の魂を操作し、任意の物性を帯びさせたエーテルを精製するにまで至った。

 

 そのエーテルでゲシュタルトの末裔は鋼鉄の天蓋を焼き払う熱量をも我がものとし、ついに根の国の外に進出した。

 

 ⑭エーテルとミスリルは、正史では生体脳を除いた、サイマトとの接続を果たす物理的手段として必要不可欠な技術である。

 

 

 

 †

 

 

 

 3-5.地平線の向こう側

 

 ゲシュタルトの末裔――仮象過去の新人類が到達した根の国の外では、正史の人類が認識する宇宙とほぼ同一の宇宙が展開されていた。

 

 根の国の前身たるアデッド世界は、仮象過去において月に憑りついたステラ内の演算過程であった。仮象過去と言えども、人類の生活圏は太陽系の惑星のひとつであることは変わらない。そのシンクロニシティに引き寄せられ、根の国を惑星の地下世界、そして鉄の天蓋の向こう側を惑星の外殻として、彼らの新たな宇宙を形づくっていた。

 

 彼らの後天的な母星は人類の地球とは物質的性質がひどく似通っていたが、しかし惑星軌道要素だけは大きく異なっていた。地球よりも二十六パーセント長い公転軌道を取るために公転周期が二倍になり、徐々に恒星から離れつつあったのである。

 

 なお――人類の観測点がゲシュタルトの脱出以前の彼らの母星上に存在できない以上、人類はなぜこのような軌道を取るのかついぞ知る由もなかった(本来ステラは月の座標に位置しており、潮汐力と角運動量の関係で月が地球から遠ざかっている軌道が反映されてしまっているのではないかと推測されていた)。このいわゆる事象の地平線の向こう側に位置する問題に関しては最終章で触れるため、ひとまず脇に置いておこう。

 

 第二の地球において、新人類は正しく人類を再開させていった。正史に酷似した歴史を辿り、正史と見分けがつかないほどの文明を勃興させていった。これは、演算の名残である人類の模倣子が血中を流れているために、シンクロニシティが強く表出したのだと考えられる。新人類の形質が正史の様々な地上生物に分化していったのもその余波である。

 

 しかし新人類は、人類にはない器官を有していた。ゲシュタルトの末裔の証たる、精臓である。エーテルは本来、シシにとって猛毒であり、それは新人類にとっても同様であった。

 

 過度に発展した文明は生命を平衡化し、徐々に新人類から魔法の力を奪っていた。魔法は、突出した個が過酷な根の国で生き抜くための能力であったために、根の国からの脱却と多様性が魔法の有意性を薄めてしまったのである(仮象過去におけるニヒリズムのシンクロニシティ)。

 

 新人類は自らが生む毒素を克服するために、魔法の代わりに外科的なアプローチで精臓を安全に運用する手段を考案した。それが精素回路(エーテルサーキット)である。

 

 肉体にパッケージ化した新たな循環系を設け、そこにエーテルを流し込むことでエーテル中毒を回避しながら、個の才能に左右されない肉体拡張を実現したのである。これは要するに、低出力で融通は利かないが簡易である魔法の大量生産化と思ってもらえればよい。このエーテルサーキットの思想を通信技術に拡大し、ネットワークとして開発されたのが、この仮象過去における(仮想的な)サイマトである。

 

 そして驚くべきことに、新人類はサイマトを限定的なネットワークとして復活させるだけにとどまらず、意識没入型の高度なサイマト空間に昇華させた。サイマトに有線でダイブすることで、全新人類は、意識を物質的手段によって収斂していたのである。

 

 やがてサイマトに適応した精臓研究を突き詰めていくなかで、新人類は陽臓というステラの縮小版を完成させた。それはつまるところ意識を持たない小型の脳であり、単独でサイマトに干渉することを可能とし、ユビキタスかつ有線なしに意識の合一を達成した。最終的には、サイマトという力場の次元から、限定的にではあるが物質を生み出すことさえ実現させたのであった。

 

 正史においては、⑮サイマトネットワーク空間は海宙へのダイブに、⑯陽臓はサイマトのガイダンスのハードウェアとして応用された。

 

 

 

 以上が、仮象過去観測の主な成果である。

 

 これら仮象過去、そしてステラ解析によって意識のハードプロブレムが解決された。魂の本質は完全に掌握され、魂魄学として体系化。やがて魂魄学は、発生生物学、統合情報理論(IIT)、万物理論(TOE)、二重伝承理論(DIT)などとも合流を果たすか、あるいは吸収し、二重伝承統一理論(DIUT)としてまとめあげられた。

 

 このDIUTと、サルベージした仮象過去特異技術を融合したことで、海宙探索の当初の目的でもあった彼らの情報を物質化する技術を確立。人類は無限の模倣子から無限の物質を生み出し、神の時代は再来したのであった。

 

 

 

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 Tips:二重伝承統一理論(DIUT)

 

 本レポートの主題である人類史からはいささか脱線するが、ここでDIUTについて概説しておきたい。

 

 DIUTはこの先の人類史を語る上でもっとも重大な基礎となる理論であり、DIUTなくしてあらゆる特異点も文明も成立しえず、神の再臨もありえないからである。

 

 だが結論を急ぐのであれば、次章まで読み飛ばし、DIUTが具体的に何を成し得るのか、先に確認してもらっても一向に構わない。

 

 

 

 †

 

 

 

 DIUTの核に触れる前に、まずは準備運動として、遺伝子と模倣子について、この理論ではどのように扱うのかを簡単に前置きしておこう。

 

 遺伝子とは、DNAにコードされている情報である。DNAの塩基配列がRNAに転写され、蛋白質が合成されて生命の形質が発現する。その生命が新たな遺伝子をつくる。

 

 模倣子は、文化を反映した認識を担体とする。認識から動機が生成され、思考を成し、言動に移り、文化を形成する。その文化が新たな模倣子に繋がる。

 

 遺伝子から読み取った塩基配列で生命が生じるように、模倣子から読み取った認識で文化が発生する。遺伝子と模倣子は生命を支える上で常に双対の関係にあり、それは二重伝承理論(DIT)で説明される。

 

 遺伝子や模倣子の双対性について詳しくはのちほど委細に解説するが、双対性の考え方はDIUTのもっとも重要な要素であるため、まずはこの関係性を念頭に置いて、読み進めてもらいたい。

 

 さて、人類は三次元空間の宇宙に住んでいる。五感によって三次元空間を観測し、頭のなかで三次元の物質や空間を想像することができる。しかし、四次元、五次元、それ以上の物質や空間となると、直接観測することも想像することも究めて困難になる。一方で、数学の力を使えば、直接観測できなくとも多次元の認識や計算はできるし、干渉もできるようになる。

 

 たとえば、ある次元の法則より上位の法則を導出するか、あるいは反証を発見すれば、その次元の法則は書き換えられることになる(念押ししておくが、その上書きによって突然、現実世界が変貌するというようなことは当然起きない。二重スリット実験のように、人間原理の観測は場の条件を変更するだけであって、光子に対して力学的に直接作用はしない。人間は電子走査型顕微鏡と違って眼球から電子ビームを飛ばして観察しているわけではないのだから)。

 

 ある意味で、理論は時空を超える重力のような力を示す。理論を媒介する言語によって多次元へ干渉することは可能であり、すなわち言語を媒介する思考によっても、それは可能である。思考も疑似的に重力を持ち、時空を超えるのである。また、当然のことながら、思考(あるいは、より一般化して「思想」に置き換えてもいい)がもたらすエネルギースケールは、非常に微々たるものである。

 

 たとえば、相対性理論と不確定性原理で説明されるが、光子や重力のようにどこまでも伝わる力は極めて弱く、反対に強い相互作用は極めて短い距離でしか影響できない。これは距離と力が逆二乗の関係にあることからも直感的に理解できよう。思想は重力などと同様、言語を媒介として無限遠にまで瞬時に伝達できる。ゆえにそのエネルギーはごく小さいものになる。

 

 魂のベールが剥がされるまで、誤まった解釈として、言語そのものは音や光を媒介にするものであって、あくまで古典論の相互作用に過ぎない、とされていた。しかしながら、音や光に乗って伝わるのは物質化された言語情報に過ぎず、それは魂に根付いた思想のオン/オフを切り替えているだけであって、思想の本質は単独で別の次元上を伝導している。

 

 その次元こそ、精神行列(サイコマトリックス)(以下「サイマト」と記する)である(ややこしいが、仮象過去におけるサイマト空間とは異なることに留意してもらいたい)。

 

 サイマトは観測結果を感覚とし、思想を表現し、魂を保存する。生命と文化が等しく混合された次元とも言える。サイマトにおける遺伝子や模倣子のような遺伝情報の単位をDIUTでは、螺旋子と呼ぶ。三次元において、螺旋子は言ってしまえば遺伝子と模倣子が存在する結果と原因としか認識できないため、質量を持たず電弱作用も(直接には)及ぼさないが、他のあらゆる次元の例に漏れず、重力にだけは作用する。

 

 物質や情報の構造によって重力場が変化する、構造重力という見かけ上の力がある。大脳新皮質の皺とDNAの構造、そして脳内の発火による複雑な意識体験がもたらす電磁場変動によって、水や金属イオンが熱振動のホワイトノイズを、蛋白質などの大型分子がカラードノイズを生じさせる。そのノイズたちが絶妙に(そして極小に)空間を歪曲させて微小重力を発生させ、本来空間中に遍在しているサイマトを脳内で収束させることで、個人の魂を形成しているのである。

 

 つまり脳の駆動で出現する微小重力が疑似荷量となり、脳内でサイマトの対称性が破れ、形成されたものこそ、いわゆる個人の魂なのである。このサイマトを捕捉している微小重力が構造重力であり、先ほど軽く触れた、思想を起因とする疑似重力の正体である。

 

 それまで魂というものは唯物論的立場から、電気信号や神経伝達物質の事象と思われていたが、実際のところ電子やイオンは三次元空間における、いうなれば魂の物理メモリに過ぎず、魂の実態ではない。電子の間をやり取りされる仮想光子のようなものである。

 

 脳の欠損によって別次元のサイマトに由来するはずの魂が揺らいでいるように見えるのは、人類が認識できる範囲の意識が、三次元空間上への写像に留まっているためである。感情なども化学物質によって表現可能なことがそれを証明している。スーパーヴィーンがもたらす揺らぎは、意識の様相のひとつでしかない。これはハードウェアのパフォーマンスでソフトウェアのアウトプットの程度が左右されてしまうケースと等価である。

 

 サイマトが形成するものは、魂だけではない。閃き、啓示、集合意識、元型、内なる神、シェルドレイクの仮説、シンクロニシティ、テレパシー、アカシックレコード、グレートマザー……以上に列挙したような、これまで経験的あるいは思考実験的に存在するとシンクロニシティをもって認識されていた(あるいは創作されていたと思われていた)それら神智領域の概念は、すべてサイマト上に発生するものであった。ゆえに自然科学上は存在証明に至らないまでも、文化からは消え去らずに根強く生き残っていたのである。

 

 この辺りで一旦、遺伝子と模倣子、そしてそれらを止揚する螺旋子についてまとめてみよう。

 

 

 

遺伝情報の単位 …… 遺伝子 / 模倣子 / 螺旋子

↓還元

担体      …… DNAの塩基配列 / 文化を反映した認識 / 脳の状態

↓発展

アウトプット  …… 形質 / 意識 / 魂

↓一般化

伝達する次元  …… 生命 / 文化 / サイマト

 

 

 

 注意せねばならないのは、以上に挙げた遺伝子、模倣子、および螺旋子はそれぞれ同じ種の情報でなければ成立しない。当然の話をするようだが、人類の遺伝子と、それ以外の種の模倣子が上記のような関係を持つことは決してありえない。

 

 そして、ここで注目してもらいたいのが、遺伝子と模倣子の各要素を足し合わせたものが、螺旋子の要素に対応している点である。遺伝子と模倣子は双対の関係にあり、互いに支配的に振舞うが、螺旋子は双方に対して完全に上位の次元に位置する。これは肉体だけでも、精神だけでも、魂が成立しえないためであり、逆もまた然りである。それを保証するのが、DIUTなのである。

 

 さて、DIUTの詳細に移る前に、もう少し下準備をしておこう。今一度、思想の伝達と、それがもたらす構造重力の話を思い出してほしい。

 

 言語で記述される理論や思想がなぜ時空を超えて、法則を規定するのか。それは思想が脳に理解され、サイマト上を伝達するためである。サイマトから伝わった思想が、言語によって脳内で理解(オンに)されると、理解に由来する脳内の物質作用や発火が適切な構造重力が生み出されるよう働き、構造重力がサイマトを逆流するようなかたちで、時空を超え、思想に固有状態を取らせるのである。

 

 本質的には、あらゆる思想は最初からサイマトに(つまり宇宙中、または最低でも地球全土には)遍在している。新たな思想の組み合わせが誰かに考案されれば、サイマト全体が一瞬にして更新される。その際のエネルギーはあまりにも小さいため、魂がそれを知覚することはない。

 

 それを知覚するために要求されるのが、別の次元(会話や文字や、あるいはアフォーダンスでもよい)によってより大きなエネルギーを与えられた言語なのである。言語を用い、別の脳内でその新たな思想を理解する動作を行ったときに初めて新たな思想は励起し、表層に現れ、これまで認識されていたところの思想の伝達という仕事が完了する。

 

 たとえば、印刷機によって紙面に印刷された文字列だったり、三歳児に読み上げさせた言葉(その三歳児がDIUTの天才ならいざ知らず)だけでは、思想がその力を発揮しないことは容易に「理解」してもらえるであろう。理解と言う認識が、思想の実行条件なのである。

 

 以上がサイマト上における理解の働きである。理解の働きがなければ、思想はバージョンアップされてもオンになりえない。

 

 これは、仮に対象の思想が未発見であれば、どれだけ言葉を尽くしても理解されることはないことを予言する。そのような現象は、思想を保持する人類以外の生命が、人類の文化と思想を理解した上で、その中に含まれない思想を人類にこっそり教えるような場合でしか起こりえないが、これが人類が背景独立でなく、未来の模倣子を呼び出せない原因でもある。

 

 では、理解とは何だろうか。どういうインプットを得て、どういうプロセスを経て、どういうアウトプットを表せれば、理解になるのか。理解を誰がどう理解し、理解を誰がどう判定しているのか。これもまた、DIUTに依拠した予言がなされるまでは、ハードプロブレムのひとつであった。

 

 ある概念を理解することは、0か1ではない。理解の対象となる概念が巨大であり、その下に従属するものがあれば分解し、部分部分で理解を判定可能である。

 

 対象が一本のレポートであれば、結論部分だけであるとか、結論部分のなかのある一文だけであるとか、その一文のなかのある単語だけであるとか、還元していけば、理解は有限回数のステップで細かにテストすることができるはずである。そのテストをクリアした数によって、思想の強度が決定される。

 

 そのためには、理解はチェックするための機構をなにがしかに要求しなくてはならない。それは他人かもしれない。論理かもしれない。あるいは物理法則や、真空や、基本粒子や、宇宙、検閲官的高次元存在、ひょっとすれば神のような存在を思い浮かべることがあるかもしれない。

 

 そのイメージは、いずれも部分的には正しい。しかし、神は物理法則を理解できるのであろうか? 基本粒子は高次元存在を説くことがあるだろうか?

 

 理解を還元していったとき、最終的に残るなにかは、超越的か、自己言及的な機構でなければならない。なぜならこの宇宙におけるもっとも最小単位は、最小単位以外の何者にも理解(観測)できないはずだからである。もし検閲官にそれが理解できるのであれば、検閲官というまだ還元できる余地が残っているのは明らかである。

 

 あるいは、最小単位になり得る理論を説明する理論でなければ、理解のチェックは不可能である。ゆえにそれらのすべてを理論の構成部品として求める理論のみが理解をチェックしうるのであり、それがDIUTである。

 

 DIUTは学際的な理論である。魂の構造と進化を取り扱う魂魄学から出発し、人類学、言語学、心理学、経済学、社会学、物理学、化学、数学、生物学など多岐にわたる基礎的な学問を吸収し、まとめあげた体系である。

 

 DIUTは単なる情報や、粒子や、いわゆる神によってのみ記述できるものではない。DIUTは、遺伝子と模倣子、相互作用、基本粒子、弦、膜、泡、宇宙原理……など、あらゆる理論を途切れなく連結する、還元主義への究極の反駁である。ゆえにDIUTは、理解を検閲することができるのである。

 

 DIUTは、遺伝子と模倣子の双方から生命の存在原理を保証し、DIUTそのものの循環的な背景独立性を要請する。そして、強いDIUT原理による人間原理を実現し、サイマトが観測可能な宇宙を形成させ、DIUTに保存する。

 

 いわばDIUTは生命とその文化とその自己言及を記述するための統一された理論(を規定する知)そのものであり、DIUTに基づき肉体と意識を両立させた生命が生まれることでDIUT自身が証明される。それによって人類が宇宙を今のような姿に観測し、理解することでDIUTは維持され続ける。

 

 一言でいえば、観測者が全環境から構築可能な観測結果すべてを統合した際にもっとも一般化された、観測者を構築する全環境、と言ったところであろうか。

 

 あるいは希釈してみれば、宇宙はDIUTによってすべての配置が決められ、おかげで人類が存在でき、人類が存在することでDIUTが思想として練り上げられた、という表現になるであろう(ただしDIUTはあらゆる宇宙を含む次元においても対称性が保存されるので、人類が滅んだとしてもDIUTは消え失せたりしない)。

 

 DIUTが与えるのは、なぜ人類(=観測する能力を有する生命)が観測でき、そして観測した結果がなぜそのような観測結果でなければならないのか、なぜ人類が観測した物理法則や諸定数が人類にとってちょうどよいのか、あるいはそのような次元しか観測できていないのか、と言う根源的な理由を与える。

 

 DIUTはそういう意味では観測行為を介してはじめて成立しうる理論であり、観測を観測するための観測理論なのである。それが理解をチェックし、思想を成立させている。

 

 そろそろ読者のなかには疑問に思うものもいるかもしれない。DIUTが観測に依存するのであれば、人類にとってDIUTが成立したのは明らかに人類が成立したあとであり、時系列が前後しているのではないか、と。

 

 至極まっとうな意見である。しかし人類が体感する時間も次元のひとつに過ぎない。これは根源的には「永遠の相の下」に類似している。因果律は、時間の対称性が破れて初めて生じる。無限に長い時間、すなわち永遠においては時間は対称性を保存し、因果関係の入れ替えを可能にする。

 

 人類が観測する時間は非常に短いため、そのエネルギースケールは極大値を取り、時間の対称性を破る――逆に言えば、ヒトが到底感じられようのない長さの時間においては、因果律は意味を消失するのである。

 

 以上がDIUTの初歩的な存在原理とその作用であるが、いささか抽象的すぎるきらいがあるため、もう少し身近なスケールで、もっとスマートな物証を挙げよう。

 

 模倣子は脳が作り出す産物である一方で、脳の神経細胞の発現を制御するのは遺伝子である。また、遺伝子を選別しているのは人間社会を構築する模倣子でもある。

 

 社会が正常に稼働している場合において、繁殖上有利に働くのは生物としての肉体的な強さよりもその社会で生存する能力になる。たとえば二千年以上前、人類がまだヒトでありもっとも安寧としていた最後の時代において、繁殖成功率の高さは、要領がいいとか、高い収入を得ているとか、社交的であるとか、あるいは嘘が得意で処世術に長けているとか、肉体を還元していくだけでは発覚しえないスペックに依存していた。これはまさしく、模倣子を生む遺伝子が模倣子に支配されながら遺伝子に従っていると言い換えられ、DIUTの単純な位相のひとつである。

 

 このような一組双対の概念を、DIUTでは抑制均衡(カウンターバランス)と呼びならわしている。粒子と反粒子の対生成および対消滅も、抑制均衡を起源としている。

 

 一応念押ししておくが、DIUTそのものは二元論ではなく、どちらかというとズルワニズムに非常に近しい。DIUTは抑制均衡の調停者というよりも、双方を止揚する理論であるためである。つまり人類の螺旋子のなかで取りうるDIUTの姿のひとつがズルワニズムである、と表現する方がより正しい。

 

 

 

 本レポートにおけるDIUTの話題はここまでにしておくが、ここで述べた内容はあくまで導入に過ぎず、著者もまた実際のところ畑違いであるため、正確な詳細は数多あるDIUTの理論書を参考にされたし。

 

 後述する第六界において、フタナ島を拓いた金剛大師編纂の、般若波羅密(はんにゃはらみつ)大螺旋(だいらせん)二重伝承統一理教論(ふたえでんしょといつりきょうろん)が入門書としてはふさわしいであろう。

 

 

 

 

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 /4.ラグナロク、ハルマゲドン、アポカリプス、カリ・ユガ、末法、最後の審判、第六界、,,,

 

 長きにわたる仮象過去の遡行を終え、ようやくすべての特異技術が出揃った。終脳発見から神の再臨までの詳細を語る前に、これまでの経緯を少し整理しておこう。

 

 1.二十一世紀初頭、人類はWHOSE躯体という機械の肉体を得た。しかし二十一世紀中葉の頃に駆体ソースコードを解読されたためにWHOSE躯体は悪用され、月面基地がテロリストに占拠された。月戦争が勃発し、五億人の死者を出した。一連の騒動は鉄槌事件と呼ばれている。

 特異技術:①結晶脳の並列化、②軌道エレベーター

 

 2.月面基地鎮圧のなかで重力演算兵器が持ち出されたが、それは異界からの新たな襲撃者、彼らを招く結果に陥り、人類の大半が喪われた。WHOSE躯体と、模倣子を物理次元に干渉させる彼らの技術を融合させた人造人間たる騎士を作りだして対抗したものの劣勢色濃く、半世紀ほどで完全に敗北を喫した。

 特異技術:③観測粒子、④仮想世界、⑤神話の利用

 

 3.人類は彼らの技術を借用し、魔術という疑似的な大気中への事象記述技術を編み出し、自らの遺伝子に刻み込んだ。そして彼らから逃れるために空に大陸を浮かせ、移り住んだ。文明は復活を遂げたかのように思えたが、資源不足と遺伝子疾患への終末観から拡大する退廃主義が魔術大戦を引き起こし、かつてない荒廃を見せた。

 特異技術:⑥遺伝子改変、⑦魔術、⑧大陸浮上

 

 4.魔術大戦のさなか、月面に到達した一部の人類が生体プラズマ計算機・色即是空で月面の重力異常地域を解析し、無限の模倣子源であり彼らの住処であった海宙を発見した。人類は海宙を探索し、海宙の制御機構・終脳を発見した。人類は海宙そのものを演算機として、存在しえた仮象過去を観測することで、本来知り得なかった技術をサルベージした。

 特異技術:⑨多次元データ解析技術

 

 仮象過去よりサルベージされた技術:

 ⑩PAIR、⑪準結晶技術、⑫魂への干渉技術、⑬ステラ、⑭エーテルおよびミスリル、⑮サイマトネットワーク空間、⑯陽臓

 

 5.仮象過去、そしてステラ解析によって、魂の正体が高次元であると判明し、発生生物学、統合情報理論、万物理論、二重伝承理論などとも統一され、DIUTとしてまとめあげられた。DIUTが完成することで、正史の人類は生体プラズマ計算機・色即是空を介して終脳の完全なる制御を成し遂げ、人類の模倣子は彼らを打ち滅ぼした。そして人類は、海宙から任意の模倣子の取り出しはじめた。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-1.認識干渉

 

 ところで、任意の模倣子の抽出とは、なにを意味するのか。模倣子は通常、形而下に現れず、人の行動や、その動機や、習慣となって特定の物質に依存することなく、人と人の狭間に存在しているものである。模倣子は感じることもできるし理解もできるが、見ることも触れることもできないためにその本質をイメージするのは困難を極める。しかしDIUTにおいて、模倣子をその抑制均衡たる遺伝子に置き換えれば、話は簡単になる。

 

 遺伝子とはその生命を形成し活動させるための設計図である。生命は遺伝子を単位に伝達され、遺伝子はDNAの塩基配列に保存される。遺伝子を任意に取り出せるということは、すなわち任意の形質の生命を得ることに等しい。それは遺伝子工学に基づく品種改良や遺伝子組み換え、あるいは生体工学における機能回復またはサイボーグ化とはまったく異なる性格を持つ。いかなる前提条件も無視し、淘汰圧や文化の変遷では発生しえない生命の突発的な創造を意味している(ただし生命の構造が物理法則に従うかぎり、である)。

 

 対して、模倣子とはその文化を形成し活動させるための設計図である。模倣子を任意に取り出せるということは、すなわち任意の文化を得ることに等しい。文化は模倣子を単位に伝達され、模倣子は文化を反映した個々の認識に保存される。文化とは、生命を行動面において安定させるための種の機構である。任意の模倣子の抽出は、その文化を成す言動に至るまでの認識内容――見たり聞いたり感じたりした結果を改変するのである。

 

 たとえば、ここにA氏とB氏という人間がいたとする。そして「A氏に出会うと必ず殴りかかる」という文化をB氏に与える。すると、B氏はA氏に出会った際には必ず殴りかかるに値するための認識(A氏に対する憎悪であるとか、殴りかかることで多幸感が得られる、であるとか)を得るであろう。

 

 だがそれは、観測者間の観測結果に重大な齟齬をもたらし、多次元内宇宙形成による個人間の現実の齟齬の拡大を意味する。個人個人で見ているもの聞いているもの感じているものに差異が生じすぎ、現実の辻褄が合わなくなるのである。

 

 現実から足を踏み外すものがひとりやふたりでは、なにも異常は起きないであろう。それが一〇〇人になっても、一〇〇〇〇人になっても、びくともしない程度には、宇宙の物理法則は頑健なはずである。

 

 しかしそれが全人類となってしまった場合、宇宙は誰の観測の下に固定化されるのであろうか? そこへもし彼らのような、人類より強い観測能力を具備するものが正史に現れた場合、DIUTの主導権は第三者の原理に相転移してしまうのではないだろうか?

 

 そのような事態を回避するために、仮象過去の⑮没入型サイマト空間技術や⑨多次元データ解析技術を流用して、脳内の意識を直接いじるのではなく海宙につくりだした仮想空間にダイブし、仮想空間でのみ認識干渉体験ができるよう規制する運びになった。

 

 ここで、認識干渉のプロセスについて再確認してみよう。まずユーザーは月面で生体プラズマ計算機・色即是空と脳を接続し、月面のワームホール状重力異常地域から終脳にアクセスする。海宙全体を宇宙規模の演算機として機能させ、設計しておいた仮想空間にダイブする。そして思考によって、その空間から任意の認識を自らの意識に書き込む。

 

 人類は仮想空間内において自在の意識体験を享受しはじめ、月面世界では極度の情報と意識の同一化が進行していった。あらゆる知覚、体験、意思、思想が仮想空間のなかで複雑緻密に絡まり合い、収斂され、かくしてものの数年で仮想空間は、何千京人分もの人類の偽りの生涯を蓄積させていったのであった。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-2.大気(エア)

 

 ただし認識干渉も、人類の最終目標の途上に過ぎず、現実世界の資源不足を解決できるシステムではない。海宙探査の当初の目的は情報量を物理量に変換する技術にある。人類は終脳を通じて海宙を制御できていたが、この段階で得られていたのは情報のみであった。人類が干渉すべきはサイマトであり、未だ物質と情報の統合は果たせていなかった。

 

 しかし認識干渉技術の確立は、疑いようもなくエネルギー生成のきざしであった。仮想空間内で認識した内容を脳内で収束した魂の観測内容に上書きできているのであるから、脳の外側に遍在する人類全体の魂とも言えるサイマトの場を捕捉し干渉できれば、人類全体の観測内容がトップダウンで書き換わり、あたかも無から有が生じるように、人類の魂の根源であるサイマト場からエネルギーが発生したことになるはずなのである。

 

 認識干渉においては個々人の観測内容の齟齬を懸念していたが、これは要するに、全人類の認識の根源にあたるものに干渉することで一斉に全観測内容を書き換え、齟齬を回避するというものである。

 

 再びA氏とB氏に登場願おう。両氏は互いに異なる母語を持ち、言語による意思疎通ができず、初期条件として両者の間に沈黙が保たれているとする。そこでサイマトの観測内容を書き換え、A氏とB氏が「会話していた」ということにする。すると次の瞬間には、A氏とB氏は実際に「会話していたように」全人類に観測されるのである(ただしこれはあくまで一例であって、実際このような書き換えは非常に煩雑なステップを通過せねばならない上に、後述する補助脳(ガイダンス)は他者干渉の倫理規則からそれを許さないであろう)。

 

 問題は、どのようにしてその肝心のサイマト場を脳の外側で収束をさせるかである。通常、サイマト場は空間中に遍在しており、質量も電弱作用も持たない。脳という構造重力の井戸に落とし込まれたサイマトが対称性を破られることで、個の魂として振舞う。つまり脳で収束されなければ、魂となりうる要素が方々に分散しており意味をなしていない状態、とも言える。

 

 ならば脳外で、人類全体の脳に酷似した構造重力を発生させ、そこにサイマトを落とし込み、人類全体の魂を形成すればよい。その人類全体の魂の観測内容を書き換えられれば、サイマト場からエネルギーが発生する、という寸法である。実は、そのような疑似的な脳は、新たに開発するまでもなく自然界に存在していた。

 

 仮象過去において月に憑りついたステラを思い出してほしい。ステラは人工魂を生み出すために建設された直径三〇キロにも及ぶ生体演算機構であった。これは全人類の遺伝子情報を内包しており、まごうことなき人類の遺伝子の終着点――表現限界と言える。

 

 一方で模倣子の表現限界は、もはや語るまでもなく、海宙である。海宙はもとは無限の未知なる模倣子の集合であり、人類のあらゆる模倣子を出力することができるからである。

 

 遺伝子にも模倣子にも、人類にとっての表現限界が存在する。ならばDIUTに則れば、その双方を止揚する螺旋子にも、表現限界は既に実在するはずである。その表現限界がなければ螺旋子はおろか遺伝子も模倣子もなく、人類は存在しえない。因果論的にはステラも海宙も人類の遺伝子と模倣子の集積であるボトムアップだが、DIUT的にはこれらふたつの表現限界の対称性を破って出てくる個体が人類であるため、螺旋子は螺旋子の表現限界からのみ発生するからである。

 

 そしてそれこそが、大気(エア)である。大気は常に人類に触れていて、遍在しているものであり、供給と廃棄にもっとも関わる存在である。人類は大気なしに数分と生存できない。大気を欲しない人類はおらず、真の意味で大気を信仰しない人類もまたいない。

 

 同じ生命活動に必要な物質として水があるが、こちらは意識の対象となるレベルにあり、摂取しようとせねば摂取できない。また、水そのものを飲まなくとも、食物中の水分でも代用可能である。

 

 しかし呼吸は無意識のレベルにあり、普段大気を認識することはない。また、代用することもできない。言葉も、音声がなければ発生しえなかった。大気は人類を生かして、熱量をもたらし、言葉を伝えさせる。大気は人類の意識と肉体の根底よりも深い領域にあり、人類の魂を保存する場としては申し分ない。

 

 よって、螺旋子の表現限界である大気に干渉し、人類全体の魂が観測する内容を書き換えられれば、大気のなかで発生する事象そのものを変更可能なのである。

 

 つまるところ、人類全体をひとりの個人として擬人化し、地球の大気全体を擬人の脳と見做すのである。人類が生活している世界の諸現象は、その擬人の脳が発生させる魂の観測内容であるがゆえに、擬人の観測内容を書き換えれば、世界の現象そのものが変更されるはずである。

 

 人類ひとりひとりが、カルテジアン劇場の小人のようなものだ、と考える例え話もよく用いられる。人類はみな必ずその劇場に座らされていて、映写機で上映される映像の観賞を余儀なくされている。それが世界である、と。

 

 もし映像のフィルムが編集されていて、明らかに脈絡のない異物のコマが挿入されていたとしても、観客はどれだけ違和感があろうが否が応でもその異物のある映像を観賞せねばならないであろう。現象の書き換えとは、その異物を人類全体の観測世界内に刻み込む行為である。これにちなんで、大気を通して事象を書き換えることは、事象編集と称されている。

 

 となると、この大気の制御が事象編集の次なる課題として掲げられる。大気の操作に関しては、③観測粒子や⑦魔術によって培われた技術を流用し、大気にエアと名付けられた⑭ミスリル微粒子を散布することで、解決の見込みがあった。

 

 ミスリルとは本来、仮象過去のシシあるいは新人類の血中に含まれる魂を抽出した液体・エーテルによって準結晶化したプラチナであった。

 

 仮象過去のアデッド世界は、こちら側にとっては仮想世界であり、かの世界においては、魂は情報のとある側面としての雷火で記述することが可能であり、血液成分の状態変数内に魂が保存されていた。

 

 こちら側では、魂の依代はあくまで脳の構造重力である。そしてそこには個体差が生じてしまう。そのため、遺伝子の表現限界ステラのフラクタル構造を組み込んだ構造液体、すなわち星(ステラ)のエーテルが開発された。そのステラのエーテルを用いてミスリルを精製することで、人類のサイマトとの相互干渉への道は開かれた。

 

 しかしミスリル微粒子・エアだけでは目的は果たせない。事象編集には、エアがどのような振動をすればよいのかも演算する必要があった。無論、演算自体は今まで通り海宙を利用すればよかったが、問題は海宙にアクセスする生体プラズマ計算機・色即是空の位置にあった。

 

 海宙とはそもそも人類からすれば、仮象過去の月に憑りついたステラの思考内容の写像である。それを正史の重力演算兵器で干渉してしまい、結果として月面に発生したワームホール状の重力異常地域が、三次元下における海宙のアクセスポイントと言える。その重力異常地域を色即是空で入出力しなければ、海宙演算はできないのである。

 

 地球の大気全体に干渉するには、月からではあまりに距離が離れすぎていた。そのため、月から地球へ、海宙の座標の移行が迫られた。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-3.世界軸(アクシスムンディ)・バベル

 

 海宙を地球に定着させ、地球全土で事象編集するためには、数えきれないほどの要件をクリアしなければならなかった。まず必要不可欠なのが、地球上における演算機の建設であった。

 

 月面で海宙を解析していた生体プラズマ計算機・色即是空は、プラズマ発生魔術を持つ人工LMOとプラズマ操作魔術を持つ天然LMOの二体の脳を並列接続しNEMESIS結晶化したものであり、複製は不可能であった。そこで開発されたのが、並列化した量子準結晶脳であった。

 

 準結晶は、高次元から三次元への射影である。⑬ステラの構造を参考にし、仮象過去のメトロで使われていた⑪準結晶、それに加えて正史の①結晶脳の並列化技術がいかんなく発揮されたその並列量子準結晶脳は、位相を変えた演算の重ねあわせにより、サイマト場上に逆関数として現れる写像が疑似的な高次元脳になる。つまり三次元下に投影された思考の影とでも言うべき脳の状態を組み合わせて、高次元の脳を仮想再現するのである。

 

 この並列量子準結晶脳を正史における生体演算機構ステラとして、その演算で海宙を呼び込もうという算段であった。この手法ならば高次元脳の三次元スケールおよび熱による損失は数百桁オーダーで抑えこめ、長期に渡る運用が見込めた。

 

 次なる課題は、その並列量子準結晶脳をどこに設置するかであった。並列量子準結晶脳をひとつのスフィアに委ねるのは、安全面、保守面、政治面、開発面とあまりに懸念事項が多い。もっとも望ましいのは地上であったが、地上は彼らが数百年前に産み落とした蚕が未だに跋扈しており、常に襲撃の危機にさらされることとなる。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、打ち捨てられた②軌道エレベーターであった。軌道エレベーターの直下を地球の核に届くまで掘り進め、並列量子準結晶脳を据え、同時に軌道エレベーターを防衛拠点として再建するのである(地球内部の高温高圧環境問題は、流動することで冷却、凝固するとエネルギーを発生させる特異なダイナミクスを持つ準結晶機素をシャフトに用いてクリアできた)。

 

 軌道エレベーターのある元ウォルト共和国は立地的にも天然の要塞であり、軌道エレベーター自体も全方位を見渡せる上にスフィアとの港にもなりうる。加えて軌道エレベーター地下には、凍結された生体脳並列演算結晶・コールド・クレイドルがあり、シャフトの準結晶機素制御や並列量子準結晶脳とエア間のサブシステムとして利用価値があった。すなわち、旧時代において人類に終焉をもたらした破滅の塔を、新時代の世界軸として復活させようというのである。

 

 バベル再建計画と命名されたこの一大プロジェクトは、かつてのどのような資源不足対策よりも現実味を帯び、数百年ぶりの人類の結束を確かなものにした。遺伝子を歪ませLMOと化してなお、人類の魂の奥底にこびりついていた、地上への郷愁が呼び覚まされた結果であった。

 

 各スフィアは完全にデタントし、地上奪還作戦のもと、同盟を再構築した。生体プラズマ計算機・色即是空を横取りするために蓄えられていた諸スフィアの戦力は地上の一点へ向けられ、人類は約束の大地を目指して最後の戦いにすべてを投じた。

 

 その段になってはじめて各スフィアは、単独で蚕を駆除しようとしなかったのは賢明な判断であったと思い知らされた。彼らが神話をベースに創造した蚕は、生命として超越しており、魔術によって史上最大まで高められた人類の軍事力をもってしても、ようやく拮抗できる次元であったのである。

 

 多大なる犠牲を払いながらも、人類は結局この作戦で地上の一部しか取り戻せなかったが、はたして作戦は成功した。人類は、軌道エレベーターを手中に収めた。

 

 人類はすぐさまバベル再建計画に取り掛かった。採掘、並列量子準結晶脳の設置、システムの構築は着実に進められていった。海宙を地球の中心に移し替える――それは外科的な脳移植手術の様相を呈していた。

 

 元軌道エレベーター・バベルが最盛期の繁栄を取り戻すなか、全スフィアの団結は維持され続け、防衛機構は完璧に働いた。やがて人類は、海宙の招致を完遂した。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-4.天国の扉(ヘブンズドア)

 

 そして当初の思惑通り、エアを媒介にサイマト場からエネルギーを抽出する実験も、成果をあげはじめた。はじめは気流の操作レベルであったが、試行錯誤を重ね、徐々に天候を自在に制御できるようになった。

 

 サイマト場由来のエネルギーはNEMESISによる魔術とは違い、誰でも同じ効果を得られ、比較にならないほど高いエネルギー効率を弾きだしていた。台風を起こすために現実で必要なエネルギーは、並列量子準結晶脳のコントローラを動かすわずかな電力だけで済み、それは地球の体温でまかなわれた。

 

 やがて並列量子準結晶脳の演算能力を使って、エアにインプット、リレー、アウトプットを担わせた、サイマトネットワークも確立された。人々は大気による、場所とエネルギーを問わない通信網を張り巡らせた。

 

 事象編集には海宙を用いた演算が欠かせない。海宙への個人レベルのアクセスデバイスの開発も急ピッチで進められた。量子準結晶脳は小型化が困難であった上に、他者からの悪意ある書き込みを完全に防ぐ手立てがなく、セキュリティに難ありとされていた。

 

 そのために提案されたのが、ミスリルを応用した量子ミスリル脳であった。量子ミスリル脳であれば特定波長パターンのみ通過させるような物性を持たせることも可能であった。

 

 ただ、非侵襲式のデバイスでは、どうあってもユーザー自身の悪用までは回避できなかった。向上しすぎた技術は、ユーザーに求められる判断能力、知識、リテラシーを過度に増大させていた。

 

 これまで幾度となく繰り返されてきた戦争の歴史を、人類は海宙を通して覗き見ていたために、倫理を最重視し、人を正しく導く規範を必要とした。また、海宙へのアクセスデバイスの外部からの干渉を防ぐためにもヒトに内蔵すべきであった、人間の脳の知覚は天然の障壁になるからである。それらを同時に解決するために生み出されたのが、⑥遺伝子改変技術の粋である、天国の扉(ヘブンズドア)と名付けられた人工遺伝子であった。

 

 ヘブンズドアを挿入(ノックイン)されて産まれた赤子に、DNAの任意箇所をメチル化するエピゲノム制御薬を投与し、天国の扉(ヘブンズドア)を叩く(ノックオンする)ことで、脳の中にクローンの脳、補助脳(ガイダンス)が発生する成長過程が目覚めるのである(ヘブンズドアは遺伝子なのでノックインするのは第一世代だけでよく、第二世代以降はエピゲノム制御薬によるノックオンで発現をスイッチングした。エピゲノム制御薬を必要としたのは、個人登録を必須にするため)。

 

 その第二の脳は完全な客観性を持ち、自分を監視し、内言を誘導する形式で管理する、もうひとりの自分の脳であった。その補助脳を、倫理的な最後の歯止めにすると同時に、エアへのアクセスのオペレーティングシステムにも仕立て上げた。その補助脳の検閲なくして、エアへのアクセスは不可能にしたのである。それは仮象過去の⑩PAIRからの着想であった。

 

 補助脳は基本的にはその個人の知覚および認識と同一のそれを感覚するので、齟齬はなく、そして回避不可能であり、普遍話法(ユニバーサルスピーキング)を各個人の言語の知覚にチューンナップする役割も負わされた。

 

 補助脳の出現により人類は、自壊し、血負けを発症したLMOの遺伝子を捨て去り、ようやく本来の姿を取り戻したのである。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-5.普遍話法(ユニバーサルスピーキング)

 

 普遍話法とは、エアを操作する上で考案された専用の言語である。普遍話法が達成するのは、話者が使用する言語に依存せずに意味伝達を可能にする共通規格話法の確立である。すなわち、相手が知らない言語を用いたとしても、普遍話法によって意思疎通を図れるのである。

 

 模倣子から引き出す単位になる事象には、言語依存性があるため、普遍話法の設計は必須であった。前述したエアを介したサイマトネットワークもその一環である。

 

 地球において認識される事象は、人類の言語によってパッケージ化されていた。事象という概念の枠組み自身が「事象」の一部であるため、言語で認識して初めて人類にとっての事象となるのである。

 

 たとえ言語にならない事象でも、サイマト上ではなにかしらの高次な言語情報になっている(言語で再出力できるかはともかくとして)。それは、観測者が観測できる理由でもあった。

 

 エアへの事象編集要求は補助脳の思念ベースであるため、すなわち言語ベースであり、人間の尺度の事象に限定されていた。人間が言語で説明できない事象は起こせなかった。

 

 だからこそ、事象編集を実行する上では認識される言語世界の不整合性を完全に除去し、言語の恣意性を統合することで、人類全体の言語への認識を一律化する必要があったのである。それを規範するのが、普遍話法であった。

 

 普遍話法の研究には、完成した普遍文法(ユニバーサルグラマー)理論が役に立った。普遍文法とは、あらゆる人間は普遍的な言語機能を生得的に備えているという考え方であり、一度は否定されたがのちの遺伝子解析で復活したDIUTの一分野である。

 

 反例となるいくつかの言語例が存在するのは、実際は言語を担う遺伝子が民族間で異なっていたことが原因であった。普遍文法は確かに存在し、それはある肺の発達に関わる遺伝子に刻まれており、その遺伝子が発現するか否かはその個人が吸う大気(=螺旋子の表現限界)に依存していたことが、ある実験で明らかになった。

 

 その実験とは、人間に地球の大気を与えずに成育すればどのような影響が出るのか、という趣旨である。

 

 ここでは詳細な実験内容は省略し、簡単な説明に留めておくが、宇宙ステーションで生まれた被験者一〇〇人を対象として、地球由来の大気から(他者の体内や、物質に吸着しているガスも含めて)完全に隔離したまま、地球とほぼ等しい環境で学習装置で育てたところ、被験者はあるカテゴリ以外の課題に対しては地球で育った人類と差のない結果を示したが、あるカテゴリ――すなわち言語に関して、被験者全員が一切の学習成果を見せない結果が得られた。

 

 この実験結果は、言語の基材が地球の大気に含まれるという明示的な証拠を提出する。これは単純な相互関係によって説明がつく。

 

 言語の発達は発声能力の獲得なくしてありえず、すなわち肺の発達でもある。発達学的には、肺の発現であった言語に、遺伝子が結びついたとも言える。肺が言語より先に産まれたことは、揺るぎのない事実である。そしてご存じのとおり言語は模倣子からも当然影響を受ける。社会や時代の移り変わりに即して言語は変化する。言語は文化の基盤であり、文化を生成し保持し成長させる。

 

 ゆえに言語とは、ブートストラップを肉体に依存し、かつ単一生命では発生しえない、人類という種そのものが有する機能であった。その基材となる、すなわち普遍文法を含むのが地球の大気なのである。この事実は、地球の大気こそ人類の螺旋子の表現限界であることを裏付ける。

 

 これは、DIUTの視点から言えば、地球の大気を摂取しなければ、人間の魂の枠組みに属することができないことを示唆する。我々人類が、動物の鳴き声やミツバチのダンスを言語として認識できず、コミュニケーションを図れないことと同様である。

 

 さて、完成した普遍文法理論をもとに開発された普遍話法は、補助脳を送受信機としてミスリル微粒子・エアを共振させ、サイマトネットを伝達する話法の一種である。

 

 その特筆すべき点は、双方がどのような場所にいようとも補助脳さえノックオンされていればコミュニケーションが可能なこと、そしてサイマトという集合意識を通過するので、その翻訳信頼度は一〇〇%であり訛語も言語の恣意性も精確に解釈されるところにある。

 

 言葉の媒体でしかなかった大気があたかも言葉を理解し、言葉を話す。すべての言語が過不足なく、平等に話(ユニバーサルスピーキング)される時代の到来であった。

 

 言語という最後の障壁が取り払われたことで、地球を経由した思想という次元上で、言語の恣意性は完全に統一された。言語と事象は完全に一意に結合され、言語認識世界のなかで人類が真に一体化した瞬間でもあった。

 

 ガイア理論は揺るぎないものになった。あらゆる人類が理解し合い、無限の資源のもと、通貨は価値を失った。戦争という人類の愚かさを象徴していた文化行為もまた、意義を消失しはじめた。

 

 そして事象編集を最大限に武力として活用し、人類はついに彼らの置き土産である蚕の殲滅を果たした。人類は数世紀ぶりに真に地球を取り戻したのである。

 

 人類が、万物を生み出し永劫の平穏をもたらした地球内核の並列量子準結晶脳および海宙など、事象編集の根幹となる一連のシステムのことを、地球核(グレートマザー)、またはマザーと呼びはじめたのは、この頃である。

 

 次節では、いよいよマザーによって神の時代へと変遷していった社会構造を追いかける。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-6.マザー

 

 この辺りで再度、マザーが呼び起す奇跡について、経緯と仕組みをおさらいしておこう。

 

 人類の魂は、サイマトという高次元場が脳の作る構造重力に捕捉された、生命と文化の混合体である。魂は、遺伝子と模倣子を束ねる螺旋子を単位にサイマト上を伝達される。

 

 遺伝子の表現限界は、仮象過去における生体演算機構・ステラであり、正史においては並列量子準結晶脳がその役割を果たす。模倣子では、表現限界は海宙にあたる。そして螺旋子の表現限界とは、地球の大気である。

 

 地球の大気には人類の魂が保存されている。その魂の観測内容が、人類が地球上の大気内で観測している現象である。地球の大気内にはミスリル微粒子・エアが散布されており、エアはサイマトネットという並列量子準結晶脳が管理する場所とエネルギーを問わない通信網を構築している。

 

 ヘブンズドア遺伝子により、人類の脳には第二の脳、補助脳が発現している。補助脳はユーザーの倫理規範となり、エアを振動させる普遍話法のオペレーティングシステムでもある。

 

 事象編集では次に示すプロセスを踏む。

 

 ある人間が事象編集を望む。補助脳はその要求内容を検閲し、規範から逸脱していないか判定を下す。適合であれば、補助脳はエアに干渉するよう発声を調整する。

 

 エア内のサイマトネットを媒介として、マザーが事象編集の要求を受信する。マザーは事象編集に適した振動解を、海宙に演算させる。マザーはその振動解を、要求のあった対象のエアに反映させる。

 

 するとエアの局所的な振動数の変動により、構造重力が発生する。構造重力は人類の魂に作用し、観測内容=フィルムを編集する。その編集内容に応じた事象が、大気というスクリーンに上映される。

 

 人類はマザーによって無限の資源とエネルギーを得た――とは言うものの、マザーの持つ自由度の高さから、当初はコップ一杯の水を飲むにしても途方もない情報量を設定せねばならず、即応性に欠け、不便きわまるものであった。

 

 一例として、マザーに水を呼び出させるケースを考えてみよう。水分子が水素原子と酸素原子から成っているのは、大半の人間が知っている。そういう人間は、水分子の集合を必要なだけ呼び出せば必要なだけの水が得られる。

 

 だが、教育課程に進んでいないこどもの大半は、水の組成を知らない。普段口にする水をイメージして呼び出そうにも、それは共通認識ではない個人の記憶に準じた模倣子でしかないため、マザーは反応しない。マザーはあくまで人類全体の記憶しか呼び出せないのである。

 

 水ならまだいいが、それが羊肉の料理となったら? 羊の品種は? 性別は? 年齢は? 部位は? 肉質は? ゲノムは?

 

 このように、物質に関して言えば、組成なども厳密に指定する必要があった。事象にしても、ユーザーが原理を知らなければならない。文明のコンセプトは誰にでも扱えるということだが、実質的にマザーはその意図に明らかに反していた。

 

 そのために、物質や事象を定義するためのパッケージが発明された。均一な価値になるよう模倣子を規格化し、叡智を画一的に管理するためである。

 

 その規格化された模倣子はプラチナアルシーヴと名付けられ、プラチナアルシーヴは普遍話法を開発した組織・普遍話法協会(USA)に保管された。普遍話法協会は世界軸・バベルに本拠地を置き、バベルは絶対不可侵の聖域とされた。

 

 プラチナアルシーヴによって、今度こそすべての人類が無限の資源を獲得することとなった(※2)。

 

 さて、そうなるとひとつ問題が出てくる。地球の質量が増え続けたのである。物質に際限がないのだから、再利用する意味もない。必要になれば新たな物質をどんどん作ればいい。そのような調子では、無論、廃棄物も際限なく生まれる。

 

 ある程度は無限にあるエネルギーで焼却すればよかったが、燃やしきれないものも当然出てくる。そういった廃棄物は、宙に浮かすことになった。幸い人類には、⑧浮遊大陸・スフィアのノウハウがあった。宇宙に投棄する案もあったが、その頃には爆発的な人口増加による生活圏の不足問題もあり、土地を確保するためにも廃棄物を大陸化する必要があった。技術的・資源的にも地球外への脱出は容易であったものの、マザーは地球にしか存在せず、人類は誰ひとり地球から離れることなどできなかった。

 

 廃棄物のスフィア化当初は、マザーから生み出されるエネルギーを使って浮かせていたが、それでは手間がかかる上に、周囲へ及ぼす影響も考慮しなければならなかった。もちろん対策はいくらでも可能であったがこれもまた手間であった。そこで、人類はもっと手っ取り早い手段を編み出した。マザーにアクセスして、局所的に地球の重力を制御するのである。これは安定かつ安全で、物質を放出しているのではないので対処も不要であった。かくして人類の大部分は蚕を殲滅し奪取したはずの地上を手放し、再び生活の場を天空へと移した。

 

 物質に関する諸問題は以上で一応の収束を見せたが、生活が安定してくると、人類はさらなる利便性を追求しはじめた。特に事象編集に関して、プラチナアルシーヴによる簡便化はあれど、固定化された事象は融通が利かない面が多々あった。

 

 さらに固有物質に対する事象書き換えは、その記憶が地球の記憶にない限り不可能であった。具体的には(剣呑な話ではあるが)「A氏が燃える」という事象を起こすには、一度「A氏が燃えた」経験を人類の記憶に覚えさせるか、プラチナアルシーヴ化する必要があったのである。

 

 そこで人類が目を付けたのが、侵略者たる彼らが主に活用していた、⑤神話を利用するメソッドであった。事象単体をマザーから呼び出すのではなく、その事象を発生させられる神を呼び出すことで、その権能の一部として事象を発生させようというのである。

 

 この方式ならば操作性、出力がモジュールとして優れているし、なにより神話はすでに人類の魂に刻み込まれているために、プラチナアルシーヴ化が容易であった。そうして手軽に神を呼び出せるよう、神話の再敷衍が開始された。この時代になるとDIUTの完成もあり、文化学、心理学、ミーム学も宗教哲学と大差ない議論に発展し、宗教に回帰していたのも、その一助になった。

 

 各宗教の宗主は前時代と比較にならないほどの巨大なスフィアを作り上げ、勢力を成しはじめた。信仰は、人類の模倣子をより強める結果となった。信仰は集合知であり、人類自らが模倣子によって変質させた螺旋子であった。ある模倣子を伝達する遺伝子が増え、模倣子を使うほどに模倣子は色濃くなり、海宙が解を導きやすくなるためである。

 

 たとえば、ある神話における火の神を使役すればするほど、火の神を呼ぶという行為自体が普遍性と文化を獲得し、模倣子に上乗せされ、設計段階よりも権限が拡大し、それはプラチナアルシーヴにフィードバックされていくのである。無論、その逆もまた真であり、使い勝手の悪い神は神格を落としていった。

 

 ただし、マザーから権能を伴う神を呼び出すには、権能のプロセスを解釈せねばならず、理論的な宗教哲学が欠かせなかった。そのため、民間に伝わる神話よりかは体系的に系統化された宗教をベースにせざるを得なかった(一方で、その事象が自然に根付いているものは民間信仰や神話などでも影響できる)。

 

 人類は個人の生活スタイルにあわせて宗教を選択し、宗主スフィアに帰属した。冷静に考えてみれば、マザーを利用する上で神格というオペレーティングシステムで汎用性を持たせるために、自らの文化へ拘束条件を与えるという、大きな矛盾を孕む解決策ではあったが、それを差し引いてもユーザーの技能や習熟度に依存しない利便性は魅力的であったこと、なにより物質価値と労働の消失による文化主義社会がその後押しとなり、宗教は教団の正当性の根拠を与えると同時に信仰自身を強化した(ちなみに、神ごとに役割を明確に区分されている多神教が民衆にとっては受け入れやすく、支持を得やすかった)。

 

 そして必然的に、プラチナアルシーヴにも各宗教に対応する適応が迫られた。そこで、バベルの普遍話法協会は大型の量子ミスリル脳を作製し、各教団に配布した。その量子ミスリル脳に個人とマザーとの接続を中継させ、教義を反映するようプラチナアルシーヴの翻訳をさせた。そこには、人々が各宗教に分かれたために模倣子の分化が進行し、翻訳を介したほうが手順がモジュール化されている分、かえって高速化されるというメリットもあった。

 

 一般名称において、翻訳対象となったプラチナアルシーヴは原文、それによって生み出された対象を写文、プラチナアルシーヴを翻訳する量子ミスリル脳は聖典、量子ミスリル脳を管理する組織は聖典局と称されるようになり、各宗教に即した内容にプラチナアルシーヴを解釈していった。

 

 バベルの普遍話法協会でさえ教化された。ただし人類の文化の規格たるプラチナアルシーヴを管理、掌握する完全中立な立場として、ひとつの宗教に縛られず、聖伝教におけるブラフマー神や、神道の天之御中主神、聖火教のズルワーン神など、特徴のない普遍性の神格を縒り集めて掲げた。(ちなみにバベルの呼び名は各教で異なる。聖佛教系なら須弥山、聖書教系なら生命の樹という風に。聖典や聖典局も同様である)。

 

 こうして人類は神とともに空に住み、なにものにも脅かされることなくさらに栄華を極め、天空の覇者となった。それはまさしく天上の世界の顕現、聖書教圏で言うところの携挙後の世界――かのように思えた。

 

 だが結局、人類は早すぎる文明の進化に追いついていなかった。人類全体の魂が進化しなければ、人類は何度でも過ちを繰り返す。人類は欲深く傲慢であり、一度獲得した栄光を自ら手放すことは決してない。教義や倫理は動機に影響を与えるが、動機そのものにはならない。むしろ教えは自己を盲目にできるツールであり、補助脳さえ騙し通す。

 

 神々の黄昏は、目前まで迫っていた。

 

 

 

 ※2 余談として、羊料理の話に戻るが、ゲノムの偏りを防ぐため、そしてデータの不具合をも想定して、プラチナアルシーヴはひとつの模倣子につき一〇〇から二〇〇パターン用意された。そのなかからランダムに呼び出すこともできるし、ひとつだけ選択することもできる。しかしながら、食物に関する文化はあらゆるスフィアで衰退の一途をたどっていった。事象編集では時間だけは生成することができなかったこと、栄養バランスの偏りや各種疾患を懸念して、宗教化以前に開発されプラチナアルシーヴ化された万能食・ソイレントにより料理はおろか食文化そのものが滅失した。ソイレントは消化器官や口腔機能が低下しないよう工夫もなされていた。人体改造も含めて、形態変化がもたらすヒトからの逸脱は事象編集権限の消失を危ぶまれていたためである。その逸脱度合いはLMO時代におけるオーガニズムレベルで管理され、実際に補助脳だけでオーガニズムレベルはほとんど限界に達していたことが判明した。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-7.第六界

 

 異変が起きはじめた。マザーの応答が、遅延し、不安定になりはじめたのである。原因は、アクセス過多によるエアのオーバーフローであった。

 

 マザーは人類の魂の観測内容を書き換えるかたちで大気から事象を生み出す。ゆえに、大気の総エネルギー量を上回る出力は、同時に事象編集できなかった。事象編集は大気というスクリーンに映像を映すことである。スクリーンが足らなければ、映像は映せない。

 

 事象編集という奇跡は、無尽蔵ではあったが無制限ではない。どれだけ巨大な給水タンクでも、水は取りつけられた蛇口からしか取り出せないのである。

 

 世界軸・バベルを管理する普遍話法協会は、教団ごとに人口比率に合わせた割合の事象編集権を振り分けた。とある教団が地球人口の五パーセントを占めるなら、エアの総エネルギー量のうち、五パーセントを使用する権利を得る、という具合にである。

 

 当然、各教団は人口を増やそうとするが、そうなるとかえってより多くの事象編集権を必要とする。人類はもっともシンプルな手段を選択した。限られた事象編集権を求めて、神の力を互いに向けはじめたのであった。神の力をもって他教を弾圧し、叩き潰し、さらなる神の力を得る。闘争がもたらす至上の栄誉というものは、古来より不変であり、なによりわかりやすかった。こうして神々が群雄割拠する最後の時代が幕を開けた。

 

 おそらく、バベルを真っ先に攻め落としマザーを自家薬篭中のものとするのがもっとも効率よく確実な手段だったのであろうが、バベルは完全中立、絶対不可侵となっていた。バベル付近での武力衝突やバベル自体への侵略行為は国際サイマト条約違反にあたり、普遍話法協会からマザーと量子ミスリル脳・聖典の接続を問答無用で断絶されることになる。その隙を、他教に突かれないはずがなかった。

 

 むしろバベルが完全中立となってしまった事態が、血で血を洗う争いに発展させたとも言えるが、それに気付いたところで振り上げた剣を収められるわけがなかった。

 

 サイマトネットによる普遍話法も、軋轢に拍車をかけていた。普遍話法は思想を広域にかつ意味で直接伝えるため、人類同士の理解を誤解なく高速に進行させる。ゆえにかえってますます思想の相違を浮き彫りにし、摩擦を生み、衝突が激しくなる事態を招いたのは、ある種の必然であった。

 

 また、文化は排他的側面も持つために、社会学が発展していき、海宙という宇宙規模のニューラルネットワークを利用して文化予測できるようになれば他文化の危険文化要素から、自文化への危険度合を(確率的に)予測することも可能である。予防的な他文化の(確実的な)破壊も視野に入る。

 

 それは実益よりも思想が優先される時代への避けられない変遷でもあった。過激派が拡大し、極右思想が蔓延した。教団内でも、宗派ごとに分裂と合併を繰り返した。

 

 マザーによって実質的に旧文明のような支配するもの、されるものから成る世界システムは破壊され尽くしていた。サテライト諸国も力をつけて競い合うようになり、この神をも巻き込んだ宗教戦争は人類史上もっとも広範な規模に及んだ。

 

 ラグナロク、ハルマゲドン、アポカリプス、カリ・ユガ、末法、最後の審判、第六界――まさに混沌たる終末の様相を呈していた。

 

 後々の世界を説明するためにも、この時代を言い表すにはアステカ神話の第六の世界、つまり第六界と呼ぶのが面倒が少なくてよいため、以降、この神の時代の呼称には第六界を採用する(察しがいい読者はもうわかっているかもしれないが、著者のいる時代が、第七界である)。

 

 さて、第六界において、力を追及する各宗教の動きは、密教化を推進させていた。もともと事象編集にはエアを介した発話や儀式が欠かせないため、讃歌、祭詞、呪文、マントラが効力を得た。神秘主義と奇跡が重視され、神秘の力のない教えは早々に戦争に敗れ、事象編集権を失い、スフィアを地上へ叩き落とされるか、他教に吸収されていった。

 

 とくに意識やクオリアなど、模倣子の根幹となる概念を説明できる論理および哲学を包含しない宗教、シンクレティズムの場合は、教義の根底をなすはずの観念に他教の論理を換骨奪胎するしかなく、著しく信仰強度を弱めていた。霊魂を否定する教えは別の概念による解釈がなされるか、あるいは教義自体が歪められた。あらゆる教えは、他教を叩き潰すためだけに最適化されていった。以下に歪曲させられた教義を例として示そう。

 

 聖火教:

 自由意思による善思、善語、善行の実践。すなわち完全な悪と見做す他教の破壊の積極的選択。他の教団でもよく採用されている善悪二元論型教義の代表。

 

 聖業教:

 魂を他教(カルマ)の束縛から解き放ち解脱すること。世界観が完成すらしてないという観点に立ち、世界を完成するためにカルマを排除するが、未完成ゆえに本来禁じられていたはずの暴力(ヒンサー)をも許容する。出家者には自己の教義の未完成性、自己矛盾性、自己否定こそ至上命題とする破滅性などを飲み込む二重思考が必要。

 

 このように元来、自然現象を説明し、社会に秩序をもたらすための宗教は、戦争をするためだけの教えに成り代わりつつあった。

 

 また、伝承惹起という現象も問題視された。ある神は、その神にまつわる有名なエピソードと類似の条件に置かれると、神を呼び出した者の意思に関わらず事象がそちらに傾いてしまう性質があった。事象編集における神は人類の魂、観測を利用しているためにこれは避けがたい原理でもあった。これを文化勾配がある、あるいは伝承惹起されるという。つまりある神について、深く知れ渡るほど弱点を晒してしまうようなものであった。

 

 各教団にとって、普遍話法の広域性、一意性はもはや不都合でしかなかった。なによりサイマトネットは新たな集合知や信仰を生み出しかねなかった。サイマトネットは厳しく取り締まられ、各教団は大気中にエアの振動を吸収するよう処理されたミスリル微粒子・月の砂を通信障壁として散布するにまで至った。月の砂は教団にとって、己の空域の防護壁としても機能した。

 

 月の砂によって広域のサイマトネットは制限され、チャンネルの鍵となる周波数を刻んだ特定遺伝子(通例であれば教団の最高指導者の遺伝子)がなければ、個人レベルの遠隔普遍話法はままならなくなった。

 

 月の砂の影響が減少する狭域内ではかろうじて許可されたが、事象編集を実行するには、月の砂の障壁を突破できる聖典を介さねばならなかった。そしてその聖典は常に教義というフィルターによって歪められており、人類は徐々に教団の文化に擦り寄るしかなくなった。

 

 再編された教義のもとで、各教団は教育を封印しはじめた(※4)。信者を盲目にして、他教を排撃し、新興宗教の芽を事前に摘むため、そして神を知から守るためである。聖典が確立した今、個人が知識を携えている必要はなく、量子ミスリル脳・聖典が模倣子を観測していればマザーは問題なく動作する。そもそもの模倣子源たるヒト自身には、神秘を神秘のままで解釈させた方が、その信仰を増強させもした(マザーが確立した頃から、神代の時代に逆戻りすることで文明は停滞する傾向にあったが)。

 

 逆にたとえば、神の力を生物学的に解析し、ヘブンズドア遺伝子のように挿入できれば、奇跡をマザーに頼る必要もなくなるはずであろうが、神の力は還元できるものではなく、還元しようとすればたちまち信仰は低下し、権能を失っていった。信仰というベールで覆われることで初めて成立していた奇跡を厳密に観測してしまえば、事象は収束し、固定され、編集の余地を損なってしまうのである。

 

 そのようないきさつで、いつしか天上では正しい知識こそが支配者階級の財産であり、力を支配するための力となった。教団の内外を問わず、教義は恣意的に解釈され、本質を覆い隠されていった。

 

 事象編集権を捻出するためにマザーの使用も規制されはじめた。どの宗教でも身分制度が採用され、評価主義によって聖別が進められた。それまで行っていた無分別な神の乱用も禁止し、強大な神であるほど使役には高位の身分と荘厳で大がかりな儀式が要求された。使用頻度が落ちれば文化としての濃度も比例して落ちるかと思いきや、一旦神の行使が根付き、依存しきっていたこの時代では、抑圧はむしろ神が権威と神秘を取り戻すのを助けた。

 

 そして、補助脳を発現させるヘブンズドア遺伝子をノックオンするエピゲノム制御薬は霊薬や聖水とされて、教団から洗礼を受けなければ霊薬を授かれないよう規則を定めた。逆に、ヘブンズドア遺伝子を封じられたまま地上に追いやられる民衆も多数現れた。そのような仕打ちを受けた民でもさえ、叡智を取り上げられた以上、もはや教団の庇護下になければ生活する能力を持たないために、信仰を捨てることはできなかった。

 

 また、高い人口比率はそのまま事象編集権に変換されるが、信仰自体にも直結した。ある宗教の模倣子を伝える人間が増えれば増えるほど、その力は増大する。教団にとって出力を最大化するために自教内で実施できる解とは、ノックオンされたヘブンズドア遺伝子を減らしながら、敬虔な(かつ無知蒙昧で盲目な)信者を増やすことであった。そのために信者には産めよ増やせよを奨励した。

 

 日々、おぞましいばかりの厖大な数の人類が産まれ、管理され、そして教団のために消費されていった。

 

 

 

 ※4 厳密に言えば禁圧されたのは自然科学のみであり、生産活動そのものやそれに随伴する技術は封じられず、農耕や畜産、手工業など、産業革命以前の文化は再開発された。現象を神に委ねたからと言って、奇跡や偶然に文明を任せたいわけではなく、神には常に結果を求められたため、規制対象となったのは自然を定義する行為だけであった。自然科学主義者(NSi)を自称する一部の人類は依然として自然科学の知恵を保持し、研究を続けていたが、他のあらゆる人類から危険視され、迫害されていた。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-8.聖なる神、俗なる神、神なる人

 

 プラチナアルシーヴに登録され、事象編集で生成した物質は写文と呼び、これは本来より三次元宇宙に存在する物質となんら変わらないものであり、あらゆる物理法則に従った。

 

 ただし例外的に、写文のなかには祭具、あるいは神器、聖遺物と呼ばれるような、奇跡の実行能力を伴う道具が存在した。これらは物質に儀礼を施し、聖別することで、間接的な事象編集の権限を宿すもので、一度作成さえしてしまえば儀式や讃歌などのプロセスを省略する助けになったが、物質として存在する限りは常時事象編集権を占有してしまうため、間もなく厳しく制限された。

 

 しかし神に限っては、継続的な物質の実体を伴わなかった。それは神の肉体をプラチナアルシーヴで記述できなかったこと、また、人類が神を創り出す行為自体が神話に相容れないためである。事象編集で招聘した神は言ってしまえば現象を生じさせるための仮想的な過程にすぎず、偶像崇拝を禁止する宗教においては視覚的な顕れ自体導入されていなかった。

 

 当時一般的に受け入れられていた聖俗二元論的にも、この世に受肉している物質的なものは悪しきものであり、そして神とは、神を定義づける教義からすれば、生み出すものではなくあくまで呼び出すものであったためである。しかし、肉体を有さない神がまったくいなかったわけではない。

 

 なかには神を強引に物質的に受肉させ、言語によって意思疎通し、まわりくどい儀式、つまり事象編集の過程すら短縮しようという教団もいた。しかし単純にプラチナアルシーヴで神を直接創造することは叶わない。前述したように、神の肉体とはいかなる物質および構造をしているのかという問題に直面するからである。仮に原子レベルで神を定義しプラチナアルシーヴを作製しようとも、その厳密に定義された神の肉体は、果たして伝承に伝わるそれと同一の神性、奇跡を帯びるのであろうかという至極もっともな疑問を導出する。

 

 この障壁は、神の出生自体を事象編集する、出生再現で解決が図られた。実際にこの世界に、その神が生まれ落ちた事象をつくることで、プラチナアルシーヴに構成元素を記載せずに神の肉体を再現しようとしたのである。

 

 事象編集の強みとは、定量定質的に物質を生成するだけではなく、人類全体の観測を基底として事象そのものを発生させ、現実の方を観測内容に従わせられることであり、出生再現は事象編集を最大限に活用した手法であると言える。この目論見は成功し、出生に関するエピソードを持つ神の受肉は一応の成功を見せた(当然、始原神は不可能であったが)。

 

 ところが出生再現には欠点もあり、受肉した神は普遍性を纏ってしまい、文化という非物質存在から肉体を有する物質存在に落とされた個体として、人類の知のなかにある神とは区別されて認識され、本来の伝承よりも大幅に権能を低下させてしまっていた。

 

 出生再現の普及当初、事象編集で招聘した肉体なき現象のみの神は聖神、出生再現で受肉した肉体ありし神は俗神と呼び分けられていたが、俗神はのちに出現する伝承物(ロア)と混同されるようになり、聖神という呼称自体も姿を消した。神とはそもそも聖なるものであるという各教団の意向が尊重されたのであろう。

 

 しかし時代が下り、聖佛教系の教団によって化身、すなわち俗神の有用性、汎用性が示されるようになると、各教団はこぞって一部の俗神を復活または採用しはじめた。

 

 天上の戦いが苛烈になるにつれ、教団内の権力争い、内訌が表面化したためである。宗主は教団内の知の統制、情報操作の強化を迫られたが、過度な抑制は教団の戦力の低下を招く。

 

 一方、俗神はプラチナアルシーヴで規定された習性や教団に対しては忠実であるため、宗主にとってはお誂え向きの手駒となりえた。やがて俗神はロアとは再び切り離され、化身と名を改めて各宗で重宝されるようになった。

 

 さて、ここで言及しておかねばならないのが化身の肉体であろう。

 

 俗なるとはいえ、神であるものの肉体が、実際のところどのような物質で構成されていたのか――それを解明することはこの手法の考案そのものを否定するであろう禁忌であるため(神を殺すために生み出すようなものであるため)、公な研究記録は残っていないが、断片的な資料から、エアが大きな役割を果たしていたのではないかという仮説が立てられる。

 

 エアとは、遺伝子の表現限界ステラのフラクタル構造が組み込まれた構造液体・ステラのエーテルを用いて精製したミスリルの微粒子であり、人類のサイマトとの相互干渉を成し遂げる物質である。しかし事象編集に携わったエアは、模倣子の表現限界たる海宙の転写体という側面もあるため、情報の性質をも持ち合わせている。これはそもそも人類の螺旋子の表現限界が大気であったことと密接に関わっている。

 

 すなわち物質=生命と、情報=文化を止揚し、混合させるミスリル微粒子・エアこそ、「神」の「肉体」という概念を構成するためにもっとも適した素材であると言えるであろう。

 

 つまり、化身の肉体を実際に分析してみれば確かにいかにももっともらしい既知の有機物や無機物が検出されると予測されるが、それは分析される寸前まではエアでしかなく、分析された瞬間にエアがDIUTを逆流し、必要に応じてあとづけで肉体の組成・構造を決定するのである。一見因果論と直感に反するが、この奇妙な現象はDIUTによって保証されており、因果論もまたDIUTの一部でしかないことを忘れてはならない。

 

 伝承をもとにした再現ではあったものの、実質的に人類は神をも産みだしてみせた。出生再現は当然のことながら人類の神話全体への冒涜だとして手酷い批判と糾弾の的となった。しかしながら、さらなる悪徳に手を染めた人類もいた。

 

 古今東西の神話には、神以外とも交わり、子孫を残した神がいることはご存じであろう。そう、一部の人類は、化身と交わりその力を取り込みはじめたのである。

 

 しかし、神と子を成すにはいくつか無視できない難点があった。神とは伝承に則った自然な形式でのみ交配可能(=人工授精が不可能)であり、しかも受胎確率は極めて低かった。産まれた子は必ずしも神の力を受け継ぐとも限らず、仮に受け継いだとしても、当然ながら出力は著しく低下するし、最悪、畸形となった。次の代に移り、神の血が薄まればことさら力を落とさざるをえなかった(これは近親婚でかなり抑制できたが)。さらにヒトとの遺伝子の乖離は甚大であり、人類の魂からはかけ離れ、オーガニズムレベル以前に、ヘブンズドア遺伝子もノックオンされなかった。

 

 そしてもっとも重大な障害が、神を血を引く肉体は人々からの信仰を摂取せねばならないことであった。ヒトの遺伝子が神の遺伝子を構造重力で収束させてしまうために、染色体の半分が機能不全に陥るのである。つまり、少し前に述べた知識の隠匿と同じように、ヒト側の肉体が神側の肉体を観測しきってしまわないよう、信仰で奇跡や神秘を覆い隠し続けねばならなかった。その存在基盤はもはや、化身よりもなお不安定な状態であった。

 

 これは、マザーが創り出した神という存在は結局のところ、人類の魂が歩んできたプロセスのひとつを強引に受肉させた偶像に過ぎないために、神自身は生命も文化も独立させられないためであると考えられる(※5)。

 

 神とヒトの子――眷属となった一族は、常に民衆からの信仰を吸い上げ続けなければ生命維持すら危ぶまれていたが、聖典と事象編集権を手放し、神々の戦いから身を引いて被害を最小に抑えた点では賢明な判断であると言える。眷属は地上に移り住んで細々と生活するか、空に残ってたとしても戦闘空域から逃げるように暮らしていた。もっとも、眷属の奇跡で養える民衆の数はそう多くはなく、眷属の道を選べる者はごく少数であった。

 

 前節から以上までが、天空で凄惨な戦いを果てしなく繰り広げ続けた第六界の人類――天上民の歩みであった。

 

 一方で、補助脳を剥奪された地上民や、戦争に敗れた堕天民、眷属たちの一部も、地上で独自の社会を築き上げていた。次節では地上に焦点を当てて、この章の締めくくりに移る。

 

 

 

 ※5 ここで、ある素朴な議題が浮き上がってくる。化身あるいは眷属に魂はあるのか、という、その根源からして人類の魂であるものたちからすれば、ある意味回帰的な命題である。脳構造を測定し、暴いたとしても、その観測結果は化身生来の本質とは到底言えず、魂を解析したことにはならない。それはヒトでも同様であった。肉体にエアを持つ以上、おそらく人類の魂の要素を包蔵しているはずであり、実例として後述するロアや眷属は、明らかに自由意思を持ち、思想を語り、人類と同様の文化をも形成していた。しかし、ロアや眷属が独自の文化を形成することはなかったし、DIUTの基本原則からしてもそれはありえない。DIUTの基本原則とは、遺伝子、模倣子、および螺旋子はそれぞれ同じ種でなければ成立しないということ――つまり眷属にしろロアにしろ、人類の螺旋子を元にしている以上、なにものであれ、あくまで魂は人類の領域内部に留まったままということである。

 

 

 

 †

 

 

 

 4-9.信仰収穫

 

 神の御業を行使する教団はみな、聖典局をスフィアに構えていた。マザーに接続して事象編集するには、量子ミスリル脳・聖典の仲介が求められるが、量子ミスリル脳はプラチナアルシーヴにも登録されておらず(乱造によるオーバーフロー回避のため)、製造技術は普遍話法協会しか保有していなかったため、聖典の防衛こそが最優先事項であり、裏返せば、敵教団の聖典の破壊あるいは奪取が神々の戦いにおける勝利条件であったからである。聖典を地上に設置してしまえば、移動できず極めて不利な状況に陥ってしまうため、神々の戦いの舞台はもっぱら上空となった。

 

 聖典を砕かれ、スフィアを沈められながらも、少数の人々は生き延びて、自らを堕天民と称して地上で暮らしていた。堕天民は、後述する地上民のように天上の後ろ盾こそなかったが、地上民とは異なり補助脳を発現させていた。聖典がないため信仰強度を著しく低下させていたものの、集団による儀式など強い信仰活動を行えば、事象編集は可能であった。

 

 事象編集を実行する上でマザーへアクセスしなければならない理由とは、人類の魂の観測内容書き換えに最適な振動解の導出、そしてエアへの振動解の適用のふたつである。そして、聖典の役割とは、信仰の安定化、プラチナアルシーヴの翻訳、月の砂の突破である。

 

 神の時代が訪れ、螺旋子のなかに事象編集自体が足跡を残すのに十分に足る時間が経過すると、事象編集を起こすだけならば実はマザーによる解の導出も聖典の翻訳もほとんど不要になっていた。信仰によって奇跡を呼び起こす行為そのものが文化、そして生命のなかに根付き、蓄積し、大気中の人類の魂にも保存されるようになっていたからである。

 

 エアに振動解を与えるプロセスも、厳密な作法に則った儀式であれば再現可能であった。もちろん聖典を介さない分、情報量と精確さが激減する上に(暗誦が推奨されないのはそのため)月の砂の影響で強度は極めて弱い。絶えず変動する事象編集権のわずかな余剰分を掠め取っているにすぎないため、安定もしない。また、目立つ奇跡は天上民の排除対象にもなる。事象編集はエアに特有の振動パターンを伴うため、規模の大きな事象はそれだけで探知および解析されるリスクが常にあった。

 

 ゆえに、堕天民たちは隠者のごとく人目を避け、秘境に移り住み、小さな奇跡を守りながら質素な生活を余儀なくされていた。そして信仰を保存できなくなったり、エピゲノム制御薬が払底した堕天民は、自分たちの文化を捨て、地上民や眷属に紛れ込むようにして他教に下っていくしかなかった。

 

 一方で、教団が健在でありながらも、地上の生活を強要された民衆がいた。それが事象編集権捻出のための評価主義によって聖別され、ヘブンズドア遺伝子をノックオフされた地上民であった。

 

 地上民は補助脳を発現させていないため、聖典どころかエアにさえ干渉できず、狭域普遍話法もできなかった。教団からの多少の恵み(気候調整や資源再生)を享受しながら、土地を拓いて生産活動を再開し、代わりに信仰心を捧げ、文化の維持を担っていた。地上民は教団より産めよ増やせよを厳命されていたため、爆発的に数を増やし、第六界の中期においては地球人口の大半を占めていた。

 

 さて、最後に紹介するのは、伝承物(ロア)――地上で生を営む人工生命である。

 

 各教団は、一貫して終末論における審判後という世界観を構築していたが、悪に象徴される存在は滅んだのではなく、地上に押し返されたという解釈を採用していた。善が存続するには悪が必要であり、でなければ善の一部が悪となってしまうためである。また、他宗教を敵に仕立て上げる恰好の教義にもできた。

 

 その正当性を補強するためにも各教団は、それぞれの神話で語られる悪魔や、異形、化生、魔物、妖怪……、といった空想のまつろわぬものどもを事象編集で出生再現し、ロアと名付けて、地上にばら撒いていたのである。

 

 ロアはすべてが有害とは限らないが、おおよそ人類に対して敵意を植え付けられており、地上民を襲う生態を本能に刻み付けられていた。ロアは繁殖機能をも備え、いつかの蚕に成り代わって地上を跋扈していた。

 

 ロアが地上民を脅かし、そのロアを天上民が討伐し英雄の伝説が再現されることで、地上民が教団への信仰を増幅させる――その構図は、知の規制による信仰文化の衰退と儀式の形骸化を回避するために、天上民が信仰を収穫せんと初めから意図されていたマッチポンプであったが、社会に定着した頃には教育やコミュニティの制限など、天上の管理体制が万全に整っており、地上民がその真相を知る由はなかった。

 

 

 

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 /5.おわりに

 5-1.インターステラー

 

 各教団は分裂と融合を繰り返し、文化の多様性は混沌たる有様であったが、知が抑圧され神話の保存だけに注力されていたために、地上からも天上からも新たな文明は生まれず、人類の進歩は完全に停滞、どころか後退していた。

 

 やがて戦う意味をも忘却した人類は互いに滅ぼしあい、文化は熱的死に近づきはじめ、信仰を保てなくなった。いつしか戦火は世界軸・バベルにも飛び火し、普遍話法協会も消滅した。この頃には科学技術は過去の遺物となっていたために、バベルの再建は不可能な状態であった。

 

 神々の戦いは緩やかに終局へ向かっていった。スフィアはすべて墜落、地上も壊滅した。人類は滅亡した――少なくとも、著者がこの廃墟となったバベルから、海宙にダイブして観測した限りでは。

 

 そして人類は、ついぞ気づくことはなかった。あらゆる特異点、仮象過去、マザー……、ここに至るまでのすべての出来事が、地球(ガイア)の思惑通りであったとは。

 

 端的に述べよう。人類がマザーを獲得したのは、地球の意思だったのである。

 

 地球は常に、人類の思想を左右し続けている。生命も文化も地球の環境なくしてはありえない。今のような形式の神話や、もしくは物理法則の発見などは自然あってのものである。人類は地球によって、遺伝子と模倣子、ひいては螺旋子を成長させられていたのである。たとえば、洪水伝説に結び付けられた温暖化に警鐘を鳴らす文化も地球の思惑のひとつである。

 

 生物が細菌を利用しているように、地球は人類を利用していた。人類は地球によって、マザーを見つけるために生み出されたのである。人類がマザーを獲得したのではない、マザーを獲得したのは、地球であった。

 

 こう言い換えてもいい――もともとマザーを発生するための機序としての人類があった、と。マザーという器官を発達させる遺伝子をノックインするための地球の模倣子的過程が、人類であったのだ。

 

 正史で最終的に人類が異次元の彼らを打ち滅ぼせたのはなぜだろうか? 無限の模倣子たる海宙のなかに住まい、神を具現化し、人類を蹂躙していたはずの彼らはなぜ敗北を喫したのか?

 

 それは、地球上の人類の次元においては遺伝子と模倣子、すなわち螺旋子の対称性が保存されていたからである。遺伝子の真正な表現限界たるステラ(並列量子準結晶脳は言うなればステラの模造品であった)は確かに地球上の人類が設計した生体演算機構であったが、建設されたのはあくまで仮象過去であり、遺伝子を持たぬ彼らからすれば事象の地平線の向こう側に位置するために、到達できなかったのである。情報の自由度を確保するために肉体を捨てた彼らの方策が、仇となった(ただし仮象過去における彼らは、侵略の一部を成功させていた。theedウィルスや、生体演算装置ステラのグレイ・グー化なども該当するが、ステラに関しては彼らにとって自業自得と評せざるを得ない)。

 

 仮にステラが正史側にあれば、逆に彼らがステラを征服し、無限の遺伝子源による多元観測でさらなる情報宇宙を積層させていったであろう。その分岐のひとつがアデッド後の世界であり、仮象の彼らは仮象地球の惑星軌道変更を成功させてみせた。仮象地球の行先はわからないが、重要なのは少なくとも太陽から離れつつあるということである。

 

 仮象の彼らは人類よりも、そして地球よりも一手先んじていた。陽臓ステラへの到達により人類の螺旋子からの乖離を果たした新人類の彼らが、次第に観測できなくなったことがなによりの証左である。

 

 正史で人類が最終的に彼らに勝利しえたのは、すべて地球の粋な計らいだったと言えるし、彼らが海宙において模倣子と対称なる好電性プランクトンたる肉体を軽視し、発展させなかったためであろう。彼らはそもそも種として魂が収斂されていたために統一意識を先天性としており、プランクトン体の進化に意味はないと断じ、DIUTを完成させることができなかったのである。地球は重力を持つが、均質で一様な海宙には重力がなかったことも(あるいは意図的にそう配置されていたのか)、人類の勝利の一助になったことであろう。

 

 著者がこう論じる確たる証拠は、他にもある。記録によれば、神々の戦いにおいて破壊された当時、このバベル内には人類など存在していなかった。教団が創建されはじめた時期からすでに、運営・管理はすべて人工知能に委ねられ、その人工知能はマザーに接続された地球環境からフィードバックを受けてエアを調整していた。つまり普遍話法協会は地球に乗っ取られており、闘争の引き金となった量子ミスリル脳も意図的に地球によって配布されていたということである。

 

 第六界に決定的な終焉をもたらした要因のひとつである、全世界的に同時に広まった文化の熱的死は、信仰に影響するある毒物――万物毒・キャスパールによるものではないかという説もある。キャスパールは、あらゆる神話の毒を融合させた最悪の思想汚染兵器であり、一説ではその発信源はエアの特異な振動であったとも語られている。仮に事実であれば、地球上のエアに同時にアクセスできるバベルしか、キャスパールを撒き散らす芸当は不可能である。

 

 普遍話法協会は、表向きは完全中立な立場として特徴のない普遍性の神格を掲げていたが、実際の思想主義は自然科学であった。バベルこそ、神の敵たる自然科学主義者(NSi)の隠れ蓑であったのである。自然科学は人類が産み出したものではあるが、そもそも人類を産み出したのは地球である。自然科学とは畢竟するに地球の細胞のようなものなのである。

 

 著者は、バベルからこのレポートを記している。人類不在の人類文明の極地、アステカ神話で言うところの第七の世界――第七界が、著者のいる位相の正史であるが、もちろん別の位相ではまた違った歴史をたどっているはずである。それは観測するたびにその様相を変貌させるであろう。ここもまた、螺旋子の交差点のひとつにすぎない。

 

 このレポートの存在もまた、地球の意思に違いない。これを記述することによって、人類最後の観測結果をDIUTに収束させ、人類のいた痕跡を安定させようとでもいうのだろう。人類も星のスケールでは決定論、と言うより宿命論的に振舞うしかない。

 

 しかしここで明言しておきたいのは、星が生物個々を操作していたりだとか、特定の生物のために奇跡的な自然現象を起こしたとか、そういった意図的な直接的介入はなかったであろうということだ。前述したとおり、星と生物の関係は、生物と細菌あるいはミトコンドリア、アミノ酸などとの関係に比定される。生物は生存活動をするために腸内細菌を意識し、代謝をしろと指令を下すだろうか? 否である。星にとって、生物とその文化はその程度のものでしかない。意識するまでもなく、星の細胞のひとつとして従属する存在なのである。

 

 今、地球は目的を果たし、公転軌道を外れ、太陽への旅路に就いた。遺伝子によって海宙から掬い上げ、蓄積した分化済みの模倣子を推進源として、恒星規模の配偶子の融合を夢見て。人類が練り上げてきた螺旋子は地球自身の経験、記憶であり、すなわち星の螺旋子になっていた。いわば人類の歩んできた歴史とは、熱量の精製にすぎず、逆に言えばそこまでせねば地球は自らの巨体に身じろぎひとつさせることすら叶わなかったわけだが、地球の経過時間を考えればちょっとした仕事にすぎない。

 

 著者の観測次元においてはもはや後成説は破られ、誰に知られるでもなく前成説が明徴された。しかし、その集大成である新たな(あるいは宇宙にとっては旧知の、であろうか?)宇宙生命のシステムが完成するにはまだいささか時間を(ほんの何世紀かの時間を)要する。誠に口惜しくも著者はヒトであり、その寿命はあまりに短く、拝見することは叶わない。

 

 大前提として、人類がこの先を観測することはDIUT上不可能である。人類は文化を消費し尽くした。アデッド世界を解明し、彼らの領域を占拠した時点で、海宙は人類の位相に揃ってしまったのであった。地球の真意も、彼らが見出した活路の先に何が待ち受けているのかも、そして彼らを創り出したのは一体何者であったのか、DIUT自身によってメタ示唆されるDIUTそのものの抑制均衡も、すでに人類には知り得ようがない。

 

 人類と彼らは明確な対称性を示しながら、その相互関係が相同か相似かすらも曖昧模糊としたまま、真相は特異点に飲み込まれた。これを人類最大のミステイクと言わざるしてなんと言おうか。人類がもし、彼らそのものの探求に乗り出していれば、あるいは――。

 

 今のバベルの主たる住人である、フェアリィたちもまた、おそらく絶滅しているに違いない。著者の仮説通りシシあるいは仮象の新人類の対称性が、フェアリィたちであるならば、であるが。

 

 本稿の焦点は、人類が終焉に至るまでに当てられている。ゆえに地球の歴史としては、まだ三分の一にすぎない。パンスペルミア理論、すなわち第一界から第五界までの工程と、宇宙生命システム、すなわちこの第七界以降の結末である。

 

 いつか新人類たるフェアリィたちが、人類の文字を学びとり、地球の本性を暴きだし、残りの地球史を記し、次なる地球の細胞に受け継いでくれることを期待して、このレポートを締めくくる。

 

 

 

 第六界人類(シックス)学者 シン・イオンブルー

 

 

 

 

 




だいたいキャットファイトの方で言ってたことを言いなおしただけでしたが、これ単品で全体像の4割ぐらいは見えてるはず……。

昔のやつはもう打ち切りなんで言及も(ほぼ)なしです。
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