/ぴるぐりっ! ~はちはち異界巡礼譚~ 日本語版
/摧一切善阿密哩多 胎蔵界編
/第二夜 釣召天星
/第二錠
大浴場で軽く汗を洗い流したりんごさん、赤髪を後ろでひとつに結い、バスタオルを胸の上から巻いただけの恰好で、指定されていた狭い和室の敷布団の上にて女の子座り。どきどきわくわく胸を高鳴らせています。
(わー、ついにヤっちゃうんだ……、まひるさんと――)
りんごさんもフタナ島の民ですから、納札二枚で特別按摩が受けられることは以前から聞き及んでいました。そして、それがどんな内容であるのかも。りんごさんはかねてからずっと、死ぬまでに一回ぐらいは特別按摩を受けてみたいと思っていたのでした。
(んっふふ……! あたしのテクで、あのまひるさんがよがりまくるとことか、見てるだけでたぶんイケそー……)
じっとり汗ばんでくるのを感じつつ、今か今かとその時を待ち受けます。襖の外から声がかかったのは、そんなときのこと。
「お客さま、まひるです。失礼してもよろしいでしょうか」
「はーい」
ぴしっと背筋を伸ばすりんごさん。入ってきたまひるさんは、受付にいた端末のふかもさっとした狩衣とは打って変わって、ふわさらっとした襦袢姿、それも肌が透けて見えるような代物です。
(っ! やっば……、えっちだ……すき……)
音として聞こえそうなほど鼓動がばっくんばっくん早打ち、血圧の上昇を訴えています。まひるさんはしずしずとりんごさんの目睫にやってくると、畳の上で正座し、にっこり微笑みました。
「りんごちゃん、って呼んでいいかしら?」
「ん、うん」
襦袢越しにうかがえる豊麗な体躯を凝視しつつ、はすのさんのようなしどろもどろな返事をします。
「ふふっ、ありがとう」
「~~っ!」
紅い眼を眇めて見つめられ、りんごさんはぞくぞく鳥肌が立つのを実感しました。
まひるさんには二種類の型があります。事務作業一般をこなす金剛型と、特別按摩や薬湯を管理する胎蔵型です。今りんごさんと相対しているのは胎蔵型で、利用者の緊張をほぐすために、金剛型と比べていくらか気安いのでした。
「お急ぎのひと用に、普通の按摩は省略できるけど、どうしようか? 逆に、特別按摩を省く頃もできるけど」
「あ、そーなんだ」
(ふつーの按摩も気になるけど――、はすの待たせちゃってるしなー)
「じゃ、ふつーのはなしで」
「はい、承りました。近くに寄ってもいい?」
りんごさんが首肯すると、まひるさんは隣に座る――かと思いきや、ずいずいずずいっと迫ってきて、なかばしなだれかかるようにして熱い身体を押しつけ、唇を寄せてきました。
「――!?」
しっとり吸いつくように柔らかく、ぐにゅっととろけるように温かく、あまりにも温柔なその感触は、ともすれば自分の皮膚が溶解しているのではないかと錯覚を起こすほど、優しく、淫靡で。
肉体のただ一部分だけが触れあっているに過ぎないのに、他の総身すべての存在を、りんごさんの意識の外へ追い出してしまっていたのでした。唇にではなく――、あたかも魂の芯に、くちづけされたかのように。
そしてその奥からおもむろに、ねっとりと、強引さは一切なく、熱い舌が滑りこんできて、りんごさんの口内を柔らかく満たしました。
にゅろにゅろと口内でうごめく熱を持ったそれは、しかし異物感なく粘膜に馴染むようにまさぐってきて、理性をとろかしていきます。
「ん……っ、ふ……ん、……んぁ……」
(なに――っ、この……、なにこの……キス……、キスってこんな……すごかった……っけ――)
ぐつぐつに煮込まれた醍醐さながらに思考をとろとろにされ、りんごさんは布団に押し倒されたことにも気づけません。もたれかかってきた身体の肉質が、あまりにも抵抗なく包み込んでくるような柔らかさを体現していたのも、原因のひとつでしょう。
五分――三〇分――いえ、一日やもしれません。時間感覚を失うほど、長い長い、至福のくち吸いだけで、りんごさんの肌はすっかり汗ばみ、ほんのり朱に染まっていました。
(――、――、――、……♥)
頭のなかが完全に真っ白になって、鼻で息をするのも忘れたころに、ようやくまひるさんはりんごさんを解放しました。
「ぷは……、はー……♥ はー……♥」
いつのまにやら布団に組み敷かれ、濡れたあの紅いまなこでじっとりと妖艶に見下ろされ――。
(う、そ……、うそ……♥ これ……♥ あたし……♥)
「はー……っ♥ はーっ♥ はー……っ♥」
(一発で……♥ スイッチ……♥ 入れられた――っ♥)
ぞくぞくきゅんきゅん、お腹の奥が切なくよじれているのを実感します。じゅわぁねばぁ、と腰の芯の方から、熱い液体が溢れてくるのを体感します。
(だめ……♥ これ……♥ からだが、本気で……めちゃくちゃに、されたがってる……♥)
「タオル、脱がすね? ……あら?」
まひるさんがそっと胸のタオルに手をかけ、ちょっと怪訝そうな顔に。
「一緒にいた子に、怒られない?」
「え……? あ、あー……」
まひるさんが見つめていた箇所になにがあるかを知り、りんごさんは質問の意図を察します。今この瞬間まですっかり失念していましたが、りんごさんの白い肌には、昨日のお昼、にけさんにつけられたキスマークがぽつぽつと花咲いていたのでした。
さしものりんごさんもいささか恥ずかしくなって、くちごもってしまいます。
「これは……、あの子は、妹だから、そんなんじゃないってゆーか……」
しかしまひるさんはなぶるように、真紅の瞳を細めました。
「ふぅん……でもどちらにせよ、最近だれかと仲良くしたばっかりなのに、ここに来ちゃったんだ……♥」
「~~っ!」
(あぁ――、もう――、今――)
しっとりした指が、額に触れ。
「そんなえっちなことばかり考えちゃう悪い子は――どんなにえっちなことしても、いいってことよね……?」
耳を掠め。
「えっちなことで、脳みそをどろどろに溶かして、壊して、真っ白にして――」
頬の輪郭をなぞり。
「躾けなおされても――文句は言えないよね……?」
顎を持ち上げ。
「躾けなおしても、いいよね……?♥」
顔を寄せ、ささめいて。
(今――、そんなこと、言われたら……♥ こころ……♥ ぐずぐずになるじゃん……♥)
「……♥♥ は、い……♥ ……ん♥」
当初の思惑はどこへ行ったのやら――重ねられた唇は、りんごさんの理性を完全に溶かし尽くしてしまったのでした。
「ふ……♥ はむ……♥ んん……♥ はぷ……♥」
食み、すすり、あやして、くすぐり、やさしく、ほぐして、舐め溶かすような、唾液を混ぜ合わせて、粘膜同士がくっついて離れなくなりそうな、だけどどこか貪るような、甘ったるいくちづけを施されつつ。
「んむ……♥ ふぅん……♥ ふーっ♥ はふ……♥」
襦袢を脱いだふわもちすべ肌に密着されながら、ふかふかもふもふの狐尾にくすぐられ、際限なく温かくなる法悦に、りんごさんは朦朧としてしまっていました。
(これ……♥ だめ……♥ 抱き合って……♥ きすしてる、だけなのに……♥ 脳みそ……♥ 煮えちゃいそ……♥)
りんごさんの発育の良い乳房に、それ以上によく実った乳房が覆いかぶされ、揺り動かされ、乳房同士が潰れて擦れて谷間に挟まりあって絡みあってもつれ合って、ぐにゃぐにゃこねこね淫猥に歪み、その柔軟さを示しています。
「ふー♥ ふぅー♥ ん♥ ん♥」
(ぜんしん……♥ ぽかぽか……♥ しびれっぱなし……♥)
身躯の隅々までを使った按摩は、性感帯の神経のみならず、皮膚や脂肪や肉や血まで交歓の熱を浸透させ、緩めて、悦びに打ち震えさせるのです。
そこはもう知性のかけらもなく、ただひたすらに快楽という熾火で炙られるだけの境地。
まひるさんはもちろん承知の上で、その脂肪をたっぷり含んだ太ももをりんごさんのすらりとした健康的なそれにいや絡ませ、りんごさんの望むがままに、尖りきった肉芽をぐりぐり押しつぶして転がし、むせび悦ぶほどの痺れを与えてやるのでした。
「ふー♥♥ むぅー♥♥ ん♥ ん♥ ん♥」
(――♥ ――♥♥ ――♥♥♥)
茹ったりんごさんの脳内はもうぐちゃぐちゃ、もはや自分が何者であるかすらも忘却し、授けられる享楽に溺れるのみです。それもそのはず、枚挙にいとまがないほど女の子と交わった経験のあるりんごさんでさえ、現時点で、かつて到達した最高の絶頂の何倍もの多幸感でもみくちゃにされているのですから。
しかしりんごさんがどれほど意識を断絶させ、潮と本気汁を垂れ流しにいようとも、まひるさんにとってはまだまだ序の口。
まひるさんはべとべとになった上体を起こすと、ようやく食べ頃になったとでも言いたげに赤い唇を舐めました。
「そろそろ、溶けきったころかしら……♥」
「はー……っ♥ はー……っ♥ はー……っ♥」
まひるさんの言葉がりんごさんの耳に届いた気配はなく、ディープブルーの虹彩には生気がありません。が――。
「ひゃぅうんっ♥」
りんごさんはかわいらしくとろけた声で、ひくひく仰け反りました。まひるさんが、そおっとりんごさんの陰唇に中指を這わせたのでした。
まひるさんは努めてそのまま丁寧に、緩慢に、中指をそのぬかるみにうずめていきました。
「んーっ♥ んんんっ♥ んんーっ♥」
ほぐれきった膣肉を掻き分けられ、指一本にも関わらず、ずいぶんな感じぶりです。
中指を半分ほど挿し込んだところで、まひるさんはりんごさんのなかをくちゅくちゅと円を描いて、ときほぐすように掻きまわしました。
「あっ♥ あっ♥ あっ♥」
すでにねばつく熱い蜜をしとどに滴らせていたそこは、まひるさんが掻きまわすごとにあとからあとから更なる粘液を溢れさせていきます。まひるさんの指はあっという間に真っ白にコーティングされていきました。
「はぁああぁっ♥ はっ♥ はっ♥ はっ♥ はーっ♥ はへっ♥」
先ほどまでの直に性感帯に接触しない、まどろむようなじゃれつきとは異なり、明確な形を持った刺激に、りんごさんの意識が半覚醒します。
(えっ!? あれっ!? あ♥ あ♥ あ♥ きもちいいっ♥ あっ♥ なにこれっ♥ あっ♥ あたし♥ なにしてたんだっけっ♥)
「んーっ♥ んああぁあっ♥ あっ♥ なんでっ♥ こんなっ♥ きもちいいのぉっ♥ んぅぅうぅうっ♥ えっ♥ あ♥ いくっ?♥ いってるっ!?♥♥」
いつものように入口でイキそうかも、という感覚を、かすかに嗅ぎとった矢先、それは刹那の間に迫りより、気づいたときにはもう過ぎ去っていて、その瞬間を身構えるよりも先に、りんごさんの身体は勝手に絶頂してしまっていたのでした。そしてじーんと全身に伝わった痺れが減衰するよりも早く、今度は膣のなかの方でイク感覚が。
「えぁっ!?♥ うそ、これ、もうイキそ――♥ ――っ♥♥ ――った♥ イッた……!?♥♥」
脳の処理が追いつかぬままに立て続けに二度連続で頂に押し上げられ、困惑しつつも、しっかり愉悦を享受させられるりんごさん。
「なに、これ――♥♥ こんなの♥ しらないっ♥ しらないっ♥ なんで♥ こんなに♥ からだがっ♥ 勝手にっ、イッ、んんん――♥♥♥」
まひるさんは指を動かし続けたまま、しっとりした声音で耳打ちしました。
「言ったでしょ♥ 躾け直すって♥ ただちょっと気持ちよくなっただけでは、逆効果――だから、りんごちゃんが絶対に行ったところのない気持ちいいところまで連れて行って、もう
そして人差し指も責め手に加えると、りんごさんの陰部をねちっこく二本の指で交互にほじくり返しはじめました。決して激しくなく、神経細胞のひとつひとつをほぐして、単なる生殖器官ではなく、より淫戯に適した交合器官へ開発するような、指遣い。
「んんん――っ♥♥ それっ♥♥ だめっ♥♥ イッく♥ イッた♥ イキそ♥ イッてるっ♥ イクイク♥♥」
まさにアクメの乱れ打ちに、りんごさんは腰を浮かしたり落としたり、大忙しです。
「なんでこんなっ♥ いっぱいイクっ♥ いくっ♥ ――っ♥♥♥」
「ふふっ、弱火でことこと煮込むように、全身万遍なくゆっくり性感を育てていったからよ。身体のあちこちの神経が溶けて、混線して、性感に直結してから、すべて独立させて、それを絶頂寸前のところで保存しているの。身体がイキそうな状態が普通なんだって誤解しちゃってるから、次々イケちゃうのよ。だから、こうやって――」
言いさして、かちかちに充血した乳首に顔を寄せます。長い舌でにゅるんと絡め取られ、乳首が柔らかくひしゃげるや――。
「んっひぃぃぃいぃっ!♥♥」
目を白黒させ、乳首で絶頂しまくるりんごさん。
「膣とは別に、乳首だけでも個別にイケるの。しかも乳首でイッたからといっても、神経だけは独立してるから、よそでイッてるのを阻害しないのよ。わたしのおすすめは、ここ――れろっ♥」
膣でイカされ続けつつ、乳首イキの残響にひくつくりんごさんが次にねぶられたのは、耳。
「んひゃぁあああぁあんんっ♥♥♥」
「ふふっ♥ 耳は脳に近い分、よく響くでしょ?♥ じゃありんごちゃん、そろそろ――、一回壊れちゃおうね♥」
「……っ♥ ……っ♥ ……っ♥ ひゃ――っ、こわ――っ、ま――」
「だーめ♥」
右の人差し指で入口を、中指で膣奥を、ついでに掌で陰核を押圧、左手で脇腹と乳房の境目をくすぐり、耳は甘噛み――同時に五か所で別々に別種の絶頂を極めさせられ、りんごさんの視界は明滅します。
「――っ♥♥♥ ――っ♥♥♥ ――っ♥♥♥」
五体の制御も効かず、全身で痙攣し、甘すぎる沼に沈められます。
(も……だめ……こんなの……これ以上……覚えたら――ほんとに――忘れられなく、なる……♥♥♥)
天手でまひるさんをよがらせまくると息巻いていたりんごさん、情けないことにすっかり卓越した性技に虜にさせられてしまいました。りんごさんが今まで興じていたのは、所詮女の子同士の他愛ないじゃれあいにすぎなかったんですね。
ですので、その後――。
「んひゃぁあぁぅっ♥♥ ひふっ♥ ひっひゃふぅぅうっ♥♥ とへひゃっ♥♥ んっぅぅううんっ♥♥♥」
下顎がとけてなくなったのではないかと思うほど舌裏をなぶりまわされながら、背筋に沿って這わせられた指で脊髄をぐにゃぐにゃにされ。
「はっ、あ!?♥ ん!?♥ ん!?♥ ん!?♥ でひゃっ♥♥ しょれっ♥ もれひゃぅぅうっ♥♥♥」
爪で掌をかるく引っかかれるだけでがくがくと面白いように腰砕けになったところで、腰をそっと撫でられ、熱い体液を迸らせ。
「んおっほぉぉおっ♥ な゛に゛それぇえええっ♥ どうなってるのっ♥♥ あたしっ♥ どうなってるのぉおおおっ♥♥♥」
お腹の上から絶妙な力加減で内臓をつつかれ、揺さぶられ、初めての内臓連鎖強制絶頂を脳に刷り込まれ。
「ああぁぁああぁあっ♥♥♥ もおおぉおぉぉおっ♥♥ お゛がじぐな゛る゛っ♥ お゛がじぐな゛る゛っ♥ お゛がじぐな゛る゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛っ♥」
とどめとばかりに尻尾の先でお臍周りをこしょこしょ、同時に外側からは左手で巧みに卵巣と子宮を圧迫されつつ、内側からは右手で膣奥を揺さぶられて、本来りんごさんが得手としていたはずの子宮攻めさえ逆に仕込まれてしまい。
「……っ♥♥♥ ……っ♥♥♥ ……っ♥♥♥」
一時間も経たないうちに、息も絶え絶え、意識もとぎれとぎれに、涙や涎や汗や愛液やその他もろもろの体液が垂れ流しになるのを止めるすべもなく、ただただあちこちを痙攣させるだけで、ぐったりとしてしまっていたのでした。
りんごさんの感度とその受容度合はどんな薬物を用いようと到達できない地点にまで登りつめており、ある部位のアクメの余韻が波及して別の部位がイキ、その余波でイキ収まったところが再燃、全身イキまみれという状況です。膣内や腹腔は延々と余韻が反響していて、ぽかぽかしあわせになりっぱなしなのでした。
(……っ♥♥♥ ……っ♥♥♥ ……っ♥♥♥)
度重なるエクスタシーに翻弄され、りんごさんのこころは完全に無防備に。
その瞬間こそを待ち望んでいたまひるさんは、慈母の微笑みを浮かべました。
「うふふっ、たくさんイッて、たくさん壊れて、偉いわね♥ 頑張った子には――、
「んふ……♥ ふわ……♥」
顔にふくよかな乳房を押し当てられ、濃密な甘い芳芬がりんごさんの肺を膨らませます。あまりの甘ったるさと根源的な愛おしさに目が眩みつつも、りんごさんは反射的に乳頭を口に含み、ちゅうちゅう吸いついていました。
己が乳を吸うりんごさんを、まひるさんは娘を見守るような眼差しで見つめつつ。
「躾け直しきるまで、ずーっとおまんこあやしててあげるから、好きなだけおっぱい飲んでね……♥」
りんごさんに乳を与えつつ、左手で頭を撫で、右手では相変わらずあそこを弄ぶのでした。
(も……、らめ……♥♥♥)
それによってもたらされる絶頂は、これまでの温和ながらも厖大な快楽量でひたすら高みに引き上げられるものではなく、硬直させずにとにかく脱力させ続ける陶酔のエクスタシー。
母の胎内にも似た幸せの大海に堕とし、陥れ、捉えて逃さぬ、魔性の悦び。
確実に着実にこころを、価値観を、はつり、けずり、えぐり、食い込んで潜り込んで内側から書き換えるたぐいのもので、これを再び味わうためなら、あらゆる財と労を擲ってもいいと、そう思い込ませるのです。
(おかーさんに……あまえてる、みたい――こんな思い出、ないのに……)
たゆたう意識のなか――だれもが回帰するは、幼少期における母への想い。空から落ちてくる前の記憶がないりんごさんもそれは例に漏れず、義母たるうてなさんへの想いを当てはめ、夢想するのでした。
(……ちがう――、あたし……あこがれてたんだ……、おかーさんに……こんな風に――、……愛されてたら、って――)
鼻の奥がつんとして、それまで流していたものとは異なる、熱い熱い涙が溢れてくるのを感じます。
(なんで……おかーさんのお葬式のときでさえ――、泣かなかったのに……、泣くもんかって、我慢してたのに――)
そして、そんなりんごさんを、甘い深淵から引き揚げたのは、ずどん、と天帝院を揺るがす巨大な地響きでした。