※この作品はR-18です。

ぴるぐりっ! ~はちはち異界巡礼譚~   作:伊土 讃阿

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本編に関連するちょっとした用語集的なやつです。

えっちなのはないです。

というか本編でもある程度言及するのでこれも読まなくても問題ないです……。


頓:まおてんてーのフタナ講座

 

 

 

/まおてんてーのフタナ講座

 

 

 

 え? なんですか、このコーナー?

 

 フタナの社会的背景を知ってもらうための解説コーナー? 企画書にありましたっけ? こういうのは太三郎さんの方が適任なような……。

 

 と言うか、アムリタのユーザーってフタナの子たちだけですよね? これ、いる? 

 

 メイのリクエスト? うーん、ならまぁ、一応やりますけど……。アマタさん、なんか妙なこと企んでないです?

 

 

 

<伊予之二名島>

 フタナ島の正式名称です。世界で唯一の海上スフィアであり、今から一二〇〇年前の天帝歴一四年に、金剛大師と瑠璃光大師の二名によって拓かれた島です。帰依するは大日宗、聖典は般若波羅密大螺旋二重伝承統一理教論、本尊は大日如来、宗主は金剛大師(別称:お大師さま、天帝)。

 島の面積としては、自然島と比較すると古オーストラリア大陸のおよそ半分でしょう。

 核たる自然島はありますが、主に天上からの廃棄物や超密生体鋼盤を集積形成していて、高度に人工生命化しています。というのも、島全域に張り巡らされた菩提樹の根を神経回路として、帝網と呼んでいる一種のネットワークを搭載しているからです。この帝網によって、すべての天帝院およびおじどうさんは相互に接続されており、金剛大師がおられるというフタナ島中央の金剛山の管理下にあります。

 フタナ島では全土的に独自の巡礼文化を持ち、天上・地上問わずあちこちから修行や物乞い目的で人が集まってきています。天帝歴一二一四年現在では、巡礼そのものも信仰と化しています。

 文化には全体としてはかなり寛容で、おフタナさんの存在もあり多数の文化の混淆、醸造、発達が見受けられます。さらに、大日宗が唱える輪廻転生思想は悪業の遍在性をも認めているため(どんな聖人でも前世で悪人だった可能性もありますので)、堕天民および化身、亜人も多数受け入れています。

 天上民としてはまさに恰好の粛清対象とも言えよう状況でありながら信仰力としては低出力かつ海上なため、ほかに注力すべき相手は空にごまんといますので、他のスフィアからは見向きもされていません(ただし天帝歴六八九年に起きた摩吒羅の乱のように、新宗教の開基は許容されませんでした)。また、天帝歴一五六年の白峯相模の変以来、形式上は租界を置くことで他の大陸と不可侵条約を結んでいます。

 フタナ島には天帝院より認定された八八個の界があり、それぞれ八八種類のガイアおよび各界教によって独自の気候・政治・文化・産業を保有しています。

 界外は四季があり、温暖ですが、冬は寒いので野宿をするには辛いです。

 フタナ島の土地はすべて天帝院のものですが、界内の土地は天帝院から界主に正式に貸し出されているため、界主が領有権を持ちます。

 また、すでに敷設されているフタナ道の邪魔にさえならなければ、かつ著しくガイアや景観を損ねたりしない限り、勝手に田畑を開墾したり家屋を建てたりすることは黙認されています。

 ただしフタナ道から遠いということはそれだけ開拓しづらかったということですから、フタナ道に沿った村や里、州以外で人間が集団生活している地域はほとんどありません。

 ガイアの恵みがありますし、そもそも界と州は天帝院の保護下にあるため、土地や資源を目的とした侵略行為はフタナ島では起こり得ません。

 島外との交易は、各租界でのみ行われ、交易品の租界外への持ち出しは(原則として)禁止されています。ですので、基本的にはフタナ島全体で自給自足を図っています。

 通貨はアルシーヴで、全界共通。天帝院が発行しています。どの界でも、おにぎり一個で一〇〇アルシーヴぐらいの感覚です。他大陸の地上民におけるいわゆるお金とは本質的な意味合いが異なり、魂の価値を保管するもので、魂本位制に基づいていますが、表面上は同様と考えても差し支えありません。

 総人口はおよそ五〇〇万人。ただし巡礼中のおフタナさんおよびフタナ道から離れた秘境に住まう化身、亜人、眷属の数は含まれていません。

 様々な文化圏が共存していますので公用語は規定されていませんが、フタナ語と呼ばれる天帝院の用いる言語が共通語になっています。

 

 

 

<ガイア>

 正式名称はGaia-Air Integration Accordance environmental system。 ヒトの文化・信仰と、ヒトの技術であるエアをも含む、あらゆる生命の営みが影響して循環する自然の摂理そのものを指します。

 ガイアは各界に必ずひとつ存在し、その界教の信仰と、生産活動の助けになっています。そして信仰や生産活動もまた、ガイアを循環させる糧となっています。ガイアがある限り生態系自死――エコサイドの回避が保証されるので、人口増加による飢饉に悩まされることはありません。

 ガイアの稼働には、各界の天帝院に設置された護摩壇が欠かせません。護摩壇の火爐におフタナさんの御朱印帳から具現される納札や、御朱印を集めきった御朱印帳をくべることで、エアを巻き上げ、自然に還しているからです(護摩壇にはフィルターがついているので大気汚染の心配はありません)。

 一度稼働すればその界の信仰だけで循環させることもできますが、ひとたび信仰が下がればガイアも不安定になってしまい、たいていそのままガイアは消滅します。

 原則としてガイアは界にしか存在しませんが、界資格が剥奪され州に落とされた地域でも、信仰の強さあるいはガイアそのものの循環強度を主要因として、ガイアが残留していることがあります。

 また、たいへん希少ですが、疑似的な火爐によって界資格を得たことがなくとも自力でガイアを起動した事例もあります。

 

 

 

<界>

 フタナ島特有の、自治・宗教・環境単位です。

 その界の宗教は界教、宗主は界主、主な信仰対象となる神(あるいは化身、亜人、眷属)は界神、民は界民と呼ばれています。

 各界は必ず単独の界教を持ち、その界主(界神が眷属であれば兼任する場合もあります)たる堕天民・眷属のいずれかによって治められています。ガイアにより界外とはかけはなれた固有の自然環境を備え持っていますが、天帝歴一七年のマツヤマ大飢饉の失態もあり、ガイアは界の外にだけは決して影響を及ぼさないよう、界主に義務付けられています。

 また、前述した白峯相模の変を契機として、教育・政治・軍事・文化検閲などは界主に委ねられています。天帝院は各界民の暮らしには無関心ですので、上下水道や社会保障など、生活基盤の発達具合は界によって著しく異なります。界主が努力して信仰を集める部分でもあるためです。

 が、界全体をもって巡礼文化を最大限支援することが、界の至上命題です。もし巡礼に非協力的な行政方針を執ろうものならば、たちまち天帝院は界資格を剥奪し、札所から外されてしまいます。これを州落ちといいます。

 州落ちすれば経済力的にも信仰力的にも急激な衰退は必至となります。なかには界時代に培った信仰基盤で百年以上ガイアを維持している州もありますが、少数です。

 当然ですが、他界への侵略や、ガイアの破壊はもっとも重い罪です。過去に二度、他界に害なす邪教の界が謀反を企てましたが、金剛大師御自らの手によって一晩で灰燼に帰したと伝えられています。

 

 

 

<州>

 天帝院に正式に認可されている、フタナ島にある町の単位です。施設としての天帝院も護摩壇も置かれていませんが、州主には天帝院から土地の領有権が与えられ、自治を任されています。そのため州への攻撃も大罪となります。

 界ほど厳しくはありませんが、天帝院からの土地の保証を引き換えとしてやはりおフタナさんが巡礼しやすいよう手助けして、おもてなししなくてはなりません。

 基本的に護摩壇はありませんが、独自の手段で特殊な環境や資源を保有している州が多く見受けられます。界から落ちた州には天帝院が使っていた護摩壇がそのまま残されており、それを州主が流用している事例も多々あります。

 一般的には界のガイアには及びませんが、なかには界を凌ぐほど生産性の高いガイア、そして信仰を集めている州もあります。

 当然、界と同様、固有環境は州境内に収めることを義務付けられています。

 

 

 

<メトロ>

 自然科学主義者、NSiたちによって治められる、天帝院非公認の町です。NSiはマザーを利用するあらゆる人類から疎まれていますから、なにかと寛容なフタナ島には島の開拓初期からメトロの存在が確認されています。とくに天上民に発見されないよう、基本的には地下都市です。

 メトロには文化を抑制する決まりもありませんので、その風俗はかなり混沌としています。メトロによって政治形態も異なっており、なかにはほとんど無法地帯のメトロもあります。

 亜人や眷属にとって安全な町とは言いがたいですが、やむにやまれぬ事情から、メトロに流れ着く亜人や眷属も少なからずいるようです。

 

 

 

<巡礼>

 フタナ島内にある八八ヶ所の界を順繰りに巡る、フタナ島の文化です。全長五〇〇〇キロメートル、歩いて一年から一年半ほどかかります。開始地点はとくに定められていませんので最寄りの界から巡り始めることができます。

 巡礼者のことはおフタナさんと呼び、おフタナさんになるには天帝院で登録してもらい、身体のどこかに(右手が一般的です)御朱印帳を埋め込む必要があります。おフタナさんは天上民・地上民・眷属・亜人でもなることができますが、御朱印帳の機能の制約上、炭素生物に限定されています。

 御朱印帳にはフタナ語を標準とした翻訳機能があります。御朱印帳を埋め込むと、フタナ語を用いて意思疎通できるようになり、他の言語もすべてフタナ語として認識できるようになります。フタナ島には多数の文化圏が混淆しているため、どんなおフタナさんでも巡礼しやすくするための機能です。ただしあくまで意思疎通が可能になるだけであって、知らない文字が読めるようになるわけではありません。

 おフタナさんは界同士を結ぶフタナ道を通って、各界に置かれている天帝院を参拝し、その天帝院の御朱印を集めることを目的としています。八八ヶ所すべての界をまわりきると、フタナ島中央の金剛山への道が開かれます。これを結願といいます。

 金剛山では甘露の雨が降っており、その雨を飲むと御朱印帳が排出されます。すべての御朱印を集めた御朱印帳を各界の護摩壇にくべれば、その界のガイアは著しく活性化されます。

 御朱印帳の買い取り行為は天帝院が認めていませんが、界によっては御朱印帳を界主に収めると、その界での家や生活を一定期間保証してくれる制度があります。

 巡礼は時間制限があると同時に、一定時間は各界に滞在しなければなりません。巡礼文化への信仰がそれぞれの界に行き渡るようにするためと、フタナ道および天帝院の混雑回避のためです。おフタナさんの立場を利用して必要以上にお接待を受けようとする一闡提(ふとどきもの)を摘まみだすためでもあります。

 各界の規模はまちまちですし、界間も等間隔ではないため、界面積と界間距離に従って時間は定められています。この時間制限を破った場合、問答無用で御朱印帳は無効となります。再登録は一度まで可能ですが、巡礼箇所は一からやり直しです。

 御朱印帳は時計曼荼羅と呼ばれる時間とともに変化する意匠が施してあり、これが時限の目安になります。雷禍の影響などで回避不可能な遅延が生じた場合は、おじどうさんやまひるさんが時計曼荼羅を書き足して時間を延長してくれます。

 巡礼することを打つと言い、打つ順番は特に定められていませんが、時計まわりを順打ち、反時計回りを逆打ちと言います。どちらでも構いませんし、時間制限はそれに応じて変更してもらえます。しかし、金剛大師が最初にまわったとされる方向が順打ちですので、みんなそれに倣ってだいたい順打ちです。フタナ道は一本道であり、引き返すことになるので、順不同に巡礼する乱れ打ちをするひとはいません。

 また、おフタナさんは九善戒の遵守を強いられ、たちの悪いおフタナさんは御朱印帳の永久剥奪、最悪の場合、島外擯出となります。その際の再登録は認めていません。

 九善戒とは、以下に挙げる九つの戒律です。

・不偸盗

・不邪淫

・不妄語

・不綺語

・不悪口

・不両舌

・不慳貪

・不瞋恚

・不邪見

 

 

 

<天帝院>

 フタナ島を統括的に管理し、巡礼文化を運営している組織です。しかし一般的には、各界に置かれた天帝院の施設(すべて同一外観・構造の聖佛教寺院風建造物です)そのものを指すことが多いです。

 実質的なフタナ島を運営している団体ですが、活動原理は巡礼文化の支援・維持・発展それのみであり、各界に対して巡礼に関すること以外はほぼ不干渉です。一方で、アルシーヴを管理発行している関係で、すべての島民の預金機関としての働きを持っています。

 施設として特筆すべき点は、護摩壇があること、薬湯があることです。

 護摩壇とは、天帝院の中央吹き抜けの地面を掘り下げて設えられた巨大な火爐です。おフタナさんが納めたお札や御朱印帳のみを燃料としています。この火の強さはガイアの循環強度に相関していて、その界の信仰の強さの目安になっていると言っても過言ではありません。護摩壇は、天帝院の薬湯を沸かす役割も担っています。

 薬湯とは、金剛山にのみ降る甘露を地下水道で引き、護摩壇で沸かした温泉です。あらゆる傷病と疲労を癒す効果があり、危険が多いおフタナさんの巡礼には絶対不可欠です。フタナ島ではおフタナさんという多数の巡礼者がいるため、病気の蔓延を防ぐためにも天帝院は機能しています。

 薬湯に入るには、湯銭として指定の納札を要求されますが、おフタナさんである必要はありません。したがって地元界民も納札をおフタナさんに譲ってもらっていれば、利用可能です。

 全天帝院共通で、薬湯に入るだけならば納札一枚ですが、特別按摩を受けたい場合は納札が二枚必要になります。

 宿坊といって、おフタナさん専用の宿泊部屋もあります。薬湯を利用したおフタナさんは無料で利用できます。しかし大部屋で、利用者もたくさんいます。後述する同行さんには好まれません。

 そのため、天帝院周辺はおフタナさん向けの宿で賑わっています。また、天帝院としてもおフタナさんの支援事業は非常に助かりますので、天帝院近辺の屋台や宿には無料で護摩壇の火を配給しています。宿坊に泊まれば夕朝二食ついてきますが、かなり質素なので、たいてい外食するか自炊します。

 上記のような関係で、天帝院周辺は屋台が、そしてそこからもう少し離れたところではおフタナさん向けの雑貨や服飾や按摩屋が目立ちます。

 また、天帝院では仕事の仲介も行っています。地元の界民がおフタナさんに依頼したい仕事があれば、天帝院に斡旋してもらうことができます。

 もっとも多い依頼は飛脚、つまり手紙や荷物の配達です。おフタナさんという絶えず移動している存在を運営している立場上、フタナ島で天帝院ほど流通を担うに適した組織はないからです。

 荷解きは天帝院しかできないようになっている箱に収めて運ばれますので、盗まれる心配はありません。紛失すれば仕事を受けられなくなり、最悪御朱印剥奪もありうるので、おフタナさんの仕事ぶりはみんなかなりよいです。

 また、おフタナさんはたいてい自己防衛のための戦闘力を持つので、害獣や悪い魔物の討伐など、界民もかなり頼りにしています。が、やはりと言いますか、あくまでよそ者ですので牧人や粉ひき、パン焼き、精米など信用第一の依頼はありません。さらに、おフタナさんの周回数によって、受けられる仕事とそうでない仕事もあります。

 天帝院から界民向けに商売をすることはありませんが、界民がつくったおフタナさん向けの物品を買い取る仕組みがあります。とある界では、その地のガイアによる特殊な物性の素材を用いた装備品の生産を、天帝院から委託されています。

 おフタナさんの巡礼は後述する納札の性格から、複数人での旅を推奨しています。三人以上の組を同行さんや、御同行と呼びます。天帝院では同行人の紹介も行っていますが、日ごろの行いのよくないおフタナさんはお断りしています。

 界内で罪を犯した場合、裁判権はその界主にありますが、天帝院の施設内や、フタナ道上では天帝院が裁判権を持ちます。天帝院施設内ではとくに九善戒の遵守が求められ、無縁所(アジール)としても機能しているため、破れば厳罰が与えられます。

 処罰の内容は巡礼文化への奉仕活動が主で、重い罰ですとほかの模範的なおフタナさんの監理の下、強制巡礼させる事例もあります。

 

 

 

<納札>

 おフタナさんが身体に埋め込んだ御朱印帳から生成できる、小さな黒いお札です。各界の天帝院で御朱印を押してもらうことで、一枚だけ生み出すことができます。

 天帝院に一枚納めることであらゆる傷病を癒す薬湯を利用することができます。二枚納めれば、特別按摩を受けることができます。

 納札は御朱印を押してもらった界と、その次の界までしか使うことができません。ですのでおフタナさんは溜めこんだりせずに自分で使ってしまうか、お接待のお礼に界民に譲るのが慣習となっています。

 アルシーヴで売買することは固く禁じられていますが、だいたい一泊につき納札一枚ぐらいがフタナ島での共通認識です。ですので、おひとりさんですと民宿では納札で一泊しかできませんが、三人の同行さんで民宿の相部屋をひとつ借りれば三泊できる計算になります。これが同行さんが推奨される理由です。

 納札には、そのおフタナさんの名前、宗教、集めた御朱印の数が記載されています。どのおフタナさんのどの納札でも天帝院としては同等の扱いをしていますが、周った界が多いとより強い信仰力になると信じられ、界民の間では希少価値があります。

 ある意味、納札自体が物質化された信仰であり、システム化されたことで札そのものも信仰対象になっていると言えるでしょう。

 原材料は、おフタナさんの体内の炭素です。

 

 

 

<フタナ道>

 界と界を結ぶ、おフタナさんのための道です。敷設、維持管理は天帝院が行っています。

 おフタナさんでなくとも通行したり、フタナ道上にお店を出すことはできますが、大原則としておフタナさんの巡礼の妨げになってはいけません。おフタナさんは時間制限があるからです。

 ほぼ一キロメートルごとにおじどうさんが立っています。フタナ道の整備・修復作業はおじどうさんが自動で行ってくれます。

 道路を故意に破壊すれば、おじどうさんからのきつーい処罰が待っています。

 州落ちなどでフタナ道から外れることもあり、その場合は天帝院の管轄外になります。フタナ道から外れると、おじどうさんも機能停止します。

 

 

 

<おじどうさん>

 フタナ道にほぼ一キロメートルごとに立っている、ずんぐりした狐の金像です。

 筆と巻物を持っていて、常に何かをしたためるような動作をしていますが、巻物には何も書かれていませんし、筆は早すぎて普通は読み取れません。

 おフタナさんの道しるべであると同時にフタナ道を監視しており、九善戒が破られていないか見張っています。おじどうさんの前で悪さをすると、たちどころに消し炭にされてしまうとまことしやかに噂されています。

 そのため、巡礼の途中で疲れ果ててお昼寝したり、どうしても野宿をしなければならないとき、おじどうさんの前で休むのがよいとされています。

 また、すべての稼働しているおじどうさんは帝網で接続されていて、あるおじどうさんから別のおじどうさんへと言伝できる伝話という機能もあります。おじどうさんにひとつひとつに振られている番号があるので、それを指定することで接続できます。

 

 

 

<まひるさん>

 天帝院のあらゆる実務・庶務を担当している写文です。フタナ島全体で胎蔵型四一四体、金剛型一四六一体、計一八七五体います。すべてのまひるさんは帝網を通してひとつの意識と記憶を共有しているそうです。

 どのまひるさんもまったくおなじ容姿をしています。金毛の狐耳と尻尾を持ち、肉感的な肢体に、紅い瞳が蠱惑的な、すばらしいべっぴんさんです。金剛大師のお姿を写しているのではないか、というのが昔からの通説です。

 界によってまひるさんの服装は異なります。おおむね、その界の文化に適した衣装を身に着けています。界への固有文化に配慮する意図――はまったくなく、単純に、どこにいっても同じですとおフタナさんもまひるさんもお互い飽きてしまうからです。

 天帝院で薬湯に入る際に納札を二枚納めると、胎蔵型のまひるさんから特別按摩を受けられます。美容にもよく、女性のおフタナさんに大人気です。

 男性は一度でも按摩を試すと、口をそろえて「次の日がしんどすぎて旅ができない」と言って、たいてい巡礼を終える日まで受けることはないそうです。

 

 

 

<マツヤマ大飢饉>

 フタナ島に界という単位が設定されるきっかけとなった出来事です。フタナ島が拓かれて間もない天帝歴三二年、スラブ神話系フィンランド神話(カレワラ)サキュバスという、金剛大師が開発したフタナ島固有の亜人が成長・増殖し、周囲の信仰と栄養を吸いつくし、近隣のマツヤマという土地を不毛の大地に変えてしまいました。

 カレワラサキュバスは星天臼(サンポ)と呼ばれる特殊な子宮を持っています。この臓器のおかげでカレワラサキュバスの肉体は不老不死を誇っていますが、それは感情をちからに変換しているためで、結果的にほかのあらゆる宗教を融合・侵食してしまう副作用も抱えていたのです。

 飢饉の原因が発覚するや、金剛大師はカレワラサキュバスを金剛山の地下に封印。責任を取ってマツヤマ復興に全力を尽くそうとしたところ、支援物資を巡って当時マツヤマに住み着いていた堕天民内でお家騒動が勃発し大混乱に。

 すべての元凶は金剛大師にあり、とマツヤマの守護神であった亜人・隠神刑部が天帝院に牙を剥きましたが、金剛大師はこれを返り討ちにしました。マツヤマは数十年を要したもののなんとか持ち直し、ドーゴと名前を変え、摩吒羅の乱で解体されるまで亜人の州として繁栄しました。

 しかし隠神とその眷属は天帝院との関わり合いを避け、フタナ島のあちこちに散らばったと言われています。

 

 

 

<白峯相模の変>

 天帝歴一五六年に起きた事件です。当時、全界は天帝院の管理下におかれていましたが、とある聖佛教信仰の界神だった化身の大天狗・白峯相模が突如として謀反を起こし、ギリシャ・北欧・スラヴ・インド・アステカ・エジプト・マオリ神話系神道信仰の界神だった化身・ヤマタノオロチを血書五部の呪詛によって狂わせました。

 ヤマタノオロチは疑似的な事象編集を可能とする強力な易占の御業を保有しています。二神による呪詛の易占は近くの神道ズルワーン派のスフィアを直撃、内乱を引き起こしました。

 神道ズルワーン派の内乱は、神器の争奪戦に発展。神器のひとつアメノムラクモを持つ一派がフタナ島に亡命しましたが、白峯相模とヤマタノオロチは待ってましたと言わんばかりにこれを襲撃し、アメノムラクモを強奪、フタナのイシダテ山に隠してしまいました。おかげでフタナ島と天上民の関係は急速に緊張し、一時は一触即発状態に。

 金剛大師と瑠璃光大師はヤマタノオロチの頭をひとつ切り落として調伏、白峯相模を封印しましたが、アメノムラクモは結局発見されず、戦いで負った怪我が元で瑠璃光大師は入定。

 瑠璃光大師を喪ったことで、神道ズルワーン派も矛を収めましたが、フタナ島に天上民が自治権を持つ居留地を置くことを強く要求。天帝院側も友好的な相互理解のとっかかりとしてこれを受諾し、かくしてフタナ島に二〇の租界が置かれることになりました。

 租界は当初、神道ズルワーン派が単独領有していましたが、紆余曲折な政治的取引を経て天帝歴一二一四年現在では各租界はすべて異なるスフィアに治められています。

 また、この事件を機に界の連帯責任を回避するため、天帝院は各界の自治を界主に一任し、界運営から距離を置きました。

 なお、この事件以降、アメノムラクモが埋められているというイシダテ山はツルギ山と呼ばれています。

 

 

 

<摩吒羅の乱>

 天帝歴六八九年のことです。亜人と眷属のみで営まれていた州・ドーゴは、マツヤマ大飢饉後に花街としてフタナ島でもっとも繁華を極めた反面、隠神一族が去ったのちも祀る神がおらず、亜人と眷属に対する差別や偏見もあり治安悪化の懸念がありました。

 そこで州主・摩尼珠院 冥子が、祇園精舎すなわち花街守護の権能を持つ牛頭天王を秘密裏に勧請しようとしたところ、聖典もなかったためか、誤って摩吒羅神との習合神を炳現、制御不能に陥りました。

 摩吒羅神は暴走し、これを新宗教の開基だと判断した天上民はドーゴの粛清に乗り出しかけましたが、金剛大師自らが先手を打って摩吒羅神を調伏し、ドーゴを解体させました。

 大した被害も出ず天上民との関係も悪化するほどではありませんでしたが、以後、亜人にも比較的寛容だったはずのフタナ島でも締め付け、および迫害は強まることとなりました。

 この乱の後、金剛大師は金剛山を守護していた化身の一体である帝釈天をフタナ全体に巡廻させて護法させるようになりました。

 

 

 

<帝釈の転(帝釈転)>

 天帝歴一二〇四年に発生した一連の騒動です。

 事故の詳細は一〇年経過した今でも不明ですが、とある租界の空港で船が爆発した直後、護衛にあたっていたはずの帝釈天が乱心し、フタナ島全土を揺るがすほどの大雷を落としたのではないか、というのが天帝院の見解です。

 というのも、この落雷によって全天帝院およびおじどうさんは三日に渡って機能停止していたほどで、実際になにが起こったのか誰も把握できていないからです。

 フタナ島上空で神体同士の戦闘があったという目撃情報もあるそうですが、噂の域を出ません。

 また、巷ではこの轟雷で金剛大師が入定したのではないかとも囁かれています。実際に、かねてから天帝院転覆を企てていたとある亜人の一族が蜂起しましたが、これは聖業教ズルワーン派の天上民・シトロエンによって即座に抑えこまれ、ヤシマの守護神である亜人・太三郎狸の仲裁もあり、大事には至りませんでした。シトロエンは天上民にしてフタナ島の大英雄として、その英雄譚は若者を中心に今も親しまれています。

 この帝釈の転にもたらされたもっとも厄介な問題は、今なお継続してフタナ島全域を脅かしている雷禍の存在です。

 

 

 

<雷禍>

 帝釈の転を契機に、フタナ島各地で生じるようになった雷禍は、天帝院を置く界に襲来しては雷雨によって破壊の限りを尽くしていく異常気象です。雷禍の行動は不規則で強度も差が見られますが、一般に信仰が強い界ほど雷禍を呼びやすく、その規模も大きくなると言われています。

 乱心した帝釈天が転化したものと推測されており、雷禍の強度によっては雷雲が帝釈天の姿を示現することがあります。その場合、ガイアが再生不可能なまでに破壊し尽くされる強力な災害となりますが、一方で神体を伴うためにむしろ撃退が可能で、おフタナさんや界主の団結によって、幸い今のところ死者は出ていません。

 雷禍は一種の災害型のガイアと言われており、ゆえに雷禍を恐れるフタナ島民の畏怖がより雷禍を増大させていると考えられています。

 雷禍に見舞われたのち信仰やガイアの回復が遅れると、界神が垂迹され、帝釈天が従える四天王と化する事例もあります。

 平時であれば納札がなければ薬湯に入ることはできませんが、雷禍を被った界では、一週間だけ地元の界民に解放される決まりになっています。その間、天帝院は利用できませんのでおフタナさんの滞在期限は延長され、復興活動に従事することを推奨されます。

 

 

 

<フタナ杉>

 直径七、八センチぐらいの太さで、長さは三〇センチほどのフタナ固有の寄生植物です。葉も枝もなく、肌色の樹皮は意外とつるつるしていて、片方の先端にでっぱりのある豚の腸詰という形容が一番伝わりやすいかもしれません。

 フタナ杉は枝と実と種が一体化していて、動物に根を張り、別の個体と交尾させ、卵子を横取りすることで繁殖する特異な生態を持っています。フタナ杉に寄生されると、フタナ杉の感覚が宿主に伝達されてしまう症状が起きますが、とくに害はありませんし、何度か放精させてやれば跡形もなく抜け落ちますので、女の子同士でのえっちなどで重宝され、今やフタナ島の名物となっています。

 

 

 

<通貨>

 アルシーヴ、あるいは略してシーヴ、渋、四分などと呼ばれる白金の宝珠です。天帝院が発行しています。

 魂本位制を取っており、アルシーヴには持ち主の魂が保管されていると言われています。

 アルシーヴを稼ぐ行為は、たくさんの人から魂を集めることです。ですので、その重さを自覚しなければなりません。

 また、アルシーヴでやりとりするものは命に関わるものですので、大切に扱わなければなりません。

 アルシーヴを使うことは、すなわち肉体を生かすために魂を消費するということです。アルシーヴがある=富があるということは、それだけ肉体的死を迎えにくいということですが、死んだ際にアルシーブを持ちすぎていると、その重みで天上に行くことができないと言われています。

 そのため、アルシーヴは必要な分だけ持つのがよいとされています。

 ちなみに新しいアルシーブには水を浄化する作用があり、おフタナさんのみならず水不足に悩まされる地域では重宝されています。汚れを吸着したアルシーヴは、天帝院の護摩壇で火浣されることで清められます。

 

 

 

<お接待>

 おフタナさん以外の人が、おフタナさんをおもてなしする風習です。

 巡礼するおフタナさんは天帝院の使いであり、金剛大師の分身とも見做されているので、丁重に扱うことで、自分の代わりに巡礼してもらって自分もその御利益にあずかれる、という共通認識があります。

 が、実際にはそのほとんどが納札目当てです。というのもフタナ島では確実な治療を施せる医学・医術は大変珍しいので、民間医療でどうしようもない大怪我を負ってしまったり病気にかかってしまったりしたときは、界民も天帝院の薬湯に頼らざるを得ないからです。とくに眷属にとって医術は逆に肉体の崩壊を招きかねません。

 ですので界民はできる限りおフタナさんをお接待して納札を溜めこんで、もしものために備えておかねばなりません。納札はアルシーヴではないので、溜めこんでも後ろめたく思う必要はありません。

 納札の事情を除いても、おフタナさんには流通と信仰を維持する役割を果たしてもらわなければならないですし、そも各界主にとっておフタナさんはいわゆるお客さんである以上、界主から庇護を受けている界民がそれに従うのは道理です。

 おフタナさんはいろんな冒険譚を持っていますので、娯楽の少ない界などでは話をせがまれるなど、結構人気があります。ただしその界の文化を逸脱しない程度で、という条件付きですが。

 

 

 

<おフタナさんの服装>

 巡礼は信仰活動ですが、九善戒の遵守以外に定められた礼儀作法はとくにありません。おフタナさんはそれぞれ各自が本来信奉する宗教があり、そちらの教義を歪めてしまうわけにはいかないからです。

 服装も基本的には自由です。しかし巡礼の旅には危険が満ちていて、特殊な加護を必要とする状況も多々あり、特定の信仰を持っていないおフタナさんにとっては過酷な道行きとなります。

 最初に述べたとおり、界外は四季があり温暖ですが、冬は寒いので野宿をするには辛いです(フタナ道は内陸でもなく土は凍りきりませんから、不可能ではありませんが)。かと言って時間制限がある以上、天候ごときで足止めを食っていられないので、耐寒装備はとくに必須です。

 そのため、天帝院では各界のガイアが産する特殊な素材の装備品も取り扱っています。加持された祭具ではありませんので、使用者本人の信仰に依らないというメリットがあります。路銀が工面できないおフタナさん用に、古着の貸し出しも行っています。

 とりわけ人気があるのは、防御力を向上させる白衣、毒や病気にかかりにくくなる輪袈裟、日避け雨避け風避け効果がある笠、道に迷ったときに最寄りのおじどうさんの方向を教えてくれる金剛杖などです。

 また、教義によって肌を見せることができないひとには、温泉でも使える貫頭衣は必需品です。

 

 

 

 

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