※この作品はR-18です。

ぴるぐりっ! ~はちはち異界巡礼譚~   作:伊土 讃阿

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第二錠 ♥

 

 

 

/ぴるぐりっ! ~はちはち異界巡礼譚~ 日本語版

/摧一切善阿密哩多 胎蔵界編

/第二六夜 泡沫仮譚

/第二錠

 

 

 

 さてさて、りんごさんとエルシンシアさんが完全にふたりの世界に没入していた頃、もう一組の方はと言えば。

 

「ご主人さま、お茶が入りましたっ」

 

 香ばしいほうじ茶の香りとともに、しずしずと客室に入ってきたのは、小さなメイドさん――サンセットさんでした。

 

 サンセットさんの背丈はエルシンシアさんと大差ないようですが、彼女よりかはずっと幼い面立ちです。深みのある琥珀のくりくりした眼が無邪気さを振りまいていて、なめらかで甘ったるそうな褐色の肌と、ほんのり赤みがかった白銀のショートヘアが純真無垢で活発そうな印象を与えています。

 

 エルシンシアさんほどの美少女ではありませんが、丸顔で、十分にかわいい部類であり、頭部に白毛の猫耳、腰の付け根には同じ毛色の尻尾を具有していることが可憐さをいや増させています。

 

 エプロンドレス姿であることもあり、一見してあどけなさに拍車をかけるようですが、しかしその仕草ひとつひとつはとても落ち着きがあり、あか抜けていて、熟練のメイドさんだということがすぐに察せられます。

 

「ん……。ありがとう、サン」

「すみません、こういうところには、もっと華やかな香りのお茶の方が合ってるんでしょうけど、あいにく切らしてまして」

「ん……、いい」

 

 サンセットさんから湯呑を受け取ったのは、縁側で夜風を浴びながら、漆黒の瞳を月夜の海辺に向けていた射鶴木(いつるぎ) はすのさんです。

 

 座っていてもわかるほどの長身はすらっとしていて、地味な藍染めの着流しと、針金みたいにぱりっとまっすぐ伸ばした黒髪との相乗効果で、やたら鋭利な刃物じみた空気を滲ませており、実際とんでもなく長い直刀――フツノミタマを手元に置いているため、正直近づきがたいことこの上ないのですが、サンセットさんはこれっぽっちも意に介さず、忠犬がごとく傍に腰を下ろしました。

 

「海、ずっと荒れたままですね」

「ずず……、うん」

「いつもだったら、月明りで珊瑚礁も浜辺も真っ青になって、とってもとってもきれいなんだそうですよっ」

「ずずず……、そうなんだ」

「フタナの五大夜景にも数えられているそうなんです。ただ、界によってどこを五大に数えるかは、違うそうなんですけど」

「ふぅん……ずずずず」

 

 こころなしか声を弾ませ、浮き浮き語るサンセットさんに対し、興味があるのか以前に話を聞いているのかも怪しい調子で、お茶をすするはすのさん。

 

 はすのさんは決して不美人ではないはずですが、右の泣き黒子以外は極めて地味な容姿ですし、なのに控えめに言っても無口で無表情で無愛想なせいで、第一印象はまったくよくありません。稲荷神の眷属のしるしでもある漆黒の狐耳と尻尾も、神格の発現というより獣っぽい側面を強めてしまっています。

 

 ただし、そうしてたそがれているとどことなく画になるというか、侵犯しがたい神々しさに取り巻かれているのは、さすが神の血を引くだけはあるといったところでしょうか。

 

 サンセットさんが、にこにこと誇らしげに言いました。

 

「ご主人さまの風車、たくさんまわってますね」

「わたしは……、ちょっと手伝っただけ。りんご姉も、一緒につくったし」

 

 遠くに望める岬では、今日ようやく完成した簡素な風車が、マントラをびっしり書き込まれた羽で、規則正しく風を切っていました。

 

 本来アシバリの転経器は潮汐力でまわすものですが、こんなおおしけのなか、転経器の再建は不可能です。とはいえ一刻も早く信仰を回復せねば、ガイアの循環も元に戻りませんし、最悪の場合、雷禍の信仰汚染によってアシバリの界神たるサン・ヒャン・ウィディが垂迹されかねません。

 

 アシバリでは波風のガイアによって、固有の潮流が沿岸と沖の生態系を絶妙に切り分け、継続的な湧昇を引き起こしていて、とくに海水温差が生み出す環境サイクルが温暖な気候と豊富な水産資源を局所的に維持していました。そして消費した魚の骨を使った軽い素材でよくまわる転経器をつくることで(あくまで動力源ではないので過剰文明には該当しません)、信仰が固有の潮流を活性化させ、自然と文化の融合したサイクルを成立させているのでした。

 

 そこで、一時的な措置として陸にもマントラ風車を建てて信仰を補強することになり、風を読むのに長け、人間離れした身体能力を持つはすのさんが、珍しく荒事以外で大活躍した、という経緯があったのでした。

 

「でも、みなさんおっしゃってましたよ、ご主人さまのおかげだ、って」

「……ん」

 

(ほんとうに、たいしたこと、ないんだけど――)

 

 狐耳をひくつかせ、わずかに俯いたはすのさんを見て、サンセットさんは満足げに微笑みました。

 

 内気すぎるはすのさんは自分の意思や感情をまったく表に出さないので(そもそも常から熟考したりするたちではないのですが)、今のところエルシンシアさんとの仲が良好とは言いがたい状況ですが、サンセットさんはやたらとはすのさんに懐いていました。

 

 同じ眷属としての連帯感も多少なりとありましょうが、なにより拾われた恩義があるのでしょう。そして、それ以上に――。

 

「ご主人さま、慣れない大工仕事で、お疲れじゃないですか? 久しぶりに、サンのマッサージなんてどうでしょう?」

「ん……」

 

 かすかに耳が熱くなるのを感じるはすのさん。そわそわと尻尾も落ち着きなく揺れています。

 

(考えちゃ、だめ……、考えちゃ――)

 

 マッサージ――その言葉で必然的に浮かんでくる煩悩を必死に打ち消そうと頑張るはすのさんですが、ずいずい詰め寄ってくるサンセットさんからふんわり漂う甘いバニラの香りが、それを許しません。

 

「明日も、お手伝いをお願いされてるんですよね。なら、今日の疲れはしっかり癒しておかないとっ」

「ぅ……ぅん……、でも、サンも、エルシンシアと朝からずっと、炊き出しとか、お手伝いしてたし……」

 

 サンセットさんはぐっと握り拳をつくって、琥珀の瞳を爛々と輝かせました。

 

「ご心配には及びません、サンはまだまだ元気ですよっ。お料理よりも、味付けに納得がいかなくてなかなか豚汁を配給しようとしないエルシィさんと、お腹を空かせてるのに二時間も待たされたアシバリのみなさんとの間をとりなす方が大変でしたからっ」

 

 さすがいらんことしぃさん。はすのさんも思わず苦笑してしまいます。

 

「それに、ご主人さまの健康管理は、サンの本業ですからっ」

「ぅん……で、でも――」

 

 あまり乗り気ではなく煮え切らないはすのさんに、とうとう表情を曇らせ、肩を落としてしょげかえるサンセットさん。猫耳もすっかり萎んでしまっています。

 

「ごめんなさい、サン、余計なお世話でしたか……?」

「ぁ、ゎ、よ、余計なんかじゃ、なくて……えと……、サンのマッサージは、きもちいい……けど――」

 

 はすのさんは慌ててもごもご取り繕おうとしますが、勘違いしたサンセットさんは、ぱあっと笑顔を取り戻し。

 

「よかったですっ。ではでは、さっそく準備いたしますねっ」

「ぁ、ぅ……ん……」

 

 結局、押し切られてしまったはすのさんなのでした。

 

 

 

 

 

 

 はすのさんはこの世に生を受けてからの一六年間で、二度、正体不明の女の子を拾った経験があります(出会ったころの記憶が定かではないと言う点ではエルシンシアさんも数に含められそうですが)。

 

 一度目は一〇年前。お山でいつものように修業していたとき、当時のはすのさんより少しばかり年上の少女が、なんと空から降ってきたのでした。しかも、フタナ巡礼に行ったまま帰ってこない、はすのさんのお父さん――香散見(かざみ)さんの愛剣であるフツノミタマを、胸に抱いて。

 

 少女は記憶喪失だったため、どうしてフツノミタマを持っていたのかさっぱりわかりませんが、これはなにか縁があるに違いない、はすのさんのお母さん――うてなさんはそう考え、少女の身元を引き受け、天木 りんごという名前を与え(ついでに神に祀り上げ)、こうしてはすのさんとりんごさんは義理の姉妹となったのでした。

 

 二度目は、つい数か月前、この巡礼の旅を始めて間もなくのこと。フタナ固有の触手植物・纏多草に襲われていた少女をすんでのところで救えたまではよかったのですが、その少女は餓死寸前でありながら、なんと内臓やら骨格やらがすべて一様な機能性細胞でできていて、普通の食事を消化吸収することすらままらなかったのです。

 

 幸いはすのさんはオオゲツヒメ系稲荷神の眷属であり、その血液は栄養を蓄えやすく、いわゆる完全食の役割を果たしますから、少女はなんとか一命を取り留めましたが、夕日(サンセット)、という単語以外の自分に関わる記憶をすべて失っており、それまでどうやって生活していたのか、とんとわからないときました。

 

 少女――便宜的にサンセットと名付けられたその娘は、ヒトの耳とは別に、聴覚機能のない猫耳を備えていました。それはすなわち、ヒトと神のあいのこである眷属か、あるいは天上人に使役される写文のどちらかであることを意味しています(通常、化身や亜人に機能のない器官はありませんので)。

 

 後者は肌の見える部分に必ず写文の証明である焼印があるはずですが、あいにくどこにも焼印は見当たらなかったので、サンセットさんは眷属だと判断でき、すなわちどこかに同族がいて、そこで身体に適した食べ物を摂取して暮らしていたはずでした。

 

 そんないきさつで、故郷を捜し、記憶を取り戻すために、サンセットさんは御同行に加わったのでした。

 

 サンセットさんは不思議な娘でした。その奇妙な肉体構造もそうですし、まだ幼い(年齢不詳ですが)にも関わらず、あらゆる家事やサバイバル知識に精通しており、そして確固とした技術として身に着けていたのです。

 

 さらに、サンセットさん持ち前の推理力と現在進行中で開花つつある捜査力がなければ、道中でのアクシデントやら事件やらは解決できなかったに違いなく、サンセットさんがいなければ、旅はとっくの昔に終わっていたかも――それが、はすのさん、りんごさん、エルシンシアさん、三人の共通認識でした。

 

 眷属としての血は薄いのか、御業こそなにひとつ使えませんでしたが、当初は、自衛力もないのにこんな娘お荷物ですの! と不満たらたらだったエルシンシアさんまで、今では一目置き、もっとも信頼している子なのです。

 

 サンセットさんはいい子でした。とってもとっても、いい子でした。気立ては良く、世話好きで、いつだってにこにこ笑顔を絶やさなくて、人懐っこい、耳と尻尾は猫のそれですが、忠犬のような完璧なメイドさんでした。

 

 ただ――はすのさんは、サンセットさんのある部分に対して、ちょっぴりたじたじしてしまうことがありました。それは、嫌悪感があるとか、気に食わないとか、悪感情を抱くわけではないのですが、はすのさんがなんというか野生児すぎて知識量があまりに少ないため、解釈しきれず、混乱してしまっているのでした。

 

 たとえば、そう、サンセットさんのマッサージも、そのひとつでした。

 

 

 

 

 

 

「ではでは、はじめちゃいますねっ」

「……ん」

 

 タオルを敷いた敷布団にうつ伏せになったはすのさんは、サンセットさんの指示通り、つややかな黒髪を結い上げ、着流しを脱いで、尻尾で大事なところを隠している以外は、生まれたままの姿です(実はこの時点ですでに、ただのマッサージにしてはおかしいのですが、悲しいかな、はすのさんはそれさえも理解していません)。

 

 サンセットさんは手袋を脱ぐと、膝立ちになり。

 

「失礼しますねっ」

 

 はすのさんのふくらはぎを、揉みほぐしにかかりました。

 

(ん……ぁ――)

 

 途端に、いささか緊張気味だったはすのさんの顔がとろんとします。じんわりとろけるような熱が、脚を抱擁していたからです。

 

(思ってたより……疲労、溜まってた……かも)

 

「むむっ! サンの睨んだ通り、やっぱり、お肉がかちかちに凝っちゃってますねっ。ばっちりほぐしちゃいますよーぅ」

 

 張り切っているわりに、傍目から見れば、あまり体重をかけていないようですし、皮膚の表面を撫でるているだけにも思えますが、サンセットさんは的確な力加減を熟知していたので、筋肉に一切余分な負担をかけず、揉み返し知らずのマッサージが可能なのでした。

 

 そして、サンセットさんには、筋肉も血管も脂肪も硬骨もありません。硬化した機能性細胞が骨格の役割を果たしていますが、それもゴムのように柔らかいですから、サンセットさんの手足は、握りしめてみると、ゼラチンというか、スライムというか、弾力のある水風船に近い感触なのです。

 

 そんな身体で、絶妙な圧力で揉みほぐされたりなんかしたら、それはもう気持ちよくて気持ちよくてたまらないわけです。

 

(ぅ……ぁ……、やっぱり、きもち……、してもらって、よかった……かも)

 

 そしてそして、それだけではありません。

 

 サンセットさんは素手で按摩していただけなのに――いつの間にやら、はすのさんの足はねとねとになっているではありませんか。ねとねとの出所は、サンセットさんの手のひらです。

 

 サンセットさんは、気持ちが昂ぶったときや、もしくは自在に、皮膚表面から粘液を分泌できたのです。これも機能性細胞が持つ体質のひとつで(成分は制御できているそうで、排泄物ではないのであしからず)、うまく調節すれば、いつでもどこでもオイルマッサージをすることができたのでした。

 

 さらに機能性細胞を流動させることで微小な電気を発生させられ、これまた絶妙に筋肉に直接刺激を与えることもできるのですが――こちらは燃費が悪くお腹が空いてしまうそうで、滅多に使うことはありません。

 

 とまぁこんな感じで、面妖というか胡散臭いというか、もはやそういう次元ではないのですが、実際サンセットさんのマッサージとしての効果は大いに認められ、だからこそはすのさんも信じ込んでしまっていました。

 

 サンセットさんは足への按摩を終えると、お次は背中に取り掛かりました。

 

 高い神格のおかげで、過酷な旅のなかでも傷痕ひとつ見当たらないまばゆいばかりのはすのさんの白い背中も、にゅるにゅる、てらてら、妖しく光りはじめます。

 

「ふ……っ、ぅ……っ、ぁふ……」

 

 至妙のマッサージで全身弛緩しきり、吐息と一緒に唾液がこぼれるのにも気づかないはすのさん。特製オイルのおかげで血行もよくなり、ぽかぽか夢心地で、思考までふやかされてしまっています。

 

(ふぁ……きもち……ぃ……)

 

 普段は野生の勘で高い生存能力を誇るはすのさんも、こうなってしまっては俎上の魚ならぬ、布団の上の雌狐さんです。このとき、ちらりとでも後ろを覗き見てさえいれば――、きっと、サンセットさんのぎらつく肉食獣の眼光を発見できていたでしょうに。

 

 念のため言っておきますが、サンセットさんも、いつだって最初のうちは悪気はないのです。ただ、ついつい暴走して過剰にご奉仕してしまうのと、もともとサンセットさんも、常識があるようで変なところでずれていたりするのです。

 

 まぁ、それがむしろ、かえってたちが悪かったりするんですけども。単にサンセットさんに邪念があるだけならば、さすがにはすのさんでも勘付きますからね。サンセットさんにとって、こういうマッサージは普通のことで、その異常性はりんごさんぐらいしか気づきようがないんですけど、そういうタイミングがまだ訪れていないだけなのです。

 

 そして、サンセットさん自身、まったく自覚していませんが、この小さなメイドさんは、とってもとっても――健啖で、嗜虐的なのでした。

 

「……くすくす♥ ご主人さま……♥」

「……ん……、にゃ、に……?」

 

 ねっとりと絡みつくような甘ったるい声音への変化も、うとうとしていたせいで、はすのさんの意識には上っていませんでした。

 

「次は、尻尾……失礼しますよーぅ……♥」

「んぇ……? きゃぅんっ!?」

 

 親指と人差し指でつくった輪っかで、おもむろに尻尾の付け根をきゅうっと締められ、素っ頓狂な声を漏らすはすのさん。

 

「はぁおっ!? おっ、おっ、おっ、ぅっ、――っ!?」

 

 そのままきゅぅうっとゆっくり上に持ち上げられながら、残った中指薬指小指で尻尾の根元の裏側をさわさわさわさわとくすぐられ――。

 

「――っ!? ――っ!? ――っ!?」

 

 お腹のなかを打ちのめす、強烈なぞくぞく感に、はすのさんはがくがくがくっと肩を震わせます。

 

「……っ? は……っ、はふ……っ?? ……???」

 

(な、なに、いまの……)

 

 突然の鮮烈すぎる刺激に、はすのさんは事態を把握しきれていません。それもそのはず、今しがた味わわされたのは、性的な神経に結びついていなかっただけで、快楽量としてはちょっとしたエクスタシーのそれとなんら変わらない規模なのでした。

 

「わぁ……♥ 尻尾、すごいことになってますね……♥ これは、これは――くすくすくす♥ じっくり、ほぐさないと……♥」

 

 より一層ぐったりするはすのさんですが、サンセットさんは休憩を与えるつもりはないらしく、引き続き尻尾を指の輪っかできゅっきゅっと締め上げます。締め上げられるその都度、先ほどではないにせよ、甘いびりびりがお腹の芯に響き、視界を明滅させました。

 

「んんんーっ! んっ! んっ! んっ!」

 

 優しく、ゆっくり、じわじわと扱き、ゆえにはすのさんにとっては無間地獄がごとき責め苦です。

 

(なにも……っ、かんがえられな――)

 

 サンセットさんの腕っぷしは人間のそれと大差ないはずです。本来なら逃げ出すなり突き飛ばすなり、いくらでも選択肢はあるのでしょうが、はすのさんは一番弱い尻尾を握られてますから、どんな抵抗も叶わないのでした。

 

「はぁぁあああ……っ! ぐ――、ぅ――っ! ――っ! ――っ!」

 

 しばらくサンセットさんが尻尾をこしゅこしゅ擦りあげていると、はすのさんは感極まったような声を上げました。思いっきり伸びをするみたいに手足を突っ張り、顔を真っ赤にしながらがくがくがくっと痙攣するや、ぐったり布団の上に突っ伏します。

 

「……ふぅ。ご主人さま、尻尾の凝り、しっかりとれましたよ……♥」

 

 その段になってようやくサンセットさんは尻尾を解放し。

 

「ではでは、今度は、仰向けになってくださいな……♥」

「はー……っ、はー……っ、はー……っ、……はひぃ……」

 

 長い長い後半戦が、始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 朦朧とした意識のなか、サンセットさんに促されるがまま、はすのさんは仰向けになりました。

 

 自然な感じで瓦灯に蓋をかぶせてお部屋の照度を落としたサンセットさんは(このちょっとした所作でさえまた、ものすごく雰囲気を出していて、きっと天性のものなのでしょう)、はすのさんを正面から見下ろしました。

 

 瞳孔は開き気味で、少しばかり鼻息荒く、無意識にちろりと舌なめずりし、猫尾をくねらせながら。もう猫どころではありません。獲物を前にした獅子さながらです。

 

(こういうときの、サン、やっぱり、こわい、かも……)

 

 ぞくぞくしたものを感じながら、はすのさんは尻尾で股の間を覆い隠しますが――。

 

「くすくす……♥ ご主人さま……♥ マッサージできませんよーぅ……♥」

 

 やんわりと尻尾を脇に押し退けられ、その下から現れたそれをじっとり観察されてしまいます。

 

「~~っ!」

 

 はすのさんは穴があったら入ってしまいたいぐらいの辱めを受けていましたが、どうしてだかサンセットさんには逆らえず、身悶えするしかありませんでした。はすのさんの方が頭ふたつ分は大きくて体格もよく、眷属としての権能は比較にならないほど強いはずなのに、です。あたかも、そう調教された家畜かのような従順っぷりです。

 

 サンセットさんは妖艶な微笑を浮かべたまま、何事もなかったかのようにはすのさんの脚にオイルを擦り込みはじめました。再び極上の心地よさが包み込んできます。

 

 ところが――今度は、マッサージに集中するどころではありませんでした。サンセットさんがはすのさんの身体のある一点を、じぃぃぃっっっと、いやらしい目で見つめていたからです。

 

「……♥」

 

 サンセットさんの琥珀色の双眸に映りこんでいたのは、血管を浮かせ、天上に向かって逞しくそそり立った、根元に瘤を持つ、肉の柱。ようするに――狐のおちんちんでした。

 

 射鶴木一族は数いる眷属のなかでもいっとう神格が高く、その血を薄めることなく界主として(今は州主ですが)信仰を集め続けねばなりませんでした。ゆえに自家受精して繁殖できるように、稲荷神とおなじく豊饒を司る蛇神の血が混ざっており、生まれつき雌雄同体だったのです。

 

 ただし普通の男性器と違ってふぐりはありません。代わりに、陽根の根元に種瘤という瘤があって、そこで子種をつくっているのです。種瘤は一見して亀頭球に似ているので、はすのさんのそれはまさに狐の陰茎といった形姿をしていますが、正確には別物で亀頭もありますので、ずいぶんごつごつした印象を受けます。シルエットだけなら、金剛杵のようなものでしょうか。

 

(はずかしいはずかしいはずかしいはずかしい……っ!)

 

 はすのさんは、そんな自分の外性器の形状にずっとコンプレックスを抱いていましたから、視姦される恥ずかしさもひとしおです。

 

「ふ……っ、ぅ……っ、くぅ……っ!」

 

 サンセットさんの粘液にまみれた指が、下半身全体を容赦なく這いまわります。内腿や、鼠蹊部や、皮膚の薄い際どいところを、なぞったり、くすぐったり、かと思えば押し込んできたり、引っ掻いてみたり。

 

 なのに、肉柱にだけは絶対に触れてきません。始終視線を絡みつかせ、時折だしぬけに顔を寄せ、気まぐれのように息を吹きかけてくるだけ。もどかしさを愉しみ、愉しませるような、駆け引きじみた求愛行動のよう。

 

 それでも、これまでサンセットさんにたっぷりと教え込まれた悦楽の数々のせいで、はすのさんはそこにサンセットさんの顔が近づくだけで反応してしまうようになっていましたから、自然に尿道からじわじわと先走りのお汁を滲ませてしまっていたのでした。皮の張りもぱっきぱきで、指一本触れるまでもなく、完全に準備万端といった塩梅です。

 

(さわりたい……っ! さわりたいさわりたいさわりたい……っ! さわって、――ほしい……っ! でも――っ!)

 

 そんなはすのさんを前に、サンセットさんは満足げに目を細めると。

 

「くすくす……♥ ご主人さま……♥ 最後に、上半身に移らせていただきますよーぅ……♥ いつも通り、お腰の上、失礼しちゃいますね……♥」

 

 膝立ちのまま、はすのさんの腰の真上を跨いだのでした。肉管がふわりとスカートのなかに埋もれるや、ものすごい熱気と湿気がまとわりついてきます。

 

「ぅ、ぁ……、は……っ、ぁうっ!?」

 

 さらに、怒張の先端に、熱いものがぽたぽたと滴ってくるではありませんか。敏感な亀頭にはかなりの刺激で、身体が跳ね上がりそうになりますが、はすのさんは懸命に踏ん張っています。でなければ、きっとサンセットさんの大事なところに、肉管が接触してしまうでしょうから。

 

「……くすくす♥」

 

 そんなはすのさんの頑張りを知ってか知らずか(間違いなく知っているんですけども)、サンセットさんがおへそ周りに手を伸ばしました。緊張しきった腹筋や内臓を、ぬめぬめ撫でまわされて、はすのさんが熱を帯びたため息をこぼれさせてしまいます。

 

「くはぁあぁああ……、あ、ぅ、ふぅぅ……っ」

 

(だめ……っ! がんばら、ないと……っ! 上半身で、最後って、言ってたから……っ!)

 

 はすのさんはここまで必死に耐えてきて、そしてまだ頑張れると思っていますが、甘いです。大甘です。摩訶甘です。

 

 というか、どれだけ努力しても、無意味なのです。どんな動物もお腹を晒した時点で敗北は必至だという摂理が、布団の上でも不変だということを、はすのさんは理解できていなかったのです。

 

 ここからは地獄です。正真正銘の快楽地獄です。はすのさん、どうもお疲れさまでした。まぁ、疲れるのはこれからなんですけどね。

 

「ぅはぁぁあぁ……っ!? サン……っ、サン……っ!」

 

 突然、はすのさんが切羽詰まった声でサンセットさんを呼びました。

 

 内臓をかわいがりながら、サンセットさんがさりげなく、腰を揺すったせいで、肉茎の先端をぬかるみがぬちゃぬちゃと舐めるようにかすめていたからです。

 

「くすくす……♥ ご主人さま……?♥ どうかされましたか……?♥」

 

 サンセットさんはすっとぼけた風にたずねていますが、もちろんわざに決まっています。

 

 サンセットさんは常から下着を着けていません。ですので、その柔らかでじゅくじゅくに熟れてほころんだ陰唇は剥き出しになっていて、マッサージにかこつけて身体を動かすたびに、肉棒の先っぽに直に触れてしまっているのでした。

 

 サンセットさんが下着を履いていないのは、はすのさんに影響されてのことでしたが、まさか自身の習慣が己の首を絞めることになろうとは思ってもみなかったはすのさんなのでした。

 

 ただでさえスカートのなかの出来事ゆえに目に見えない分、鋭敏になっているというのに、尋常ではないぬめりと熱さのサンセットさんの体液を塗りたくられ、結合しているときと同等以上の性感が襲いかかっています。

 

 急速に追い詰められ、逃れられぬその最高の瞬間を、はすのさんは予期しはじめていました。

 

 サンセットさんも追い討ちのつもりか、お次は控えめに育ったはすのさんの乳房に指を這わせました。

 

「んんっ! んっ! んっ! んぅっ!」

 

 はすのさんのお胸はエルシンシアさんの残念な平原とは違って、なだらかな美しい丘といった風情ですが、今やサンセットさんにもにもにと蹂躙され、みだりがわしく歪められています。

 

 しかしサンセットさんはまだまだ弄び足りないようで、褐色の指の次なる攻撃目標は、硬く充血した乳首でした。存外に小さめで可憐なその乳頭の外周を、華奢な五指が這いまわっていきます。

 

「んひゃぅっ! サ、サンっ、そこぉ……っ! いじっちゃ、だめ……っ!」

「くすくす♥ なにをおっしゃるんですか♥ こんなに凝ってるんですから、重点的にほぐさないとっ♥」

「んくっ! んっ! んんんっ! そこっ! ほんとに、だめ、だから……っ! すぐ、でちゃ――!」

 

 とりわけ過敏な両の乳頭と、肉管の先端の、ぬるぬるさわさわ三点攻めで、決定的なところまで追いやられ、あとはもう欲望を決壊させるしかない――その瞬間。

 

「はぁあぁああっ♥♥ っくぅうっ♥♥ いっくぅぅぅっ♥♥♥ いきますうぅぅぅうっ♥♥」

 

 隣室からの、あられもない嬌声――エルシンシアさんです。

 

 この宿の壁が薄いのか、あるいは今日は特別盛り上がっているのか――初めて耳にするエルシンシアさんのアクメ声に、はすのさんもサンセットさんもびっくりして硬直してしまいました。

 

 とくに、はすのさんの反応は顕著でした。予想外の事態に驚愕しながらも、じっと耳を澄ませています。

 

(してるんだ……エルシンシアと……りんご姉が――)

 

 聞こえたのはエルシンシアさんの声でしたが、はすのさんが気にかけていたのは、りんごさんのこと。三秒前まで一番気持ちいい瞬間を迎えようとしていたのに、今は胸のじくじくした疼痛に囚われています。

 

 それこそ、今まさに自分を組み敷いているサンセットさんのことなど完全に失念してしまうほどに。

 

 サンセットさんは、そんなはすのさんの様子に気付いたのか、ほんの少し、泣きだしそうな表情を見せるや、しかしすぐに取り消して、いたぶるように、慰めるように、甘えるように、囁きました。

 

「ご主人さま……♥ 今日のお食事、頂いてもよろしいでしょうか……♥」

「ぇ、あ……ぅん? ぅはあぁぁあうっ!?」

 

 生返事をしかけたはすのさんが、ため息交じりに声を漏らします。サンセットさんが、ためらいなく腰を下ろしたからです。

 

 ずるるるるっと陰茎を一息に根元まで飲み込まれてしまい、はすのさんはそちらへ意識を奪われてしまいます。それもそのはず、サンセットさんのなかは、まったりもちもちとした優しい感触ながらも、しっかりした締め付けで存在感を兼ね備えているからです。

 

 そして内部は明確な構造を持っていて、はすのさんの肉管専用にあつらえたかのごとく、最奥は仮首が入れ子のようにがっちりはまり込む形状になっていますし、入り口は敏感な根元の種瘤をゆるぅく舐めしゃぶるごとく包み込んできています。単に入っているだけではなく、隙間なく密着して、こびりつくような感覚を与えてくる上、肉襞ひとつひとつがぞわぞわと蠢いて絶えず刺激してもくるのでした。

 

 そんな具合ですから。

 

「動きますよーぅ……♥」

「くはぁあぁああ……っ♥ あっ♥ あっ♥」

 

 ちょっと揺さぶっただけでも、腰が引けるような強すぎる刺激とはまた違った、着実に迅速に射精させるための淡くあまぁいとろける快感が生じ、腰砕けになってしまうのです。

 

(これ……っ! 溶けちゃ――っ!)

 

 はすのさんは思わずサンセットさんを制止しようとしますが――。

 

「あっくぅ♥ サ、サンっ、サン……っ♥」

「くすくす……♥ どうしたんですか、ご主人さま?♥ サンはここですよーぅ……♥」

 

 伸ばした両手は、手のひら同士をぴったり重ね合い五指を絡める恋人つなぎで、捕まってしまいます。むしろ、その両手を支えに、サンセットさんはよりスムーズに大胆に腰をうねらせました。

 

 ここでなにより注目すべきは、少しだけお尻を浮かし気味にして、ぱんぱんと肉同士をぶつけあったりしないよう、あくまで性器だけに感覚を集中させるサンセットさんの手管でしょう。まさに熟練の技と気配りです。

 

「はぁっ♥ それっ♥ そのうごきぃっ♥ んっ♥ んっ♥ んっ♥」

 

 陰茎は膣内では自在に動けるようで、柔らかなお肉ととろとろ粘液がぴったり吸いついくるために外へ抜け出すことを許しません。さながら、滾りの中身をしゃぶりつくさんとしているようです。刹那の間、醒めてしまったとはいえ、限界ぎりぎりまで高められていたはすのさんは、あっという間に白旗でした。

 

「もっ♥ でちゃっ♥ でちゃうからぁっ♥ サンっ♥ ちょっとっ♥ ゆるめてっ♥」

「えぇ……♥ まだはじめたばっかりじゃないですか……♥ もうちょっと、あとちょっと、我慢しましょうよーぅ……♥」

「だっ、だってっ♥ サンのなかっ♥ よすぎて……っ!♥」

「くすくす♥ ありがとうございます♥ でも、今出しちゃ、半熟ですから、ね……?♥」

 

 サンセットさんは普通の食事を消化吸収できません。そのため、栄養分はオオゲツヒメ系稲荷神の眷属たるはすのさんの体液から補給しています。

 

 当初、サンセットさんははすのさんから血液を頂戴していましたが、食事のたびに身体を傷つけることに対する忍びなさと、血液では容積辺りの栄養価が低いのでそれなりに量を必要とする点、そしてはすのさんの性欲発散も兼ねて、食事内容を栄養満点の精液へと切り替えたのでした。

 

 サンセットさん曰く、たっぷり刺激して我慢してから出したときの方が濃度が高くて少量で済む、とのことで、はすのさんはたくさん我慢するよう努力はしているのですが……まぁこの辺りは、嘘ではありませんし、騙してもいませんけど、サンセットさんの嗜好もかなり入ってると思います。サンセットさん自身も、自覚はないでしょうけども。

 

「一発でこゆぅい子種、じゃなかった、ごはんを出していただかないと……♥ からからになるまで♥ 搾り取っちゃいますよーぅ……?♥」

「~~っ♥ で、でもっ♥ サンっ♥ ごめっ、もぉっ、でちゃっ♥ ふ――っ! ぅ――っ!」

 

 さて、そんなわけで懸命にこらえていたはすのさんですが、あっさり精を吐き出すときが訪れてしまいました。歯を食いしばり、ぎゅっとサンセットさんの手を握りしめ、どっくんどっくん盛大に膣内射精です。

 

「んっ♥ 熱っ♥ ご主人さまの、たくさん、出てますよーぅ……♥」

 

 サンセットさんがうっとり陶然とした笑みを浮かべます。同時に、胎内で震えるはすのさんの外性器を粘膜で種瘤までしっかり包み込み、一滴も漏らさじと脈動に合わせて、あまぁく吸引してくるものですから、射精もなかなか終わりません。マッサージで全身骨抜きにされていたのもあわさって、とんでもない吸精感です。

 

「っくぁっ♥ とまら、なっ♥ ~~っ♥♥」

 

 至福の恍惚はさらに高い次元へいざなわれ、瞼の裏はちかちかするほど。ひとしきり出し終わったときには、はすのさんはすっかり息を切らしてしまいました。

 

「はー……っ、はー……っ、はー……っ」

「ありがとうございます、ご主人さま。ごちそうさまでしたっ」

 

 サンセットさんはにっこり微笑むと、結合したままいそいそと服を脱ぎました。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込み、小柄ながらもしっかり成熟した肉感的な女性の身体があらわれます。

 

「お疲れでしょうから、もう一度マッサージしちゃいますねっ」

 

 そう言うと、甘ったるそうなチョコレート色の肌を密着させ、上半身をにゅるにゅる擦りあわせてきます。すべすべで体温高めで水風船みたいに柔軟性のある至高の身体にまとわりつかれて、ただでさえ心地よいのに。

 

「ぅ……サン、こんなの……っ」

 

(むねぇ……っ、やわらかい……っ)

 

 ずっしり重々しく実った乳房が、むにゅむにゅと淫猥にはすのさんの上で変形します。おかげで、萎えかけていた一物に再び血がかよってくるのを、はすのさんは実感していました。

 

 そしてもちろん、陰茎を胎内に収めたままのサンセットさんにも、それがわからないはずがなく、琥珀の虹彩がまたもや妖しい色合いへと移ろいます。

 

「ご主人さま……♥ また、かちかちになってきてますね……♥」

「うぅ……」

「サンに、おかわり、くださるんですか……?♥」

「ま、まだ……食べて、くれるなら……」

「くすくす……♥ ではでは……♥ お言葉に甘えて、およばれしちゃいますね……♥」

「~~っ」

 

 サンセットさんが腰の動きを再開させ、もはや当然のように二回戦へ。今度は、全身を使ってのご奉仕です。サンセットさんはかなり軽い方なので、持ち前のぬるふわボディも相まって、最高級肉布団といった感じで、これがまたたまらない気持ちよさなのでした。

 

 おかげで、瞬く間にはすのさんの肉管は鋼鉄顔負けの硬度を取り戻していました。サンセットさんに精を与えはじめてからというもの、短期間での連続射精が常態化していましたので、はすのさんも慣れてきたのでしょう。

 

 と言っても、サンセットさんに翻弄されっぱなしなのは変わらず。

 

「んはぁぁああぁ……っ♥ サンっ、サンんん……っ♥」

 

(もう、わけ、わかんな……)

 

 どろどろ全身マッサージで思考が茹ったはすのさんは、もはや惨めにサンセットさんの名前を呼ぶことしかできません。獅子に捕食されている真っ最中の狐さながらです。

 

 はすのさんはいつもは寡黙で冷たい印象を与えがちな子ですから、エルシンシアさんはおろか、りんごさんでも、はすのさんのこんな姿は想像だにしないことでしょう。

 

 一方で、そんな情けないご主人さまの醜態を目の当たりにしても、サンセットさんは幻滅するどころか、より一層、瞳を黄金にぎらつかせて、はすのさんの総身をとろかし、もっと骨抜きにせんとしています。鼻同士がぶつかってしまいそうな距離で、顔をじぃぃぃっと覗きこみながら。

 

 はすのさんは、いやいやと弱々しくかぶりを振ります。

 

「ぅんっ♥ んんっ♥ んぅっ♥ サン……っ♥ かお、ちか、いぃ……っ♥」

「近いから、どうしたんですか?♥」

「みな、いでぇ……っ♥」

「どうしてですか?♥」

「だ、だって……っ♥ はずかし……っ♥」

「くすくす……♥ でもでも、これは必要なことなんですよーぅ……♥ ご主人さまに気持ちよくなって頂けているかどうか、確認しないといけませんから……♥」

 

 誘うようなささめき――サンセットさんは可憐でしっとりして甘ったるいはちみつ声をしていますから、そうやって間近で囁かれると、お腹の奥で血がひっくり返らんばかりのぞくぞくに見舞われます。部屋の空気が一気に粘度を持ってねっとりした雰囲気になるのを、はすのさんは実感していました。

 

「どうしても、だめ、ですか?♥」

「ぅうぅ……やだぁ……♥」

「サンは、好きなんですけど……♥ ご主人さまが、頑張ってサンのごはんをつくってくれてるところ……♥」

「ふ、ぅぅう……っ♥♥」

「そうです……♥ これはサンのごはんなんです♥ だから、しっかり見てないと……♥ ご主人さまが、一番気持ちよくなって、一番無防備で、一番幸せになっちゃっているところ……♥ お料理は目でも味わうものですから……♥ ちゃぁんと見てないと、おいしさ半減しちゃいますよーぅ……♥」

「は……っ♥ は……っ♥ はぁぁ……っ♥」

「お料理だって、おいしく食べられたいって、思ってるはずです……♥ それがお料理の本分ですから……♥ だから、お料理も、見られながら食べられたら、きっときっと――、最高に気持ちいいはずなんです……♥」

「~~っ♥♥♥」

 

 ぶるるっと身震いひとつすると、はすのさんがふにゃっと緊張を解きました。表情がくたっと弛緩して、それは、すべてを諦めたかのようにも、すべてを受け入れたかのようにも思えます。

 

(もう……いい……どうなっても――)

 

 まるで徹底的に躾けられ、屈服させられた女の子そのものですね。陽根を挿入しているのははすのさんの方ですが――、今や文字通り、サンセットさんのお食事となってしまっているのでした。

 

 サンセットさんはいい子です。サンセットさんに悪意はありません。ですが、それが逆に確信犯的に働いてしまっていて、傍目から見ればその本性は、主人が無知なのをいいことに自分好みに調教する気まんまんの専属淫魔になってしまっていると言っても過言ではありません。

 

「ではでは、そろそろ――頂いちゃいますね……♥」

 

 死刑宣告がごとくそう告げるや、サンセットさんの膣内が様変わりしました。ただでさえ絡みつくようだった秘肉が、さらにどろどろねばねば輪郭を失い、硬く張りつめた肉管に細胞レベルで染み込んでくるかのような一体感をもたらします。

 

「っはぁあぁああぁあっ♥♥♥」

 

 それは、もっとも敏感な器官の細胞ひとつひとつがとろとろに温められ、とろかされていくのにも似ていて、サンセットさんのなか以外ではこの世のどこでも絶対に味わえない極楽で。

 

「――っ!? ――っ!♥ ――っ!♥♥ ――っ!♥♥♥」

 

 予感もないほど一瞬にして頂点まで高められたかと思いきや、尿道がばかになるぐらい全開になり、ばしゃばしゃと白い養分を迸らせてしまっていたのでした。

 

(とんじゃうとんじゃうとんじゃうとんじゃう……っ!)

 

 その勢いは、下半身が丸ごと吹き飛んでいってしまうんじゃないかという錯覚をもたらす強さで、はすのさんはなかば恐慌に駆られかけますが。

 

「ん……♥ おいし……♥ さすがご主人さま、お射精、じょうずですよーぅ……♥ サンがぜぇんぶ食べちゃいますから、つくったお精子、ぜぇんぶ出しちゃいましょうね……♥ ほぉら、ぎゅってしててあげますから……♥」

 

 すかさずサンセットさんに柔らかく抱擁され、意識が混濁するほどの射精感に専念させられます。

 

(ぁ――も――とぶ――)

 

 全身どろどろにされ、ふわふわ肉布団で抱き締められながらの、甘々放精。求められ、褒められて、甘えさせられて、これを超える魂の充足があろうはずがありません。まさに無憂苦、まさに波羅密、まさに妙適の心地です。

 

 初めての性交渉の相手がサンセットさんだったなんて、はすのさんも気の毒です。サンセットさん以上に肉体的精神的悦楽を施してくれるひとなどいるわけがありませんから。

 

 はすのさんも本能ではそれを察しているのでしょう、だからサンセットさんには、絶対に逆らえないのでした。毎回戸惑ってはいるものの、はすのさんはとっくにサンセットさんに依存させられているのです。

 

 ただ、そのせいで。

 

「……ごめんなさい、ご主人さま、いっぱい頂いちゃいました」

「ん……いい。その……きもち、よかったし」

「えへへっ、ご主人さまがきもちよくなってくれると、サンも嬉しいですっ」

「サンは、満足、した……?」

「はいっ、今日もとってもとっても、おいしゅうございましたっ」

「ん……、そっか」

 

 事後の、穏やかで、緩慢で、気だるい余韻のなか、相手の瞳に映る自分が見えるこの距離でさえ――、ふたりはついぞ、くちづけを交わすことはありませんでした。

 

(また……サンに甘えちゃった――)

 

 サンセットさんの童顔をぼんやり眺めながら、はすのさんはひっそり自己嫌悪。

 

(もう、ここまでしなくていいって、言わなきゃいけないのに……サンには、きっと――好きなひとがいたはずなのに)

 

 サンセットさんの手練手管、経験豊富さ、それは本当のご主人さまがいたからに違いない――いつからか、はすのさんのなかにそんな憶測が巣食い、ちくちくとこころを苛み続けていたのでした。

 

(記憶を失ってるからって、わたしなんかが……、サンに、そのひとを裏切るようなこと、させちゃだめなのに――)

 

 こんなことまでしているのになにを今更、という感じですが、まぁ致し方ないことです。サンセットさんの食事という名目のせいで、無垢だったはすのさんの倫理観はすっかり屈折してしまったのですから。

 

 相性が悪くないくせに噛み合ってないふたりですので、この子たちが進展するのはまだまだ時間がかかりそうですね。

 

「そろそろ洗い流しに行きましょうか、ご主人さま」

「ん……明日の朝でいい」

「だめですっ、お召しものが汚れちゃいますよっ」

「裸でいい」

「お布団が汚れるのでもっとだめですっ。そうだ、ご主人さま、海辺の露天風呂、行ってみませんか? この時間なら誰もいないでしょうし」

「波が高いから、閉鎖してる、って言ってたような……」

「閉鎖してるのは、温泉までの遊歩道だそうですよ。つまり、自己責任ということです」

「ん……サン、悪い子」

「そんなことありませんよっ。どうしたらご主人さまがお風呂に入ってくれるのか、扱いがわかってきただけですっ」

「……やっぱり、悪い子」

「えへへっ。さぁさぁ、そうと決まればさっそく行きましょうっ。ほらほら、起きてください、ご主人さま――」

 

 されど、それもまたふたな道。道を云い道を云うに百種の道あり、というものです。逸らず急かさず、菩薩の心で見守るがよろしいでしょう。

 

 さてさて、そろそろお時間となってしまいました。名残惜しくも、今宵のお観測(みはか)りはここまでにいたしましょう。

 

 次回もお楽しみにお待ちくださいませ。

 

 

 

 巡礼済み天帝院:二六/八八

 蒐集済みホムスビ一六神:五/一六

 

 

 

 フタナでもっとも美しい海岸線を誇る州・サレクブ。そこでは太古の生体寺院戦艦・白牛山へ鍛造鐘楼弾を撃ち込むことで、新たなガイア「天鐘のガイア」を起動させる一大事業の進行中でした。

 ところが白牛山に悪い大蛇が住み着いてしまい、新ガイア計画どころか艦宝塔の伐採すらできなくなって州は大混乱。そんな折、サレクブを訪れた御同行は、再会したスラブ神話系フィンランド神話(カレワラ)サキュバスのシィアや、吟遊詩人のアマタとともに大蛇討伐に乗り出します。

 いつもの簡単な依頼――かと思いきや、事態は予期せぬ方向へ転がっていき……?

 

 次回「第二七夜 魔鐘天衝」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ぬるい」

「結構、海水が入ってきちゃってますねっ。前のミナツカの温泉とは違って、もともと誰も管理してない自然の温泉みたいですから、仕方ないですけど」

「でも……、前ほどべたべたしないのは、いいかも」

「ふふっ、今度はお砂糖味じゃなくて、お塩味のお湯ですねっ」

「あと、見晴らしは、いいかも」

「そうですね――あ、ここからだと、ご主人さまの風車がよく見えますよっ」

「ん……」

「あれだけまわっていたら、きっとすぐにガイアも元気になりますねっ」

「ん……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……ご主人さま」

「ん……?」

「もし……ですね」

「……」

「もし……、巡礼が終わって、それでもサンの故郷が見つからなくって、そして、ここのガイアが元通りになって、きれいな夜景が見えるようになっていたら……、サンと一緒に、また――」

「あら。ふたりも来てましたの。貫頭衣、持ってきて正解でしたの」

「あ、エルシィさん。ごきげんよう(あびー)ですっ」

「あびーですの、サンセット」

「ん……、終わったんだ」

「なにか言いましたの?」

「……なんでもない」

「なんですの、はすのさん? なにか言いたいことがあるなら、はっきり言ってほしいですの」

「エルシィさん、りんごちゃんとは一緒じゃないんですか?」

「……べつに、いつも一緒にいるわけじゃないですのよ。む……、ぬるいですのね。見晴らしは悪くないですのに」

「ふふっ」

「なにがおかしいんですの?」

「いーえ、なんでもないです。ね、ご主人さま?」

「ん……」

「……? ――あぁ、サン、さきほどほしいって言っていたお茶ですけど、ハーブをブレンドしたのでよければ見つけましたの。あとで取りに来てくださる?」

「わぁ! ほんとですかっ! うれしいで――」

「エー、ルー、シー! あんたねー! なんてことしてくれんの!? 覚えときなよ!」

「はぁ……? 覚えるもなにも、最初に味わわされたのはわたくしですの!」

「だから謝ったじゃんかさ!」

「謝ったらそれで済むと思ってるんですの!?」

「もういいって言ったじゃん!」

「許すとは言ってないですの!」

「だからってやり返さなくてもいーじゃん!」

「りんごさんの頭では多少痛い目みないと学習できないですの!」

「はー!? 子豚ちゃんが偉そうに!」

「な、なんですの!」

「なにおー!」

「まぁまぁおふたりとも、抑えて抑えてっ。どうなさったんですか?」

「え、いや……、んー……、説明しづらいってゆーか……。てか、ここ、例の温泉だったんだね。あたしも入ろーっと」

「……りんご姉、知らずに来たの」

「あ、はすの、いたんだ。うん、エルシィの契約追ってきただけだし」

「ん……」

「あれ、あそこに見えるのって、あんたの風車じゃん」

「……わたしだけが、つくったわけじゃないから」

「えー、でもみんなあんたのおかげって言ってたし――って、はすのとサンはなんでそこで顔見合わせてんの?」

「なんでもないですっ」「……なんでもない」

「さっきからこのふたり、変ですの」

「ふーん、ま、なんでもいーけどね。はー、なんか動いたからお腹空いてきちゃったなー」

「そうだっ、お風呂から出たら、お茶会なんてどうでしょう? アップルパイの残り、まだありますよっ」

「お、いーねー、やろやろ!」

「……こんな時間に飲み食いして、だいじょうぶですの? その……ふ、太ったり、とか」

「だいじょうぶですよーぅ、きちんと低カロリーのお茶請けもご用意しますからっ」

「む……、サンセットがそう言うなら、一杯だけ付きあいますの」

「はすのはどうすんのー?」

「ん……行く」

「おーし! そーと決まれば――」

 

 

 




予防線張っときますが各宗の教義と文化と呼称において時代と地域の統一性はないです。
文化は一度滅んで電子情報上で平面化してるし随方毘尼されるから、っていうことにしておいてください……。
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