真の楽を求める方法 作:はすりー
その夜、真澄は夢を見た。
夢を夢と理解できる夢、明晰夢だ。
目の前にはμ‐skYがいる。
ただのμ‐skYではない。猫耳が生えている。
μ‐skYが目の前にいるだけでも大層な夢だというのに、さらに猫耳が生えているだなんてと、笑いながらその夢を受け入れる。
猫耳が生えたμ‐skYは真澄にちょっかいをかけながら周りをウロウロしている。
時に乱雑にあしらい、時にかけられるちょっかいをなすがまま受け入れる。
鯖癌時代ではありえない穏やかな空間に、なんて心地の良い夢なんだと真澄は思う。
しかしやがてμ‐skYはふわりと笑って真澄に背を向け、駆け出した。
『ま、待ってくれ!!』
μ‐skYが自分から離れるにつれて崩壊していく世界。
真澄は必死に追いかける。
そして捕まえ、強引に振り向かせるとそこには――。
『真澄?』
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「らくろっ……!?!」
思わず名前を呼びながら飛び起きる。
「……………………はぁあぁああ」
時間を確認すると、朝の四時を回ったところだった。
いやな夢ではなかったが、前日さんざん自らを慰めるためのネタに使った相手だっただけに、妙な罪悪感に襲われる夢だった。
と、軽く息を吐く真澄だったが、ふとあることに気づく。
「…………おいコラおデブ、枕返せよ」
夜寝る際に間違いなく自分が使っていた枕を、今は巨漢の猫が占領していた。
まるでここは自分のものだと言わんばかりに堂々とした寝相を披露している猫に、軽くため息をつく。
ここで除けようとしたなら、間違いなく「何をするんだ」と言わんばかりに睨んでくるのが予想できたので、真澄は諦めてタオルを丸めて枕がわりにして横になる。
枕どころか既に布団の半分ほどまで占領してのびのび寝る猫と、その猫の邪魔にならないように少し丸くなる真澄。
「ったく……昨日の夜までは帰ってきてなかったんだがな……」
そう愚痴りながらも、自らがデブと呼ぶ猫を一撫でする。
ゔるるん……と、触るなとでも言いたげな鳴き声に苦笑いしつつ、再び瞼を閉じる。
~~~~
二人のリアル遭遇から数日後。
学校を終えた楽郎は、少し考える。
またロックロールでもよるか、それともまっすぐ帰ってシャンフロにでもインするか。
などと考えながらフラフラ歩いていると、不意に妙な存在が目に入る。
いや、妙な存在と言っても、ただの寝ている猫だ。
座っているブロック塀から肉がはみ出るほどの巨漢猫という点を除けば。
「でっけ……」
思わず楽郎が呟くと、目を覚ましたのかジロリと楽郎を見つめてくる。
「む………………」
思わず目が合ったのでそのままにらみ合う。
楽郎の癖と言うか習性と言うか習慣と言うか、何となく猫と目が合うとどちらが先に目を逸らすかの勝負になっていた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………………………何やってんだ」
「え? あっ!」
唐突に声をかけられたことで楽郎は思わずそちらを向いてしまい、結局巨漢猫との勝負には負けてしまった。
声には出さないが内心悔しがりつつ、声をかけてきた存在を再び確認する。
「って真澄じゃん。何してんだよこんなとこで」
「いや……何してるも何も、ここは俺ん家だ」
そういって真澄は猫の寝ていたブロック塀の向こう側にある、かなり年季の入ったアパートを指さす。
「うえ!? マジか……そんなことあんだな」
「……で、ついでに言うと……このおデブも家の猫だ」
「え、マジかよ。このでかいのお前の?」
「……これでも拾ったときはちっせぇ子猫だったんだぞ」
「ははは、幸せ太りしちまったのかお前~」
そう言いながら猫を撫でる楽郎となすがまま……それどころかもっと撫でろと催促するような動きをする猫。
その分かりやすい動きに真澄は呆れ、楽郎は人懐っこい奴だなと苦笑いしながら撫で続ける。
その中で、そういえばと言った感じに楽郎が問いかける。
「つーかこういっちゃアレだが、真澄って結構有名な選手じゃん。もっといいとこ住めるんじゃないのか?」
「あー……そういうとこに住めなかねぇが、割と遠征とかで家に戻ってくる機会も少なかったりするしな。正直寝るところに拘りなんかねぇ」
「ふーん、そんなもんか……」
「そんなもんだよ。食も拘りねぇから、減量とかがない限り適当だしな……最近はシャンフロぐらいしか趣味もねぇし無駄に金が溜まってくわ」
「んだそりゃ、贅沢な悩みだなぁ」
真澄は楽郎が撫で終わるのを見計らい、猫を抱き上げる。
「さて……なんだかんだ出歩いたまま帰ってこない事の多いこのおデブが、この時間に家の前にいるのは珍しいんで、さっさと連れ帰るわ」
「そっか」
軽く返事をしたものの、楽郎はどこかまだ猫を撫でたそうにしているように感じた。
「よ……………………っっ」
「よ?」
「……よ、り道あんましてねぇでさっさと帰れよ。もうねぇとは思うが、あん時の変なのが捕まったって話もきかねぇしな」
「ん? おう、そうだな……そうするわ、サンキュ! じゃあまたな!」
「…………ああ」
重い猫を抱きつつ楽郎を見送った真澄は、自分をなじるように呟く。
「何考えてやがる、俺は……」
先ほど真澄が言いかけ、慌てて言い換えた言葉。
『寄ってくか?』
友人を誘う気安い言葉のはずだが、この数日、自分を慰めるための想像に出続けた相手に言うことは、言葉の意味がまるで変ってくる。
普段ゲームの中で、サバイバアルとして変態発言を繰り返していた真澄だったが、その実とても真面目で、自制のきく男だ。
だからこそ、自分が自分の欲にまみれた誘いをしそうになったことに、苛立ちを見せている。
「……これは、マジで気を付けねぇと、いつかやらかすな……ちっ……少々距離置くか……」
口ではそういうものの内心ではそれはしたくないと思っているのか、無意識に苦虫を嚙み潰したような顔をする真澄の腕の中で、まるでため息でもつくかのように、猫がぶにゃん……と鳴いた。
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一方家路につく楽郎は若干不満げだ。
「くっそー真澄の奴め、あの流れだったら『寄ってくか?』くらい言ってくれると思ってたんだけどなぁ……あのでっかいの触り心地最高だったし……あ、あいつの名前聞くの忘れてた。まあ次会った時でも聞くかな」
あいつの部屋どんなかな、なんか汚そうだな、などと呟きつつも、楽しそうに楽郎は帰宅する。
距離を置くことを視野に入れてだした真澄とは裏腹に、楽郎の中で無意識のうちに、真澄への友人としての距離が近くなっていく。