真の楽を求める方法 作:はすりー
猫を介した話をした日を境に、楽郎と真澄の接触は、リアルはもちろんゲームですら減っていった。
必要な用事がない時は、ゴルドゥニーネユニークの関係上頻繁に蛇の林檎に顔を出していたのだが、そのとき今までは必ずと言っていいほど出くわしていたサバイバアルがいないことが多かった。
「あれ、サバ今日もいねぇのか……」
「ああ、なんか最近ログイン昼間だったり、そもそもインしてない事も多いんだよサバさん」
「へぇ……」
漠然と試合が近いのだろうかと考え、そのまま適度にウィンプをからかいつつ、ティーアスに鍛錬をつけられて、サンラクはログアウトした。
~~~~
「………………んん」
業務用のVR機器から離れ、楽郎は気まぐれにホームページを調べてみるが、真澄の所属する団体のページには、試合や遠征と言う話は載っていなかった。
「…………別に直近で試合とかはなさそうだけどな……調整期間とかそういうのか? ……まあそのうち会えるだろ」
しかしその後変わらず、サバイバアルと遭遇することはなく、気が付けば一週間以上顔を合わせることがなかった。
~~~~
ある平日、創立記念日で学校が休みの日、楽郎は意気揚々と昼間からシャンフロにインする。
夕方から夜、もしくは深夜から朝方までインしていることの多いので、この日は珍しく昼間にサンラクが蛇の林檎に顔を出すということだった。
「お邪魔しますっと」
「いらっしゃいま……なんだ」
「客になんだはねぇんじゃねえのか? ウィンプ。……ん? ……おお?」
ウィンプに雑なあいさつを交わした後、いつものように店内を見渡し、久しぶりに見る女性アバターが目に入った。
「お、久しぶりだな! サバイバアル!」
サンラクに呼ばれたサバイバアルは、僅かに身を揺らし、何事もなかったかのように返事をする。
「っ……あ……ああ、そうだな……や、だが俺はそろそろ行かねぇと」
「? 何だ用事か? せっかく久々に会ったんだしさ――」
と言っていると、蛇の林檎のドアが開き。
「しまっ」「っ」
ティーアスがいつものように店内にいた者たちの食べ物を一通り奪っていく。
サンラクは身構えたものの、今日は来たばかりなのでまだ何も注文してなかったことを思い出し、ほっと息をつく。
問題はサバイバアルの方である。
サバイバアルは、自分の飲み物を奪っていったティーアスに目を向け……。
「ティーアス先生……いや、すんません俺今日はこれで!」
そう言ってサバイバアルはそそくさと蛇の林檎から出て行った。
「へっ!? あ、おい!! ……マジか……」
その行動に楽郎を含めたその場にいた全てのプレイヤーに衝撃が走る。
『サバイバアルさんが、ティーアスたんがいるのに店を出た!!?』
店にいた着せ替え隊の面々が騒然とする。
当のティーアスはまるで気にせずウィンプに圧をかけていたが。
「あいつ………………何だってんだ……?」
~~~~
その後、楽郎もプレイに身が入らず、早々にログアウトした。
考えるのはサバイバアル――三澄真澄の事だった。
「あいつ……どう考えても俺が来たからそのまま出てったよな……あのロリコンが、幼女先生がいたってのにそそくさと出ていきやがって……」
状況を考えると間違いなく楽郎の姿を見て店を出たのが分かった。
とはいえ楽郎には理由までは理解できるはずもなく。
「………………あー! 何かモヤモヤすんな!!」
言いたい事も言えない、聞きたいことも聞けない状況に、思わず楽郎は家を出る。
そして向かった場所は……。
~~~~~~
「……………………いや、勢いでアパート前まで来たけど、どの部屋かまでは知らなかったな……」
以前偶然知った美澄真澄の自宅だと言うアパートだった。
とはいえ部屋は知らない楽郎がどうしたものかと考えていると、見た事のある大きな猫がノシノシと歩いてきた。
「お…………デカいの、久しぶりだな」
声をかけられた猫は楽郎を一瞥し、そのまま前を通り抜けアパート一階の奥の部屋のドアをカリカリとひっかき始めた。
「……もしかして……」
楽郎はゆっくりと猫がひっかくドアの前まで歩く。
するとやがて――。
「おいデブ! ドアは引っ掻くなって何回、言え……ば…………」
「……よう」
こうして二人は暫くぶりの再会を果たす。
~~~~
「……………………」
「……………………」
その場でうまく追い返そうとした真澄だったが、足元でいつもでは考えられないほど餌を催促する猫がいた為、餌をやるために部屋に戻る真澄。
楽郎をそのままにしておくわけにもいかず、とりあえず部屋には上げていた。
「…………っと、思ったより綺麗にしてるんだな、部屋」
楽郎が何か話題をと思った末の一言。
しかし真澄は眉をひそめながら、自らの聞きたいことを尋ねた。
「お前……何しに来たんだ?」
その言葉に拒絶の意を感じ、一瞬怯んだ楽郎だったが、ここまで来たなら言いたいことを言うべきだと思いなおし、態度をいつもに戻し対応する。
「何しにじゃねぇっつの。なんでか知らんが最近お前俺の事避けてんだろ。理由を言え理由を。正直まるで心当たりねーぞ」
「っ…………」
今度は真澄が言葉に詰まる。
本人に言えるはずもない。
避けていた理由が、楽郎のことを性の対象として見るようになってしまったなどと。
言い淀む真澄に、楽郎は少しだけ首を傾げた後、ニヤリと笑って口を開く。
「何言い淀んでんのかは知らねぇけど、何言ったって今更お前の評価なんてこれ以上落ちねぇよ~このへ・ん・た・い」
「っっっっ……!!?」
それは少し前に、蛇の林檎でサンラクがサバイバアルから話を聞くために煽った言葉。
今はあの時のシャンフロ内とは違い男の体であるために、楽郎は僅かに猫なで声を出し煽った。
それはどこか、かつてのμ‐skYを思い出させる声色で。
楽郎に嫌な思いはさせないでやろうという思いと理性が、記憶の中のμ‐skYに撃ち殺される。
もう駄目だと心の中で呟いた真澄は、静かにため息を吐き、今までの人生でもいう事のなかった言葉――言いなれていない言葉をたどたどしく紡ぐ。
「お前のことが…………す……すきになったからだよっ」