真の楽を求める方法 作:はすりー
『お前のことが…………す……すきになったからだよっ』
「は?」
まるで想像してなかった言葉になかなか理解が追い付かない楽郎。
やがて言葉の意味を理解し、次に真澄が冗談を言っているように見えないことを確認し、叫びをあげる。
「はああぁぁあぁあぁっ!!!?」
「だああぁ! うるせぇ! 隣は空き部屋とはいえこのアパート壁薄いから気をつけろ!!」
その言葉に口を押えて声を止める。
そして少し落ち着いて、静かに尋ねる。
「…………え……お前そっちの気もあったの?」
男文化で過ごすとそういう風習が出来たりもするという話はスぺクリ時代にかつてのナッツクラッカーが話していたのを聞いていたが、目の前の相手は確実にロリコンと呼べる存在だったはずなので、それはないと思っていた。
「ねぇよ…………! なかったよっ、お前に出会うまでは」
「……えぇ……?」
今の楽郎の中には、同性に好かれるという嫌悪感よりも、どうしてそうなったのかという疑問でいっぱいだった。
スぺクリ時代に数多の性癖を聞かせ続けられていた楽郎には、性癖だけで人と距離を置くと言う事はしなくなっていた。
結局のところは、その癖を持ってる人間の人となりが全てだと。
そして少なくとも美澄真澄――サバイバアルとしての付き合いがある彼に対して、まずは話を聞こうと言う姿勢になっていた。
普通であればすぐにでもここから去ろうとするであろう状況にも関わらず、話を聞く姿勢を変えない楽郎に僅かに怯みつつ、真澄は一から話し始める。
「そもそも……サバイバル・ガンマンをやってたときは別に俺はロリコンでもなんでもなかったんだ」
「ああ……正直再会した後は困惑したわ。昔は硬派な感じだった覚えがあったから」
「ただ、サバイバル・ガンマンのサービスが終了して、俺は感情の向ける方向を見失った。それこそ、何もかもがどうでもよくなるくらいな気分だった」
「…………」
その言葉は楽郎にも理解できるものだった。
あのサーバーを漂っていたプレイヤーは、恐らく誰もがその喪失感を味わったに違いないと。
「正直荒れたし、もう何もかもがどうでもよくなって、あの鯖癌で出会った連中を頭に浮かべながらボーっと川を眺めてる時だ……女児向けアニメの服を着て楽しそうにはしゃぐ幼女の姿が目に入った。……その姿に、ちょうど思い浮かべていたお前の姿が重なったんだよ……μ‐skYのお前が笑う姿と目の前で楽しそうにはしゃぐ幼女が」
「…………いやそれ、俺がキッカケとはいえ単にお前がそういう趣味だっただけだろうが」
楽郎が呆れ顔でそういうと、真澄は自嘲気味に笑いながら話しを続けた。
「ああ…………その通りだ。俺自身、長い事ずっとそう思ってきた。自分はロリコンだったんだと。だからμ-skYへの執着を忘れられないんだと」
「お、おう……」
「だがその後に、シャンフロでお前と再会して、幼女でもない女の姿で煽ってきた時、自分の中の性癖が簡単に揺らいだ。あれだけ幼女幼女と騒いでたにもかかわらず、俺の中で対象の年齢がアッサリ上がりやがった」
「……あーあの時か……」
「そして極め付けがリアルで遭遇した時だ……今まで男なんぞ当たり前のように興味なかったはずの俺が、お前が近くにいるだけで心拍数が上がったし……クソみてぇな言い方をするが、正直勃ってた」
「正直すぎるわ」
「幼女を追ってたのもティーアスたんに求めてたのも、全部μ-skYの幻影だ。…………俺が求めていたのは、お前だったんだよ……!!」
「……………………」
真澄は勢いに任せて全てを吐きだした。
二人は互いに僅かに黙りこみ、静かな空間にカリカリと猫が餌を食べる音だけが響いていた。
その沈黙の中、先に口を開いたのは真澄だった。
「とりあえずお前もう帰れ、お前だって自分のことを好きだとか言ってくる大男が近くにいたら気持ち悪いだろ」
そう言って有無を言わさず部屋から追い出そうと動き出す。
「え? あ、おい」
「いいから帰れって…………ああ……シャンフロ内でも避けようとして悪かった。もしよけりゃ、ゲームでは一緒に遊んでくれや。あっちは女アバターだしまだ見た目はマシだろうぜ……」
そのまま楽郎はアパートから閉め出された。
真澄の言葉に対して、何も言えずに外に出されたのだ。
楽郎は一旦家に帰ってゆっくり考えることにした。
家に帰り、考え事を纏める為にも、何気なく当時の事を思い出し、オフラインのサバイバル・ガンマンを起動した。
しかし思考を整理するために始めたものの、そんな状態で巨大生物相手にまともに戦えるはずもなく、三十分もしないうちにログアウトする。
「いててて……考え事しながら鯖癌はやるもんじゃなかったな……」
ダメージが肉体に戻ってきている感覚そのままベッドに倒れこみ、先程までの事を思い返す。
「……あー…………何気にちゃんとした告白は初か……? 初告白アイツかよ」
クラス内での好感度の高い楽郎だが、冗談交じりの告白は何度かされていたが、しっかりとした告白は受けた事がなかった。
冗談で流していたが、その実何割かは脈の有り無しを調べるためにやっていたのだが、それは本人にわかるはずもない。
「μ-skYか……んー…………確かにあん時は、俺を男とわかった上でねちょって来ようとする目線はあったんだよな……うん、当時はだいぶ気持ち悪かった。特に子守唄の時」
サバイバル・ガンマンでのサンラクは幼女の姿ではあったが、声から少年だと言うことは明白だった。
その上で性的な接触を求めてきていた相手には嫌悪感を抱いていた。
「でもアイツはそういう風にはならなかったんだよな。というかそうしないために避けてた感じか……」
下心のある目を向けてきたとしても、かつての漂流者達のようにすぐ行動に移すのではなく、自身に迷惑をかけないよう接触を避けようとした真澄に対して、楽郎は嫌悪感どころか僅かに好感を抱いていた。
これは、もしかしたら当時の……サバイバル・ガンマン時代の楽郎であれば、真澄も他のプレイヤーと等しく嫌悪していたかもしれない。
だが、楽郎も数多のクソゲーをやっていく中で、精神的に強くなっていた。
特にナッツクラッカー……シャンフロ内でのディープスローターとの邂逅が、楽郎の中の性的な話題へのハードルを大きく下げることになっていた。
「…………あー……やっぱそんなに嫌悪感はないな……というか逆になんかちょっと申し訳なく思えてきた」
楽郎の中に、嫌悪感よりも罪悪感が大きくなる。
自分の行動が誰かの性癖を歪めるなどと考えもしていなかったのだ。
μ‐skYに囚われ、幼女が好きになったと言うだけなら楽郎もそんなことは思わなかったであろう。
だが、ロリコンであると自覚していたような男が、今現在は陽務楽郎と言う男に傾倒しようとしている。
これが歪んでいると言わずしてなんと言うだろうか。
自分と言う存在が歪めたと言わずしてなんと言うだろうか。
「………………………………仕方ないな」
僅かに抱いた好感と罪悪感は、スぺクリで得た知識と混ざり、わかりやすい結論に行きつく。
~~~~~~
次の休みの日。
楽郎は真澄の部屋を訪ねていた。
「…………よう」
「……………………」
訪ねられた方は困惑しかなかった。
当然だろう、数日前に告白してきた同性相手の家に、再び訪ねてくるなどと考えもしていなかったのだ。
困惑のまま部屋へ招き入れてしまう。
そして、お茶を振る舞ったあたりでふと気づく。
「(いやなんで部屋にいれてんだよ、アホか俺は)」
チラリと楽郎を見ると、お茶を飲みつつどこか落ち着いてるようにさえ見えた。
もしかしたらあの話を聞いた上で、まだ今まで通りでいられると思ってるんじゃないかと真澄は考えた。
「…………仕方ねぇか」
「ん? なんか言ったか?」
「………………ああ? 今度は何しに来たんだって聞いたんだよ。というかお前はアホなのか? 男に欲情する変態の所にのこのこと……襲われるとか考えないのかね。それとも襲われたいのか? あ? まずはその口で俺のち○ぽでも咥えてもらうか?」
今の妙な関係性のままでいれば、いずれ力任せに楽郎を襲ってしまうのではないかと考えた真澄は、あえてキツく、それもひどく嫌な言い方で突き放そうとした。
いっそ嫌われてしまった方がわかりやすいだろうと。
しかし、それに対して返ってきた言葉は、真澄を唖然とさせるものだった。
「あー……いや、口はちょっとなぁ…………て、手とか、じゃダメか……?」
「は?」