劇場版魔法少女リリィ5!! ~推しの物書きVtuberは百合小説の夢を見るか~ 作:百合道いおりん
12月24日。
クリスマスイブ。
「はいはい!おかわりは今オカンが作っとるさかい待てや!」
繁華街の裏路地、さらにその奥深くにある食事処”八咫烏”。
そこでは予定通りチキンカレーパーティーが開かれ、安い値段でとにかく食いまくれと大量の客が押し寄せていた。
今はついにストックが底を着き、黄美の母が急ピッチで新たなカレーを作っているがそれでも客はやってくる。
押し寄せる客をどうにか捌いていったん追い返しているが、そんななか黄美の頭の上で暴れる者がいた。
「あううう~!!あぅう!!」
「ああ!もう!頭によじ登んなや!」
背中におんぶしていた黄美の拾った赤子、ゲスドランとバディムの面影が残る赤子が黄美の頭によじ登っていた。
人間の赤子ではないだけあって力が強く、既にハイハイは当たり前、今の様におんぶ紐から抜けだし黄美の頭の登ってさえのける。
くすくすくす。
と、その姿を見て笑う者がいた。
猫崎である。
猫崎はカウンターに金を置き、店の紹興酒を勝手にグラスに入れて飲みながら黄美と赤子を見ていた。
カレーに群がる客はいったん追い出したが、カレー代以外で金を払っている私は普通の客だと猫崎はカウンターに居座っている。
「なに笑っとんねん!」
「なんか、貴女がここに来た時のこと思い出しちゃって。」
「あ~、それってオカンがこの店開いたすぐ後やっけ…って、あんた何歳やねん。」
猫崎の話に頷いた黄美であったが、見た目は幼げな猫崎に対してさすがに疑問符が浮かぶ。
猫崎は黄美の言葉に応えることなく、話を続けた。
「そうよ、桐──貴女の母さんが急に赤ん坊拾ってきたの、今の黄美ちゃんと一緒…全く似たもの母娘ねぇ…。」
少し呆れた様に、でも嬉しそうに猫崎は言った。
似たもの、と言われて黄美も嬉しくなった。
顔も、性格も、黄美と母の桐は似ているとは言えなかった。
血の繋がりがない故に当然だと思っていた、が、どうも根っこの部分では似ていたらしい。
照れくさそうに笑う黄美だったが、またしても赤子が黄美の頭に登って髪にしがみつき、暴れた。
「ちょ!やめーや!!ラム!!!!」
「ラム?…ああ、その子の名前だっけ?」
「せやで…まぁこいつ、親がだいたい分かっとるから、親の名前から一文字づつもらってつけた。」
無理やり黄美が赤子──ラムを頭から引き剥がし、胸に抱いてやる。
ラムはその位置がお気に入りなのかご満悦そうに暴れるのを止めると、すぐに眠りについた。
「…大変やで、ほんま。」
「そうね…はーぁ、その様子じゃ私はさみしいクリスマスを過ごすことになりそう」
「…まぁ、ごめんやけど…な。」
猫崎の言葉に申し訳なさそうに黄美が顔をゆがめると、猫崎は一気に紹興酒を飲み干し、こつんと音を鳴らしてテーブルに置いた。
「気にしないでよ、わかってたから、私も。」
少し寂しそうに、でも、すがすがしい笑顔で猫崎は言った。
そうしているうちに家にある調理場から桐が姿を見せた。
「おー、オカン、カレーは?」
「…後は少し…煮込むだけ。」
ぼそり、と黄美の言葉にそう答える。
「そうか…。」
「…。」
「なぁ、オカン。」
「…?」
「ウチのこと、いつから娘やと思った?」
黄美が桐に問いかける。
桐は胸元に抱かれて眠るラムに目をやり、そして黄美に視線をむけると突然その頭を撫で始めた。
「な!ちょ!なにすんのやオカン!」
「黄美…は?」
「あぁ!?」
「黄美は…私のこと…いつ母だと思ってくれた?」
「そんなん…覚えてるはずないやろ…。」
「そうか。」
桐がそっと黄美の頭から手を離す。
黄美にとっては、もう記憶をさかのぼれない頃から桐が母親だった。
「来るか…って。」
「え?」
「黄美に…来るかと聞いた…その時に私はこの娘を育てると…思った。」
「…。」
「変…かな?」
「くく…くくく、いや、変ちゃうで、オカン。」
思わず笑っていた。
それは黄美が思い出せないのも当たり前だ。
きっとそれは桐に拾われた直後、胸に抱くラムと同じような頃にかけられた言葉だったのだろうから。
「ほんま、ウチらって似てるなぁ、オカン。」
蒼は慣れないヒールに苦心しながら、クリスマスのイルミネーションに彩られた街を歩いていた。
その身に纏っているのはサファイアの様に光沢のあるシンプルなナイトドレス。
上からコートを羽織って入るが真冬の冷気が堪える恰好をしているのは理由がある。
これは桃姫のリクエストだからだ。
今日、蒼と桃姫はデートをする。
二人で出かけたことなど数えきれないが、恋人として初めて出かける、デートを行うことにした。
だから互いの好きな格好をして、待ち合わせをしようと決めたのだ。
予定時刻より少し早くに待ち合わせ場所に着く。
そこにはすでに桃姫がいた。
「桃姫!」
「蒼!」
蒼は寒さも構わず、コートを脱いで桃姫の元に駆け寄った。
桃姫の恰好は白とピンクを基調にこれでもかとフリルとリボンをつけた、俗に甘ロリと言っていい姿。
初めて蒼が桃姫に出会ったその日、目の前にいたお姫様に一目惚れしたその時と同じような衝撃が、蒼を貫いた。
「…。」
思わず無言で見とれてしまう。
しかし桃姫は蒼の姿を見ると、少し恥ずかしそうに自分の姿を見つめ、頬を赤らめた。
「蒼、綺麗だね…でも私はちょっと似合わな──」
「桃姫。」
「え?」
「綺麗です。」
「あ──」
「綺麗ですし可愛いですし!それでなんなんですかその自信なさげな顔は!そそります!世界一可愛いですよ!」
「そ、そそ、そそるってなによ!?蒼の馬鹿!!」
「どれだけ自分に自信がないんですか!?ああもう愛おしい!!もうやっぱり全部が好きです貴女の!!!」
「ちょちょちょ!ここ周りに人が──恥ずかしいから!!」
「この感動を堪えきれる自信がありません!!」
「あ…ううう…馬鹿ぁ…。」
「じゃあ逆にその…私はどう思いますか?」
「え…綺麗だよ…蒼は。」
「どこが?」
「へ…。」
蒼の問いに、桃姫は蒼を見つめる。
真っすぐに蒼を見た桃姫はやがて口を開く。
「真っすぐに見てくれる目…。」
「他には?」
「お姫様みたいな髪。」
「他には!?」
「ドレスが似合うところも、背が高いところも、モデルさんみたいなスタイルも、綺麗。」
「他には!!?」
「全部…。」
「桃姫!?」
「…全部、綺麗で、全部、好きだよ私も。」
桃姫が、言葉を紡ぎながらそっと蒼に抱き着いた。
「正直こうやってみんなの前で好きって言ってくれるのも、恥ずかしいけど──」
「も…桃姫…。」
「好き、だよ?」
そう言われた途端、蒼は桃姫の唇を奪っていた。
人目もはばからず、深く、情熱的に、食らいつくように唇を重ねる。
桃姫も負けじとばかりに、扇情的に、貪るように唇を重ねた。
まるで世界が二人きりにでもなったかのように互いの世界に入り込んだ二人は、たっぷり数分間キスを続けてようやく唇を離した。
唇を離した二人は互いの頬に手をやりながら瞳と瞳を合わせ続ける。
「はぁ…はぁ…蒼。」
「ん…はぁ…なんですか桃姫?」
「夜のレストランの予約は?」
「十九時です。」
「時間あるね。」
「はい。」
そうして二人は仲睦まじく手をつなぎ、歩いていきました。
一番近い…ホテル街に向かって…。
「結婚式って…そういうことか。」
クロエは結婚式場にレンタルのウェディングドレスを身につけ、スタッフに囲われながら立っていた。
そして目の前のいるのはカメラマン。
カメラマンはスタッフにあれこれ指示を出しつつカメラの位置を調整している。
シロエが言った結婚式、それは式場でのレンタルドレスを使った撮影だった。
シロエから聞いた話では目の前のカメラマンとバイトで知り合ったことが発端らしい。
いつかクロエと自分の写真をとってもらいたいとシロエはカメラマンに言っていたらしいが、中々タイミングが合わなかった。
だがたまたまクリスマスイヴの昼の仕事にキャンセルができたと聞いたシロエはそれに飛びつき、最終的にここまで準備をした。
ただ撮影するではすまさないと、式場の短い時間のレンタルからなにからなにまでシロエが準備をしたらしかった。
それは時間もかかるだろうと、クロエはシロエがバイトと偽って早く帰っていたことに合点がいった。
そうしているうちに、式場の扉が開かれ、シロエが姿を現した。
「シロエ…。」
「クロちゃん…。」
互いに、遠い距離から見つめあう。
ウェディングドレスに身を包んだシロエが立っている。
想像はしていた。
想像はしたはずなのに。
想像を遥かに超える程──
綺麗だった。
互いに瞳を合わせたまま、シロエがクロエの元に、足を進める。
無言のまま、間近で、互いに見つめあう。
クロエにとっては本当に生まれた時から、ずっと見つめてきたシロエの顔。
だというのに、まるで初めて見つめるもののようにクロエはシロエを見つめる。
シロエも同じようにクロエを見つめていた。
本当に、本当に目の前に互いがいるのか。
二人には分からなかった。
あまりにも幻想的で、現実味がなくて、信じられなくて。
二人が全く同じタイミングで互いの手に触れる。
本当に前の前にシロエが、クロエがいるのか確かめる。
手を重ね、互いの体温を感じる。
そうしてようやく二人は目の前の相手が本当に存在していることを、理解した。
「…。」
「…。」
無言のまま、二人は見つめあう。
見つめあっているうちに、なにやらスタッフとカメラマンの声が耳に入ってきた。
断片的に聞こえる情報の中では、どうやらもう撮影を始めると言っているらしい。
クロエはシロエを見つめたままだった。
シロエもクロエを見つめたままだった。
そして、あるタイミングを狙うと考える。
クロエに口元に微笑みが浮かぶ。
シロエの口元に微笑みが浮かぶ。
シャッターの光と共に、二人が口づけを交わす。
完璧なタイミングだった。
きっとカメラマンも、スタッフも、目を丸くしているだろう。
そう思う。
思うだけなのは、クロエの目にもシロエの目にも、映っているものは互いの姿だけであったから。
「シロエ。」
「クロちゃん。」
「「愛してる。」」
読者の皆様、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
そして良質なプロットを解放してくださった橘瑠璃さんに特別な感謝を。