「さて」
ポポ車に乗って遺跡平原にやってきたアーティとナズは、地図を確認しながらエリアを移動していた。
「私は不足分の鳥竜種の牙を集めてるから、何かあったら何時でも呼んでくれていいから」
「ありがとうございます。でも、いつまでもおんぶにだっこってわけにもいかないですから……!」
アーティはこぶしを握って気合を入れた。そう、ドスジャギィやアルセルタス相手に苦戦しているようじゃハンター生活は立ちいかないのだ。田舎の実家への仕送りなんてもってのほか。
「ふふ、でも撤退のタイミングを見極めるのもハンターの必須技能だからね。一人でできなければ協力して立ち向かう、それこそ人間の強みなんだ」
ナズは笑って言い、じゃあ私こっちだからと歩いて行った。その後ろ姿がやけに大きく見えて、アーティは心の中で私もあれくらい強いハンターになるんだとより一層決意を固めた。
さて、ドスジャギィの狩猟に当たってアーティはいくつか下準備をしていた。前回の敗因はズバリ知識不足であると反省し、雑貨屋で鳥竜種の書を買い込み──先行投資だと言い聞かせた──行動原理や生態について調べておいたのである。故に、アーティとドスジャギィの邂逅は閃光玉から始まった。
「グギャァッ!?」
「ええと、『まずは周りのジャギィから倒すべし』……!」
腰から引き抜くは星紋の剣盾、アルセルタスの素材を幾重にも重ね合わせた重さを売りにする片手剣。その刀身は粗いノコギリのようにギザついている。農作業で培った筋肉でもってそれを振り下ろし、アーティはジャギィの体を引き裂いていく。
「ギッ」
「これで最後!」
飛び込んできたジャギィを躱し首元に刃を叩きこむと、重力の加勢により星紋の剣盾は軽々と鱗を引き裂いた。血と油を振り払い、混乱から回復したドスジャギィと向き合う。響く唸り声が、群れが崩された怒りをアーティにダイレクトに伝えてきた。緊張感が高まる中、先にアクションを起こしたのはドスジャギィだ。上を向き、仲間を呼ぶため遠吠えを上げる。
「アオォーーオッ」
「今ッ」
そして、それこそアーティが狙いたかった隙だった。基本的に群れで行動するジャギィは1対1の戦いに慣れておらず、まず群れを立てなおし数的優位を保とうとするだろう──鳥竜種の書の一節を思い出しながらアーティは素早く踏み込み一閃、がら空きの首元に剣を叩きこもうとする。
「ガァッ!」
「くっ」
しかしドスジャギィは刀身に噛みつくことで無理やりその一撃を防いだ。柄から相手の歯が折れたような感触が伝わると同時、ドスジャギィが体を回転させ体当りを仕掛ける。それを右腕の縦で防ぐも衝撃を殺しきれず、アーティは大きく下がって膝をついた。荒い息づかい、地面についた両手──ダメージが通ったと判断したドスジャギィは追撃のため足に力を入れ、大きくとびかかった。
「──かかった!」
「ギャッ!?」
しかし、アーティはそれを見るや否や素早く後退しスペースを空けた。着地しようとしたドスジャギィは足元に設置されていたシビレ罠を踏み身動きが取れなくなる。
「うりゃあああッ!」
ここぞとばかりにアーティは剣を振り回し、重さの乗った攻撃を仕掛ける。戦いの中で鍛えられたドスジャギィの強固な鱗肌に赤い線がいくつも入り、苦し気な悲鳴が上がった。アーティはシビレ罠の効果時間を考えて余裕をもって距離を取り、アイテムポーチからペイントボールを取り出して投げつけた。これでどこに逃げても見つけ出せる。
「よぅし……まだまだいくぞ!」
△
「おお、やってるやってる」
岩場の上でキロキロと渦巻く虹彩を動かし、アーティの狩猟を見ているのはナズである。汗だくになりながら必死に片手剣を振るその表情を心のアルバムにしっかり保存しながら、ナズは独り言ちた。
「いいなあやっぱり。すっごく人間臭い表情するんだから」
交配する必要のない古龍種の中で、オオナズチたちは生きる目的を「子孫を残すこと」から「知識を残すこと」へと変化させており、蓄えた知識こそが彼らの生きた証と考えられていた。故に、オオナズチとは古龍の中でも特に好奇心が強い。しかし、同種のオオナズチはナズを除いて一匹残らず人間への興味を持っていなかった。何故と問うナズに近くにいたオオナズチはこう答えた。
『彼らはね、早すぎるんだよ。我々とは時間の流れが違う。相手にしていると、その分自分が早く老いるんだ。それが分かっているから皆人間を相手にしない』
そして彼はナズを、不思議なものでも見るような目で見た。
『我々の存在意義は知識を蓄積することだ。莫大な情報量をため込んで、やがてそれ以外の知能が老いた個体は白痴となり自然へと還る。そして新たな代の個体が一から知識を集めなおす……こうして我々の集合知が新陳代謝していくのは知っているだろう?』
『……知ってるよ。それと人間に何の関係がある』
『言っただろう、人間は早すぎると。自然界なら数百年変わらぬ原理でも、人間は僅か数年見ないうちにその生活様式や技術を転換させる。
理解しがたいことだがね、と彼は呟いて、また自らの知識欲を慰めに飛び立った。残されたナズは──
「……あ、しまった。見失った」
物思いすら長すぎるのが私たちの欠点だねと呟いて、ナズはアーティを探しに岩場を駆け上がった。
△
今際の声を上げ、水辺へと倒れ伏すドスジャギィ。群れの長が消えたことで統率を失ったジャギィたちは、遠巻きにその下手人であるハンターを睨みつけ、せめて一矢報いようと狙いを定めて──直後、背後から迫りくる気配に一目散に巣穴へと逃げ帰っていった。そうしなければ死ぬと、獣の本能が絶叫を上げていたから。
「お疲れ、アーティちゃん」
「あ……ナズさん。……えっと、その、見てました?」
「何を?」
「いや、見てないならいいんです! そっか、良かった……」
アーティの言葉で、ナズは自分が何かイイものを見るチャンスを逃したことを悟りひどく後悔した。余計な回想を入れるからこうなるのだ……逆に言えば、物思いに耽るほどの余裕もない。彼が言っていたのはこういうことである。
「ええ、気になるなぁ」
「駄目です! 私の名誉にかかわりますから!」
「また漏らしちゃった?」
ナズの無神経な一言にアーティは顔を真っ赤にしてもごもごと否定した。
「ちがっ……くて!その、今回は漏らしたわけじゃっ……!」
「今回『は』? 前回に近いことだったの? もしかして水辺にいることと関係がある?」
「やめ、やめてぇ……」
ついには顔を覆ってしゃがみ込んでしまったアーティに、もう大体予想がついたナズは止めを刺した。
「もしかして……モンスターに乗ったら大事なところが刺激されて気持ちよくなっちゃった、とか」
「見てたんですねやっぱり見てたんですよね!?」
「見てないよ? ただ……ふふ、そっかぁ」
『お嫁にいけない』とか『自分は変態じゃない』とかぶつぶつ呟き始めたアーティの丸まった背中をさすりながら、ナズは安心させるように優しく話しかけた。
「大丈夫。狩りで昂っちゃうハンターは少なくないよ、別に変なことじゃない」
「うそです」
「本当だって。ギルドの裏手にある建物知ってる?」
「知らない、ですけど」
「アレ娼館なんだよね」
「しょうかん……?」
何も知らないんだなぁとナズは興奮を覚えながら、娼館がどういうものか説明した。
「そ、そ、そんなものが……」
「割と利用者は多いよ、私は行かないけど。ねぇアーティちゃん、その感じだとオナニーもちゃんとやったことないんじゃない?」
「ひゃっ!?」
「処理の仕方、知っておかないと大変だよ? ね、少しだけ教えてあげるから……キャンプ行こっか」
確実に次回はエロです。ええ確実です。話の終わらせ方的に確実です。書きます。
それはそうと、「狩で昂る」っていうのは狩猟後の話なので狩猟中に乗りでイっちゃうのはアブノーマルです。なお前日塗り込んだ薬のせいです。
メタな話をするとドスジャギィは乗りの練習クエストみたいなところあるのでこういった話になりました。