ふしだらな娘だと笑いなさい 作:レスリングマン
『アンツィオ高校、フラッグ車……走行不能! よって……大洗女子学園の勝利!』
はい。勝ちました。
デコイを用意する作戦かぁ。弱いなりに色々と考えているっていうのは伝わったよ。
思ったよりは楽しめたかな。――すぐに終わったけど。
「くそー、負けちゃったかぁ! もうちょっと頑張れると思ったんだけどな!」
「ええ。とても楽しい試合でした。アンツィオは良いチームですね」
営業スマイルでアンツィオ高校の隊長であるアンチョビさんに握手を求める。
この人だけは別格だったな。指揮官としてそれなりに優秀なのに、こんな弱小校にどうしているんだろう?
そんなことを考えてたら、アンツィオの流儀とか言って私たちは急遽開かれた食事会でもてなされた。
「どうだー、美味いだろ? この食に対する情熱がもうちょっと戦車道に向かってくれれば良いんだがなぁ」
「はい。とっても美味しいです」
うん。これは学生のレベルを超えてるなぁ。
アンチョビさんの言うとおり戦車道より、こっちに力を入れてる感はある。
華さんも満足そうな顔をしてるし、アンツィオ高校はいい仕事をしてるよ。
それだけでも、今日の試合には意味があったかな。
そんなことを思ってるとアンチョビさんは私の顔を覗き込む……。
「ノリと勢いで何とかなる相手じゃなかった。……西住、お前は孤独を感じてるのだろうな」
「――っ!?」
「お前の姉も強いが、あいつには負けない自信がある。だが、西住……、お前の強さは異質だった」
アンチョビさんは私に対して同情的な眼差しを送った。全てを見透かしたような嫌な視線を……。
そうだね。彼女はお姉ちゃんと張り合うくらいの実力があったかもしれない。
黒森峰は装填手も砲手も操縦手も優秀だから、車両自体の総合力は遥かに上だろうけど――P40の車長であるアンチョビさん自体の能力は高かった。
でも、私には遠く及ばない。
私の孤独を癒やすには、お姉ちゃんと同じくらいじゃ足りない。
『みほ、あなたからは自分の強さに対する驕りが見えます。躾が必要みたいですね――』
あの日、お母さんは私に上には上がいることを教えたかったのだろう。
西住流で戦うより、一人で本能の赴くままに戦った方が強いと調子に乗っている中学生を相手に……。
――なんで、あの時……私は負けなかったんだろう。
それから、私を見るお母さんの目が変わった。
西住流に合わせろとだけ言われて、何も教えてもらえなくなっちゃった――。
アンチョビさん、あなたの指摘は正しい。
少し撃ち合っただけで私の心の渇きを見抜いたんだ。大した観察力だと言ってもいい。
私は戦車道で強くなれば、強くなるほど孤独を感じていた。
でも、だからといって――。
「人の心に土足で踏み込まないでくれませんか?」
「……西住、孤独を感じて今は辛いかもしれない。だが、いつかお前にもライバルが――」
「ライバル? 笑わせないでください。じゃあ、アンチョビさんが私の孤独を埋められるんですか? 私の虚しさを消してくれるんですか……?」
「――そ、それは。……く、苦しい」
気付けばアンチョビさんの首を私は締めていた。
私の心に知ったような顔をして触れてきたことが許せなかったから。
ライバルなんて出来るはずがない。私と同じ人なんているもんか……。
「西住ちゃん、そこまでだ。せっかく勝ったのに、失格になるよ」
その様子に真っ先に気付いた角谷先輩が私の手を掴む。
何をシテいるんだ、私は……。
チームメイトにこんなところ見られたら――。
「……す、すみません。アンチョビ……さん。どうかしてました」
「ごほっ、ごほっ……、いや、私こそ余計なことを――」
幸い誰もが食事に夢中で……私とアンチョビさんが皆と離れた場所で話していたので、角谷先輩以外は気付いていないみたいだった。
本当にバカだった。こんなにも簡単に揺らいでしまって……。
「西住ちゃん、珍しいじゃん。こんなに感情を剥き出しにするなんてさ」
「ごめんなさい。気を付けます」
「およっ!? 素直だねぇ。こりゃ、このあと雨が降るかな? んじゃ、チョビ子。西住ちゃんのことはこっちに任せてよ」
「チョビ子と言うな! アンチョビだ! アンツィオの偉大なるドゥーチェ・アンチョビと呼べ! ……大洗女子学園は強かった。次の試合も応援してるぞ!」
アンチョビさんは良い人だった。
私に首を絞められたのに、ニコッと笑って済ませるなんて……。
そして、角谷先輩は私のことを恨んでるはずなのに……私を守ってくれた。
私が居なきゃ、困るからだろうけど。
「角谷先輩……、今日……私の部屋に来てくれませんか?」
「あいよ。あたしで良ければいつだって西住ちゃんを慰めたげる」
宴が終わり……、私たちは学園艦へと戻る。
今日は華さんと一緒に過ごすつもりだったけど……私は何故か角谷先輩を部屋に呼んだ。
黒いものが胸の中で蠢くのを好きな人に見られたくなったから――。
◆ ◆ ◆
「あんっ♡ んんっ♡ んっ♡ んっ♡ んんんっ♡♡」
「先輩♡ 今日も可愛いです♡ ちゅっ♡」
「んっ♡ 西住ちゃんも、今日は随分と優しいじゃん♡ んあっ♡ んっ♡」
部屋に招いた角谷先輩を抱き締めながら、一時間くらいキスしたり、小さな胸を触ってみたりしていた。
別に優しくしようと思って優しくしてるわけじゃない。
アンチョビさんに手を出してしまったことが迂闊過ぎて……、そんな弱い自分を角谷先輩に見られたことが更に迂闊で……、力が入らないのだ。
「ちょっと休憩しますか? お茶入れますよ」
「あんがと。――ねぇ、西住ちゃん。それで、準決勝は勝てるのかなぁ?」
私はペットボトルの緑茶をコップに入れて、角谷先輩に手渡す。
彼女はそれをひと口飲むと、私に準決勝は勝てるかどうか聞いてきた。
「まだ勝てるかどうか疑ってるのですか?」
「そりゃ、西住ちゃんの力は疑ってなかったよ。心が乱れることがあるって気付くまでは」
この人はヘラヘラしながらちゃんと私を見てる。
戦車道で一番必要なのはメンタルの強さ。
お姉ちゃんもお母さんも……鉄の心を持っている。
私もそういう強さには自信があるし、試合中に心が乱れたことはないけれど、最近確かに情緒が落ち着かないときも多い。
「心が乱れたことは認めます。でも、角谷先輩は誤解してますよ。それくらいで負けられれば、私は大洗に来てませんから」
だからといって私が多少なりとも動揺したくらいで負ける姿は想像できない。
どんなに心がかき乱されても瞬きの仕方を忘れる人間はいないだろう。
それと同じくらい。私にとって戦車道での勝利とは当たり前のモノ。
気付けば手にしているくらい自然に手に入るモノなのである。
「頼もしいねぇ。まぁ、ウチのチームも西住ちゃんが居れば負けないって雰囲気になってるからさ。逆に不安だったりするのよ」
「慢心してるってことですよね。負けたことが無いなら当たり前です。悪いことをしたとは思ってます」
「悪いこと?」
「私が居るから、大洗女子学園の戦車道チームは負けるっていう経験が出来ない。皆さんが精神的に成長する機会を奪ってるってことですよ」
精神的に成長するには負ける経験は必要だ。
私には必要なかっただけで、敗北から学ぶこともあるから。
もちろん、チームが負けたら学園艦が終わるのだから本当に負けるわけにはいかないのだが……。
私があっさりと勝負を決めるから……失敗とか、そういう痛い目をみたりもしないからチームは何処か緩んだ空気になっている。
「じゃあ、西住ちゃんが万が一でも撃破されたりしたら……」
「そのときは大洗が終わるときです。だから、私がフラッグ車を担当してるんです」
「……そっか。そりゃあそうだよね〜」
まったく、角谷先輩はそんなにこの学園艦が大事かぁ。
万が一でも敗北は嫌ってことか。仕方ないなぁ。
「角谷先輩、私にもお茶……飲ませてください」
「あはは、西住ちゃんも好きだねぇ。んっ♡ んあっ♡」
角谷先輩は口に含んだお茶を私の口の中に流し込む。
私はお茶を飲み干し、彼女に舌を絡ませて彼女を味わった。
キス……随分と上手くなったな。先輩は……。
「仕方ないですね。新しい戦車も入ることですし、私が直接皆さんに特別指導をしてあげますよ」
そろそろ、私も隊長として少なからず敬愛されてきたことだし。
あんこうチームやカメさんチーム以外とも仲良くなろう。
私を勝たせたい。そうチームのみんなに思わせることこそ、総合力を上げる近道だから。
もう、弱みを誰にも見せない。私はそう心に誓った――。
アンツィオ勢との絡みを期待してた方は申し訳ありません。
なんか、みほの闇の部分を書きたくて今回はこんな感じに。
次回は他のチームとの交流でも書こうかと。