ふしだらな娘だと笑いなさい 作:レスリングマン
うん。カチューシャさんは戦いというものが分かってる。
準決勝から最大で15両の車両を使えるようになり、プラウダ高校は当然だけど最大の15両の戦車で試合に臨んでいる。
そして、大洗女子学園の車両はというとたったの6両。
この状況で大洗側が一番されたくないことは何か? それは数の差で押し切られることだ。
カチューシャさんはフラッグ車とその護衛の1両を除いて全車両をもって一気に攻め込んで来た。
戦術も何もあったものじゃない。玉砕覚悟の最大戦力を一挙投入しての突撃――すなわちスチームローラー作戦というやつである。
多少の犠牲を払ってでもフラッグ車1両を仕留めれば良い。
戦力で劣る相手に対してこれほど遠慮なく攻めの一手を打つとは――余程、去年のことがトラウマなんだね。
カチューシャさんの選択は正解だけど……そこから推し量ることが出来るのは――恐れ。
彼女はこの私を恐れている。怖いから遊ばない。
最短で最速で真っ直ぐに一直線に……王を仕留めてこの戦いを終わらせようとしている。
100点の答案ほど面白みに欠けるものはない。
ちょっぴり残念だよ。
模範解答なんて、見飽きているから。
正攻法なんて、崩すことは容易だから――。
「麻子さん、逃げてるけど追いつかれそうな感じを出しつつ、合図でUターンしてください。優花里さん、装填は6割程度の力で
「みぽりん、無理に私にも指示出さなくていいから」
プラウダの主力であるT-34が10両ほど他の5両を無視して執拗にあんこうチームを狙い撃ちにしようとする。
――10両かぁ、思ったよりも釣れたなぁ。
ゆっくりと時間をかけて逃げるふりをしてあげたのは、そろそろチームのみんなにも自信をつけさせてあげたいからだ。
過信でも慢心でもなく、本物の強者であるという自信。
私の言うとおりにすれば、勝てるという確信。
「麻子さん! 今です! こちらに向かってくるT-34の方へと突撃!」
「わかった……」
あんこうチームのUターン。
これが一斉砲火の合図である。
私のフラッグ車はもちろん囮だ。この場に間抜けにも連れ込まれた客人をもてなすための。
砲撃の嵐の中をあんこうチームは進む。
遠くからIS-2の正確な砲撃がこちらを捉えようとするが、私が麻子さんに指示を出している以上……そんなものは当たらない。
「華さん、お願い!」
「お任せください!」
10両のT-34は包囲されて集中砲火を受けたことで動揺し、隊列を乱す。
そんな中、私は確実に1両ずつ履帯を破壊して動きを止め――鬱陶しく凶弾を放つIS-2の元へと進路をとる。
「優花里さん、二撃目は装填速度を早めで――」
「了解しました!」
ここまで優花里さんを休ませたのは、彼女の装填時間を錯覚させるためだ。
経験値の高い優れた戦車乗りは砲撃をリズムで感じ取り、そして回避行動もそのリズムを読んで行う。
――あのIS-2は去年、まぁまぁ強かったと印象に残ってる。
そんな車両こそ、このノイズのようにタイミングをずらすやり方は面白いように決まってしまう。
『プラウダ高校、IS-2行動不能!』
これでプラウダ高校は翅をもがれた虫も同然。
包囲網内は履帯を破壊されて動けなくなった車両ばかりだから、処理は他の5両に任せれば十分。
あとは、フラッグ車をゆっくりと探せば良い。
『――プラウダ高校、フラッグ車行動不能! よって、大洗女子学園の勝利!』
15両に対してこちらは6両――誰もがプラウダ高校が優勢だと思っていただろう。
しかし、私は数の不利を覆しただけでなく味方に1両の犠牲も出さなかった。
――これぞ完全なる勝利である。
お母さん、見ていますか? お姉ちゃんにこんな芸当が出来るでしょうか?
「首を洗って待っていてね……お母さん」
「みぽりん、何か言った?」
「ううん。何でもない。沙織さん、お疲れ様」
「疲れてないから。一斉砲火の指示の伝達をしただけだから」
私たちはこうして圧倒的な勝利を決めて……黒森峰女学園との決勝戦へと足を進めた。
◆ ◆ ◆
「フラッグ車を囮にして、包囲網? その両数でよくそんなことをしてくれたわね」
「優秀なカチューシャさんなら、必ずフラッグ車を狙い撃ちにすると決断を出すと読んでましたから。逆に奇策を取られた方が危なかったです。それに、あんなに多くの車両で来られて逃げ切れるかどうかは賭けでしたから」
心にもないことを述べてカチューシャさんとの勝負はギリギリだったことにしようとする私。
実際は奇策を取られたら、逆にこちらから真っ直ぐにフラッグ車を取りに行ってさっさと終わらせるつもりだったから、どちらにしても負ける気がしなかった。
「そ、そうかしら? あなた中々謙虚じゃない。気に入ったわ」
「今度、ゆっくりと戦車道の戦術について話したいです。カチューシャさんのご意見を頂ければ、決勝戦でのさらなる数の不利を覆せるかもしれませんから」
「そうね。私たちが負けたところが他に負けるのを見過ごすのは嫌だし。いいわよ、このカチューシャが直々にミホーシャを指導してあげる」
さっきまで泣きそうな顔をしてたのに、思った以上に単純で驚いた。
しかし、ノンナさんは怖い顔して私を見ているな。
余程、サシで勝負して負けたのが悔しかったのだろう。
まぁ、彼女が望もうが望むまいがもう一度勝負してあげるつもりでいる。戦車道ではないけれど……。
「西住殿! 凄いですよ、凄いです! 本当に決勝戦に進出が決まるなんて!」
「優花里さん、まだ喜ぶのは早いよ〜」
「優勝が目的なのは分かっておりますが、凄いものは凄いんです〜」
相変わらず、ワンちゃんみたいに喜ぶ優花里さん。
あと一つ取れば優勝なのだから興奮するのも分からなくもないが。
「決勝戦って、生中継するんでしょ? ラブレターいっぱい来たらどうしよう」
沙織さんへのラブレターは全て私が責任を持って焼却処分するね。
彼女とも親しくなってるけど、やっぱり男にモテたい欲が強くて陥落させるのが華さんよりも何段階も難しい。
「勝てば遅刻も取り消される。安心して寝坊が出来るというものだ……」
「ちょっと、冷泉さん! 風紀委員として聞き捨てならないことを言ったでしょう!?」
最近、沙織さんや園先輩への態度を見ていて麻子さんはこっちの素養がありそうな気がしてきた。
今度、スキを見て試そうと思う。
天才である彼女はベッドの上でも天才かもしれないし。色々と覚えさせたい。
「みほさん……、どうでしたか? わたくし、お役に立ててますでしょうか?」
「役に立ててないワケないよ。華さんが安定して当ててくれるから、勝ててるようなものなんだよ」
正面から見つめ合って、華さんを褒める。
彼女のポテンシャルはかなり高いし、最近は夜も一緒にいるから……特に彼女に指導する時間は長かった。
おかげで、行進間射撃でも高い精度を維持出来るようになり、今回のIS-2との勝負でもそれは活かされる。
あんこうチームは最強のメンバーが揃ったのかもしれない。
しかし、今回はあんこうチームだけが活躍したわけじゃない。
カバさんチームは動けなくなったT-34を次々に撃破したし、ウサギさんチームやカモさんチームも初撃破を体験している。
他の車両も成長してるんだけど、火力がね……。
こうして大洗女子学園の戦車道チームは最高の状態に仕上がった。
◆ ◆ ◆
――そして、数日間が経った寄港日。
私は生徒会に命じて、プラウダ高校の学園艦の寄港場所に合わせる形で大洗女子学園の学園艦を向かわせた。
「ミホーシャ、この部屋は気に入ったわ。わざわざ、ホテルの一室まで抑えてくれるなんて気が利くじゃない」
「この部屋、お風呂にジャグジーが付いているんですって。後で入ってみてはどうですか?」
「それはいいわね。……ところでノンナはどこにいるか知ってる?」
「えっ? ノンナさん、居ないんですか?」
カチューシャさんをホテルの一室に連れ込むことに成功した私。
彼女は大きなベッドの上で上機嫌そうに飛び跳ねたりしていた。
ノンナさんは実はもう、この部屋に居るんだけどな……。
ということで、次回はカチューシャとノンナの欲張りセット。
今回は戦車道の描写が長くて申し訳ない。
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