ふしだらな娘だと笑いなさい 作:レスリングマン
「……というのが私の作戦だが、西住隊長はどう思う?」
どこかビクビクとしながら河嶋先輩は車長たちを集めた会議で自らが考えた作戦を話す。
1両を囮にしてキルゾーンに誘導してからの高低差を活かしての狙い撃ち――素人が考えた作戦にしては良いと思う。
まぁ、陽動はバレバレになるだろうから作戦もバレるだろうけど。
それ以前に――。
「たとえ、待ち伏せが上手くいっても撃破となると難しいでしょう。マチルダの装甲は固く至近距離から当てないと無駄撃ちですし、近付けばこちらがやられるリスクがあります。……グロリアーナの戦車は待ち伏せにも怯まずに進軍してくるはずです。履帯を狙って足を止める手もありますが、初心者には難易度が高いかと」
「そ、そうか。西住隊長がそういうのなら、間違いないのだろう。では、隊長はどのような作戦を?」
西住隊長――私は大洗女子学園の戦車道チームの隊長となった。
誰も戦車道経験者が居ないのだから当然の流れといえば流れだ。
そして、この流れは悪くない。初心者ばかりのチームを率いて優勝させた隊長となれば世間は私を見逃さないだろう。
西住流を体現している黒森峰女学園を倒せば、母や姉の顔に泥を塗ることになるが……。
「そんな顔をなさらないで下さい。序盤は河嶋先輩の仰るとおり……Ⅳ号を囮に出します。そこからですが――」
私は自分なりの作戦を話す。
まぁ、作戦など私にはあまり意味がないんだけど。
私にとって作戦とはより楽に勝利するための手段にすぎない。
私がチームにいれば、そのチームの勝利は約束されているからだ。
すなわち「勝利」か「より完全な勝利」のどちらかを手に入れることが出来るのなら後者の方がスマートというだけ。
そもそも、初心者チームで作戦が上手くいくなど甘い見通しはしない。
3割も実行できれば称賛してもよい。きっとトラブルは起こる。
彼女らがそこから学びさえすれば、私は特にそれを咎めることはないし、学ばなくても愛することを止めたりはしない。
当たり前だ――。
彼女たちが弱いことは罪ではないのだ。私が強すぎることが罪なのである。
弱くて儚いからこそ、彼女らが愛おしい。
――弱い者には優しくシテあげなきゃ、ね。
「いやー、西住ちゃんの作戦は凄いね〜。あれが作戦と呼べるのかは置いといて」
「実行することが可能なら作戦です。練習試合とはいえ、グロリアーナに勝つことが出来れば先輩方も少しは安心するでしょう?」
「思いの外、戦車道はやる気なのだな――。……し、失礼した。忘れてくれ」
河嶋先輩は練習試合に勝つ気で臨む私が意外なようだ。
ちょっと調教したくらいで、そんなに弱腰にならなくてもいいのに。
普段は普通に接するようにお願いしてるんだけどな。
「報酬は頂いてますし、愛する先輩たちの為にチームを優勝させてあげようって本気で思ってますよ? 好きな人のために頑張るのって変ですか?」
「いや、全然変じゃないよ。西住ちゃんが不可能を可能にしてくれるんだったら、あたしの身体なんて安いくらいだ」
「そんなに謙遜なさらなくても……。角谷先輩には十分に楽しませてもらってますよ。この前も干し芋をあんな所に入れて――」
「西住ちゃんのリクエストに応えられて喜んで貰えてるんだったら光栄だよ」
私は約束を守る。必ず優勝の二文字を彼女らにプレゼントするし、その時点で縁を切るつもりだ。
実際、活きの良い好みの女の子を好き勝手に出来る権利なんてお金に換算すると幾らぐらいになるのか想像もつかない。
それを唯一の取り柄の戦車道で手に入れることが出来たのだ。幸運を感じずにはいられない。
先輩たちの価値は高い。戦車道の全国大会で優勝するなんてことよりもずっと。
――だって、あんないい声で啼いてくれるんだもん。
「とにかく、こうなったら西住隊長……あなたを信じる。頼むぞ」
「西住さんしか私たちは頼れる人が居ないの。だから――んっ♡」
「ちゅっ♡ そんな目で見ないで下さいよ。安心して下さい。私、戦車道で期待以下の仕事をしたことは一度も無いですから」
心配そうな小山先輩の唇を塞ぎ、私は明日の勝利を約束する。
勝ち続けること――それが私の価値だと思っていた。
負けは許されない西住流の本家の人間として……それが絶対の価値観だった。
今の私はこうして勝つことを望まれている。
それならば、私のすることは一つ。
相手が誰だろうが、何両だろうが、殲滅戦だろうが、踏み潰す。
力の誇示こそが私の価値を認めさせることだから。
好き勝手に振る舞うのも楽じゃないってことである――。
そして、大洗女子学園戦車道チームの最初の試合の日を迎えた――。
◆ ◆ ◆
「と、とても優雅とはかけ離れておりますが、お、おやりになりますわね……」
「声が震えてますよ。ダージリンさん。紅茶のお替わりを飲む時間くらいは待って差し上げましょうか?」
練習試合もそろそろ決着が付きそうだ。
ダージリン隊長が率いる聖グロリアーナ女学院は現在1両……対して大洗女子学園の車両は残り3両。
89式とM3リーが落とされちゃったのは私のミスだなぁ。思ったよりも戦えていたから、終わったら褒めてあげなきゃ。
さて、ここまでの流れを簡単に説明すると――まずは囮で待ち伏せすると見せかけて、キルゾーンから挟み撃ちを仕掛けてくるマチルダとチャーチルの分散の瞬間に奇襲をかけた。
とりあえず、マチルダ二両に向かってⅣ号で突撃して至近距離からの砲撃でこれを撃破。
マチルダからは教科書とはかけ離れた思いもよらない突撃に動揺している様子が手に取るように分かった。
そして、上と下からの挟撃を警戒して足が止まった三両を尻目に市街地へさっさと退避する。
実はⅣ号以外の車両には試合開始と同時に真っ先に市街地に行ってもらっていた。
私が出した宿題は一つ。Ⅳ号以外の四両……つまり、89式、M3リーの他にⅢ突と38tで一両を撃破すること。
手段は問わない。地の利を活かして……必ず一両を撃破さえすれば、後は何もしなくても良い。
私の車両が残りの四両を仕留めればそれで試合終了だから――。
実際に彼女らはよくやった。
陽動に陽動を重ねて、犠牲を払ったのは残念だが……見事にⅢ突の待ち伏せたポイントにマチルダをおびき寄せて宿題をクリアしたのである。
その間に私は十字路でチャーチルとマチルダ間に割って入り……五十鈴さんの初心者とは思えない精度抜群の停止射撃から最後のマチルダを撃破して……現在の状況に至った。
「確かに貴女はお強いです。ですが、イギリスにはこんなことわざがございます。四本脚の馬ですら――」
「撃て〜〜!」
何か語りだしたので、私は五十鈴さんに砲撃の指示を出す。
チャーチルは被弾したが、その厚い装甲に守られて撃破には至らなかった。
「くっ……、お、お替わりの時間を下さるのでは!?」
「イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないんでしたっけ? 少し素直すぎですよ」
本当に紅茶をお替わりしてるとは思わなかったんだけど。
お姉ちゃんと同じくらい優秀な人だと感じたのは間違いだったのかな。
「それより、約束を覚えていますか?」
「――っ!? もちろんですわ……」
「それなら、いいです……」
今回の練習試合――ダージリンさんとこっそりと賭けをした。
――敗者は勝者の言うことを今日一日聞くという。
勝負が終わったらナニをしてもらおうか……今から楽しみだ。
何度か撃ち合った後……、装填スピードとダージリンさんのクセを見抜いた私は――チャーチルの装甲を貫き……この練習試合に勝利した。
『聖グロリアーナ女学院……残存車両0! 大洗女子学園……残存車両3! よって、大洗女子学園の勝利です!』
うん。冷泉さんはもちろん、五十鈴さんと秋山さんも良い仕事してた。武部さんは可愛いからいいや……。
全国大会は今日より楽しめる試合が出来れば良いな。
まぁ、それよりも……今日はダージリンさんで楽しもうっと――。
今回はアレなシーン無しでごめんなさい。
試合内容書くと意外と尺を取ってしまって。
ダージリンとの絡みはまた次回。