ふしだらな娘だと笑いなさい 作:レスリングマン
「五十鈴さん、大丈夫? お母さんと戦車道が原因で喧嘩したって聞いたけど」
「みほさん……。気を使わせて申し訳ありません。わたくしなら大丈夫です。まっすぐに自分の道を進めば……いつか分かってもらえるはずですから」
強いなぁ。五十鈴さんは……。
秋山さんから聞いたけど――大洗の町で偶然五十鈴さんのお母さんと会って……彼女が戦車道をしていることを咎められたそうだ。
彼女の家は華道の家元だから、戦車道みたいな乱暴なのは気に食わないのだろう。
でも、五十鈴さんは自分の意見を曲げずに母親に勘当される。
何か家を追放された私と境遇が似てて親近感が湧いて……あわよくば精神的に弱ったところを助けて恋人に出来ないかなという下心もあって近づいたけど……平気そうだった。
――ちょっと残念。チャンスだと思っただけに。
夜の学園艦で海を見ながら私と五十鈴さんは二人きりで会話をしている。
「強くて羨ましいなぁ。五十鈴さんは。私なんか、お母さんに家を追い出されただけで不安で押し潰されそうになったのに」
こうなったら、逆に弱い私アピールだ。
瞳に涙を溜めて俯きながら、自嘲気味に……五十鈴さんのことを褒めよう。
彼女の優しさを利用するんだ……。
「みほさんは強いですよ。あの生徒会に一人で立ち向かって、されたくないと仰っていた戦車道も隊長として頑張っていますし。わたくし、みほさんを尊敬しています」
キリッとした瞳で見つめられながら、五十鈴さんは尊敬していると言葉に出した。
何だか照れる。こう、ストレートに言われると……。
今、ちょっとイケそうだな。手ぐらい握っても怒られないだろうし、攻めてみよう。
「……五十鈴さんと武部さんに助けられたからだよ。こんな私なんかでも、一人じゃないって分かったら勇気が出たから」
五十鈴さんの右手を両手で握って、ゆっくりと笑顔を作る。
実際にボッチで過ごそうと思ってたところに声をかけてくれたので、彼女らは救いの女神であった。
「……そんなことで助けになるのですか?」
「助けになってるし、今もこうして側に居てもらえて……それが堪らなく嬉しい。五十鈴さんといると安心するから」
「みほさん……」
手を握る力を少しだけ強めて……、彼女の瞳をまっすぐに見る。
ちょっと顔が赤くなってる? 武部さんと違って五十鈴さんはこっち側の気配がするから、私に恋愛感情を抱いてもおかしくないんだけどな。
ダージリンさんの雰囲気とも似ているし。
「こんなわたくしでもよろしかったら……、いつでも側にいさせてもらいます」
「ご、ごめんね。五十鈴さんを元気付けようと思って呼び出したのに……逆に私が元気を貰っちゃった」
「いえ、みほさんとお話して私も心の中の支えが取れました」
私が握った手を振り解こうとする仕草も見せずに、ずっとこうしていてくれる五十鈴さん。
これはもうちょっと図々しいお願いをしてもイケそうだ。
よし。そろそろ関係を進めてみよう。
「五十鈴さん……、もし嫌じゃなかったら――私の部屋に泊まりに来ない? このまま別れるのがちょっと寂しくて」
「ご迷惑で無かったら……是非ともお邪魔させて頂きます」
やった! 五十鈴さんとお泊りだ。
もちろん、まだ手を出す気はないけど……。
軽くハグくらいなら……、頬にキスは厳しいか。
◆ ◆ ◆
「ごめんね〜。無理言って……。紅茶を淹れるから、ベッドにでも座ってて」
「前に皆さんで晩御飯を食べたときも思いましたが……とてもお部屋をキレイにされているのですね」
五十鈴さんを部屋に連れ込むことに成功してテンションが高くなっている私。
そりゃあ、部屋はキレイにするよ。ほとんど毎晩のように先輩たちを抱いてるんだから。
変な匂いとかで勘付かれても嫌だし……。
特に五十鈴さんは鉄の匂いで戦車を見つけるくらい嗅覚が優れているから消臭には気を使った。
「キレイにしてないと落ち着かなくて。神経質かな?」
「いえ、とても落ち着きます。……それは昨日に聖グロリアーナ女学院から贈られたティーセットですか?」
「うん。いい紅茶みたいだから、大切なお客様が来たら出そうと思って」
「まぁ、ありがとうございます。……ふぅ、温かい。温かくて美味しいです」
ダージリンさんから貰った紅茶を出すと彼女は美味しそうに飲んでくれる。
紅茶の味とかよく分からないけど、ダージリンさんが“愛する貴女のために選んだ”とかカードに書いてたから、そこそこ高級品なんだろう。
「ねぇ、五十鈴さん。お願いがあるんだけど……」
「なんですか? 急に改まって……」
私は五十鈴さんの隣に腰かけて彼女の目を見る。
彼女は首をかしげて不思議そうな顔をした。
「ええーっと、五十鈴さんのこと……
「……あのう。お願いってそれだけですか?」
「そ、そうだけど」
私はなんでこんなに緊張してるんだろう。
やっぱり、本当に好きな子の前ではドキドキするんだなぁ。
五十鈴さんのことを名前で呼びたいと言っただけなのに。
「くすっ……、そんなこと許可など取らなくてもよろしいのに。わたくしなど、勝手にみほさんと呼ばせてもらっていますし……もしかしてお嫌でしたか?」
「ううん。嫌じゃない。仲の良い友達みたいで凄く嬉しかった」
「それなら、わたくしも名前で呼ばれると嬉しいです。みほさんみたいな素敵なお友達なら尚のこと嬉しく思います」
「華さん!」
もう……、何ていうかさぁ。好き――。
このすべてを包み込むような優しさとか、淑やかさとか、私のほしいモノを全部持ってる彼女のことが好きで仕方がない。
気付けば私は華さんに抱きついてしまっていた。
「そんなに嬉しかったのですか? きっと皆さんもみほさんから名前で呼ばれたほうが喜ばれますよ」
「そうかな?」
「ええ、きっとそうです。皆さんもみほさんのことが大好きですから」
そんな私を華さんは受け止めて……抱き返してくれる。
ああ、これだけで幸せだ。心が癒やされれば肉体的には何も要らないのかもしれない。
ずっと私の心は乾きっぱなしだったから。
とはいえ、これは一時的なもので……性欲は引き続き先輩たちを使って発散するけど。
それから私たちはテレビを少しだけ見て、華さんに砲撃のコツみたいな話をして……なんと一緒のベッドで寝た。
私が自分の掛け布団としてバスタオルを出したら……華さんから気を使ってベッドを出ようとしたので、冗談っぽく一緒に寝ようとか言ったら上手くオッケーしてもらえて……華さんのいい匂いと共に熟睡することが出来たのである。
本当に今日は良い日だったなぁ。毎日、こんな感じならいいのに……。
それから、特にⅣ号戦車の乗員と仲良くなったり、先輩たちの身体で遊んでたりすると直ぐに戦車道の全国大会の抽選会が始まった。
私は隊長として、抽選を受け――。
◆ ◆ ◆
「一回戦はサンダース大学付属高校ですか。いきなりの強敵ですね。果たして勝てるでしょうか」
「でも、聖グロリアーナ女学院には勝ったじゃん。あそこも強豪校なんでしょ?」
「そうですが、大会だと戦車の車両数を合わせてもらったりしませんから。サンダースは確実に10両の戦車を出してきますから」
「一回戦で負けたら単位や遅刻はどうなるんだ?」
「大丈夫だよ、麻子さん。負けたりしないから」
「おー! さすがはみぽりん、すごい自信!」
一回戦はサンダース付属と試合することになった。
金持ちの学校で、戦車の保有台数は全国トップの強豪校とされている。
尤も……その保有台数の多さも一回戦では活かせないが……。
悪いけど、たったの十両では私のⅣ号をどうにも出来ないと思う。
とりあえず、Ⅳ号をフラッグ車にして負ける可能性を完全に無くして、じわじわと相手チームの車両を削りながら攻めるとしようかな。
ケーキを食べながらそんなことを考えていると、昔馴染の声がした――。
「ふ、副隊長! どうしてここに!?」
「……もう私は副隊長じゃないよ。副隊長はエリカさんなんでしょ? ねぇ? お姉ちゃん」
「ま、まさか。また戦車道を始めているとは思わなかった……。これはどういうことなんだ? みほ……」
私は黒森峰女学園の隊長と副隊長と偶然……喫茶店で再会してしまう。
エリカさんもお姉ちゃんも久しぶりだなぁ。
そんなに私が戦車道を再開したことを驚かなくてもいいのに。
まぁ、敢えて黙ってたけど……。
ごめんね。二人とも……。十一連覇は諦めてもらうから――。
みほ華は大人で芯の強い華さんにみほが惹かれて……みたいな展開が好き。
こっちのみほは本命の前では猫かぶってるだけのゲスな子だけど。
次回は姉妹の再会とかエリカとか。
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