まさかの自分の創造した世界にクラス召喚されたが、これまで通りやりたい放題する 作:日向ネツ
――どうして、こうなった?
俺は周囲の状況を把握してすぐにそんなことを思ってしまった。無理もないことだろう。何せ、先ほどまで教室で授業をしていたはずなのに、気付いたら全く別の場所に立っていたんだからな。もっとも本当に驚いている理由はそれじゃないけどよ。
小さく息を吐いて、上を見上げる。屋根は馬鹿みたいに高い。さらに豪華な装飾が施されたシャンデリアが数十個ほど並んでいる。それだけじゃない。床は朱いカーペットが床に敷かれている。これも相当な高級品だろう。
そして、周囲には俺と同様にこの世界に転移させられたクラスメイトとちょうど授業を受け持っていた担任の教師が立ち尽くしていた。まぁ、授業中に突然魔法陣みたいなのが地面に現れて、そいつが白い光を発したと思えば、ここに移動させられたんだからな。そうなるのが普通だろうよ。
この状況で冷静すぎるだろうって思ってるか? まぁ、今の俺が不自然な自覚はあるよ。だから、表情は困惑したモノを作ってるし、振る舞いも出来るだけ他の連中と同じようにしてる。しばらくの間呆けたフリをしていたが、クラスメイトたちが我を取り戻してきたのを見計らって、俺も左手で頭を抱えて混乱を示す。それと同時に近くにいた
「どこだよ、ここ!!」
その叫びに続くようにクラスメイトたちが次々と言葉を発していく。
「さっきまで確か――教室にいたよな?」
「ちょっと、スマホが圏外なんだけど?」
「ねぇ、これってまさか……誘拐?」
おーおー、テンプレのようにパニックになってる。そこにはクラスの不良グループのリーダーを気取っている遠藤も含まれる。まぁ、こればっかりはしゃーない。こういうクラスまるごと異世界に召喚されるみたいな感じのラノベはわりと存在しているが、それが自分の身に降りかかるなんて誰も思わない。あくまで、ああいうのは創作だけのモノだと思うのが普通だからな。
そもそも、そんなものは一切見ないというヤツだっている――というより、そっちの方が多いだろう。だから、余計に状況が読めずにパニクる。いや、状況が分かったところで冷静に判断することなんてそこらの高校生には無理だ。
あくまで、俺が冷静でいられるのはここが俺が創造して二千年ほど放置していた異世界だからだ。何も分からない状況なら、俺も連中と同様にパニクってただろう。もっとも、この力がある以上、連中よりは手早く情報を得ることは出来ただろうけどな。けど、それでもここまで冷静ではいられなかったろう。
以前は粋がってみせたが、実はこの能力には出来ないことがある。とはいえ、出来ないことはたった四つだけだ。この力を消すこと、俺自身が死ぬこと、俺自身の自我や記憶を無くすこと、そして、現実の世界を救うこと。たったそれだけだ。つっても、四つ目に関しては出来ないというよりやりたくないといった方が正しいかもな。
それ以外はさっきも言ったように何だって出来る。おかげである程度状況は掴めているわけだが――さすがにこの状況は想定外だ。どうしたものかと首を捻っていると、ステージの下にいた連中のウチの二人がこちらに上がってくる。
クラスの連中はパニクってて気付いてないようだが、俺は力を使って、目線を向けることなく見る。そこにいたのは豊かな白い髭を蓄えた壮年の男だった。その隣には屈強な男が立っており、両方がこちらを品定めするように見ていた。その二人の方を見ることなくそこまで把握した俺は左手で頭を抱えて、困惑したフリを続けていると、壮年の男が口を開く。
「……混乱しているところ申し訳ないが、こちらを見てくれないだろうか」
その声にクラスメイトたちが一斉に男の方を見る。これは暗示か。自分より格下の相手にしか通じないが、言葉に魔力を込めることで相手を己の意のままに操る魔術。当然、俺には効かないが、クラスの連中に合わせて壮年の男の方を見る。
「私はムロス王国国王、ザクロ・ヴォン・ストリムフェルド。こっちは我が国の騎士団長、ライズ・トルモンテだ。貴殿らを呼び立てたのは他でもない、この世界の救済のためだ」
クラスの連中にはちんぷんかんぷんだろうが、ストリムフェルドというのは『
これだけ聞くと卑怯なヤツに見えるかもしれないが、ぶっちゃけ英雄も賢者も大差はない。だから、俺は何とも思わない。もっとも、このザクロというおっさんからしたら違うようだけどな。
ザクロは今のこの世界の時勢について話しはじめた。この世界には人間族を始めとした人類種以外にも魔族と呼ばれる人の敵が存在していて、長年彼らに人類は苦しめられていた。
この世界は七つの大陸が存在し、それぞれ十の国がある。そのうちの南側にある五つの国が魔族の手に落ち、このムロス王国にも連中の手が伸びているそうだ。そして、それを行っている主犯格が魔王と呼ばれる超常存在だ。
その魔王を我々に倒してもらいたい、というのがザクロの言い分だ。魔王には魔族と魔物という配下がおり、魔族は人間族が五人がかりでようやく倒せる相手でこちらの世界の人間の手に負えるものではない。
だが、俺たちには魔王を倒すことが出来る可能性があるそうだ。何でも、この世界を創造したとされる創造神が残した歴史書によると異世界の民を召喚することで、あらゆる英傑が努力しても手の届かぬ領域に至った勇者が出現し、その力によって魔王を打倒することが出来る、と記されていたらしい。
……あー、それ俺が悪ふざけで残したヤツだな。過去にも何度か、現実の世界から勇者召喚の形で転移させられているのは知っていたが、まさか、こんな形で俺にしっぺ返しが来るとは思わなんだ。
「身勝手は承知で頼む。この世界を救ってくれ」
そう言ってザクロが頭を下げる。クラスメイトたちはざわついているが、俺は内心ため息をついていた。
下手に出ているが、なかなか食えないジジイだな。どうやら、幻来種については話す気はないようだ。そして、他にもいろいろと隠していることがある。まぁ、別にどっちでもいいんだけどな。どうせ、俺は全てを知ってるから。
そんなことを考えていると不意にソプラノの甲高い声がこの空間に響く。
「ふざけないで! 冗談を言うのも大概にしなさい!」
そこで椋枝先生が力一杯叫ぶ。それにより、クラスメイトたちが一斉に黙り込む。
「私たちは戦いなんて知りません! 魔王を倒せなんて無茶です! 他を当たってください! そして、私たちを元の世界に戻してください!」
「……残念ながら、それは出来ない」
「なぜですか! こちらに移動させられるのなら、元に戻すことも可能なはずでしょう!?」
「これは召喚術と言ってな。異世界から勇者を召喚するためだけに開発された術なのだ。ゆえに貴殿らを元に戻すことは現時点では不可能だ。魔王を打倒できれば、あるいは元の世界に戻れるかもしれない……としか言えん」
「そんな!」
その言葉に椋枝先生が悲鳴を上げる。俺はそんな彼らのやりとりを見て、小さくため息をついた。
……誤解を招かないように言っておくが、召喚者を元に戻す技術は存在している。元々、これは召喚術というよりは転送術というべき技だ。ゆえにこちらに呼び出せるように向こうに戻すことも可能だ。
けど、実行は可能でも、政治的に考えれば出来ない。何せ、今回召喚された連中は椋枝先生を合わせて三十人以上いる。それだけの優れた力を有する連中を早々手放すことは出来ないだろう。何せ、俺たちは外国への政治交渉の切り札になり得る存在なんだからな。
それに加えて、この術は相応の魔力を消費する。短いスパンで何回も使える技ではない。召喚するだけでも凄まじい魔力を消費する。おまけに準備にも相当な時間がかかってしまう。だから、
まぁ、そんなことはどうだっていい。問題は言い方があまりに悪すぎることだ。だから、今まで黙っていたクラスの連中が一斉に騒ぎ出す。
「ふざけんなよ! 返せよ! 元の世界に!」
「そうよ! 魔王なんてどうでもいいのよ! それよりも私にはやらないといけないことがあるの!! そんなくだらないことに時間を取らせないで!!」
「勝手に呼び出しといて、戻せないだぁ!? てめえ、何様のつもりだ!!」
……うん。これは無理だな。完全に暴動と化している。このまま放置したら、またこれまでの二の舞を演じる羽目になりそうだ。仕方ない、ここは俺が無理矢理解決するしかないか……。
そんなことを考えていると不意に光太が盛大に息を吸う。おいおい、まさか……。
「みんな聞いてくれ!」
クラス連中の声を消し去るような、一段と通る声を発した光太はやけに据わった目をしながら、言葉を紡ぐ。
「みんな、突然の事態でパニックになっていると思う。俺もそうだ。けど、俺はザクロさんたちが困っているのを黙って見ていることは出来ない。……だから、みんな、戦おう!」
……何か、変なこと言い出した。俺は脳内でやろうとしていた設定を一旦消し去り、慌てて口を挟む。
「いや、落ち着けって、ホゴ。先生もさっき言ってたろ? 俺らは素人だぜ? そんなのがどう助けになれるってんだよ?」
「心配いらないよ、創一。ザクロさんたちだって、このまま俺たちに魔王を倒しに行けなんて言うとは思えない。そうですよね?」
光太の問いかけにザクロは力強く頷く。そして、弾んだ声で答える。
「ああ。このライズを貴殿らの教官主任とし、しっかりと修練を受けてもらった上で魔王討伐に向かってもらう予定だ。もちろん、援助を惜しむつもりはない」
「聞いての通りだ。それにザクロさんの話を聞いてて思ったが、力が漲っている感覚がある。これなら、魔王を討伐出来るかもしれない。だから、みんな、魔王を打倒して、堂々と元の世界に戻ろう!」
おいおい、マジか? お前。それはさすがにやべーだろ。普通なら、そこはクラスの連中の団結を図って、そこの国王に元の世界に戻すよう迫るとこだぞ?
だが、こいつのカリスマ性は無駄に高い。同調するヤツは少なからずいそうだ。
「あんたにそこまで言わせておいてやらないわけにはいかないじゃない。アタシもやるわ」
案の定、亜美がそんなことを言う。それを見て、俺は諦めた。
……はぁ、仕方ないな。もうやれるとこまでやってみるしかないか。俺は半ばヤケクソで口を開く。
「仕方ねえなぁ。俺もやってやるよ。魔王とやらをぶっ飛ばしゃ、済む話だろ?」
「ありがとう。亜美、創一」
光太がニッコリと笑う。……別に男の笑顔なんざ興味ねえんだがな。何なら、吐き気すらしてきた。
俺たちに続くようにクラスの連中が次々とやる、と言い出した。椋枝先生は必死に止めようとしているが、焼け石に水だ。もうこの流れはどうにもならない。いや、俺ならば流れを変えられる。けど、変えることに意味があるのかどうかを考えなければならない。
俺は時間を止めて、この後のことを考える。このまま、この場にいる全員の記憶を操作して、元の世界に戻るのは簡単だ。というより、普通に考えればそれ以外に俺に残された選択肢はない。事実、先ほど暴動になりかけたときはこの案を実行しかけたしな。
けどなぁ、光太が大見得を切っちまったせいで完全にクラス全体がやる気モードになっちまってる。そして、そのせいで俺もこいつらを素直に返すべきかどうか迷ってる。
俺はこの世界の創造神だ。ゆえにどこかの勢力に肩入れをするわけにはいかない。だが、だからといってここまで士気の上がった集団をなかったことにするのはそれはそれで創造神としての矜持に反している気がするんだよなぁ。
ぶっちゃけ、ザクロたちが困ってるのは事実だ。魔王を倒すためには勇者たちが必要不可欠。そして、魔王を倒す確率を少しでも上げたいのならば、勇者たちの士気が高くなくてはならない。しかし、仮にこいつらを元の世界に戻したとして、こいつらよりもやる気に満ちた集団が後に来るか、という話なんだよなぁ。
実のところ、過去に何度か召喚した事例はある。けど、その
……ごちゃごちゃ御託を並べたが結局、このまま進めたいってのが本音だ。ここまでテンプレなクラスメイトが召喚されることはそうはない。このまま進めりゃ、相当面白くなりそうな予感がある。
俺はさりげなく十和田の方を見る。十和田は冷めた目で俺たちを見ていた。その目はとてもクラスメイトに向けるべきものではない。完全にこちらを見下している目だ。
ふん。やっぱり、お前はそういうタイプか。なら、これを続行する意味もある。悪いな、十和田。お前を実験体にさせてもらうぞ。