聖櫻番長のセックスフレンドだらけの爛れた非日常 作:クビキリサイクル
文緒とエレナと責任の果たし方 その1
文緒ちゃんの様子がおかしい。
それに気付いたのは、朝出会ったその時からだった。
「あ……おはようございます、望月さん」
文緒ちゃんの。
目元が。
赤く腫れていた。
「うきゃあああああああああああああああああああああああああああ!!?」
「!?」
「どどどどどどどどどどどどどどどどうしたの文緒ちゃぁああん!?」
明らかに泣き跡だと分かるその顔に、人目も憚らずに抱き着いた。
場所は学園の校庭だけど、叫びながら抱き着いた。
声が聞こえた範囲の人達に一斉に注目されたけど、相手が私だと分かると、そのままスルーされたわ。
けど、そんなこと! 今はどうでもいいわ!
「ああ! なんてことぉ! 文緒ちゃんが泣いてたって言うのに、傍にいられなかったなんてぇ~!」
「あ、あの……望月さん」
「何があったの? どこか怪我した? それとも悲しいことがあった? まさかまさか、誰かにイジメられたりなんか──!」
「落ち着いてください。そうじゃないんです」
ぽんぽん、と背中を優しく叩いて、私をあやしてくれる文緒ちゃん。
泣いてたのは自分の方なのに、それでも私を気遣ってくれるなんて。やっぱり文緒ちゃんは天使だわぁ。
名残惜しいけどとりあえず離れて、呼吸を整えて、まずは文緒ちゃんの話を落ち着いて聞くことにする。可愛い文緒ちゃんを泣かせた人には、キッッッツイお仕置きをしてあげないといけないし!
「これは、その……ですね」
「うんうん」
「昨日読んだ本で……感動してしまって」
「うん?」
「その涙で、ついた跡なんです」
……あー、そっかぁ。
文緒ちゃんはとっても感受性豊かな子。本のお話で感情移入して、喜んだり悲しんだり出来る。
それが極まっちゃって、お話でも泣いちゃうってことは、文緒ちゃんと知り合ってから無い訳じゃなかった。
そっかそっか。それなら文緒ちゃんが泣いちゃってても不自然じゃないし、私の早とちりだったわけねぇ。それなら安心──
「……ほんとにぃ?」
「は……はい」
「…………」
──安心、な筈だけどぉ。
「文緒ちゃん。嘘ついてる?」
「っ!」
私の指摘に、文緒ちゃんは息を呑んだ。
……明らかに図星のサインねぇ。
「ど、どうしてそんな……」
「あぁ、うん。ほんとにただの勘っていうかぁ。文緒ちゃんが、泣いちゃうくらいのすごい本を、昨日読めたーって感じじゃなくて。元気がない? と思っちゃったから」
「…………」
「……嘘ってことは、分かっちゃったけど。言えないことなのぉ?」
「…………。……ごめん、なさい」
文緒ちゃんが深々と頭を下げる。
「望月さんがどうこうではなくて……、誰にも、両親であっても言えないんです。これは……あの事は、時間を掛けてでも、私一人で自分の中に落とし込まなきゃいけない──」
「駄目よぉ!」
「!」
文緒ちゃんの両手を包み込むように握った。
何があったかは分からないけど、文緒ちゃんはまた一人で抱え込もうとしてる! そんなことしてもロクなことにならないって、どうして分かってくれないのかしらぁ!?
自然と、手に力が入る。
「文緒ちゃん! お友達っていうのは、辛い時に頼って貰えないのは寂しいものなの!」
「……望月、さん」
「話を聞くだけでもいいの! それで文緒ちゃんが少しでも楽になれるなら! 何時間でも付き合うわぁ!」
「…………」
「私じゃあ頼りないって言うなら……そう! 新城くんにも力を貸してもらえれば──」
「っ!」
バシッ、と。
手を、振り払われた。
「……………………え?」
「あ……っ!」
思わずと言ったその行動に、文緒ちゃんは自分で驚いていた。
自分の手と、私を交互に見て、その顔はくしゃくしゃに歪んでいく。
私への申し訳なさと、そんなことをしてしまった自分を責めて。
「ごめん、なさい……っ!」
「文緒ちゃん!」
私よりもずっと傷付いた顔で、文緒ちゃんは校舎へと走り去ってしまった。
常にない雰囲気に周りの人達もなんだなんだ、と様子を窺っていたけれど、私は小さくなっていく文緒ちゃんの背中を見送るしか出来なかった。
伸ばした手も空を切って、払われた手がジンジンと痛む。
でも、手よりも、文緒ちゃんに拒絶されたことよりも、文緒ちゃんにあんな悲しそうな顔をさせてしまったことに胸が痛んだ。
──だから、私は決意した。
文緒ちゃんが望まずとも、文緒ちゃんを苦しませる原因を突き止めて、文緒ちゃんの悩みを必ず解決させてみせると。
「……新城くんの名前が出た途端、過剰に反応したわねぇ。となると、原因はあの子かしらぁ?」
──────────────────────────────────―
あの日から、一夜明け。
昼休み。
(死にてぇ──────…………)
俺こと新城一也は、割と本気で死にたくなっていた。
件の二人はこの時間、LINEで理科室に呼び出しているので、今頃俺の本気の説教とたんこぶが出来るくらいの拳骨を受けた湯川と会って、文句をぶつけている頃だろう。ぶつけてないかもしれないけれど。
本来であれば俺も居合わせ、昨日の件について話し合うべきなのかもしれないが、しかし俺は食堂で頭を抱えていた。
あんなことがあった手前気まず過ぎるし、向こうもきっと同じだろうと気を遣ったつもりだが。
本当の所は、ただ問題を先送りにしたかっただけかもしれない。
というか、今の気分で話し合って、まともな結論を出せるとは到底思えなかった。
(なーにが『チンポの味を頭と身体に覚えさせる』だ。『天地が引っ繰り返っても有り得ません』だ。どんだけ調子づいてんだっつーの……)
思い起こされるのは、昨日笹原先輩の部屋で行った情事のことだ。
治療の為にはああするしかなかったとはいえ、二人の純潔を奪ってしまった。
蠱惑的だった肢体を、余すことなく味わい尽くしてしまった。
欲望の塊を穢れの無かった彼女達にぶつけてしまった。
それだけに飽き足らず、熱に浮かされて知性の欠片も感じられない言葉を当たり前のように吐き、媚薬でおかしくなった彼女達を自分の物にしたい衝動に駆られて、卑劣なことを口走っていたように思う。
詰られ泣かれて、挙句の果てに訴えられても仕方ないだろう。
けれど、相手は椎名と笹原先輩。俺の下劣な言動も、きっと許してくれるだろう。
希望を抱くと同時に、逆にその優しさが齎す罪悪感で潰れてしまいそうになる。
(しかも俺、あの後愚息を収める為に、二人とセックスしたこと思い出して自家発電したんだよな……)
あの二人との情事で得た快楽は、今になっても思い出しただけで勃起出来る程に俺の頭と身体に刻まれてしまった。
これまでしてきた自慰行為と比較にならない。あの時を思い出しながらした自慰が一番気持ちよかったと思えてしまう程に。
最悪なのが、頭の片隅にある俺の獣の部分が『どうやってあの快楽をもう一度得ようか。どうしたらあの二人をまた抱けるのか』と策略を巡らせようとしているのを知覚しておきながら、それを意志の力で排除出来ない事だった。
恐らくこの獣部分は、俺の欲求不満に応じて大きくなることだろう。
これからオナニーの頻度と回数が多くなることを予期し、そのオカズに二人との情事の記憶を使わせてもらうだろうことを心の中で心の底から謝罪する。
(…………自己嫌悪はここまでにしておくとしても、どうしたもんかね)
経緯はどうであれ、彼女達を傷物にしたのは事実だ。
避妊薬の効果が発揮されたかどうかは湯川の腕を信じるしかないが、もしデキていたとしたら、その子供を含めて二人の人生を背負うことになる。
養育費諸々の金銭面は余裕だが、しかし妊婦の世話とか子育てとかになると話は違うし、そもそも家族始め周囲にどう説明して、どうケジメつけたものだろう。
我儘だろうけど、もしデキたとするなら、堕ろしてほしくはない。産んでほしいと思ってしまうし。
同級生と先輩を孕ませたので、責任を取りたい。そう言って、一体どれだけ理解を得られるだろう。うちの親戚連中は祖父様や叔父が
(孕んでしまったとするなら、最低限養育費とか形あるもので責任取れるけど。しかし傷物にした責任ってどうやって取ればいいんだ?)
これで相手が一人ならば「責任取って真剣に交際をさせて頂きます」となって──無論相手の気持ち次第だが。俺は二人のどちらであっても、不満は無かったろうし──、恋知らぬ身でも幸せにすることを誓えただろうが、しかし現実は二人だ。浮気前提で真剣に交際させて頂きますとか、拳どころか鈍器で殴られても文句言えまい。効かないだろうけど。俺の身体は頑丈だから。
とはいえ、殴られたから責任を果たした。なんて単純な話にはならないだろう。そんなことで責任を果たせるなら、喜んで殴られよう。M的な意味ではなく。
(……そもそも、処女を奪ったとはいえ、一回ヤッたくらいで責任云々ってのがおかしいのか? 責任って言葉で縛り付けるみたいで重い? けど何もしないのは薄情過ぎるし……。いや、この考えがいけないのか? 一夜の過ちだと思って、さっさと忘れていつも通り過ごすのが一番なのか? けどあんな体験、忘れようにも忘れられないし。逆に忘れられたら若干傷付くと思う俺がいるし。ああ、もう。結局話し合って決めるしか…………)
購入したカレーライスにも手を付けず、悶々としていると。
「ねぇ」
正面から声を掛けられた。
顔を上げると、そこにいたのは……。
「……望月先輩?」
「…………」
「?」
いつもならば「やっほー」とでも言って、ひらひら手を振る先輩が、今は疑うような睨むような目つきで、俺を見ていた。
常にない緊迫した雰囲気が漂う。
やがて、先輩は口を開いた。
「新城くん」
「なんでしょう」
「昨日、文緒ちゃんと何かあった?」
「……?」
村上先輩?
「いえ、あの人とは昨日会ってすらいないと思いますけど……」
「……ほんとに?」
「ええ」
「……そう。君がそう言うなら、そうなのねぇ」
尋問するような雰囲気が解け、いつも通りの望月先輩になる。
昨日、というからあの事が頭を過ったが、しかし村上先輩とは一切関係無い筈。昨日一日は俺が気配すら感じていないのだから。
けど、どうして急にそんなことを?
「……村上先輩に、何かあったんですか?」
「うん、まぁね」
そう言って、俺がようやくカレーを食べ始めてから、体面に座る望月先輩は語った。
朝、泣き腫らした顔で登校してきた事。
その原因を問うた時に、嘘を吐かれた事。
嘘だと見抜いてから本当の事を聞こうとしても、言えないと言われた事。
説得して聞き出そうとした時、俺の名前が出た途端に手を振り払われた事。
「だから、原因は君にあるんじゃないかって思ったのぉ。でも、その様子だと本当に心当たり無いわよねぇ?」
「そうですね……昨日以前に何かやらかした覚えも無いですし」
いや、やらかしたつもりがないだけで何かやらかしたかもしれないが、しかし昨日交流の無かった先輩が突然泣き出すような出来事があったとは思えない。
となると……一体どういうことになるんだ?
「原因は俺には無いけど、俺には特に聞かれたくない事……とかですかね?」
「それって、どんな事になるのかしらねぇ……。……? はっ、まさか!」
「?」
「穢れを知らない文緒ちゃんが、どこの馬の骨とも知らない人に汚されて、男の子に対して恐怖心を抱いてる、とか!? 嫌よぉそんなのぉお!!」
「……冗談でもそういう事口に出すの、止めてもらえます?」
俺まで殺意が湧きそうだ。
「……私も言ってて嫌な気持ちになったけどぉ、別にそういう風じゃなかったのよねぇ。クラスで見る感じ、他の男の子にはいつも通りだったしぃ。近寄らずとも遠ざからないというか」
「ふむ……とすると、俺からもそれとなく聞いたりってのは、止めておいた方がいいですかね?」
「そうねぇ。何があったかは分からないけど、今の文緒ちゃんにとって君が地雷なのは確かみたいだしぃ」
「地雷、ねぇ……」
……そんな風に思われる程、あの人に嫌われてるとしたら、ちょっと……かなりショックだ。
ただでさえ昨日の事で自己嫌悪と、あの二人に詰られるかもしれない恐怖で大分まいってるというのに。
「原因が君にあったとしても、それが分からないまま謝りに行くのはどうかと思うわぁ。だから、私が原因を突き止めるまで、君はあまり文緒ちゃんと関わらないように、ね?」
「……まぁ、分かりました」
「そんな顔しなくても、きっとすぐ突き止めてみせるわよぉ。訳の分からないまま二人が疎遠になるなんて、私だって嫌だものぉ」
任せなさい、と胸を張るように笑う望月先輩。
そう言ってくれるのは有り難いが、しかし一体何があったというのだろう。
村上先輩が苦しんでいるというのなら、傍に行ってどうにかしてやりたいと思うが、逆にそれが苦しめる事になるかもしれない。
もどかしい気持ちに苛まれる。
(さっきまで椎名と笹原先輩の事で悩んでたのに、今は村上先輩の事で悩んで。こういうとこだよなぁ。自分で自分が八方美人だと呆れちゃうのは)
そして、この時俺は勘違いをしていた。
自分の能力の過信。
『自分がどんな時でも周囲に気を配っている』という、これまでの実績があるが故の思い違い。
昨日、未知の体験をしたばかりだというのに。
それに気付かなかったのは、幸か不幸か。
──────────────────────────────────―
放課後になった。
これまで私、望月エレナは文緒ちゃんについて周囲に聞き込み、張り込みを繰り返しているけれど、未だ原因を掴めずにいる。
一番の手掛かりだった新城くんも、心当たりがないと言っていた。
これでも私、人間観察が趣味なだけあって、嘘を見破るのは結構得意なの。新城くんも嘘は上手い方だけど、多少なりとも不自然さは出る。
あの時の新城くんに不自然さは無かった。
だからあの子が何も知らないと言うなら、それを信じる事が出来る。
けど、じゃあ何があったの? 文緒ちゃん。
「…………」
(あれから結構時間が経ったけど、まだ元気が出ないみたいねぇ……)
朝の出来事の後、文緒ちゃんはまたすぐに謝りに来てくれて、私はそれを許したから、仲直りは済んだ。
けど、やっぱり元気の無い原因については話してくれなくて、結局私はこうして影に隠れて文緒ちゃんの様子を探っている。
図書室で図書委員の仕事をこなし終え、本を開いているけれど、そのページは一向に進んでない。
涙が枯れ果て、塞ぎ込んでしまったような表情。
私でさえ、そんな文緒ちゃんの顔は見ていたくないし、撮りたくもない。
(あぁん。今すぐ抱き締めて慰めてあげたいけどぉ……原因が分からない以上、朝みたいに下手な事言って余計傷付けちゃいそうだしぃ……。私は一体どうしたらいいのぉ!?)
時間が解決してくれるのを待つ? ダメダメ! その間に新城くんと疎遠になって、仲直りさえ出来なくなっちゃうかもしれないし、それまで文緒ちゃんが苦しんでるのを放っておくなんて出来る訳ないわぁ!
教えてくれるまで根気良く聞く? それもダメよぉ! 傷付いてる文緒ちゃんを追い込むような事したら、文緒ちゃんは立ち直ってくれなくなるかもしれないのよ!
でも、でもぉ……。
図書室の本棚に隠れながら頭を抱えて、ああでもないこうでもないと対策を練っていると。
「こんにちはー」
(え? 野々花ちゃん?)
図書室の入り口から、野々花ちゃんが入ってきた。
珍しいわね? 放課後は大抵部活動か、お祖父さんのお店のお手伝いしてるのに。
図書室に用、というよりは探し人がいるから来たみたいで、その証拠にカウンターにいる人を見つけて、そこに迷わず向かっていった。
そう、文緒ちゃんの元に。
「良かった。やっぱりここにいたんだね」
「っ! ……笹原、さん」
(……あれ?)
自分を探しに来たと言って近付いていく野々花ちゃんを見て、怯える小動物のような反応を見せる文緒ちゃん。
そう。まるで、朝に新城くんの名前を聞いた時に見せた表情のような……。
野々花ちゃんは、カウンターの前に立って、席に座っている文緒ちゃんを見下ろす。
「……何か、私に……御用、でしょうか?」
「…………もしかして、なんだけど」
そして、聞いた。
もしかして、と言いながら、半ば確信を持って。
「昨日の放課後、私の部屋の前に来てた?」
その問いの文緒ちゃんの答えは。
目を見開いて驚いた表情が、何よりも雄弁に語っていた。
全年齢版ではまだ未出ですが、番長は普段であれば三キロ先から狙撃スコープで狙われても、狙っている相手の居所を精確に知覚する事が出来ます。
普段であれば、ね。