※この作品はR-18です。

聖櫻番長のセックスフレンドだらけの爛れた非日常   作:クビキリサイクル

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文緒とエレナと責任の果たし方 その2

 

 

 ―――そこに、笹原さんのお爺さんが営んでいる喫茶店に足が向いたのは、本当にただの気まぐれでした。

 いつも通っている書店で新刊の本を予約し忘れ、赴いた時には売り切れてしまい、別のお店を探して本を購入して、たまたま近くを通りすがっただけなんです。

 普段であればすぐにでも家に帰り、自分の部屋に籠って書を開いていたでしょう。ですが、その時は楽しみにしていた本が一度売り切れていたのを目撃して落ち込み、他のお店を探してなんとか手に入れた本。読みたい気持ちは一塩となり、端的に言えばすぐにでも読みたくなっていたのです。

 こちらの喫茶店は落ち着いた雰囲気ですし、コーヒーはとても美味しいので、それを飲みながら本を読むのもいいかな、と。気まぐれを起こしてそのお店に入りました。

 入ってしまいました。

 ……今思えば、その日の開店時間ではまだ無かったのに店が開いていて、それにも関わらず、入った店が客はおろか店員の一人もいないがらんどうだった事を、もっと不審に思うべきだったでしょう。カウンター席に置かれた、形容し難い毒々しい何か(恐らく笹原さんの手料理)のインパクトが、私から注意深さを奪っていたのも一因かもしれません。

 不思議には思ったものの、その内店長のお爺さんか笹原さんが来るだろうと。店内に踏み込んで席に向かおうとした時、何やら上の階で、何かが軋むような物音が聞こえました。

 一度は気のせいかとも思いましたが、二度三度と、物音だけでなく人の声のようなものが聞こえてくれば、上の階に誰かいるのかと疑います。泥棒かもしれない、という危機感より、単純になんだろう? という興味本位だけを持って、私はカウンターを通り、階段を上りました。

 まるで危機意識が足りない。いえ、予感のようなものを感じ取る第六感が、私には十分に備わっていなかったのでしょう。

 聞こえてくる音に人の声が混じってるのが分かっても、それがどんな声を上げているのか。部屋の前まで来ても伝わらなかったのは、お店の防音設備が整っているからなのか、私の感性が鈍いのか。今となっては分かりません。

 音の発生源である部屋―――そこが笹原さんの自室であることさえも、その時の私は気にしていなかった―――、そこで何が起こっているのかを確かめようと、部屋のドアをゆっくり、小さく開けて。

 私は、見てしまったんです。

 

 

 

 

 

 新城君と椎名さんが、抱き合い、交わっているのを。

 

 

 

 

 

「――――――ッ!?」

 

 

 咄嗟に口を手で塞いで、声を封じ込めていました。

 そんなことをしても彼に気配を察知されてしまい、私がここにいることがバレてしまう恐れがありましたが、しかしそれは起きませんでした。

 彼の勘が鈍っているというより、目の前の椎名さんに夢中になって気付いていなかったのでしょう。

 後になって思えば、ですが。

 しかし、その時は何も考えず、ただ声を上げてはいけないと体が先に行動していたんですね。部屋のドアが僅かでも開いた状態で声を上げれば、きっと気付かれると思い。気付かれるのを恐れるのならば、すぐにドアを静かに閉めて、音を立てないように立ち去るべきだったでしょう。

 ですが、私はそれが出来ませんでした。

 足はその場に縫い留められたかのように動かず、身体は石になってしまったかのようで、視線も、彼等が行っていた情事から逸らす事が出来ませんでした。

 

 

(どう、して……)

 

 

 どうして、新城君と椎名さんが性交をしているのか。

 どうして、友達だった筈の二人が、恋人のように口付けを交わしているのか。

 どうして、その横で笹原さんが自身の身体を慰めているのか。

 どうして。どうして。どうして。……頭に浮かんだ数々の疑問に答えてくれる人はおらず、私はただ、息を潜めて、その行為を見ていました。

 彼の雄らしく逞しい身体に閉じ込められるように押し倒され、舌を捩じ込まれ、形の良い乳房を好き放題に弄ばれ。何より繋がっている部分が、あまりに激しい。ともすれば強姦しているようにも映る、新城君の抽送。破裂しているかのように椎名さんの身体に腰を打ち付ける音と、結合部で体液が鳴らす水音が、ここまで聞こえてきます。

 椎名さんは、その全てに悦んでいました。

 交わす言葉さえも、彼女を快楽の沼へと沈めていく要素。

 何が起こっているのか、何も分かりません。それでも、二人がこの行為で喜び合っている事だけは、分かってしまいました。

 

 

(す、すごい……です。新城君の、が……あんな、あんなに大きなのが……椎名さんの、中に……)

 

 

 激しいストロークの中、見え隠れする新城君の男性器。

 遠目に見てもとても女性の膣穴に入るとは思えない太さ。黒々とした雄の象徴とも言うべきそれは、野太い鉄杭のように、椎名さんの膣中に容赦なく打ち込まれていました。突けばベッドが軋み、引けばつられて椎名さんの身体が浮き上がる程に。

 きっと身体の奥深くに、来てはいけないような所まで貫かれている筈です。

 けれど椎名さんの膣穴はそれを喜んで受け入れていて、結合部から愛液が止め処なく溢れさせています。

 そして。

 これから新城君が椎名さんの中に、精液を注ぎ込む事を示唆する言葉が聞こえてきます。

 

 

(中にって、そんな、だめ……!)

 

 

 だってそんなことしたら……孕んでしまう。椎名さんが、妊娠してしまいます。

 彼の男性器に避妊具をつけている様子はなく、女性の妊娠期間に安全日などありません。危険日よりは妊娠し辛いというだけなんです。

 例え二人が……あ、愛して合っていたとしても、学生の身で子を宿す事がどういう事か。二人が想像出来ない筈がありません。

 聖櫻学園が如何に心の広い学校と言えど、奇異の視線に晒されるでしょう。親兄弟に理解を得るのも難しいでしょう。椎名さんの新体操の道だって、妊婦の身体では諦める他なくなるでしょう。

 けれど、彼等は行為を止めようとせず、お互いの身体を絡めて、一時の快楽の為に全てを擲つかの如く、最後の時を迎えようとしていました。

 

 

(だめ、だめ、だめ、待って、そんな、やだ、お願い、止ま―――)

 

 

 

 

 

 ―――大きな大きな嬌声が、響きました。

 

 

 

 

 

 それは、あの清楚で上品で可憐で、マドンナを描いたような椎名さんの口から出たとは思えない、動物のような声にもならない叫び。

 それなのに、この上ない快楽と幸福を得た事を、この上なく伝えてくる叫びでした。

 そして、二人が同時に絶頂した事を、私に教える叫びでした。

 

 

(あ、あ、ああ……)

 

 

 私の危惧を事実だと証明するように、二人の結合部から泡立った白い液体が溢れていました。

 ……本当に、中に出してしまった。

 それも隙間から溢れるだけで、あんな量を。彼女の子宮には、一体どれ程……。

 けれど、二人はまるで離れようとせず、どころかより一層絡み合って、その精液を受け入れようとしています。

 

 

(椎名さんが、あんな顔を……あんな、蕩けたような顔を……。き、気持ち良くて……、堪らないんですか……?)

 

 

 心臓が早鐘を打ち、呼吸が定まらない。

 どうして、どうしてと。頭の中の疑問は増えるばかり。

 胸が痛い。鼓動がうるさい。頭がふらつく。身体が安定しない。

 その場にへたり込んで、持っていた荷物も取り落としてしまう。その音にも、彼等は気付きません。

 

 

(―――いっそ、気付いてくれたなら)

 

 

 椎名さんは、しばらくして絶頂の余韻が落ち着いた後、新城君からの優しい口付けをされ、意識を手放したようでした。

 彼女の体内から新城君の男性器が引き抜かれます。

 椎名さんの股から溢れ出る白い粘液が零れて、溜まりを作るのと同時に、今度は笹原さんが彼の陰茎に吸い付きました。

 二人の体液に塗れたそれを綺麗にした後、彼女は自分にもと、彼を誘います。

 彼等の行為のすぐ傍で、自身を慰めていたのを見れば、準備していたのは分かりました。終わったら、次は笹原さんとするのだろうと。

 

 

(―――新城君は、行為を止めるのでしょうか)

 

 

 そんな笹原さんに、彼は迷いなく応じました。

 椎名さんに向けたものにも負けない熱量を持って、笹原さんを求めていました。

 失神した椎名さんを脇に押し退けて、笹原さんとの行為を始めてしまいます。

 抵抗など一切無く、挿入される男性器。

 それだけで、笹原さんは絶頂に至ります。

 椎名さんと同じ、快楽と幸福の絶頂に。

 

 

(―――それとも、私を……私も―――)

 

「っ!!」

 

 

 自分の思考に危険を感じて、私はそれ以上見るのを止めました。

 部屋のドアを、音が鳴らないように可能な限りゆっくり閉めます。

 床に落ちた荷物を手早く拾い上げて、逃げ出すように部屋の前から立ち去り、喫茶店から走って出て行きました。

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 それからは、無我夢中でした。

 走って。走って。走って。

 体力のない私が全力で走っていればすぐに息を切らすでしょうし、実際すぐ息を切らしていたのでしょうが、私の足は止まりませんでした。

 どんな道をどんな順で走ったか、全く覚えていませんが。気付いた頃には、私はこれまでで一番息を荒げて、自宅の玄関に辿り着いていました。

 出迎えてくれた母が私を見て、何を言って、私がなんと返したか。それもよく覚えていません。

 そのまま自分の部屋に戻り、鍵を閉めて、荷物を放り出し、ベッドに全身を預けて、ようやく私は落ち着いたのです。

 身体だけは。

 

 

(…………何が、起こっていたんですか)

 

 

 一体いつから、あのような事をする関係だったのですか?

 今日何かがあって、ああいう関係に進展したんですか? 

 それとも、以前からそうで、私が気付いていなかっただけ?

 何も判断出来ない程分からない事だらけなのに、起こっていた事実の衝撃が、あまりにも大き過ぎます。

 彼等が……新城君と、椎名さんと、笹原さんが、性行為を、それも避妊無しの本気の子作りをしていたなんて。

 

 

(……二人とも、とても気持ち良さそうでした)

 

 

 思い出すのは、常の彼女達からは絶対に出てこない下品で淫猥な言葉を叫び、夢中で快楽を貪る姿。

 あの二人が、女の子がしちゃいけないような顔で、あんなにも大きな声で、あんなにも淫らな姿を晒していたなんて、どうやって想像しろと言うのでしょう。

 けれど、私は見てしまった。

 二人のそんな顔を。そんな声を。そんな姿を。

 新城君と……好きな人と交わるのは、それ程までに気持ちの良いものなんですか?

 

 

「……ふ、ぅ…………」

 

 

 気付けば、胸と股に手が伸びていました。

 服の上から自分の胸を強く揉みしだき、下着の上から秘所をなぞり、私の身体にくすぐったい感覚が流れていきます。いつもならば、これをしばらく続けていれば、絶頂に至る事が出来ます。

 けれど今は、自分ひとりでこんなことを続けても、とてもそこに行き着ける気がしませんでした。

 私がこれまで感じていたものなど、本物の絶頂には程遠いものだと思い知らされてしまったから。

 それが分かっていて尚、手が止められない。

 少しでも自慰行為で得られる快感に逃げようとしているのも、分かっているのに。

 

 

「はっ……ぁ、んぁ……」

 

 

 どうして、椎名さんと笹原さんと、新城君はしていたんですか?

 どうして、椎名さんと笹原さんなんですか?

 どうして、私じゃ駄目なんですか?

 

 

(……違う。椎名さんも笹原さんも、素敵な人です。二人同時はともかく、彼が好きになっても何もおかしくない。私なんかと違って)

 

 

 自分勝手な事が頭を過る自分が、嫌になる。

 卑しい。

 こんなのただの八つ当たり。

 だから、早く忘れなければ。

 自分でもどんな感情がどれだけ渦巻いているのかも分からないこの気持ちを、押し殺さなければならない。

 彼等がどんな関係にあろうと、私に口出す権利などないのですから。

 

 

 

 

 

「う、……ぅう、う…………ひっく……! ひぅ、うぅうう……!」

 

 

 

 

 

 だから。

 涙はここで、枯らさなきゃいけないんです。

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 ……結局あの後、いつもの絶頂のようなものに至る事さえ出来ないままでした。

 食欲が無くて夕食を抜いてしまい、お風呂に入っても頭が冷えることは無く、寝る時になってまた涙を流して、枕を濡らしてしまいました。

 朝になって、涙で赤く腫れてしまった顔を鏡で見て、母の化粧道具を借りて誤魔化す事も考えましたが、普段お化粧しない私が突然そうしたら不審に思われるので、言い訳を考えてそのまま登校することに。

 けれど、望月さんにはすぐにバレてしまいました。

 嘘を見抜かれてもあの事を口に出す訳にはいかず、私は黙秘を貫こうとしたのに、望月さんはそれを必死に聞き出そうとしました。

 偏に私を慮ってくれたが故に。

 なのに、真剣に心配してくれるあの人の手を、私は振り払ってしまった。

 今彼の名を聞くのが、辛くて、苦しくて。

 

 ……あの時の事は、私の胸の中に仕舞っておくのが一番です。

 正式にお付き合いするにしても、関係を隠すにしても、本人達が決めるべきことですから。

 大丈夫。

 私があの場にいたことを、新城君が気付いている可能性は、きっと無い。気付いていたなら、あの時対処されていた筈ですから。

 あの新城君が気付かなかったのだから、椎名さんと笹原さんに気付かれているとも思えません。

 私が口を割りさえしなければ、あの事は三人だけの秘密―――

 

 

 

 

 

「昨日の放課後、私の部屋の前に来てた?」

 

 

 

 

 

 ―――そう、思っていたのに。

 

 

「な……」

 

 

 たっぷり間を置いて、一番最初に起こした行動は、惚ける事でした。

 

 

「何の……話、でしょう、……か?」

 

「……お店の手伝いをしてる時にね。聞いたんだ」

 

 

 推理小説の探偵のように、事実確認を進める笹原さん。

 

 

「「開店前の店から、野々花の学校の、図書委員だって言ってた子が走って出て行ったのを見た」って」

 

「……っ!」

 

 

 見られて、いた……?

 我武者羅に足を振り回して、あの場から逃げていた私を?

 

 

「それだけなら、部屋の前に来たかどうかは分からないんだけど。お店を閉めて部屋に戻った時に、ドアのすぐそこでこれを見つけたの」

 

 

 そう言って、笹原さんがポケットから取り出したのは、一枚の栞。

 それを見た私は、先程と同じように固まってしまいました。

 だって、それは―――

 

 

(昨日買った新刊の、おまけ……!)

 

 

 まさか、袋を落とした時に横倒しになって、栞が滑り込んでいた……!?

 廊下にあった私の物は全部搔き集めたつもりだったのに、部屋の中に入ってしまっていたなんて……!

 

 

「私はこのデザインの栞を貰った事無いし、心実ちゃんか、か……新城くんの持ち物かもしれなかったけど。おじいちゃんが村上さんを見たっていうのを思い出して、もしかしてと思って」

 

「…………」

 

「……その反応だと、村上さんので間違いない、かな?」

 

「ぅ……ぁ……」

 

 

 身体が、震える。

 昨日あんなに楽しみにしていた本を、袋から取り出す事もしなかったから、気付かなかった。

 言い逃れは……出来ませんでした。

 私の演技が、嘘がもっと上手ければ、二人のどちらかの物じゃないかと惚け続ける事も出来たかもしれないのに、見るからに挙動不審になってしまえば真実だと肯定しているようなものです。

 ……いえ、そうなっても「何故、昨日二人が笹原さんの部屋に居たことを知っているのか」と聞かれてしまえば、そこで終わりです。

 言ってしまえば、あの喫茶店から逃げ出していた姿を見られていた時点で、私の秘密は終わっていた。

 こうなってしまえばもう、笹原さんに、三人に、認める他無いでしょう。

 私が、三人の行為を盗み見した、覗き魔だと。

 

 

「―――ごめん、なさい……っ」

 

 

 身体の震えが目元にまで来て、堪らず涙を流していた。

 何を泣いているんですか、私は。

 悪いのは私なのに、こんな、同情を誘うような事……。

 でも、分かっていても、溢れる涙は止まってくれませんでした。

 昨日あれだけ流したのに、私の涙は枯れてくれなかったのです。

 

 

「覗く、つもりは……ぅ、……無かったん……です……っ! お店に立ち寄って、物音がしたから……なんだろうと思って、それで……!」

 

「ああ! その、待って! 責めるつもりは全然無いの!」

 

 

 急に泣き出した私を前に、あわあわと慌てる笹原さん。

 

 

「村上さんはきっと誤解してるだろうから、昨日の事はちゃんと説明しようと思って!」

 

「ひぅ……せ、説明……ですか?」

 

「そう!」

 

 

 

 

 

「私と心実ちゃんと新城くんとで、え、えっちしてたのは、事情があるの!」

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 そう切り出して、笹原野々花は説明を始めた。

 無論話をちゃんと聞いてもらえるよう、泣き出してしまった文緒を宥めて、落ち着かせながらにはなるが、精一杯誤解の無いように伝えていく。

 ある意味目にした事よりとんでもない事情が込み入っていて、説明をしっかり聞いて尚、まさしく混乱の極致という具合だったが。

 

 

(…………え? なに? どういうこと?)

 

 

 物陰から話を盗み聞きしていた望月エレナの混乱はそれ以上である。

 

 

(えっちって、あのえっち? 『いや~ん、まいっちーんぐ』的なアレじゃなくて、子供には見せちゃいけない感じの? 地上波に流すことは出来ないくらい本気の? 誰と誰が? え? 新城くんと? 心実ちゃんと? 野々花ちゃんが? あらぁ? 人数おかしくないかしらぁ? え? え? え?)

 

 

 元より、エレナは文緒が泣いていた原因を探る為に、ここに隠れていた訳で。

 その原因が解明されている最中だとはいえ、文緒と違って「新城一也と椎名心実と笹原野々花が、昨日3Pをしていた」という事実を、今知らされたのだ。

 晴天の霹靂とは正にこのこと。

 望月エレナともあろう者が飛び出さずにいるのは、出てきたトンデモ新情報に固まっているだけだった。

 

 

「媚薬……ですか?」

 

 

 なんとか泣き止んだ文緒が発した言葉に、正面の椅子に座った野々花はこくりと頷く。

 

 

「正しくは、避妊薬の副作用としての効果らしいけどね。頭のどこかではだめー! って思ってても、身体が言うこと聞いてくれないくらいの効き目だったの。治療しないと数日はあのままって言われて、それまでちっとも耐えられる気がしなかったなぁ」

 

「……その治療に、その場にいた新城君が協力して」

 

「…………その、ね? 男の人の精液でなら、治療出来るって聞いて。私が起きた時には、新城くんと心実ちゃんとで始めちゃってたから……私も、って思っちゃって……」

 

「そういう……ことだったんですね…………」

 

(いや! いやいやいやいやいやいやいやいや!! そういうことだったんですね、じゃないわよぉ文緒ちゃあん!!?)

 

 

 心の中で大絶叫しながら、二人のやり取りにツッコむエレナ。

 勿論そんなエレナの狼狽など、聞き耳を立てられていることに気付かず、今この図書室にいるのは自分達だけと思っている二人には届かない。

 

 

(基世ちゃんがそんなお薬作ってて!? それを野々花ちゃんが取り違えてお料理に混ぜちゃって!? それを心実ちゃんと食べたら発情しちゃって!? 男の子の精液を摂取しないと治らなくて!? 偶然その場に居合わせた新城くんとえっちなことして!? 偶然その現場を覗き見ちゃったショックで、文緒ちゃんが泣いてたの!? どういうこと!? もう訳が分からないわよぉ!)

 

「……ごめんなさい。誤解して、取り乱したりしてしまい……。それに、どちらにせよ覗き見してた事は変わりありません……。その事も、ごめんなさい」

 

「ううん。私も村上さんの立場だったら誤解するだろうし、覗き見もしちゃうかもしれないから。あ、もちろん秘密にはしてほしいけど……」

 

「当然です……。そもそもこんな事を誰かに話して、到底信じてもらえるとは思えませんから」

 

 

 今まさに信じ難い気持ちに襲われているのが一名いるが、その事も二人は当然気付かない。

 蓋を開けてみれば、新城一也という人物がいつものように、困っている人を助けていたということだ。

 今回のトラブルは普段と毛色が違っていた上に、彼等彼女等の関係に大きく関わる出来事ではあったが、本質的には彼の人助けの一環だったのだ。

 昨日芽生えた数え切れない程の疑問が、文緒の中で氷解していく。

 けれど。

 その表情は暗いままだった。

 

 

「…………」

 

(……文緒ちゃん?)

 

 

 混乱の極致にあっても、文緒を優先して観察を続けるエレナは、未だに影を落とす彼女の表情に気付く。

 そして、真正面に座る野々花も。

 

 

「…………」

 

 

 許されたけれど、まだ覗いたことの罪悪感を引き摺っている……訳ではないだろう。

 それも多分にあるかもしれないが、しかしもっと大きな引っ掛かりが、気を沈ませるものがあるのだろうと、窺い知れる。

 そして、野々花はそれに心当たりがあった。

 あの時の行為を見ていたとするなら、一也と心実の行為をすぐ傍で見ていた自分と同じ気持ちだったのだろうと。

 それが叶えられていないが故の表情なのだろうと。

 村上文緒もまた、野々花でも確信を持って名指し出来る一人なのだから―――

 

 

「……ねぇ、村上さん」

 

「……? はい」

 

 

 

 

 

「村上さんも、彼としたい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文緒ちゃんは純真無垢なのもいいんですが、耳年増だったり、依存度高そうだったり、愛が重かったり、ちょっと黒かったり、そんな自分を責めてたりするのがいいなぁって思っちゃうんですよね。
エレナさんは普段変人だけど、胸キュン行動や強引な男らしさに、乙女な反応してくれたりするのがいいなぁって。

前回より前置き長いのは勘弁してください。
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