聖櫻番長のセックスフレンドだらけの爛れた非日常 作:クビキリサイクル
笹原さんから出た質問に、私の頭は真っ白になりました。
「な……!?」
顔に熱が溜まり、赤くなっている事を自覚する。
心臓が大きく跳ねて、飛び出そうになったかと思いました。
それでもじいっと見つめてくるその目から、私は視線を逸らす事が出来ず―――
「な、な、な、なに、を……」
「村上さんは、新城くんと……ううん。一也くんと、したい? えっちなこと」
「~~~~~~~~~~~!!?」
より具体的に繰り返された、その質問。
彼への呼び名が変わって―――あの時のように、変わって―――、真剣味を増したそれが、私を揶揄うものではないと分かってしまいます。
でも、そんな、なんでそんな。
だって彼は、もう二人と……。
「か、彼が……新城君が、二人と、その……したのは、治療の為、でしたよね……?」
「そうだね」
「それなら……」
「でも、私はもう一度したいなぁって思ってるよ。治療じゃなくて、ちゃんと」
―――どうしてですか。
そんな私の問いを、先回りして。
「好きだから」
「――――――」
頬を朱に染めて、恥ずかしそうに、それでも確かに、笹原さんはその言葉を口にしました。
自身の言葉を、気持ちを、疑うことなど許さないように。
―――分かっていた。
笹原さんが彼に懸想していた事なんて、昨日の光景を目の当たりにするよりも前から、ずっと前から分かっていた。
だって彼は、素敵な人だから。
善良な人なら誰だって好きになるなんて本気で思える程に、強くて優しい男の子だから。
その気持ちが、私にも分かってしまうから。
痛い程。
それでも衝撃を受けたのは、こうして言葉にしたのを始めて聞いたからなんでしょうか。
「……村上さんは、そうじゃない?」
じぃっと見つめてくるその瞳から逃げるように、私は顔を俯かせる。
「わ……私、は…………」
どう答えるのが正しいのか。どんな答えを求められているのか。私は、どう答えたいのか。
―――それが分かり切っているからこそ、私は答えられませんでした。
だってそれは、二人と肉体関係を持ち、思い悩んでいるであろう彼を、更に追い詰めるような我儘。自分勝手な望みを押し付ける行為。
ともすれば、卑猥な女と思われても仕方の無い願望だったから。
(でもそれ以上に)
(私がそれを望んで)
(新城君に、拒絶されたら―――)
「っ…………」
想像するだけで、身体が震える。目の前が真っ暗になる。涙が零れそうになる。
いつからだろう。
いつから私は、こんなに欲張りになってしまったのだろう。
新城君とは友達で、一緒にいて、微笑んでくれたら、それで良かった筈なのに。
我儘を言って困らせたくないのに、それを受け入れて欲しくて、拒まれる事がこんなにも怖い。
いつもだったら、私が怖がっている時、不安に押し潰されそうな時。
安心させてくれたのは彼だったのに―――。
「…………村上さん」
答えを出さないまま黙っている私を見て、何を思ったのか。
笹原さんはカウンターの上に置かれた私の手に、自分の手を重ねて、優しく包み込むように握ります。
そして、身を乗り出して、私の耳元で囁きました。
「大丈夫」
「え……?」
「あなたなら、一也くんは絶対に受け入れてくれるから」
その声色には、慈愛と確信が強く込められていました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
笹原さんは図書室から去っていきました。
半ば放心している私と、毒々しい紫色の液体が入った一つの小瓶を置いて。
彼女曰く、これが例の媚薬……避妊薬のようです。
『聞いた話だと、その日の内までなら終わった後でも効果があるんだって。飲んだら発情するのは変わらないから、その都度治療する必要はあるそうだけど』
と言っていましたが、問題はそれを私の目の前に置いて行った事です。
これを媚薬として扱って、彼に関係を迫れ、という訳では無いでしょう。
するならば、これでちゃんと避妊しなさいと、そういう暗黙のメッセージだと思います。
効果の程はあの二人が昨日今日飲んだばかりで確かめられていないですが、破れる危険があるコンドーム(あの時見た彼のサイズを鑑みれば尚更)や、女性の負担が大きいピルという選択肢を考えれば、湯川さんを信じる限りは安心です。他にも避妊法(そもそも膣内射精をしない、などはノーカウントで)があるかも知れませんが、少なくとも私の知識にはありません。
いえ、そもそも。
こんな物を渡されても、私が有効活用出来るとは思えませんでした。
「……『絶対に受け入れてくれるから』、なんて…………」
小瓶を手に取って、しげしげと眺めつつ、一人呟く。
その確信は、どこから来るというのか。
彼が人一倍優しいのは確かですが、駄目な事は駄目ときっぱり言える人でもありますし、今回のこれは優しさの領分を超えています。
二人のように誤飲したのならともかく、自らの意志で飲んで、彼に治療と称して性行為をするなど以ての外です。笹原さんも、それは分かっているでしょう。
第一、笹原さんはどうしてこんな、私を促すような、彼との性行為を勧めるような事をするのでしょうか。
好きだから。そう言うのであれば、逆に彼から遠ざけるのが普通の筈。
彼女の考え方が普通とは違うから?
それとも、何か別の理由が……?
(……止めよう。考えても仕方ない)
そろそろ図書室も閉館の時間です。
手に取った小瓶を、制服のポケットに仕舞って、荷物を纏める。
これは明日にでも笹原さん……いえ、理科室で湯川さんに返しましょう。覗きの件は、最早隠し立て出来ない以上、新城君と椎名さんにもお詫びしなければなりません。
謝って、それを許してもらえれば、後は今まで通り―――
「文緒ちゃん」
「!?」
突如。
本棚の陰から、望月さんが姿を現しました。
いつの間に……違う。何時から!?
「も、望月さ―――」
「ごめんなさい!」
「え……」
「野々花ちゃんとのお話、全部聞いちゃってたわぁ!」
「―――!!」
両手を合わせ、拝み倒すように頭を下げる望月さん。
普段ならその姿を前におろおろと戸惑っていたでしょうが、今の私はそれどころではありませんでした。
聞かれてしまっていた。
私が彼等の行為を覗き見していた事が原因で、望月さんにまで……!
「その上で!」
下げていた頭をガバッと上げる望月さん。
決意に満ち満ちた表情でした。
「文緒ちゃん! 新城くんの所に行きましょう!」
「…………」
呆気に取られてしまいました。
本当に話を聞いていたんでしょうか、この人は。
どういう流れで、どんな顔で彼に会いに行こうと言うのでしょう。
いえ、謝罪する為に、という意図なら確かに会いに行かねばなりませんが、そんな急に心の準備が出来る訳がないというか……。それとも、そうやって後回しにしようとして、いつまでも謝りに行こうとしない事を危惧しているのかも……。
……違うんでしょうね。
望月さんも、私が何を望んでいるのかが分かっていて、それを叶えるべきだと、そう言っているのでしょう。
良くも悪くも、真っ直ぐな人だから。
「……落ち着いてください、望月さん」
でもそれは、駄目。
彼に迷惑を掛けたくなんかない。
何よりも、彼に拒絶されるかもしれないのが、私には―――
「今回の件は」
「あの子、心配してたわぁ」
「……え?」
「朝、文緒ちゃんが泣いてたって私が話しちゃってねぇ」
「は、話したんですか?」
「ええ。そうよぉ」
悪びれもしない、訳ではないけれど、粛々とそれを認める望月さん。
「それを聞いた新城くん、すごぉく文緒ちゃんの事気にかけてたわ」
「…………」
「心実ちゃんと野々花ちゃんと……まぁ、その……大変な事があって、それについてすっごぉく悩んでたのにねぇ?」
……それは、そうでしょう。
だって彼は自分の事より、傷付いている誰かを優先して、助けてあげられる。そんな、
「優しい人だから、ってだけじゃないと、私は思うなぁ」
「!」
考えていた事を当てられ、動揺する。
その隙を突くように、望月さんは言葉を重ねた。
「心実ちゃんや野々花ちゃんにも負けないくらい、文緒ちゃんの事を大切に想ってるからって、私は思ってるわぁ」
「……そんな、こと」
「今回の事だけじゃないわよぉ。文緒ちゃんの愛されエピソードなんて、私が知ってる限りでも数え切れないぐらいあるんだもの。あの子がしてくれてきた事が、全部優しいからってだけって、本当に思う?」
「…………」
「いい!? 文緒ちゃん!」
ズビシッ、と私の眼前に指を突き出す望月さん。
「文緒ちゃんは可愛い! 綺麗! 美少女! それと正直えっちぃ!」
「え、えっちぃ!?」
「白くてぷにぷにの珠の肌! 柔らかもちもちのおっぱい! 滑らかかつくっきりとしたくびれ! むっちりもちもちのお尻! 絶対領域から覗く蠱惑的な太腿! なのに押しに弱くて流されちゃう文学系女の子! 私が男の子だったら、ずぇーったいぱくりと美味しく頂いちゃってるわぁ!!」
「そんなことを声高々に宣言されても……」
「だから」
とても穏やかな笑顔で、言う。
「文緒ちゃんがしたいこと、新城くんも絶対喜んでくれるわぁ」
「…………」
望月さんが時折見せる、優しさに満ちた笑顔。
嘘も偽りも無い。不安に思う事なんて何も無いって。
安心させてくれる笑みを浮かべて、望月さんは私の手を包み込むように握ります。
私は、その手を振り払いませんでした。
……いいんでしょうか?
淫らだと、卑猥だと蔑まれてもおかしくない、こんな願望に従ってしまっても。
思い悩む彼に追い打ちを掛けるような我儘を、新城君は受け入れてくれるんでしょうか?
「というかぁ、喜ばなかったら処刑よ処刑~! 私の必殺エレナパンチをお見舞いして、学校中に新城君は同性愛者って噂を流して、社会的に抹殺しないといけないわぁ~!」
「それは本当に止めてあげてください……」
望月さんの行動力ならやりかねないと思うから怖いです。
「……ねぇ、文緒ちゃんはどうしたい?」
もう一度穏やかな笑みを浮かべ、望月さんは問いかける。
私がどんな選択をしても、必ず手伝う。応援する。そんな言葉を添えて。
包まれた手から感じる優しさ。
私に笑ってほしいと願ってくれる友愛。
―――その奥底に隠そうとしている、本当の本当。
それらを全部感じ取って、私は言葉を紡いだ。
「私は――――――」
このところどこがキリの良い所なのか悩みます。
多分次くらいでエロ入るかなー。