転生ラウルの愚行 作:亀と兎
あれから何度もグレイシアとは手合わせしているが、未だに一本も取れていない。
負けすぎてノアに助言を乞うてみたが、あまり参考にはならなかった。
技? 駆け引き? そんなものは知らん。
レベルを上げて物理で殴れ。
真面目な話、小手先の技を磨く前に熟練度を上げて武器を使いこなしたり、ステイタスという分かりやすい力の差を埋めなければ話にならない。
基本をすっ飛ばして応用に手を出したところ上手くいくわけがないのだ。
グレイシアにも一応聞いてみたが、もっと参考にならなかった。
本人のスペックが高すぎて、技やら駆け引きを持ち込む前に叩き潰せるからである。
そもそもなぜ自分に出来て他人が出来ないのか理解できない様子だった。
ダメだこりゃ。
この日はこれ以上の収穫もなく解散となった。
次の日、俺はグレイシアと村外れの森を探索していた。
家族にはもうすぐオラリオに行くからそっちに専念したいと伝えて、家業はお休みを申し出た。
家族のみんなも俺がいなくなった後のことを考えていたらしいのであっさりと了承された。
俺とグレイシアがデートしているのは、ノアから模擬戦だけではこれ以上の進展は見込めないと判断されたからだ。
それなら森を住処にしているモンスターを相手に実践で経験を積んだ方がいいという話になった。
ゴブリンに畑を荒らされることがあるので、村の治安貢献にも繋がり、一石二鳥というわけだ。
依頼人の行商人と主神の護衛で人員はあまり割けないので、グレイシアだけが同伴となった。
―――――
―――
―
森の探索を開始してから二時間を向かえようとしていた。
既に三度目のゴブリン退治を終えているところだ。
俺はゴブリンを見つけてから真っ先に戦いを挑み、逃げ出そうとすればグレイシアが回り込んで退路を塞ぐ。
俺とゴブリンとの戦いにグレイシアは一度も手を出してこない。
オラリオのダンジョンでは、こことは比にならないほどの苦難が待っている。
ここで手を借りるなら、グレイシアに言われた通り、オラリオではやっていけない。
それに助けが入ると分かっていると、実戦経験を積む妨げになる。
平和な村で鍛錬しかしてこなかった俺にとって、命の奪い合いは良い意味でも悪い意味でも新鮮だった。
お互いの敵意と殺意、この手で下した感触は戦いを終えた後も拭えない。
「随分と奥まで踏み込んじまったな」
「……」
探索をしているうちに森の奥まで進んでしまったが、土地勘のある俺ならまだ引き返すことが出来そうだ。
「邪魔」
「うおっ!?」
一旦、探索を切り上げて村に帰ろうとグレイシアに打診しようとすると、突然首根っこを引っ掴まれ、思わず尻もちをつく。
「おい、なにす――ッ」
俺が文句を言い切る前に何かが頭上を掠めた。
そちらに目を向けると、そこには拳一つ分の石が転がっていた。
いや、石だけではない。
次々とやじりのついていない矢や錆びた剣、槍などが前方から飛んでくる。
とっさの出来事に反応すらできなかった俺とは対象的にグレイシアは舌打ちすると、俺の前に立って手持ちの剣で器用に弾き落とした。
「クソッ!」
立ち上がって加勢しようとするが、弾き落とすことに専念していたグレイシアがこちらに顔を向けることなく、俺が立ち上がる前に手の甲を踏みつけてきた。
「いッてぇな!?」
「動かないで。邪魔になる」
踏んでいる手をねじると一歩、また一歩と飛来するものを弾きながら歩を進める。
「数は、八……タイミングは――ここ!」
飛来物を弾きながら、タイミングを見計らって剣で打ち上げた石の一つを片手で掴み取ると間髪入れずに投擲した。
「グギャ!?」
何かが砕ける音とともに小さな絶叫が聞こえてくると剣を両手に持ち直し、俺を置いて駆け抜ける。
最低限の投擲物を弾きながら接近した彼女は傷つきながらも目先の敵を殲滅していった。
「もう大丈夫」
ゆっくりと立ち上がり、彼女の声が聞こえるところへ向かうとゴブリンの群れが屍を晒していた。
だが、それよりも気になっていたのは奴らの倒れている先にある洞窟。
「おいおい、これって……」
「ゴブリンの根城、だと思う」
グレイシアも要領得ない様子で答えた。
オラリオ外のモンスターについてはそこまで詳しくないのだとか。
「これからどうするんだ?」
彼女の顔を伺うように尋ねた。
これまでの行動を踏まえて、もし「ガンガンいこうぜ」なんて言い出したら魔法を使ってでも引き返す。
今使わないのは意思を捻じ曲げて正常な判断力を奪ってしまうと、帰り道に何かが起きた時に対処できなくなる、かも知れない。
そんな打算と心配をよそに、彼女はさも当たり前のように答えた。
「撤退する」
「いいのかよ」
「私達はこの情報を持ち帰らないといけない。
相手の戦力も分からない状況で、勝手な判断で事態をかき乱すわけにはいかない。
洞窟の奥にもゴブリンがいるかも知れないし、いないかも知れない。
挟撃や行き止まりに当たると私でも対処しきれなくなる。
仮に私だけで対処できたとしても貴方が邪魔。
ここで待機させても、連れて行ってもそれは同じ」
怒涛の正論に何も言い返せなくなる。(元々言い返す気などないが)
俺も彼女の意見に賛成だが、一つだけ気がかりなことがある。
ここを根城にしているゴブリンの生き残りが、この惨状を目の当たりにしてどう思うか。
俺なら仲間に伝えて根城を捨てる。
群れを倒しているだけでもかなりの手練。
もし人間が再びここへ戻ってきたら、と思うとそれしかない。
つまり、俺たちが今から帰ってファミリアに報告してからここへ戻ってきても手遅れかも知れない。
それでも洞窟探検なんてやる気はかけらも起きないが。
それにモンスターの考えなど人には及びつかない。
同族が息絶えていたところで、のんきに居残りしていてもおかしくない。
「待って」
グレイシアは手持ちの剣からナイフに持ち替えるとゴブリンの遺体に突き立てた。
「何してるんだ?」
「……」
返答は返ってこないまま、何かを探るようにナイフを動かしているとその手が止まる。
「見つけた」
ナイフをしまうとその手で遺体に手を突っ込み、石のようなものを取り出した。
「何だそれ、結石か」
「結石? 違う。これは魔石」
何でもモンスターにとって生命の源とも呼ばれる魔力を内包した石らしい。
生態のモンスターは遺体が残るが、オラリオでは倒したモンスターが灰になって魔石だけが残るそうだ。
彼女は魔石の汚れを拭き取って懐に仕舞った。
「用はそれだけか。早く帰ろうぜ」
「……待って」
「まだ何かあるのか?」
腰のポーチから液体の入った瓶を取り出すとこちらに手渡してくる。
「さっきの傷。これ、ポーション」
「さっきの……ああ、踏まれたやつか」
ついでにゴブリンとの連戦で負傷した部分にもポーションを使った。
「お前も使えよ」
さっきの捨て身猛進で飛来物を避けきれていないところを目撃している。
同じ人とは思えない動きをしていたが、中身は俺と同じLv.1。
手を踏まれたことは業腹だが、そもそも俺が気づいて物陰に隠れていれば問題なかっただけだ。
それにわざわざポーションくれたし、この件についてはもう気にしていない。
残ったポーションをグレイシアに返すと、俺たちは帰り道に気を配りながら村まで戻った。
情報を持ち帰った俺たちはすぐさまエウリュアレとノアにゴブリンの群れと洞窟について報告した。
話を聞いた二人は調査隊を編成次第、明日にでも向かわせるそうだ。
今すぐにでも対処して欲しかったが、行商人の護衛で滞在しているのでむやみに動かすことが出来ないらしい。
特に主神の護衛もかねている副団長のノアが調査隊に選ばれることは間違いなくないだろう。
エウリュアレからは土地勘があって、洞窟の場所も知っている眷属として調査隊の案内役を頼まれた。
俺も断る理由はなかったので、二つ返事で了承した。
今のところラウルは初期ベル以下です
恩恵を更新してから三日も経っていないので
ただ体力や戦い方の基礎は問題ない感じです