蛍光灯の灯りで照らされたマンションの廊下を歩きながら、彼女は口元から漏れる白い息を見て、一年の最後――真冬へ入った事を実感していた。
昼間はまだ太陽の光で温かみがあるし、暖房を利かせれば屋内でも快適だが、マイカーもない電車通勤の彼女にとっては、仕事の終わりが夜までもつれ込むこの時期は寒さが嫌になる。夏場、あれほど恋焦がれた冬という季節を前に、夏の温かさを恋しく思ってしまう。
そんな冬の寒さに辟易しつつも、彼女は自宅のドアを開けた。
鍵はかかっておらず、そのままドアノブを回して中に入った。
「ただいまー」
間延びした声で帰りを告げると、リビングから「おかえりー」と男性の声が返って来た。
彼女と同居している、昔馴染みの彼氏の声だった。
コートをかけて、靴を脱ぎ、手洗いうがいをして、ようやく彼の待つリビングへと向かった。炬燵に入ってスマホのゲームをしていた彼の向かいに、彼女は座った。
長い茶髪をリボンで結ったその髪型と、目じりの泣きほくろは、彼女が駆逐艦娘――秋雲である事を物語っていたが、すでに彼女は艦娘ではない。予備役の艦娘であり、今では一般社会で生活している、ただの女性だった。
「晩御飯は?食べてないなら昨日の残りのカレーあるけど」
彼の言葉に、秋雲は首を左右に振った。
「今日はもう食べてきたから大丈夫――荷物届いた?」
秋雲が問い返すと、彼はリビングの端にあった段ボールを指差した。
「おう、届いたよ。また円盤買かったのか?」
「前月分の給料はたいて買ったからね♪」
楽し気な声を出して、秋雲はさっそく大手ネット通販の段ボールを開封し、梱包されたブルーレイディスクを取り出した。
秋雲が今一番楽しんでいる、人気アニメのOVAだ。劇場で公開された時は特典目当てで2週し、内容目当てて追加で5周した。4DXももちろん体験済みだった。
ご執心のアニメのブルーレイを見て満面の笑みを浮かべた。彼はその光景を微笑ましく見ながら、手元にあったリモコンを手に取ってテレビを付けた。接続しているプレイヤーの電源も、同時にリモコンで付けてあげた。
早速、慎重に封を開けて秋雲はディスクをプレイヤーへセットした。
「〝冬コミの新刊〟、これだっけ」
「そうそう。待ちきれずに円盤買う前に描いちゃってさ」
えへへ、と笑いながら秋雲は再生ボタンを押した。
元々、漫画やアニメが大好きで落書きもよくしていた秋雲にとっては、待機を言い渡される事の多い艦娘という仕事は相性が良かった。やがてメモ帳の落書きは、ノート、スケッチブック、タブレットと道具のグレードアップと共に〝作品〟へと変わっていき、好きな作品のイラストを描いてSNSに投げては溜まる反響を受け、使うアテの無い給料を注ぎ込んで、ついには個人製作の冊子――同人誌を作り、即売会イベントへと参加まで果たした。
彼女のサークルはやがてそのジャンルではお馴染みのサークルになり、勢い付いた彼女を阻むものは、深海棲艦と作戦スケジュールだけ。そんな艦娘と同人作家という二重生活は、彼女の艦娘としての任期終了と予備役編入で終わりを告げる事になった。
後に残されたのは、ただひたすら続く膨大な時間。
仕事を探そうにも、満足な学歴もなく軍が斡旋する職に気が乗らなかった秋雲は無職のまま社会に放り出された。どこへ行くあても無く、かと言ってこれから絵を描く以外にする事もしたい事もなく、かくなる上は、そこで一生を終えるのが嫌で仕方なくて飛び出した、あの小さな田舎町の実家へと逆戻りするしかないのか、そんな苦渋の決断を迫られた時、転属で自然消滅した元彼――現役時代の顔馴染みで整備兵だった――の元へ転がり込むという選択肢を秋雲は取った。
アニメを見終えて満足した秋雲は、風呂を済ませると、休み前恒例の晩酌を彼と始めた。
「今のバイトも楽じゃねーなー」
二本目の缶ビールを空けながら、秋雲の口から愚痴が自然と漏れた。
「さんざ喜んでたのに、本屋のバイト」
「仕事は悪かないのよ、問題は人だなぁ」
そこから、十数分ほど秋雲の口から仕事の愚痴が漏れていく。
彼はそれを相槌を打ちながら丁寧に聞いた、一通り愚痴を吐き終える頃には、もう秋雲の缶ビールは空き缶になっていた。
「それだったら、艦娘に復帰はしないのか?艦種を変えれば駆逐艦は無理でも他の艦種で数年はイケる歳だろ」
彼の言葉に、三本目のビールに手を付けようか考えていた秋雲は手を止めた。
「いや。艦娘に戻るのはまっぴら御免だわ」
秋雲は顔をしかめて答えた。
戦争なんざクソくらえ。それが秋雲の意見だった。
確かに前線で仲間たちと過ごした日々は楽しくも刺激的だった、軍隊生活も慣れれば都だったし、上官の一声で危険に飛び込み、深海棲艦と戦って名声を得たりもした。無事に予備役に編入されたり、平和な地上勤務に就いた仲間たちばかりで、秋雲の戦友たちは、誰一人として戦死もしていない稀な存在であった。
しかし、戦争は彼女にとって暗い影――具体的には「同人即売会」という神聖な日を悉く台無しにしてきた過去がある。作戦で参加できず、親しい友人に新刊を託す事はしょっちゅうあったし、大規模作戦で執筆時間が取れずに新刊を落とした事は一度や二度では無かった。印刷所に泣いて縋った事は数え切れない。
秋雲はふと懐かしい記憶を掘り起こしていた。
彼との馴れ初めも、その頃の出来事だった。
前線基地にいた頃、新しい艤装の整備担当が来るという話になり、秋雲の担当になったのが彼だった。
当時の周囲に流れる浮ついた噂話――あの艦娘が指揮官とデキているだとか、あの兵士と艦娘が付き合っているとか、あいつらは寄港する度に男漁りに出かけているだとか――は頻繁に耳にしており、秋雲も例に漏れず異性に興味深々であり、そういう意味では手近な男性であった彼は秋雲の目に留まった。
秋雲の興味本位から始まった付き合いは、かなり上手く行った。元々、話題もよく合う
退役してすぐの頃、かろうじて連絡先が残っていた彼へコンタクトを取った時、秋雲も勇気を要した。
もう自分の事を忘れているかもしれない。そればかりか、新しい女と付き合っているか、もしくは結婚でもしているか。
そもそも、彼に頼って身を寄せるという行為を拒否されるのではないか。そんな不安があった。
だが、再会を果たした時の彼は、前線で会った時と変わらない笑顔で秋雲を出迎えた。
酒に酔う内に、そんな事を思い出してか、秋雲はふふ、と笑った。恥ずかしい事も、この際だから言えるかもしれなかった。
「ありがとね。ホント、助かってる」
「いきなりどうした」
彼が少し驚きながら、缶ビールを少し煽った。
「正直、割とダメなあたしと、一緒になってくれてるのがさ」
ふふ、と自嘲気味に笑いながら秋雲は続けた。
「退役するまでの間……私、もう記憶の中の人になってるんじゃないか、って。ずっと、ずーっと不安でしょうがなかったんだ」
バカみたいよね、と秋雲は続けた。
「いきなり平和な社会に放り出されて、これからどうしていいかわからなくて。頼れる人がずーっと連絡を取れなかった相手しかいないって……」
「俺だって」
彼が声を上げた。
「もうとっくに、他に男作って幸せに暮らしてるもんだとばかり、そう思ってたんだ。だから、また連絡が来た時は嬉しくてな……」
「そうだねぇ……結局、お互い様だもんね」
彼も、秋雲もまた、別れてからとことん異性とは縁は無かった。
それでも、何度かチャンスはあった。彼の後任として来た整備兵や、地上勤務時に事務方の職員と仲良くなったこともあった。それでも、付き合おうという気持ちは湧かなかった。
「しかしまぁ、艦娘としてもダメだったかもね。艦娘改二の艤装背負ってから大して活躍できなかったし、今なんか予備役でお呼びがかかるのが怖くてビクビクしているぐらいなのに」
いつの間にか、秋雲自身が驚くほど、それは寂しげな声になっていた。
「それに、もう27歳だよ。姉ちゃんは結婚して子供もいるし、弟は大企業に就職して順風満帆の生活送ってるし。なーんか、世間の〝理想の人生〟がまるで遠い星で、一生手が届かないみたい」
彼は缶ビールを手に持ったまま、秋雲の話を聞いていた。
少しの沈黙の後、彼はふと呟いた。
「嫁に来いよ。結婚しよう」
「……は?」
その言葉に、秋雲は固まった。
まるで「コンビニに行ってくる」とさり気なく告げるように、日常会話の如く淡々と彼はそう言い放った。
「嫁って、えぇ……」
「前線にいた頃は付き合ってたし、もう3年は同じ屋根の下だし、別に結婚したって構わんだろ。俺は本気だ」
「いやちょっとタンマ」
秋雲は少しの間、感情を整理したかった。
「……そのさ、もうちょいドラマチックに出来なかった?」
「そういうのやったら「カッコつけすぎ」とか言うだろ」
秋雲は思わず笑った。図星だったし、彼が無理して気障にプロポーズをする場面をシミュレートしても、出てくるのは拍子抜けして空回りするような、まるでコントじみた光景だ。
「ダメか?」
返答を訪ねる彼を前に、秋雲は思わず顔が綻んでしまった。
「ううん、いいよ」
酔いなど、とうに吹き飛んでいた。
これが酔いで見えた幻覚なら、醒めたらもっと辛くなるだろうと、秋雲は思っていた。
「おし、ちょっと待ってろ」
そう言うと彼は炬燵から抜け出して、自分の部屋へと向かった。少ししてから、小さな箱を二つ手に取って戻ってきた。
そそくさと炬燵に入ると、小箱を開けて秋雲の目の前へと差し出した。
銀色に輝くリングが、蛍光灯の光を浴びて、箱の中に鎮座していた。
「じゃん。指輪」
「は?」
秋雲は思わず呆けた声を出してしまった。
「いや……サイズ」
「知らないわけ無いだろ?ほら、今年の夏コミでコスプレした時に……」
「いつ買ったの?」
「秘密」
手を出して、と彼に促されるがまま、秋雲はその右手を差し出した。
薬指に、彼とお揃いの指輪が嵌められた。
「本当はクリスマスにプロポーズする予定だったんだけど……ほら、年末だしコミケもあるから忙しいかなと思って、前倒しで」
「いや、別にもう入稿したからイベント当日以外は全然大丈夫だったのに……」
そう返した秋雲だったが、既に目頭が熱くなってきていて、気を抜けば泣いてしまいそうな気持ちになっていた。
「でも、ありがとね」
「これからが大変だなぁ、両親に挨拶しなきゃいけないし、役所へ行って手続きしないといけないし、諸々やっておかないとな」
「あー……それは確かに」
長距離を移動して実家に戻って両親に結婚の許しを得るという、思えば面倒な作業がまだまだ残っていると思うと急に涙が引っ込んだ。
* * *
就寝時間。
部屋のダブルベッドで横になりながら、二人はどことなく寝つけないことに気が付いていた。先ほどのプロポーズの熱がまだ続いているような感じで、秋雲は眠れるはずも無く、ただ淡々と眠くなるまで待っていた。彼もまた、一向に眠れない様子だった。
「ねぇ、たっちゃんさ」
秋雲が、彼の名前を耳元でささやく。
「今夜は〝したい気分〟だけど、どう?」
互いに明日は休みだった。正社員、アルバイトという形で働いているので、どうも休みが重なる日があまりなかったが、こういう日ばかりは夜更かしをしても罰は当たらなかった。
彼は頷いた。
完全に消した部屋の灯りを常夜灯に切り替え、二人は寝間着を互いに脱がせあっていた。
上着を脱ぎ、ズボンも脱ぎ、下着を脱ぎ捨てる。薄明りの下で、互いに生まれたままの姿になって、鼓動が高鳴っているのを二人は感じ取っていた。
予備役の艦娘といえど、その美しさは変わらない。艦娘全盛期だった頃に残ったほんの少しの薄い傷を除けば、その白い肢体は出会った時と変わらず、むしろ歳を重ねただけより色艶を増しているような気さえ彼は感じていた。
裸になったまま、二人は唇を重ねた。
小鳥が啄むような、小さなキスは、やがて舌を絡める深い物へと変わっていく。
歯磨き後の、ミントの香りが残るキスを終えてから、秋雲は彼の股間に視線を落とした。
「元気にさせよっか?」
そう言うと、秋雲は彼をベッドに寝かせ、69の姿勢を取った。
体重をかけないように注意しつつ、秋雲はその局部を彼の眼前へと突き出す。適度に整えたアンダーヘアの下に、秋雲の秘所があった。
彼の両手がその割れ目を指で押し広げる。露になったピンク色の奇麗な蕾に舌を這わせ、味わう。
「んんっ」
秋雲がその刺激に声を上げる、負けじと、秋雲は彼の肉棒を夢中で貪った。
まだ膨らみつつある彼の男性器は、秋雲にとってはもうお馴染みだ。同棲を始めて暫くした頃に「新刊の参考にさせて欲しいから裸になれ」と、恥ずかしがる彼を裸に剥いて熱心にデッサンしたり、勃起させた彼の肉棒をデジカメで撮りまくった話を今思い出して、ふと秋雲は笑みを浮かべた。
――あの頃は、こんな関係になるなんて思ってもみなかったのに。
そんな事を思い浮かべながら、秋雲は愛おしげに、舌で、頬肉で、唇で、彼の肉棒を愛撫していく。
たちまち、血流を帯び、海綿体が膨らんで肉棒が硬くなっていく。むくむくと、彼女の口中で彼が万端の準備を整えた。
ちろちろと、秋雲の花弁を舌先で愛でる彼にも、汗とも唾液とも違う味と、甘いフェロモンのような秋雲の香りが伝わり始めていた。舌先だけではなく、指先でも陰唇の先端――赤々と勃起する陰核に触れてみる。
「んっ…ひゃっ」
反応に耐えきれず、秋雲は思わずフェラチオを止め、口から彼の肉棒を引き抜く、唾液のアーチを、唇から先端に引いて、秋雲は強い刺激に声を上げた。
そろそろ、頃合いだった。
「ねぇ、今日は、私が上になっていい?」
息を途切れさせながら、秋雲が懇願すると、彼は頷いた。
そのままベッドの上で、体勢を変える。彼は、すかさずベッドの脇――小さな棚の引き出しにいつも用意されている、避妊具を取り出した。
「ちょっと待って」
彼は秋雲を制止すると、ビニールの風を破いて、避妊具を取り出した。そのまま、硬く勃起し脈打つそれに、被せた。
焦らされながらも、秋雲はようやく準備が整った彼を押し倒して、寝かせた。
秋雲は彼に跨り、腰を重ねる。
騎乗位の姿勢を取り、濡れそぼった陰唇で彼の肉棒を口付けする。片手で、隆々に直立したそれを手に取って、亀頭を入り口へと這わせた。
ぐん、と腰を下ろすと同時に、彼の肉棒が秋雲の
「はぁあっ」
熱い肉棒を咥え込み、一つになった瞬間に秋雲は恍惚の声を上げた。
避妊具越しという薄い壁に阻まれているが、熱を帯びる彼の硬い感触が十分に伝わる。今まで何度も味わったその感触が、秋雲の心をより興奮させていた。
ゆっくりと腰を下ろし、完全に密着させる頃には彼女の奥底まで挿入された肉棒が、最も奥にある行き止まり――子宮の入り口をキスしていた。
「ねぇ……身体が欲しがってるの……わかる?」
きゅう、と括約筋が彼の肉棒を締め、身体の奥底に宿った熱が、徐々に増していく。
秋雲の、その瞳が彼を愛おしげに見つめた瞬間、彼女の
「いつもより、すっごく硬いよ……」
秋雲は下腹部に手を伸ばして、お腹の上をそっと撫でた。
それから、腰を徐々に浮かしていく。愛液で濡れる膣壁が、彼の肉棒を撫でていく。
腰を上下に動かしながら、秋雲はじんじんと響く気持ちよさに声を上げていく。
ずりゅずりゅと、カリが彼女の中をひっかけてかき乱す。膣内の一番感じる所を擦るのが、特にお気に入りだ。
くちゅくちゅと湿った音が繋がった場所から漏れる。
形の良い、二つのたわわに実る乳房が、ゆらゆらと上下に揺れる。彼ごくりと生唾を呑み込みながら、両手を伸ばしてその乳房を揉みしだく。
柔らかく、だが弾力のある張りのある乳房の感触と、桜色の控えめな乳首を両手の平で愉しむ。まさぐられる度に、秋雲は声を漏らし、乳首が硬さを帯びていくのがわかった。
ベッドのスプリングが軋む音。彼と、彼女の荒い呼吸が、部屋を暖める空調の音と重なって、深夜に響く。
「やばっ、とっ、止まらなっ……あっ」
快楽がむくむくと膨らんでいくような感覚の果てに、秋雲は絶頂の波に飲まれる。
「あっ、ああっ、ああっ――!」
声にならない声を上げて、駆け抜けるような快楽の爆発にすべてを委ねる。一気に腰を下ろし、彼を包み込みながら膣内が、彼を締め付ける。
絶頂が波のように引いていくうちに、我に返った秋雲の目の前には、困惑する彼の姿があった。相変わらず、彼は硬さを帯びたまま――お預けをくらったかのように、今か今かと射精を待っていた。
「……ごめん、先にイっちゃった……」
肩で息をしながらも、秋雲は素直に謝罪した。
「まぁでも……イってる時の顔、すっごく可愛かったぞ……」
彼の言葉に、秋雲は思わず顔を赤らめた。
「じゃ、じゃあ今度はたっちゃんの番ね」
秋雲は腰を浮かして、彼の肉棒を引き抜いた。
愛液ですっかりぬめりを帯びたそれを見ながら、秋雲はふと思案した。
急に無言になって、見つめてくる秋雲を前に彼は思わず「どうした?」と聞き直した。
「……ゴム、外してもいいよ」
「えっ」
秋雲の言葉に、彼は思わず驚いた。
「いつも付ける約束で……」
「今日は特別な日なんだし、こういう時ぐらいは……って」
避妊具を被ったままの肉棒を、片手で優しく撫でながら秋雲は恥ずかし気に呟いた。
「それに、もう赤ちゃんできても問題ないでしょ?」
「それはそうだけど」
少し腰が引けているのが、秋雲にもはっきりと分かった。
だが、その意思に反して彼の肉棒は正直に、がちがちと起立したまま秋雲の手の中にあった。
「……ねぇ」
秋雲は、そっと彼の耳元で囁く。
「私ね……たっちゃんの子供が欲しいかな」
「――っ!」
反応は劇的だった。
彼からの返事はない。だが、長年付き合ってる秋雲にははっきりと、その反応が了承であると分かった。
指先で、避妊具の先端をつまむ。そのまま引っ張りあげると、ぴったりと貼りついたラテックス製の避妊具は外れた。それをゴミ箱へと放り投げ、秋雲はベッドの上に寝転がった。
仰向けになって、その脚を開いて見せる。先ほどまで、彼の肉棒を咥え込んでいた、愛液で濡れる秘所が露になるのも厭わず、秋雲は両手を広げて彼を誘う。
「続き、しよっか♪」
正常位の体勢になり、彼は硬くそそり立った肉棒を秋雲の入り口にくっつける。
亀頭の先端が、先ほど達した秋雲の、たっぷり濡れた入り口に触れる。避妊具越しではない生の感触に、思わず彼はごくりと喉を鳴らした。
「お願い……早くきて……」
焦らさないで、と懇願するような秋雲の視線を見て、彼は思い切り腰を押し付ける。
ずるっ、と亀頭が挿入されたかと思うと、彼は一気に貫通させるように、腰を押し込んだ。
「ひゃっ、あ゛あっ!」
秋雲の反応は劇的だった。先ほどまで絶頂に達したばかりの膣内が、子宮口まで抉るかのような深いストロークが、電撃のような快楽を伴って全身に伝わった。
「さ、さっきよりおっ、大っきくないっ!?」
困惑する秋雲は、自分の身体に出し入れされる彼のモノが、先ほどよりも気持ち硬めに、少し大きく感じられた。
「あんな顔で懇願されて、デカくならない訳ないだろ!」
彼は余裕なく答えながら、避妊具なしの生の気持ちよさに夢中になっていた。
様子を見ながらの深くゆっくりとした抽挿が始まり、彼の両手は、秋雲を離すまいと、彼女の両手に重ねられる。
深く指を絡めながら、互いの視線が重なる。
たまらなく幸福だった。
「そこっ、気持ちいいのっ、もっと……ちょうだい!」
粘膜がこすれる淫靡な音を響かせながら、ゆっくりと探るような抽挿が、徐々に速さをましていく。
「ひゃっ、あっ、ああっ、あんっ」
彼の肉棒が、秋雲の敏感な箇所を擦る度に、秋雲は耳心地のよい嬌声を奏でる。
腰を動かす彼の力が、より強くなっていく。リズムを刻むような動きは、やがてテンポを速めていく。
「やっべ……もう出ちまいそうだ」
「いいよっ、あっ、熱いの、いっぱい!
彼の表情の余裕の無さが、決壊が近い事を示していた。乱暴にかき回されながらも、再びやって来る大きな快楽の渦に秋雲は抗うことなく身を委ねる。
互いに雌と雄の本能の赴くままに、繋がり、激しく交わり続ける。
「くっ……出るっ……」
「きてっ……一番奥に、いっぱい、せーえきちょうだい」
彼の声に、秋雲は甘い声で頷いた。
びくびくと彼女の
快楽に呑まれ、より強い刺激の波に秋雲は声を上げ、身体が子種を求めようと、秋雲の
「「―――!!」」
二人は声にならない声を、喉奥から漏らした。
脈打ちながら吐き出される熱い精液が、秋雲の子宮口へと叩きつけられる。秋雲はそれを受け止めながら、覆い重なった彼の身体を強く抱きしめる。一つに重なりたい一心で、彼を強く求めた。
互いの体温と息遣いと、子宮を満たさんばかりの子種の熱さを感じながら、秋雲は蕩けた顔で絶頂の余韻に浸っていた。長く続くかのような射精が終わるころには、二人の繋がった結合部から溢れ出た淫らな液がシーツに染みを作る。
――幸せだ。
そんな気持ちを、互いに重ねながら、二人は繋がったまま、深い口付けを交わした。
* * *
師走。
世間の人々が年末に向けて忙しくなるこの季節、秋雲と彼氏は、だだ広いイベント会場――ビッグサイトの西ホールに座っていた。艦娘時代に一度は途切れた連続参加記録も、今年で6回目で記録更新していた。サークル参加も手馴れた物で、今年もまた島中の端の席――いわゆるお誕生日席での参加だ。
時刻は昼を回り、用意した新刊もこの時刻で丁度いい量が売れたので実質完売になった秋雲にとって嬉しい所だったが、一番の嬉しさは隣に座る売り子が彼氏ではなく、夫となった彼だった事だ。
挨拶がてら回ってきた知り合いも、祝福の言葉をかけてくれていたし、秋雲にとっては人生最良の日と言える一日であった。
「落ち着いて来たな」
イベント開始直後の混雑が嘘のようになって、彼は目の前を行き交う人々を見ながらしみじみと呟いた。
「そうだねぇ」
普段のアルバイト以上に喋り続けていた秋雲は少し疲れた様子だったが、ふと、自分のサークルスペースに近づいてくる女性を見て驚きの顔を浮かべた。
「あっ、大淀さん!」
「久しぶりね秋雲ちゃん」
黒髪の、すらっとしたスタイルの眼鏡をかけた女性が、二人の前に現れた。よく見知った顔に、彼も思わず会釈した。
その女性――二人が艦娘と整備兵の関係だった頃の知り合い――大淀は、互いに近況を報告しあいながら、今期のアニメがどうだとか、風雲さんは午前中に挨拶に来ました?とか、大淀さんの
「あさ――
思わず旧姓で大淀の本名を呼びそうになるのを堪えた彼の言葉に、大淀は微笑んだ。
「ありがとう。
それから思い出したように大淀が、今日何回も耳にした「新刊一部下さい」の言葉を告げ、流れるように会計をすませて秋雲は新刊の同人誌を彼女へ手渡した。
大淀は改めて二人の顔を見て、ニッコリと笑った。
「遅れましたけど、ご結婚おめでとうございます」
「いやー、大淀さんに遅れる事3年ですけどね」
ハハハ、と照れ笑いをする秋雲を前に、大淀はふと神妙な面持ちになった。
「それはそうと、この前通話した件、巴君にはもう話した?」
そう聞いて、彼は思わずきょとんとした顔で秋雲を見た。
その表情を見て、何も知らされていない顔だ、と大淀は即座に分かった。
「いやーあの、まだ言ってなくて」
「じゃあ、直接本人の口から聞いた方が良いわね」
大淀はそう答えると、秋雲の手を握って微笑んだ。
「その件もおめでとう。これから困った事があったら、私にいつでも言ってね」
彼女の柔和な笑みに、思わず秋雲はうるっとしながら「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
別れの挨拶をして去っていく大淀を見送った後、彼は思い切って秋雲に聞いてみた。
「俺に言ってない事って……まさか」
「ごめんね。そのさ、もっと早く言おうと思ってたんだけどさ」
秋雲は顔を赤らめながら、声を潜めるように呟いた。
「赤ちゃん出来た」
秋雲の言葉に、彼は思わず「お、おう」と声を漏らした。
彼には黙っていたが、今年のクリスマスを過ぎたあたりから、体調に異変があった。生理が遅れていると思っていたが、つい数日前に意を決して検査キットを買って試した所、結果は――妊娠だった。念のため別の検査キットを買って試したが結果は同じで、急いで病院へすっ飛んで検査を受けてようやく揺るぎない事実だと確信がついた。そこで、思わず既婚で子持ちの頼れる先輩――大淀に相談したという経緯である。
「そりゃねえ……あれだけヤってれば」
秋雲は、半ば呆れるように呟きながら、頭を掻いて照れた。
思えばプロポーズした日以降は、時間を見つけては互いに貪るように体を求め合っていたし、あからさまに避妊も気にせず種を撒き続けていたとなれば結果は明らかだった。
むしろ、互いにこうなる事を望んでしていたぐらいだったので、さして驚くほどでも無く、二人とも望んでいた結末だったのだが。
「……結婚式したら、引っ越ししないとな、家族も増えるし」
「そうだね。子育て出来る広めの部屋にしないと。引っ越し先はなるべくイベントに行きやすい場所でお願いね」
己に忠実なママさんだなぁ、と彼は笑った。秋雲は思わず肘で彼を小突きながらパパは余計な事言わないの、と注意したが、同じように笑っていた。
秋雲先生の甘々なやつが書きたかったので書いた