満艦飾の手が蟇郡を襲うことはなかった。蟇郡の異変に気付いたからだ。
「苛さん?泣いてるんですか?」
蟇郡の顔はさっきからずっと真っ赤なのは変わらないが、目に涙が浮かんでいた。
「マコトの……気持ちを考えなかった……私も、悪かったと思う。でも、今のマコトは恐い……いつものマコトじゃないと……嫌だ……」
蟇郡は怯えた小動物のように小刻みに体を震わせていた。体が大きく、風紀部委員長として気丈に振る舞っていても、蟇郡は一人の女性なのだ。
満艦飾は優しく蟇郡にキスをした。さっきのように貪るようなキスではなく、そっと唇に触れるようなキスだ。
唇が離れると怯えた様子の蟇郡は落ち着いていて、満艦飾も落ち着いた様子で蟇郡を見つめていた。
「苛さん……恐い思いをさせてごめんなさい……」
「わ、私こそ、すまなかった……もっとマコトの気持ちを考えるべきだった」
「いいんです。苛さんや他の四天王の人達にとって、皐月様は大切な人ですから」
「だが、マコト、これだけは信じてくれ。私はマコトのことが…………好きだ!!」
「ぼくも苛さんのことが大好きです!!」
二人はお互いを抱き締めた。どれだけ強く抱き締めても、これ以上近づけないほど二人の間に距離は無い。しかし、それでも二人は互いに求めあった。
気持ちを言葉にしても、相手を想う気持ちが溢れて、言葉だけでは伝えきれない。
「ま、マコト……」
「なんですか?」
「そ、その……つ、つづき……を頼む」
「恐く……ないんですか?」
「ああ。今のマコトは恐くない。だから、頼む……」
二人は再び唇を重ねた。最初は優しく。徐々に激しさを増し、邪魔なものを全て脱ぎ捨てた。
「苛さん、綺麗です」
蟇郡は大切なところを腕で隠してはいるが、鍛え上げられた肉体は本当に綺麗だった。
「あまり……見るな。恥ずかしい」
「ぼくだって恥ずかしいです」
二人は既に生まれた時の姿になっている。カバーズから救い出された時とは訳が違う。自分達の意思で自分の服を脱ぎ捨てたのだ。
「ま、マコトの好きなようにして良いのだぞ?」
「は、はい……」
満艦飾は壊れ物を扱うように蟇郡の体を触った。その感覚がくすぐったくもあり、焦れったくもあるが、逆に蟇郡を高ぶらせた。
「ちょっ!?苛さん!?」
「いいでは、ん、ないか?あん……私の体を好きなだけ触って……ん……いる…んだから」
「でも、汚い、んあ……」
満艦飾は反撃するように蟇郡の首筋にキスをした。そして、そのままゆっくりと鎖骨を舐めた。
「こ、こら!?そんなとこ、舐める、な……!!」
「じゃあ、止めます」
そう言うと満艦飾は蟇郡から手を放した。半端に高ぶった体が疼いて、蟇郡は体をよじり出した。
「な…ん……で?」
満艦飾は意地悪な笑みを浮かべていた。どうやら蟇郡が自分から求めて来るのを待っているようだ。
「いじわる……」
蟇郡は満艦飾の手を掴み、自分の胸を触らせた。
「私はマコトの女(モノ)だ。好きにしていいのだぞ?だから……いじわるしないで……」
「苛さん……!!」
「苛って呼んで」
「い、苛!!」
「マコト!!」
風紀。規律。法律。常識。そんな目に見えない服は誰もが着ているし、着られているが、今の二人には邪魔なものでしかなかった。
全て脱ぎ捨てた裸の二人はもう止まらない。
満艦飾は蟇郡の全身を撫で回した。時に触っているか触っていないか絶妙な触り方で撫で、焦らしたところを乱暴に触った。その度に蟇郡は全身を駆ける快感に体をよじらせた。
「ま、マコト……もっと……」
「苛……」
「ん!!……んん!!……あっ!!」
「苛、大丈夫ですか?」
「い、痛みには……慣れてる。それにマコトのはただ、んん!?……か、硬いだけではないのだな……」
「苛……」
満艦飾は痛みに耐えている蟇郡にキスをした。
「ん……んん……はぁ…はぁ…す、少し落ち着いた」
「よかった……」
二人は手を握った。蟇郡の手は痛みに耐えているのかまだ震えていて、汗もかいている。
「わ、私に構うな」
「でも……」
「マコト……今私は幸せだ。お前と繋がる痛みがこんなに心地良いとは……だから、好きにしていいのだ」
最後に残っていたわずかな理性の糸も切れてしまった。
「ま、マコト……!!マコト!!」
「苛!!好きです!!大好きです!!」
「私もだ!!愛してる!!」
再び唇を重ね、強く抱き締め、全身を駆け巡る電流に二人は体を震わせた。しばらく電流は続き、落ち着いてから二人は離れた。心臓が破裂するんではないかと思うほど脈打ち、呼吸も荒れていた。激しいトレーニングを終えた後のように二人の体は汗で濡れていた。
「はぁ……はぁ……マコト?大丈夫か?」
「苛さんも大丈夫ですか?」
「あ、ああ……だが、汗をかいてしまったからシャワーを浴びてくる」
そう言って、ベッドから離れようとした瞬間、マコトが蟇郡の手を掴んだ。
「ダメです。逃がしません」
「逃げるわけなかろう!!ただシャワーを……」
「ダメです」
蟇郡は抵抗する力も無く再びベッドに押し倒された。
「き、貴様、本当に寝かさないつもりか!?」
「もちろんです!!」
満艦飾は蟇郡の背後に回り込んだ。
「ちょっ!?待て!!待つんだ、マコト!!」
「好きにしていいって言ったのは苛さんですよ?」
満艦飾は蟇郡の耳元で囁いた。不覚にも蟇郡は背筋に心地よい悪寒を感じてしまった。そして、不意を突かれて全身を駆け巡る快感に襲われた。マコトの姿が見えない分、マコトがどのタイミングで攻めてくるかわからない上に、先程とは違って、痛みは無い分、快感が強すぎた。攻められる度に我慢していた声が漏れている。それでも我慢しようとするあまり快感が体に蓄積されていく。
「マコトォ……マコトォ……!!恐い……おかしくなる……」
蟇郡は満艦飾に助けを求めるように手を伸ばした。乱れた金髪の隙間から快感に耐えている真っ赤な顔が見えた。
「ま、マコト!?ダメ!!激しい!!」
「ごめんなさい!!でも、我慢できない!!」
蟇郡はもう声を我慢することができず、蓄積されていた快感が再び全身を駆け巡り、声と一緒に解き放たれた。
蟇郡は体をわずかに痙攣させながら、俯せの状態で力無く倒れた。
「苛さん、ごめんなさい。我慢できなくて……」
「まったく……ダメだと言ったのに……マコト、そろそろ離れてくれないか?うごけな……いぃ!?マコト、何を!?」
背後から鞭を鳴らしたような音が聞こえてきた。
「痛い!!は、はたくな!!」
「でも、体は正直みたいですよ?」
「い、言うなぁぁぁぁぁ!!」
その後も蟇郡は満艦飾に狂ったように攻められ、その度に果ててしまう。わずかな休憩も挟むことなく、夜通し二人は愛し合った。
気がつけば窓の外が明るくなり、その頃には疲れ果てた二人が向かい合って横になっていた。
「まったく……本当に寝かさないとはな。次はもう少し加減しろ。……私も……その……初めてだったのだからな?」
「ごめんなさい……」
「だ、だが、し、幸せな気持ちで満たされたぞ」
蟇郡は恥ずかしさから寝返りをうち、満艦飾に背中を向けた。すると、満艦飾が寄ってきて、後ろから蟇郡を抱き締めた。
「貴様、まだ続けるのか?」
「いいえ。でも、少しこのまま話を聞いてください……」
「あ、ああ……」
蟇郡を抱き締める満艦飾の腕がわずかに震えている。背中にあたる呼吸も震えている。
「待っていて……くれますか?」
「え?」
「ぼくは無星で劣等生です。家業は闇医者だし、苛さんより三歳も年下です。でも、苛さんを思う気持ちは誰にも負けません。寂しい思いもさせません。だから、待っていてください!!」
満艦飾は再び蟇郡の上に覆い被さり、真っ直ぐ蟇郡を見つけた。
「苛さん…………
ぼくと結婚してください!!」
全ての音がかき消され、満艦飾の言葉の余韻だけが二人を包んだ。途端、蟇郡の視界がぼやけてしまった。涙が溢れ、拭いても拭いても溢れてくる。
「す、すまん、マコト。ち、違うのだ。嬉しいのだ。嬉しいのに……嬉しいのに涙が、涙が……」
蟇郡は満艦飾を抱き締めた。
「もう一度言ってくれ……」
「苛さん……ぼくと結婚してください!」
「………………はい!!」
二年後の3月。ここに至るまで凄く時間は掛かってしまった。
無星の劣等生だった満艦飾は一生懸命勉強し、一ツ星の生徒に昇格した。わからないところは蟇郡にも協力してもらい、さらに二ツ星へと昇格した。一足先に蟇郡は本能字学園を卒業して大学へ進学してしまったが、休日は逢うように心掛け、連絡もこまめに取り合った。
そして、今日。卒業式を終えた今日。二人は関わってきた大勢の人達の祝福を受けていた。
二人は今日、結婚する。
「蟇郡苛。貴女は満艦飾マコトを夫として迎え、病める時も健やかなる時も終生愛し続けると誓いますか?」
「誓います」
「満艦飾マコト。貴方は蟇郡苛を妻として迎え、病める時も健やかなる時も終生愛し続けると誓いますか?」
「誓います」
「それでは誓いのキスを……」
満艦飾家や纒や皐月様。四天王の三人。美木杉先生。黄長瀬さん。羅暁理事長。風紀部委員OBOG達。そして、叔父さんとお母さん。皆が祝福してくれる中でマコトと見つめ逢う苛。マコトの身長が低いせいか、苛の身長が高いせいか、キスをするには背伸びをして、少し屈まなくてはいけない。
「愛してるよ、苛」
「私もです。マコトさん」
二人は唇を重ねた。