何でこんな建物の前にいるのか、何かを聞き流したのか、予兆はあったのか。
確か、そう、最後に休憩すると言っていた。
繋いだ手が熱い、現実感が全くない、バクバクと心臓が脈打っている。
先程まであった凄まじい眠気は何処かへ吹き飛んでしまった。
混乱した頭を何とか動かし、これまでの事を思い出す。
公園で腹ごなしを済ませた俺たちはめだかちゃんの言う通りカラオケへ向かった。
昔から完璧だっためだかちゃんだが歌や音楽だけはダメだった。ダメ、というと語弊があるんだが、そうとしか表現できない。リズムや音の高低は完璧なんだが感情が乗っていない、なんて音楽の先生には言われていた。
そんなめだかちゃんがカラオケに行こうというのは少し意外に感じる。わざわざ自分の苦手分野で遊ぼうというタイプではない。もちろん苦手を放置するタイプでもないが遊ぶ時に選ぶということもないだろう。
なんて思っていたが、改めて考えると今回のデートコースはめだかちゃんが考えたわけではない。ここら辺の事情は知らずに決めたのだろう。そりゃめだかちゃんの細かい所なんて彼等は知るはずもない。
まぁ別にテストでもないんだ、楽しく歌えりゃそれでいいさ。得点勝負とかならめだかちゃんは高得点を出すだろうし、採点モードでも入れるか。
そんな風に考えていた。
一曲歌い終わった時、俺の考えは良い意味で裏切られた。
すれ違う悲しみ、思い出が傷跡になる恐怖、その痛みを乗り越える強さと明日への希望。めだかちゃんの歌う失恋ソングはそれらの伝えたい事全てを俺の心に叩きつけ、震わせた。ポロリと涙が溢れる。
以前めだかちゃんの歌を聞いたのは中学の時だったか、あの頃は正解をなぞる機械的な歌だった。音のリズムの心地よさはあったが、心を揺さぶられることはなかった。あれから約3年、めだかちゃんの心に何があったのだろう。
結果的にカラオケをデートコースに含めた彼等の采配は大成功といったところだろう。素晴らしい歌だった。
それにしてもトイレで偶然会った同級生と話し込んだのは大失敗と言える。めだかちゃんの歌をその分聞けなかった事もそうだし、結構な時間一人にしてしまった。
一人の時も歌っていたのか、俺が戻ってきたときには激しい運動をしたように汗だくでソファーにもたれていた。
カラオケでは何も問題はなかった。
めだかちゃんの休憩中に俺も数曲歌い、まためだかちゃんが歌い、そうやってしばらく遊んだ後、今度はゲーセンに行った。
カラオケにゲーセンだ、デートというよりは同性の友達と遊びに来た、と言った風情だろう。
服屋とかを見なくてもいいのかと尋ねてみたが、俺の財布を気にしてコースから外したらしい。恥ずかしく、情けない話だが、同時に有難い話でもある。学生の財布は残念ながら極薄だ。
慎ましくUFOキャッチャーで遊んでいるときだった。着信音が響いたのは。
めだかちゃんはバックから携帯を取り出し誰かと通話を始めた。
関係ないが今日はやたらと携帯で話している男を見る、何かの符号なんだろうか。
そんな風に益体もない事を考えていると電話を終えためだかちゃんが少し席を外すと言って歩いていってしまう。
何かあったのだろう、まぁ飲み物でも飲んで待ってればいいさ。
そんな風に思って端に置いてある自販機でジュースを買って近くの椅子に座った。
ボンヤリと視線を宙に彷徨わせていると遠くに人だかりが出来ている。たしかあそこには足で操作する音ゲーがあった筈だ。
その人だかりはすごい盛り上がりで、皆携帯を構えて動画を撮っている。よほど上手い人がプレイしているのだろう。残念ながらあの人だかりでは今から行ったところで見る事はできそうにない。
もしめだかちゃんが今の格好でアレをやれば大変な事になるだろうな。
チューブトップはまくり上がり意味をなさなくなるだろうし、スカートなんかは言わずもがなって話だ。色んなものが丸出しになる。
そんな風にありえない妄想をしながらゆっくりしていると睡魔が襲ってきた。昨日から一睡もしてないんだ、当たり前と言えるかもしれない。
めだかちゃんが来るまで仮眠をとる事にしよう。そう思っておれは目を閉じた。
「いいぞー! もっとケツ振れケツー!」
「勿体ぶってんじゃねぇぞ! 元から裸みたいなもんだろうが! さっさと全部脱いじまえよー!」
「「「ぬーげ! ぬーげ! ぬーげ!」」」
「良いだろう! さぁ、私の鍛え抜かれた身体を存分に撮るがいい! ただ拡散する時は目線を頼むぞ!」
「うわ、本当に脱ぎやがった!」
「蓋抜けかかってるぞ、誰か押し込んでやれよ」
「お望み通り拡散してどこ行ってもチンポ突っ込んでもらえるようにしてやるよ!」
「どうした善吉? ぼんやりして」
その後は戻ってきためだかちゃんに起こされて、普通にファミレスで夕飯を食べて、今に至ると言った具合だ。
1時間も眠って眠気を取ったはずなんだが、夕飯を食べてからは逆に眠気がひどくなっている。まぁ、それも目の前の光景ですっかり消えてしまったが。
「まだ眠いのか? ゲームセンターで寝ていたではないか……全く…まぁ部屋に入ったら善吉がやることはない、寝ていても構わんぞ」
俺の視界にあったものはまるで洋風の城のような建物だった。周りを見渡すとネオンがいかがわしい輝きを放っている。なるほど、確かに『休憩』だ。
「ほら、さっさと入るぞ」
唖然とする俺を無視してツカツカと建物に入っていくめだかちゃん。なれた様子で受付のボタンを押し部屋を取ると迷いなくエレベーターに乗り込む。
俺は腕を引かれるままエレベーターに乗せられ部屋まで引き摺られていった。
ラブホはダメだろうラブホは。いや、でも女の子からこんなに大胆に誘ってきているのだ、恥をかかせるわけにはいかない。そもそも部屋はもう取ってしまったし……キャンセル料とかあるんだろうか。
ていうかラブホなんか初めて入った。シャワー室はスモークガラスでシルエットが見えるようになっているし、ベッドはキングサイズなのか四人は横になれそうだ。
待て待て待て、そもそもめだかちゃんはここがなんなのか分かってるのか?
「め、めだかちゃん……その、ここって何するところかわかってる?」
「うん? セックスだろう?」
すごい直接的な表現で返される。セックス、そう、セックスだ。
めだかちゃんはココの使用用途を理解している。その上で俺をここに連れてきたって事だ。
つまり、その、めだかちゃんは俺とそういう関係になりたいって事だ。
「では私はシャワーを浴びて準備をしてくる。善吉は適当に寛いでいてくれ」
「お、おう」
俺はまともな返事もできず、シャワー室に消えるめだかちゃんを見送った。
繋いでいた手が熱い。
これからここで、俺とめだかちゃんがセックスするわけだ。
全く実感の湧かない、ふわふわとした頭でベッドに座る。
まるで雨のようなシャワーの水音がこちらまで届く。準備をしている、という事を証明するように。
そう、めだかちゃんは『準備』と言っていた。シャワーを浴びて身綺麗にする行為が何かの準備であると認識しているわけだ。
「そうだ善吉、一つ聞いておきたいんだが」
シャワーの音が唐突に止まりひょこりと顔を出す。水に濡れた髪が艶やかで、これからの行為を連想させた。
「もし子供ができたら、その子の父親になってくれるか?」
これからへの期待で浮ついていた頭がスッと冷静になる。
こちらの返事を待っているのだろう、顔だけ出した状態で俺を見つめている。
見つめられている俺はというと頭が真っ白で何もいえない。
子供?
そうだよな、これからする行為とは切ってもきれない事だ。やればできる。当たり前のことだ。
「育てようと思えば私一人でもなんとかなるのだが、やはり父親はいたほうがいいだろう?」
子供なんて全然考えてなかった。何となく、ゴムを使っていれば大丈夫だと、自分に限ってそんなことはないだろう。そんなふうに考えていた。
だがゴムを使っても妊娠するときはするものだと聞いたことがある。
子供。
めだかちゃんの子供の、父親になる。自分にその覚悟はあるだろうか。いいことばかりじゃないだろう。めだかちゃんは抜けてるところもあるから、きっと苦労する。今まで以上に振り回されることになる。
「善吉?」
再度の問いかけ、目と目が合う。
今までの思い出が過ぎる。
『そんなマイナス、打ち消して余りあるだろ』
自分で言った事だ。
そうだ、答えなんかもう出てる。なんだか笑えてきた。
「急に笑い出してどうした?!」
めだかちゃんの焦った表情なんて、初めて見た。でも、これからは色んな表情を見ることになるんだろう。
漠然とそう思った。
「めだかちゃん」
「う、うむ。頭は大丈夫か?」
「俺が父親でいいのか?」
「ダメならこんなことは言わないだろう。私はお前に父親になって欲しいんだ」
「なら、決まりだな」
綺麗な赤い瞳を見つめてそう言った。
めだかちゃんはきょとんとした顔でしばらく黙り込み、だんだんとその顔が笑顔に変わる。
「ふん、当然だな。しかしまぁ、一応は礼を言っておこう」
「ありがとぉっ!!」
「うぉっ!」
めだかちゃんが水を滴らせたまま飛びついてきた。
そのままベッドに押し倒され胸に顔が埋まる。備え付けのボディソープの香りだろう、花のいい匂いがした。
これは俺も抱きしめ返したほうがいいのか、そんな事が頭をよぎった時めだかちゃんはあっさりと抱擁をやめ、素早くシャワー室の中へ戻っていった。
「善吉が父親になってくれるなら私も一層努力せねばな。貴様は楽しみに待っているといい」
そう言い残し、扉を閉める。少し間が空いてまたシャワーの水音が響き始めた。
残された俺はというと、ベッドに横になったままだ。
おっぱいに顔を挟まれた余韻を味わっていた。あの柔らかいおっぱいは俺の物、今後誰憚る事なく所有権を主張できるようになるわけだ。
自然と頬が緩む。不思議と性的な興奮はないが、独占欲や達成感のようなものは満たされた。
静かな室内はざあざあと雨が降っているような水音で満たされる。
ある意味覚悟が決まって一息ついてしまったせいか、とんでいた眠気が蘇ってきた。
少しだけ眠ろう。
めだかちゃんが上がったら起こしてくれる。
そしたら俺もシャワーを浴びて、それで……。
そんな事を考えながら、俺は眠りに落ちた。
ガチャリと、ドアの開く音が聞こえた気がする。
「む、善吉は寝てしまったのか」
「うん、朝まで起きないと思うよ。それにしても無事にお父さんになってくれるみたいでよかったよ」
「私も一安心だ。ところで何故善吉の服を脱がしているんだ?」
「あー、まぁアリバイ工作ってやつだよ。後はここに赤いインクでっと」
「ふむ? まぁいい、インクで汚して怒られないのか?」
「大丈夫大丈夫、許可は取ってあるよ」
「お、もう準備出来てんのか」
「善吉君素っ裸じゃん、しっかし小さいな」
「ああ、私も公園で見たときは驚いた。それにあの薄さでは子供はできないだろうな……」
「まぁまぁ、めだかちゃんに種付けするのは慣れてる俺らに任せてくれよ」
「俺らが子供作って、善吉君が育てると、そういう風に行こうぜ」
「善吉君はオナニーが大好きだからなぁ、オナホで手コキでもしてやったら?」
「手間をかけて申し訳ない、私に出来ることは何でもしよう」
「分かってる分かってる。じゃあほら、善吉君の横でさ……入れやすいようにまんぐりがえしで……そうそう、後はー…そうだね、善吉君と手を繋ごうか」
「んっ…………ぅむ❤️ さぁ、準備も済んだ」
「いつも通り、私で遊んでくれ❤️」
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる。
目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。
昨日の記憶が思い出せない、確かめだかちゃんとデートして……
そこまで思い出して、昨日の記憶が蘇ると同時に血の気が引く。もしかしてあの後今まで寝過ごしちまったのか?
ふと左側が暖かいことに気づいた。無意識にそちらを見る。
そこにはスヤスヤと眠る全裸の幼馴染みの姿があった。今更ながら俺も全裸だ。
「ん……んぅ……起きたか? 善吉」
「ぉぅ」
かすれた声で返事をする。俺、寝てたんだよね?
ちらりと視線を横にずらすと、赤い染みを見つけてしまう。
「あのぅ、つかぬ事をお伺いするんですけど……昨日の夜は……その……激しかったり」
「ああ、それは激しかったな。何発も何発も中に出されて、気絶すると尻を叩かれたぞ」
淡々と昨日の俺の行為を語る、スルスルと淀みなく並べ立てられると現実が押し寄せてくるようだった。
「眠れたのも、つい先程でな。いまだに眠い」
ちらりと枕元のデジタル時計を見やり、眠そうにあくびをする。
「ゴムとか……使ってたり」
「いや、使わなかったぞ。全て生で中出しだ。なんなら見るか?」
そこまで言って起き上がり、俺の方を向いて足を広げる。俗に言うM字開脚という状態だ。
晒されたそこから黄ばんだ濃い精液がどろりと溢れ出す。
「ちょっ! 当たり前みたいに見せてくるな! お前はもうちょっと恥じらいと言う概念を待て!」
「私と貴様の間に恥じらいなど何の意味がある。まぁ、言われれば隠すが」
その言葉通りに自分の枕を取ると隠した。
でも良かったかもしれない。不覚にも見てしまったそれである意味吹っ切れた感じがある。やっちまった以上は責任を取るだけだ。
まぁ、出来ない確率もあると思うけどさ。
次話でエピローグの予定となります。