走って30分の道程を、5分足らずで突っ切って。
俺たちを抱えた泉先生は、藤堂家の庭に舞い降りた。
ここが、あいつの家。
デカイ家だ。
俺の家の数倍はあるだろう。
一目で金持ちの家だと分かる。
庭に植えられている植物。池。岩。
どれもこれもが、金持ちっぽかった。
そして、全面芝生。
土が露出している場所なんて、ほとんど無い。
家の建材も、その辺の家と違うのが一目で分かる。
玄関が見える。
この家に、姉さんが居る……?
家の中は暗く、明かりはついてはいない。
本当に、誰か居るのだろうか?
そのとき。
ふしゅるるるる、ふしゅるるるる……
わらわらと。
庭のあちこちから蜘蛛の化け物……従者の大群が現れた。
数えきれない程の。
そしてワーディングが張られる。
……どうやら、ブラックさんの読みが当たっていたらしい。
しかし、数が多い……。
俺たち4人で、捌ききれるのか?
それに、こいつらと戦ってる間に姉さんが……!!
火炎拳を発動させながら、俺は焦った。
こんなやつらで時間を潰している暇は無いのに……!
「……ここは、あれだね。姉さん」
「……そうね。あれね」
泉先生と、ブラックさんが、頷き合うような会話。
終わると同時に、先生が羽ばたき、舞い上がって。
右腕を、突き出す。
すると。
ドウッッ!
泉先生の右腕が……爆発的に伸びた!
伸びた右腕は、さらに途中で枝分かれし、それぞれ複数の従者たちを貫く。
倒される従者たち。
一撃で複数の従者を仕留めた先生の右腕が、巻き戻っていく。
その後には、玄関までの一本道が出来ていた。
「さぁ、先に行きなさい!後で私たちも行くから!」
「そういうことだ。お約束だよねこういう状況!!」
ここは自分たちに任せて先に行け。
泉先生たちの決断。
心配が無かったわけじゃ無い。
しかし今は、それに従う以外無いと思えたんだ。
「分かりました!」
「先に行ってます!」
俺と水無月は、先生が作ってくれた道を、矢のように走り出した。
玄関ドアを、重力操作で威力を上げた水無月の魔眼槍の一撃で吹っ飛ばし、家の中に突入する。
ワーディングの主の気配に向かって走りながら、水無月は言った。
「絶対、お義姉さんを助けようね。北條君」
水無月のその言葉には、重みがあった。
社交辞令なんかじゃない。本気で言ってくれていた。
「水無月……ありがとう」
水無月は本気で、俺の姉さんの身を案じてくれている。
それが分かったから。
彼女は、そのまま続けた。
「私、赤ちゃんのときからUGNで、家族居ないから、正直、北條君が羨ましいんだ」
どうも、水無月は赤ちゃんのときにジャームに襲われ、家族を全員殺されたらしい。
そのときにオーヴァードとして目覚め、自力でジャームを殺して生きながらえ、UGNに保護されて今日まで生きてきたんだとか。
だから、家族に憧れてる。そう彼女は言った。
「家族が居るっていいよね……寂しくないもんね……」
その声は、悲しかった。
「北條君とお義姉さんの関係、憧れてるんだよ。ホントだよ?」
水無月……。
だったら、水無月もウチに来ればいいんだ。
だから、俺は言った。
「……今度、姉さんに水無月を紹介するよ。……友達として」
「ホント?……嬉しい……!!じゃあ、絶対助けようね!」
彼女は、笑った。
水無月の声は弾んでいた。
大林さんは、俺の姉だった。
水無月は、姉さんの妹になれると思う。
こんな優しくて、しっかりしてる子。
姉さんだって気に入るはずだ。
そして。辿り着いた。
このドアの先に、居る!
このワーディングを張った、ジャームが。
俺と水無月は向かい合い、頷き合って。
ドアを吹き飛ばした。
バンッ!
そこには。
高級そうな椅子に座っている、上品に髪を結い上げた、身なりのいい、40代くらいのオバサンと。
床に転がされている、意識のない制服姿の姉さん。
見るからに上等のベッドに寝かされている、一夫が居た。
部屋の広さはかなりのもの。
20畳は超えていた。
部屋には大窓があり、そこから月明かりが差し込んでいる。
明かりは、オバサンが座っている椅子の前に据え付けられた、テーブルの上で燃えているランプの灯のみ。
電灯はついていなかった。
「あら、もう来たのね。卑しいゴキブリさんたち」
俺たちを確認し。
その見るからに金持ちのオバサン……藤堂一美は、全く温かみの無い目で、俺たちを見つめながら。
そう、憎しみの籠った声で言ったのだ。