ヴィーヴルの翼は速かった。
下に町並みを見ながら、道路建築物全部無視して。
一直線に目的地・藤堂家に到着します。
5分、なかったと思うんです。
速い!
藤堂家は、大きな家でした。
庭は広いですし、建材も豪華で、お金をかけているのが見て分かります。
富裕層の家。その一言です。
ですが。
住んでる人間の邪悪さを知っていると、見え方が変わりますね。
少しも優雅で、素敵だとは思いませんでした。
どんなにお金を掛けていても、一流の職人に作らせたものだったとしても。
ここに住んでいる住人は、悪魔。
腐敗した、醜悪な雰囲気を感じました。
……家に、明かりはついていないように見えました。
本当に、誰か居るのでしょうか?
そのときです。
ふしゅるるるる、ふしゅるるるる……
もはや聞き慣れた鳴き声。
わらわらと。
庭のあちこちの陰から、従者の大群が現れました。
数えきれない程の数です。
そしてワーディングが張られます。
……やはりここでビンゴのようですね。
ですが、まずいです。
この数を処理するのは時間が要りますし、あと、消耗も……!
時間を争っている以上、この状況は不味過ぎます。
……誰かを先に行かせるべきでしょうか?
シャドウストーカー本体を倒せば、その従者であるこいつらも消えるわけですし。
そう私が思考したとき。
泉姉弟の二人が動きました。
「……ここは、あれだね。姉さん」
「……そうね。あれね」
ヴィーヴルが羽ばたき、宙に舞い上がり。
右腕を、突き出しました。
ドウッッ!
……その瞬間彼女の右腕が爆発的に伸びます。エグザイルシンドロームの伸縮腕です。彼女の三つ目のシンドローム。
エグザイルシンドロームは、自分の体の性質、形状を操るシンドローム。
キュマイラとはまた違う、肉体系シンドロームなのです。
そのエフェクトは、骨格を無視した変形を行ったり、このように、体の部位を急速に伸ばしたり、爪や皮膚や骨を変化させて、武器を作成したり出来るのです。
伸びた腕は高速で伸び続け、枝分かれしていきます。
まるで木の成長の早回しのようです。
その伸びて枝分かれした腕は、それぞれ従者を巻き込んで、一気に数を減らしていきます。
複数の従者を一気に撃破し、伸びた腕は巻き戻っていきます。
彼女が撃破した従者たちは、玄関へと伸びる一本の道を阻む者たちでした。
……これは、そういうことですね。
「さぁ、先に行きなさい!後で私たちも行くから!」
「そういうことだ。お約束だよねこういう状況!!」
彼女らは羽ばたきながら言い放ちます。
……分かりました。
言い争ってる時間は無いです。
私は即決しました。
ここを、彼女らに任せることを。
「分かりました!」
「先に行ってます!」
感謝です!
色々ムカつくこともあったけど、今はあなたたちに感謝します!。
玄関ドアに、インパクトの瞬間重力を操作し、重さを数十倍に上昇させた魔眼槍の突撃を叩き込みました。
一撃でドアが吹き飛んで、私たちはそのままなだれ込みます。
ワーディングの主の気配に向かって走りながら、私は彼に語り掛けます。
「絶対、お義姉さんを助けようね。北條君」
嘘偽りの無い、本心です。
だって、好きな人の家族だし、これから私の家族にしたい人なんですから。
「水無月……ありがとう」
彼に語ったことのない、私の過去。
気が付いたら、私はそれを語っていました。
「私、赤ちゃんのときからUGNで、家族居ないから、正直、北條君が羨ましいんだ」
自分が天涯孤独だってこと。家族というものを持ったことがないこと。だから家族に憧れていること……
「家族が居るっていいよね……寂しくないもんね……」
私の思い込みかもしれないけど、私はずっと思ってたんです。
一人の部屋に帰るより、誰かと一緒の部屋に帰りたいって。
生活で不自由したことは無かったけど……ずっと、満たされないものがありました。
一人は……やっぱり辛いです。
「北條君とお義姉さんの関係、憧れてるんだよ。ホントだよ?」
北條君の家は、色々辛いです。
でも、そんな状況でも、彼をお義姉さんが支え、逆に支えられ、ずっとやってきてました。
それを見て、私もそこに混ざりたいって思ったんです。
「……今度、姉さんに水無月を紹介するよ。……友達として」
「ホント?……嬉しい……!!じゃあ、絶対助けようね!」
本当は、彼女として紹介して欲しいけど、今はそれで十分です。
絶対に助けます!
そして義妹になるんです!
走りに走って、辿り着きました。
シャドウストーカーが潜んでいると思われる部屋。
その前に。
私と北條君は向かい合い、頷き合って。
ドアを吹き飛ばしました。
バンッ!
そこには。
高級そうな椅子に座っている、上品に髪を結い上げた、身なりのいい、40代くらいのオバサンと。
床に転がされている、意識のない制服姿のお義姉さん。
見るからに上等のベッドに寝かされている、あの男が居ました。
部屋の広さはかなりのもので。
20畳は超えてます。
部屋には大窓があり、そこから月明かりが差し込んでいます。
明かりは、オバサンが座っている椅子の前に据え付けられた、テーブルの上で燃えているランプの灯のみです。
電灯はついていませんでした。
「あら、もう来たのね。卑しいゴキブリさんたち」
私たちを確認し。
その見るからに金持ちのオバサン……藤堂一美は、全く温かみの無い目で、私たちを見つめながら。
そう、憎しみの籠った声で言ったのでした。