※この作品はR-18です。

FH仕置人セル   作:XX(旧山川海のすけ)

14 / 20
2話 彼らの日常

「アタシ、日本国内限定で活躍するFHエージェントになるから、英語なんて出来なくてもいいの!」

 

「あのな。これからの時代、英語もまともに読めないようでは日常業務ですら支障をきたすんだけど?」

 

んも~!ドS!

英語のテストが赤点だったアタシに、対面で座っている文人が容赦なく言葉のナイフで斬りつけてくる。

 

テーブルの上には、アタシのこないだの定期テストの結果が放置されている。

理系科目と、英語が全部40点未満。赤点だ。

文系科目は赤点ではないけれど、良くは無い。

 

FHチルドレン養成所でも、一般の学校で行われているような内容の教育は行われていて。

アタシはこれがからきしダメだった。

 

これのせいで、後で高校に潜伏する際「ここ進学校なんだが大丈夫か?」なんて相方に不名誉な心配をされてしまうことになるのだけど。

このときのことを考えると、ちょっと文句言えない気もする。

 

何せ、アタシはファルスハーツに入る前は、虐待されててまともに学校に通えてなくてさ。

豚二匹が、アタシの虐待がばれるとまずいということで。

9歳からの一年間、学校どころか外にすら出させて貰えてなかったからね。

まあ、その前からも結構まともに勉強させて貰えてなかったんだけど。

ファルスハーツに入るまで、九九もまともに覚えてない状態だったし。

 

「英語は言葉だから、文法と単語を覚えれば誰でも読むだけはできるようになるんだよ。やれ!」

 

「あやとはいいとこの子で頭いいからそりゃそういうこと言えるんだろうけどさ……アタシの場合親が……」

 

「はいはい生まれのせいにするな!何か?お前の取扱説明書みたいなもんがあって、そこに書いてるのか?『佛野徹子は勉強の限界値が低いです』とか!」

 

養成所の座学ルームから帰ってきて。

定期テストの返却があり、結果を見せ合ってこういうことになってしまった。

 

お前ちょっと酷すぎるぞ、と。

 

ちなみに文人は全教科満点。

まぁ、彼、ノイマンシンドロームだし当然かもしれないけど。

彼の普段の生活様式でさ、それだけじゃないよなぁ、ってのは感じる。

なんというか、生き方が勉強できる人って感じだから。彼。

 

で、そんな彼に、アタシは指導を受けてしまっている。

あれ?確かアタシの方が4年先輩じゃなかったっけ?

 

文人の言葉は全て正論。

ド正論で斬りつけられて、アタシはぐうの音も出ない。

 

「お前はやらないから出来ないだけ!やってこのくらい出来ないはずがない」

 

断言された。

馬鹿にされるよりはそりゃ全然いいけど、これはこれでキツイ。

この人さ、勉強できないって喚いている人間見ると、ほっとけないみたいなんだよね。

だったら僕がお前の成績上げてやる!みたいな。

 

「でもさ、英語は確かに要るとしても、理数系科目は?国語はどうかなぁ?FHエージェントに必要?」

 

ろくに反論できないもんだから。

テーブルに突っ伏して、口を尖らせてブーブーいうアタシに、文人はきっぱりこう答える。

 

「要るに決まってるだろ」

 

「例えば……?」

 

全く答えに詰まることなく彼はこう答えた。

 

「お前の場合、シンドロームがエンジェルハィロゥだから、通常の光の法則を知っておくとエフェクトの扱いに幅が出るはずだ」

 

「ハヌマーンのシンドロームだって、通常の物理法則知っておくと役に立つ部分はあるはずだし」

 

「そういうの全て理系科目だぞ。無駄なわけ無いだろ」

 

「それに、国語をしっかりやっておかないと、報告書の書けないエージェントになるぞ。それ、どんなエージェントだ?」

 

「大体、お前料理あれだけできるのに、勉強だけできないなんてありえるわけないだろ。レシピと手順覚えられるのに、ピンポイントで勉強だけできないなんてありえるかよ」

 

……厳しいことを散々言った後に、最後に必ず褒めてくるんだよね。彼。

ホント。嫌になっちゃうよ。

 

 

★★★

 

 

やる前から諦めてるんじゃない。

 

こういうのを見ると、一定のレベルに引き上げたくなる衝動を感じてしまう。

こいつ、素頭は決して悪くないと思うのに。

座学の成績が悪いのが本当に納得いかない。

 

理由は想像つくんだが。

座学の成績が悪いことの言い訳で、こいつの生い立ちを聞かされたので。

 

こいつ、親に虐待されて育ったらしい。

その内容は、不愉快極まりない内容だったが、それは関係ないので置いておく。

 

虐待の関係で、学校にまともに通えてなかったらしい。

 

勉強ってのは積み重ね。

そりゃ、こうもなるってもんだ。

 

……なので、なんとしても通常レベルにしてやりたくなった。

 

大きなお世話?そうかもね。

でもさ、ファルスハーツは欲望を追求する組織だろ?僕はそう聞いた。

 

だったら、これは文句を言われる筋合い、無いよな。

 

腹立たしかったんだ。

ろくでなしの巻き添えで、こんな簡単な座学で躓かされているこいつが。

それを解消したいってのも立派な欲望だろう?

 

「次の定期テストは、全教科平均点以上を取らせてやる。絶対にだ」

 

僕は宣言した。どん、とテーブルを叩きながら。

彼女は、徹子は、僕の宣言に対し、「む、無理だってば」と泣き言を言ったが

 

「無理じゃない!この機会に、昔の負債を全部チャラにしてしまえ!」

 

これを言うと、彼女の眼の色が変わった。

……こういうときにガッツがあるのは、ホントいいわ。

お前を相棒に選んで良かったと思うのはそういうところだよ。

 

それから。

 

毎日空き時間に何かしら勉強を練り入れ、就寝前にテストをする生活が続き。

徹子は勉強の遅れを取り戻していった。

 

僕としてはやりがいもあったし、何より。

シャバの事を思い出せて、楽しかったんだ。

 

シャバでもさ。

友人に、勉強のわからないところを教えることが日課だったから。

 

こいつに勉強を教えている間は、なんだかシャバに、事件を起こす前に戻ったような気がした。

あのときの。ただの警察官僚の息子だったときに。

 

 

★★★

 

 

この部屋で、食事担当はアタシだ。

別に、理由はアタシが女だからということじゃない。

単にアタシが料理が好きなのと、彼より断然アタシの方が料理が上手いからだ。

 

で、代わりに彼は掃除をやってくれている。

元々掃除はキッチリやる方だったみたいで、共用部分の掃除、キッチリやってくれてる。

自室の掃除と洗濯は別々。

 

さすがにね、下着を他人に、特に男の子に触られるのはヤだからさ。

アタシ、ほぼ無差別に誰とでも寝る女だけど。

 

休養日だったその日、アタシはドーナツを作った。

ホットケーキミックスを使わず、イチからだ。

野菜や豆腐、おからなんかも入れてみた。

 

……結構大量に作ってしまったなぁ。

 

油で全部揚げ終えると、大皿に結構な量が乗っている。

これを一度に食べるのはあまり良くないよね。

 

そんなことを考えながら居間に持っていくと、テーブルで彼は本を読んでいた。

一冊ではなく、数冊。

読んだのと読んで無いのとで左右に積み分けられている。

 

図書館で借りてきたっぽい。

 

「……何読んでるの?」

 

「神崎瑠璃絵って研究者が書いたモルフェウスシンドロームの本」

 

本から目を離さずに彼は答えた。

 

「今度、この養成所に講演会しにくるみたいだから、その前に読んでおきたい」

 

「予習?」

 

「それもある。メインは当日に質問したいことを明確にしておきたいから」

 

現在のモルフェウスの研究で、どの辺まで分かってるのか。

それを把握しておきたいんだ。こんなチャンス、逃す手は無いだろ?

 

……彼、モルフェウスとノイマンのクロスブリードだもんね。

自分の能力の可能性について研究すること、余念ないのか。

さすがというか、なんというか……。

 

しかし、神崎瑠璃絵……

ウチの養成所の理系教官が心酔してる研究者だよね。

FHのアラフォーの女性レネゲイドウイルス研究者。写真で見たことあるけど、眼鏡の似合うわりと美人な中年女性だった。

彼女こそ真の研究者、研究職を目指すなら、彼女の生きざまを良く勉強するべし。

理系教官は座学のときによくそんなことを言うんだけど。

 

「その本の著者の人、かなりえげつない実験やりまくってるらしいよね」

 

「そうらしいな」

 

本から彼は目を離さない。

 

「……あやととしてはどうなの?」

 

「何が?」

 

「……その、実験……」

 

何も感じないの?そう、言おうとして。

その前に。

 

「僕に言われてもな。そのときの事情なんざ分からんし」

 

それに、僕らが言えた義理でも無いんじゃないのかね?

そう彼は平然と答えた。

 

……アタシ、すごく馬鹿なことを言ってしまったな。

実母とその不倫相手を豚呼ばわりして、惨たらしく殺して。

それで流れ流れて今ここに居るっていうのに。

 

そうだよね。白々しいよね。

それに気づかされ、ちょっと後悔しちゃった。

 

「ゴメン、馬鹿なこと言っちゃった」

 

ドーナツの大皿をテーブルに置いて。

 

「見て。ドーナツ作ったんだ。おから、豆腐、野菜、プレーン。色々あるよ。コーヒーが良い?それとも紅茶?」

 

「お前、お菓子まで作るんだ。さすがだわ。……コーヒーが良いかな」

 

パタン、と本を栞を挟んで閉じて。

彼はドーナツをひとつ手に取った。

 

一口食べて。

 

「美味い。これは人参味かな?」

 

 

★★★

 

 

入念な準備を行い、その日を迎えた。

第一線で活躍している一流の研究者の話が聞ける機会なんて、そうあるもんじゃない。

本を読むことは無駄じゃないが、所詮は文字に起こした複製だ。

実際に悩み、考えて、苦しんでそれを書いた人物に直接聞いた方が良いに決まってる。

 

集会所に設けられた講演会場に出向き、一番前の席を確保した。パイプ椅子に腰を下ろす。

 

講演会開始のときを待つ。

やがて、会場が暗くなり、スポットライトが当てられた壇上に、白衣を着た一人の中年女性が現れた。

見た目は上品そうなショートカットの眼鏡の女性。顔立ちはかなり端正だった。

 

しかし、目が氷のように冷たい。

 

……噂、多分真実だな。

僕は確信を持った。

 

壇上に立ったその女性……神崎瑠璃絵は話し始める。

 

良く集まってきてくれたわね。子供たち。

今日は科学者としての心構えを理解して帰って欲しいわ。

私たち科学者の何よりの喜びは、神が書いた世界の設計図……真理を探索することよ。

当然だけど、私たちはそれを直接見ることはできない。しかし、手探りで想像し、予想することは出来る。

そのために我々の先人たちが、どれほどの努力を積み上げてきたか……

キミたちが学んでいる座学の教科書に書かれていることは、その努力の集大成なの。

これからは、そういう目で教科書を見て欲しいわね。

 

彼女の話はまぁ、もっともなことだったし。

グッとくるところもあった。

確かにこの女性、一流の科学者なんだろう。

 

でもな。

 

曰く、臓器移植のモルフェウスによる「錬成」の可能性を探るため、健康な人間の心臓を取り出して、モルフェウス発症者にそれの錬成を試みさせ。

錬成されたその「心臓」を再度移植してみた、とか。ちなみに結果は失敗だったらしい……

 

曰く、双子のオーヴァードで、シンドロームが違うケースの理由を探るため、UGNから捕獲してきたUGNチルドレンの双子を二人とも生きたまま解剖した、とか。

 

曰く、アニマルオーヴァードがノイマンシンドロームを発症していなくても人語を操れる理由を探るため、やはり生きたまま解剖したとか。そして、メスのアニマルオーヴァードの卵巣を取り出し、そのアニマルオーヴァード本人の体細胞から作った人工精子を人工授精させて、受精させた受精卵がアニマルオーヴァードになるかどうかの実験を行ったとか。

 

並べだすとキリがない。

 

しかし。

確かに、モヤモヤするものがあった。

 

先日は、彼女の、徹子の言葉を否定するようなことを言ってしまったけれど。

あいつはあいつで、あのままでもいいのかもしれないな。

 

こんな、モヤモヤを抱えつつも。

神崎瑠璃絵という一流の研究者から、最先端の情報を得ようという気持ちは少しも揺らいでいない自分よりはマシなのかもしれない。

 

 

★★★

 

 

アタシは、たまにこんな夢を見る。

 

その夢では、あの日、アタシが自分の手でなぶり殺しにしたはずの牝豚が目の前に居て。

アタシに媚を売ってくる。

 

そしてアタシはあのときの、10歳の姿ではなく。

今の……このときは、14歳の姿だった。

 

徹子ちゃん、ママが間違ってたわ。目が覚めた。ママを誘惑したこの邪悪な男を成敗してくれてありがとう。

 

ニコニコとしている。たった今、自分が最高の男、運命の相手と言ってきた相手をぶち殺してやったというのに。

それに関する想いは全くないらしい。

 

「ハァ?アンタ、ウチを出るとき真実の愛に目覚めた。アタシの真の伴侶はこの人なの。この人は最高なのって言ったよね?」

 

それはママがあの邪悪な男に洗脳されていたからよ。本心では無いの。

 

牝豚は、引きつった笑いを顔に貼り付けて、必死でアタシに媚てくる。

 

アタシの心に、憎悪と軽蔑が沸き上がる。

 

洗脳って。お前は自分の意思決定に責任を持たないんだ?

反吐が出る。

 

「黙れっ!」

 

アタシは右手にレーザーを纏わせて、手刀で口だけは達者な牝豚の肩を切り裂いてやった。

 

ぎゃああ!!お願い!!許して!!たったひとりのママじゃないの!!

 

「アタシには母親なんていない!!裏切り者が母親面すんな!」

 

さらに切り裂く。

牝豚の指が数本落ちた。

 

痛いいいいっ!!

 

わ、分かったわ!パパにも誠心誠意謝るから!絶対に許してもらうから!!だから徹子ちゃんも!!

これ以上ママをいじめるのはやめて!!また家族3人で暮らしましょう!!

 

「調子のいいことばっかり言うよね。この牝豚は。生憎さ、アタシ、裏切り者をもう一回信じるほどお人よしじゃないんだ」

 

お願いよ!許して!!徹子さまあああああ!!

 

牝豚が、跪いてアタシの足を舐めてきた。

笑えてくる。涙が零れてくる。

 

なんて救いようないクズなんだ。娘相手に、徹子様?

……おぞましい。

 

「父さんとアタシを裏切ったのはまだいい!何でアタシを連れ去った!?あんな好色な最低男の家に!」

 

だってアナタはアタシの娘だから。

娘を連れて行きたいのは母親として当然の事よ。

 

全く白々しい!

 

「嘘つけ!父さんから養育費を毟り取るためだろ!!最低限のプライドも無いのかこの寄生虫の不倫女!!」

 

さらに斬りつける。

髪の毛と、耳が飛んだ。

 

あぎゃあああああ!!

 

「お前のせいで!!お前のせいで!!死ねっ!死ねっ!死ねええええ!!」

 

両手を輝かせ、レーザーナイフと化した左右の手刀でメッタ斬りにする。

手刀を振るう度、鮮血と肉片が散った。

 

斬りつけるたびに、怒りと、快感が走った。

脳に、甘い、痺れるような快感が。

 

牝豚が切り裂かれて悲鳴を上げるのが楽しくてしょうがなかった。

 

このクズのせいで、アタシはまともな教育を受けられず、純潔も無くし、心まで壊された。

こんなやつの娘に生まれたばっかりに、アタシはこんなことになった。

 

だったらせめてさぁ、せいぜい良い声で鳴いて、アタシを楽しませてよ!?

気持ちよくさせてよ!?

 

アンタいたぶるとさあ、メチャメチャ気持ちいいんだ。

怒りが燃えて、憎悪が滾り、脳が溶ける快楽。

 

アンタのせいで、アタシ、こうなっちゃったんだよ?

責任とれよ、ねぇ?

 

あひ……あひ……

 

切り刻み続けると、鳴かなくなった。

もう、虫の息だ。

 

もう自慢の顔はズタズタ。

身体もボロボロだ。

 

鏡で今の姿を見せてやりたい気分だよ。

 

ご自慢の容姿、もうこんなのですよ?

こんなのじゃ、もうきっと、楽しい楽しい恋はできませんねぇ?

どんな気分ですか?

 

お・か・あ・さ・ま

 

まったく。いい気味。

 

このまま放置しておいてもいいけど。

狂われて、夢の世界に行かれても困るもんね。

 

キッチリ送ってあげるよ。

地獄にさ。

 

アタシは右手をレーザーナイフ化させて、瀕死の牝豚に近づく。

 

バイバイ牝豚。

次は人間に生まれてくるなよ。

 

背後に回り、アタシは牝豚の背中に右手を突き刺す。

牝豚の身体が震えた。

 

そのまま、牝豚の背骨を探り、握る瞬間レーザーを切った。

そのままだと背骨を焼き切ってしまうからだ。

 

きっかけは、思いつき。

背骨ってどんな骨?

 

サンマ食べるとき、ベリベリって剥がすけど。

人間の背骨ってどんなかな?

 

それがふと気になって。

殺すとき、抜いてみようか。

 

そう思ったんだ。

 

ゴキィ!

 

そのまま、握った背骨を引き千切った。

理屈はよくわからない。あとで文人に聞いたら「ハヌマーンの能力を効果的に使ってるんだろ」って言ってたけど。

 

背骨を抜き取られた牝豚は、ビクンと震えて。

そのまま絶命した。

 

右手には血まみれの背骨。

はぁ、結構でっかいなぁ。

 

アタシは投げ捨てる。

 

ハハ……!

 

死んだ。

ざまぁみろ。

 

もう牝豚は動かない。

アタシを散々苛め抜き、地獄に突き落とし。

母親の務め、妻の務めを全く果たさず、苦しみしか齎さなかった最低の女。

結婚すべきでなかった、見た目だけ良い最低のクズ。

 

もっと苦しめてやりたかったけど、しょうがないよね。

人間の身体、そこまで持たないし。

 

ああ、ホント、もっともっと、愉しみたかったよ!

 

 

……まだ気が済まないのね。なんて強欲なの。

さすが、アタシの娘。

 

 

アタシが嗤っていると、突如、死骸が喋りだした。

牝豚の死骸が。

 

「……てめえ!」

 

アタシが舌打ち混じりに死骸を見下ろすと、死骸はまるでビデオの逆回しのように元に戻っていき。

最初の状態に戻って、立ち上がった。

 

アタシは手刀を振るう。

 

姿が、消える。

 

……ちょっと落ち着きなさい。

母親らしく、忠告してあげるんだから。

 

気が付くと、牝豚がアタシの背後に居た。

それに気づいたのは、いつの間にかアタシの目の前に大きな鏡があったからだ。

 

牝豚はアタシの肩に手を置き、話し出す。

 

あらら。徹子ちゃん。

14歳になったのね。大きくなったわね。

 

……また、アタシに似てきたわね。

顔つき、体型、アタシにどんどん近づいてる。ほら、良く見てみなさい。もう顔、そっくりよ?

 

ニコニコと、牝豚は笑っている。

 

好きな男の子は居るの?

居るわよね?恋は止められないし、アタシの娘だもの。

どんどん恋するといいわ。

 

……そして、裏切りなさい。

 

牝豚が、アタシの耳に口を近づけて、呪いの言葉を吐く。

 

いいこと?アナタはアタシの娘だから、必ず裏切るわ。

一度は愛を誓った相手を、アナタは必ず裏切る。平気でね。

だって、アタシの娘だもの。裏切るに決まってるわよね。当然よねぇ。

ここまでアタシに似てるんですもの。それが当り前よ。

 

そして呪われなさい。

そして殺されなさい。

 

アタシ同様、自分の子供に。

 

ああ、だから。

子供は作らない方がいいかもね。

将来的に殺されるだけだしね。アナタの場合。

それでもよけりゃ、産んだら?

 

じゃあね、徹子ちゃん。

ママ、地獄でアナタの人生を見守っているから、せいぜい愉しませてね……

 

アタシは、未来のアナタの姿だから!

 

「……ッ!!」

 

そこで、アタシは目覚めた。

自室のベッドで。

薄手の布団を跳ね除けて、アタシは身を起こした。

 

寝巻が、汗で濡れている。

冷房、入れてなかったっけ。

なんだかムシムシしていた。

 

枕元のリモコンでアタシは冷房をONにした。

エアコンが作動し、部屋の温度を下げていく。

 

ここ数日、涼しかったから冷房を入れずに寝てたけど。

 

ミスっちゃった。

暑さでうなされて、あんな夢を見るなんて。

 

……いや、それだけじゃないかな。

 

多分、彼との生活が幸せ過ぎて、こんな夢を見ちゃったんだ。

アタシの潜在意識が、警告として。

 

その気持ちは危険だから、即座に捨てなさい。そうアタシに教えるために。

そうしないと、たくさんの人を不幸にするよ、って。

 

そう。

だよね。

 

思い出さなきゃ。

 

アタシは、あのろくでもない女の娘だってことはさ……!

夢なんて、見ちゃいけないのよ……!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。