エロはファンタジー。いいね?
影山が喘いでいるのでご注意。
桃井さつき、16歳。高校一年生の夏、実家に帰ってきた彼女は久々に幼馴染である影山飛雄とバレー談義に花を咲かせた後、烏野高校に行ったり影山家でバレー観賞会をしたりだとか、身のある休日を送ったその日の夜。
どういうわけかサキュバスになっていた。
「なんで!!?」
桃井は鏡に映る自分の姿に驚愕の声を上げた。腰まで伸びた艶やかな桃髪にしっとりと透き通った白い肌。長い睫毛と限界まで開かれた瞳。同世代の友人と比較すると発育の良すぎる体つき。寝る前と同じ平素の姿をしている……ように見えたが違う箇所があった。
まずは耳。丸っこい耳をしていたはずが今やエルフのようにとんがっているのである。触ってみると案外普通の感触で耳の形が変わったからといって自分の感覚に大きな変化は感じられない。
次に背中。何やらムズムズそわそわするなぁと思っていたら、翼が生えた。もう一度言おう、翼が生えた。バサァ!! と勢いよく。ついでに背中部分のパジャマが破れた。怖くなって元に戻れと必死になって祈ったら翼は綺麗さっぱりなくなっていた。そっと背中に触れると破れた形跡もなく元通りになっていたので桃井は深く考えるのをやめた。二度と出すものかと誓った。
最後に……ちらりと鏡の端っこに目をやるとそこにはふわりふわりと自由気ままに揺れる黒い尻尾が映っていた。先端がスペードのような形をしていて怖くて付け根部分を見ることはできていないが、どうやら尻の上辺りから生えてきているらしい。パジャマのズボンに収められないのだろうか。
確かめてみようと恐る恐るそこを撫でてみるとムズムズした感覚がやってきて慌てて手を止める。真っ直ぐにと思ったら尻尾はピンと伸び、緩めようと念じればその通り動く。なるほど、ある程度は自分の意思で動かせるわけだ。
桃井が気を緩めると、今度は尻尾が腕に絡みついてきた。……コイツ私の体の一部にしては自由度高いな。なら早くと意思を伝えれば尻尾はいそいそとズボンの中に収まった。
「えぇ……何なのコレ……」
桃井はサキュバスの知識なんて持っていない。しかし直感的に頭で理解してしまった。今の自分の環境と、体の仕組み。そしてこれから何をしなければならないのかを。
平たく言えば、桃井はこれから男性の精液を摂取しなければ元の身体に戻ることはできない。
いやふざけるな。なんだそれは。夢ならどれほどよかったことか。たしかにサキュバスは眠っている男性の夢の中に現れ、精液を搾り取っていく悪魔だが。これも夢の一種なのだろうか? だったら早く目を覚まして。こんな悪夢は嫌だ。
しかし……桃井はゆっくりと振り返る。そこには安らかな顔で眠る自分がベッドに横たわっていた。間違いなく実体を持った自分がそこにいるのだ。
となれば今の私は何なのだろう。鏡に手を伸ばすと触れることができ、しかし念じればすぅっとすり抜ける。それならと想像力を働かせれば桃井は宙に浮いた。そのままバタ足の要領で自分の部屋を散策する。結構楽しい。へー、サキュバスってこんなことできるんだー。
「はっ、違う違う。危うく流すところだった」
桃井は口元に手をやって考える。
今の私は幽霊みたいなものだろう。しかも自分の意思で実体化しかり浮いたり何だってできる。きっとそれはサキュバスだからだろうが……このまま朝を迎えたらどうなる。消えるのだったらこのまま待ち続けるという手段があるけれど、そもそも今の私は他の人に目視できる存在なのだろうか? というか何がきっかけでこんなことに??
溢れ出てくる思考は止まらない。なんせ情報が全くないのだ。今の桃井の頭の中に存在するのは目標を達成する知識が申し訳程度に入っているのみで、浮いたりすり抜けたりして男性の精液を搾取しようね、ぐらいである。
持ち前の好奇心で調べようとスマホに手を伸ばすも、やめにした。変な情報を植えられても困る。それにやるべきことは一つなのだ。あとは実行するのみ、なのだが。
「………誰を、選ぶか」
知り合いは無理だ。次会ったときにどんな顔をすればいいのかもわからないし、気まずい。かといって初対面の人に処女を捧げるのはもっと嫌だ。サキュバスになった身だがはじめてだから、夢は見たい。……夢じゃないんだよなぁコレ。
……一応。一応、知り合いというか家族みたいな奴で、抵抗感が一番少ない男の顔が浮かんだ。というかこの状況になった瞬間パッと出てきたのはソイツだけだった。ソイツならこの身を捧げてもいいし、人生丸ごと支えてみせると本気で誓ったくらい好意を寄せる相手ではあるけれど。
でも、だからこそ、サキュバスとかふざけた形じゃなくて、ちゃんとした手順を踏んでそういうことをしたい。
「……けど、他の人となんて嫌だし……」
ぐるぐる考え込むこと数分。桃井の腹は決まった。
玄関のインターホンを押すことも考えたがそれでご両親が出てこられると困る。「あっ夜分遅くにすみません、息子さんの精液もらいに来ました」とか死んでも言えない。というか奴が起きてるとも限らないのだ。むしろ寝ている可能性が高い。ならその状況を逆手にとって、本物のサキュバスのように夢の中に現れば良いのだ。それができるかわからないが、「幼馴染がサキュバスになってやってきた」みたいなラノベタイトルになってやると決意し、桃井は自分の部屋をすり抜ける。最早やけくそだった。
「寝てますように……」
そのままフヨフヨ隣の家のベランダに着地すると、カーテンに仕切られたその先───影山の部屋の様子を伺う。まあ窓も締め切られていて中の様子は見えないのだが。
まさかこんな形で部屋にお邪魔する日が来るとは。二度と来ないで欲しかった。普段なら普通に部屋に入れるのにとよくわからない感情を抱きつつ、影山が眠っているのを確認すべく壁をすり抜けた。寝ているのならそのままこっそりいただいて帰ろう。そうしたら影山に気づかれることはないと、そう、思っていた。
部屋に侵入した途端、嗅いだことのない男の濃い精の匂いが一気に体を包み込んで、無意識のうちに恍惚した吐息をこぼした。興奮がひっきりなしに襲ってきては早く早くとせがんでくる。ああ、その男の精を残さず搾り尽くしてしまいたい……この疼いた体を激しく乱していっぱい精を注いで欲しい……。そんなあけすけな欲求に支配された桃井はゆっくりとベッドへと近づく。
寝ているのなら、そのまま……と快楽を期待して使い物にならない頭がわずかに考えていると。
「…………っ、ん、……ぅあっ」
エアコンの稼働音に紛れる吐息は荒く、にちゅにちゅと粘り気のある水音が聞こえてきて、むわりと鼻腔をくすぐる精液の匂いに桃井の体温が上昇した。どくりと心臓が高鳴り、口の中が涎で溢れそうになって飲み込んだ。
驚きとそれ以上の興奮が襲ってきて、足の力が抜けてペタンと座り込む。幼少期からそばにいて、異性どころか家族のような存在だと認識していた影山を、この時桃井は初めて男として認識した。
だって知っているはずがなかった。こんな一面があるなんて想像もできなかった。性的な目で見た事なんか一度もない。桃井が好きになったのはバレーに真摯でひたむきな影山であり、家族同然の幼馴染が、こんな、こんないやらしいことをしているだなんて、思いもよらなかった。
しかし影山の自慰に耽っている姿は、桃井の正気を消し飛ばすに十分な威力があった。
はーーーッ、はーーーッと荒く呼吸をして、長い舌はだらしなく垂れる。欲しい。欲しい。早く。そう急ぐサキュバスの本能に反して、興奮に痺れた身体は自由が効かなかった。慣れ親しんだ部屋の中、夜だからというにはあまりに雰囲気を変えた空間はいやらしい音で満たされている。
ベッドの上で横向きに横たわる影山が自慰をしているのは明らかだった。きつく目を閉じ、眉根を寄せて、息を荒げる。普段は涼しげな顔立ちをした幼馴染の快楽に身を悶えさせる表情はあまりに淫らで衝撃的だった。
「う、ぁ、あぁ、………はぁっ、」
見ちゃいけないとわかっているのに。目が離せない。タオルケットで隠されている腰の辺りが激しく前後に揺れ、いやらしい水音が増す。
力の入らない四肢を叱咤して、四つん這いになりながら手足を動かしてベッドの縁に身を寄せた。さらに濃くなる精の匂いにくらりとしながらその瞬間を待つ。
早く、早く。そうしてとろんとだらしなく口を開く桃井のとんがった耳に、その言葉が届いた。
「……さつき、っさつき」
へぁ、と間抜けな声が漏れた。慌てて口元を手で覆うも影山が気づいた様子はない。正気に戻った桃井は、その意味を、男性がこういう場合に女性の名前を呼ぶ理由を、理解した。その瞬間、ボッと全身が熱くなった。心臓の高鳴りが止まることはなく、サキュバスの本能に屈していた先程と違い、彼女自身が興奮して止まないことを自覚した。
つまるところ、影山は桃井をオカズにしてオナニーしていたということになる。
なんで、と無意味な問いかけが頭の中で反響する。桃井はその端正な顔立ちと魅惑的な体つきから、異性からそういう視線を浴びせられたことがあった。その度に嫌な思いをしてきた。
しかし幼馴染であり今の今まで異性として意識したことのない影山にそういう対象として見られていたことを知って、嫌悪感を抱かなかった。むしろその逆……嬉しいとさえ思ってしまったのだ。
今まで聞いたことのない声色で、情欲に濡れた熱い吐息と共に、名前を呼ばれた。今もまた、たまらないと切羽詰まった声で。その度に桃井の身体がビクンッと大きく揺れて、じわりと下半身の熱が広がる。
「あ、ぁ、……ゃ、やめて、」
その声で私の名を呼ばないで。真っ赤に染まった顔と涙目になった瞳をくしゃりと歪ませて、桃井はほとんど音にならない声で言った。影山も聞こえなかったようで、桃井に見られていることに気づかないままだった。
他の女性じゃなくて、自分を想ってくれているのは凄く嬉しい。嬉しいけど、恥ずかしい。恥ずかしさで人が死ねるなら桃井はとっくに死んでいる。そのくらい恥ずかしかった。
そして恥ずかしいならやめときゃいいものを、桃井は影山がどんな自分を頭に描いて自慰に耽っているのか気になった。サキュバスの特性上思考を読み取るなんてお手の物らしく、影山の脳内映像がそのまま桃井の脳内に流れ込んでくる。
───筆舌に尽くしがたい映像だった。
あられもない姿をした自分が、最高にいやらしい顔で男を、影山を誘惑する。汗やら互いの体液やらでベタベタの体に触れ、快感に流されるまま獣のようにセックスしていた。
到底受け止めきれない快楽に泣いて許しを乞い、狭いベッドの上を逃げるように這うも腰を力強く掴まれてそのまま打ちつけられる。ひっきりなしに聞こえてくる耳を塞ぎたくなるほどの甘い喘ぎ声が自分のものだなんて信じられない。正確には影山の想像の中の桃井ではあるのだが、アンタなんちゅうもん想像してくれてんのよ!! と恥ずかしさで爆発しそうであった。
そこで止まればいいのに、脳内再生は止まらない。むしろこれが淫夢を魅せるサキュバスの本領発揮なのだろうか、桃井のえっちな想像がかわいらしいくらい、影山の脳内がどんどん過激になっていく。同時に現実の桃井の方も困惑と興奮で今にも泣き出しそうになっていた。
些細な触れ合いにすら敏感に感じて、影山に与えられる全てにビクビク反応してしまい、わけがわからなくなって。縋る先が見つからず影山の逞しい背中に腕を回し、全身を密着させてしがみつくと、激しさの増す律動にたまらなくなって背中を反らす。
「さつき、はっ、も、出るっ……!」
影山が大きく身を震わせて、ようやく脳内再生は止んだ。実はまだ続いてはいたのだが、影山の集中が揺らいだその瞬間にようやく繋がりを切れたのだ。
濃密な精液の匂いに再び意識がぼうっとしてくるが、それよりも羞恥で忙しい桃井は今度はサキュバスの本能に屈しなかった。というか、よくわからない怒りを抱いている彼女は影山に一言言ってやらないと気が済まないのだ。
言ってやると自分の存在を知らしめるどころか、あなたの自慰を見てましたと自己申告するようなものなのに、桃井はそこまで頭が回らなかった。
息を整え、ベッド脇に置いていたティッシュで汚れた手や陰茎を綺麗にするべくモゾモゾ動く影山に叫ぶ。
「影山くんのおばか! 変態!! えっち!!」
「は!? ………はぁあああ!!?」
突然の罵倒に振り返ると今まさに脳内でオカズにしていた幼馴染がそこにいた。
見られていた。好きな奴に。何回もコイツの名前を呼んで、コイツが乱れる姿を想像して、オナニーしていたところを。手や性器は拭くことができたが、張本人の登場に諸々の疑問と賢者タイムが吹き飛んだ影山の顔に熱が集まった。
「な、おまっ、いつから、そこに」
「さっきから!!」
豊満な肉体を両腕で隠すように抱きしめる桃井。しかし暴力的なまでに育った胸部は隠せていないし、その扇情的な仕草は逆効果にしかならない。
ふー、ふー、と息を荒げて涙目で睨んでくる姿はクるものがあるが、そもそも勝手に自慰を覗いてきたのは桃井のほうである。
しばらく口をパクパクさせることしかできなかった影山は我に返った。そう、正真正銘被害者なのは彼のほうだった。
「アンタ……私の身体どういう目で見てたわけ!? 信じらんない!!」
「ああ!? なに言ってんだよ!! つーかどこから出てきた!!」
「そこのベランダからよ!!」
「どれだけお前の部屋と離れてると思ってんだ! 無理に決まってんだろボゲェ!! 窓も閉めてたはずだろうが!!」
「事実よ! こう、なんか、フワフワ〜って!!」
「フワフワってなんだよ!! お前さっきから何言って……!」
そこで影山ははたと気づいた。明かりもついていない部屋を照らすのは外から漏れてくる僅かな電灯のみ。ベッドに乗り出す勢いで迫る桃井の姿は逆光気味ではあるのだが、持ち前の観察眼でその正体を看破したのだ。
まずは、耳。人間じゃありえない妖精のような形をしている。無論影山は妖精の耳がどんなものか知りはしないが、人間ではないことは確かだと言える。
そして尻尾。桃井の尻の辺りから生えたそれが彼女の動きに合わせてゆらゆらと揺れているのだ。
昼間の姿と全く違う幼馴染に、影山はまず夢を見ているのかと自分を疑った。だって、現実にはあり得ないのだ。夢だとしたら、どこからが夢なのだろうか? こんなにリアルな夢は初めてだ、と影山はサキュバス化した幼馴染をしげしげと眺めた。
「だいたい、実物がいるのになんで……!」
そして桃井は勢いに任せて大声で言い合っていたが、今は真夜中である事実に気づいて口を噤んだ。しん、と静まり返る中、一階の方に意識を向ける。……音がしないということは影山の両親は目を覚ましていないようだ。よかったと胸を撫で下ろす。
「あ、あのね。ああいうのは、まだ早いっていうか……!」
今度は小声で訴える桃井だったが、影山の目線が自分ではなくその隣に向けられていることに気づき、不審げに首を傾げる。どうしたの、と尋ねる前に影山は宙に揺れている尻尾を無遠慮に引っ掴んだ。なんとなくそこにあったから触れてみただけのこと。しかし。
「ひっ……!?」
その瞬間、桃井がビクンッと背中を反らした。尻尾の付け根である腰から背中にかけて言い知れぬ感覚が電流のように走り、下半身に力が入らなくなった桃井はそのままベッドに倒れ込むように身を乗り上げる。
未体験の感覚にわけがわからず混乱する桃井と同じく、影山も頭にクエスチョンマークを踊らせていた。
尻尾の感触は思ったより硬く、見た目通りツルツルした滑らかな手触りをしている。しかし、とんがった耳にもこの尻尾にも、なんだこれという感想が尽きない。
先端のスペード型になっている箇所までつぅと指を滑らせると、んぐぅぅう……っと何かを押し殺した声が喉元から絞り出され、先端部にぐっと指を押し込めば、ベッドにうずくまったせいで高くなった腰と突き出された尻が揺れた。尻尾がよほど敏感なようで、影山の手の動きに面白いほど反応を示す。
「ぅ、うーっ、んんっ……! ふ、ぅう……!」
いやいやとベッドに押し付けた頭が揺れて、長い髪がばさりと流れる。シーツを掴み必死に耐えようとする桃井だが、初めての感覚が膨大に押し寄せてきては抗うことは難しい。抗議の声を上げようにも口を開けばあられもない声が飛び出てきそうで、影山から離れようにも四肢に力が上手く入らない。どうしよう、どうしようと考える間にも、感覚は快感へと変わっていった。怒りで抑えていたはずのサキュバスの本能がむくむくと蘇り、快楽を素直に受け入れたいという感情が芽生える。
いやだ。そんなものに、屈するなど。
負けず嫌いが発動し、身を固くして反抗の意思を体現する桃井だったが、影山に対する怒りがほとんど消えてしまった今、それを上回る感情さサキュバスの本能を押さえ込むには足りなかった。
見られている。影山に。幼馴染に。好きな人に。肌を突き刺すような鋭い視線がすぐそこから送られて、顔をさらにベッドに押しつけて隠す。ああ、影山の匂いだ。安心する。いや、ちがう。なんで、わかるの。これじゃ、私が変態みたいじゃない……!
真夜中に、影山のベッドの上で、腰をビクビク揺らして、興奮して。そんなところを見られてるのに、嫌な気持ちになりもしない。恥すらも興奮材料になって、頭がぼうっとしてくる。
影山が尻尾の先端部をすりすりと指でこすり、先程の強烈な感覚と違って、優しくもどかしい快感が腰に伝わる。あ、それ、気持ちいいかも……と素直に思うくらいには心地いい感覚だった。それを不審に思わないほどに桃井の心は傾いていた。
「っ、ぁ、あっ、ぁああっ!?」
突然、先端部の中心を親指でぐりっと力強く押され、桃井は一際大きな喘ぎ声と共に背中を仰け反らせた。いきなり与えられた大き過ぎる快楽に頭が真っ白になる。そして、最後にわずかに残っていた理性が消え去った。
───きもちいい。気持ち良すぎて、おかしくなりそう。意地でも開かなかった口が次第に緩み、控えめな、甘い声が漏れ出す。一度それを許してしまえば後は容易く、桃井はベッドに沈んだ。指先の力を抜いて、ただ快感を享受する姿勢になった。
しどけなく体を横たえてごろんと猫のように丸くなると、高くなっていた腰もベッドにくっついて、もどかしげに太腿がすり合わされた。パジャマがめくれあがって白く艶かしい太腿が露になり、引き締まったくびれまで惜しげもなく晒される。両腕はだらんとベッドに投げ出され、荒く呼吸をし、腰をびくびくさせるたびに大きな胸が震えた。
「ぁ、あー……、はぁ、あっ、あ、あ、」
影山は、溢れそうになった唾液をごくりと飲み込んで、その光景に魅入った。夢なのだろうか。空気に溶ける甘い吐息も、堪えきれない喘ぎ声も、いやらしく揺れる腰の動きも、すべて影山の生み出した夢なのか。自分のベッドに横たわりすぐそこに感じられる体温と比べて、自分の手に触れる尻尾があまりに冷たくて、そんなことを考えた。それに現実にこんな都合のいいことが起きるのか。こんな、据え膳のような。
「………くそっ」
どちらにしても、目の前の淫靡な光景を、目に焼きつけて忘れないようにしたかった。見ることに集中するあまり手元が疎かになってしまって、尻尾を単調に擦り上げることばかり繰り返していたが、その動作が先程の行為と重なって見えて、興奮しないはずがなかった。時折先端部を指でぐりぐり押し込むと、「ん〜〜〜〜っ!!」と全身をガクガク震えさせ、桃井は真っ赤な顔でこちらを見上げてくる。
その顔があまりにいやらしくて。自分の想像とは比べものにならない表情を、初めて見る幼馴染の快感に悶える姿をもっと見たくなった。
心臓がバクバク鳴っているのがわかって、試合中とは違った息苦しさを覚える。じとりと汗が額に浮き出てきて、影山は自身が緊張しているのを知った。
桃井に触れてみたくなった。夢か現実か境目を無くす冷たい尻尾じゃなくて、紛れもない体温を持った彼女自身に。
優しく尻尾に触れたまま、空いているもう片方の手をぎこちなく伸ばし、そっと桃井の頬をつついた。セッターとして遺憾無く才能を発揮するための繊細な指先に、同じくらいの体温が触れる。感触は柔らかくてもちもちしていた。つんつん、もちもち、夢中になってつついていると尻尾を弄る手は止まっていて、ただ持つだけの状態になると当然、桃井にも考える余裕が生まれる。
「…………ふっ」
「……? …………??」
なんか今笑わなかった?? この状態で、ベッドに私がいる時に、やることがそれ!? 気持ちいいことしたいとか思わないの!? それでも男子高校生!? 尻尾も弄ってくれなくなったし!
「それ楽しい?」
「ああ」
「へー……」
マジかコイツ、と桃井は胡乱げな目を向ける。相変わらず楽しそうに頬をつつく影山だったが、彼も彼なりに一生懸命勇気を振り絞り、その結果に喜んでいるだけで、そこで終わりにしようなんて気持ちは一切なかった。ただあれだけ緊張していたのが少しばかりおかしかったり、むぅと膨れっ面を見せるコイツかわいいなとかつい思ってしまっただけで。
「ふーん。影山くんって、ベッドに女の子がいたら頬をつつくニッチな趣味持ってるんだ」
「にっち」
「……。ほかに触りたいところはないのって聞いてんの。……私の体、好きにしていいのに」
先程の雰囲気はなんだったのか。半端に煽られただけじゃないかと持て余すのは欲求不満。そう、ほっぺを膨らませて不満ですと主張しても、指でつつかれて空気が抜け出して終わりなのである。こちらから仕掛けなければ。
桃井の目的を果たすにはどうしたってこの男をそういう気にさせる必要がある。まあ、人をオカズにしたり尻尾を散々弄ったりしておいて興味がないなんて言いやがったらぶん殴るつもりではあるが、影山の反応を見るにその可能性は皆無だった。
ちらりと横目で影山を見上げる。影山は石像のように固まっていた。は、と言葉にならない声をもらし、目を大きく見開いて、ベッドに横たわる無防備な極上の肉体を視界に収めている。
先程の行為で乱れた衣服はそのままで、きわどいほどに捲れ上がった裾を直したい衝動に駆られるが、桃井はぐっと恥を堪えた。
これが現実だと影山に思わせるわけにはいかない。急にサキュバスになってアンタの精液をもらいにきた、なんて言ったらどうなるか。それにもしこれが現実なのだとしたら(紛れもない現実である)、次影山に会ったときにお互いどんな反応をすればいいのだ。ただでさえ桃井だけがこんな状況になってしまったとわかっていて泣きそうなのに、影山にまで知られてしまったら二度と顔を見れない。恥ずかしさで死ぬ。
影山にはこれが夢だと思ってもらわなければならない。たとえどんな手を使ってでも。
夢だと思わせたいのなら。現実じゃありえないと、桃井はこんなことしないと思わせなければ。
桃井は捲れ上がっていたパジャマに震える片手をかけると、顔を横に背けてギュッと目を瞑ったまま持ち上げ、見せつけるようにゆっくりと胸元を露わにした。大きく膨らんだ胸部が白いフリルのついた可愛らしいデザインのブラジャーに包まれた状態で影山の眼前に晒される。
さらにもう片方の手でズボンをずらせば、同じく白いフリルの下着が姿を現した。
「ど、どうかな……」
一気にエアコンの風にさらされた素肌が震え、尻尾も連動するようにぶるぶるした。薄明かりが照らす彼女の柔肌は白く艶かしい。
自ら素肌を見せるなんて痴女同然だ。それでも桃井はやるしかなかった。夢の中で痴女だと思われてもいい。今が現実だと思われるほうが地獄なのだから。
影山はなんて思うだろう。なんて言うだろう。はしたない女だと思うだろうか。……嫌いに、なっただろうか。そう考えると鼻の奥がツンとした。
影山は何も言わない。顔を見れないからどういう表情なのかもわからない。ただそこにいることだけしかわからない。とにかく無言の空気を変えたくて桃井は提案する。
「えっと、ぜ、全部……脱いだほうがいい……?」
……まだ影山は何も言わない。泣きたくなってきた桃井は、ぐすっと鼻をすすってついにフロントホックに手をかけた。
………ボタッ。
何か、生温かい何かが、腹の上に落ちた。
「えっ」
見上げると影山は鼻血を出していた。驚いて涙腺が引っ込んだ桃井と自分の状態に初めて気づいた影山。痛いほどの沈黙に包まれた後、先に動いたのは半裸の桃井だった。
「ちょっ、鼻血! 出てる!! ティッシュ!」
「………あ? な、で、出てねーし!!」
「出てるよ! なんで嘘つくの??」
ティッシュを数枚取って押しつけると渋々受け取った影山が鼻に詰める。お腹に落ちた鼻血を綺麗に拭き取り衣服の乱れをさっと整えた桃井は、なんだかなぁと口元に笑みを浮かべてしまった。
恥ずかしい気持ちとドキドキする気持ちがせめぎ合っている。もしかして影山くんも同じ気持ちなのかなと期待した。
「ねえ、影山くん」
何度も開いたり閉じたり忙しない指をとり、自分の指と絡める。するりと男らしく骨張った手の甲を撫でれば影山がぴくりと眉根を寄せて「おい」と低く唸った。その顔は気持ちいいのを期待してるけど、気取らせまいとしている顔だと見抜いて、桃井の機嫌は簡単に良くなってしまう。そのまま手首を柔く掴んで、影山の手のひらを頬に密着させた。
温かいというよりかは熱い。大きい手だなぁ、この手があの美しいトスを生み出しているんだよなぁ、と思うと愛おしい気持ちで胸がいっぱいになる。大きな手のひらに自分の手を重ねながら、その気持ちを余すことなく声色に乗せ、微笑んだ。
影山の心臓が跳ねて声にならない吐息が漏れる。彼女は美しかった。紅潮した頬と欲に濡れた瞳が目に毒だった。
これは夢だ。現実の影山はベッドの上で眠っていて、ここで起きる全てのことは翌朝には何もかも無くなってしまう。そういうことにしなければならない。そうでなければ……。
「大好き」
だからだろうか。心の中の本当の気持ちがするりと言葉になった。だってこれは夢だから。桃井がどれだけ本音を明かしたところで全部影山にとっては都合のいい展開にしかならないし、ますます夢であることを受け入れることになるだろう。
そして桃井の思惑通り影山は現実と見なさなくなっていた。超リアルな夢だと思うようになっていた。目の前には据え膳な不思議な尻尾を生やした幼馴染がいて、自分に好意を伝えている。現実では絶対にありえない光景だ。……いや後者の方はまだ現実にも起こり得ると信じていたいが、まあとにかく。
「お、俺も……お前が好きだ」
「ふふ」
「笑うな」
「馬鹿にしてないよ。嬉しいの、同じ気持ちなんだね」
そりゃ夢なんだからそうなんだろ。影山はうぐと言葉に詰まった。夢だろうと何だろうと桃井に悲しい顔をさせたくはなかったのだ。たとえ己が作り出した幻想でも。
何はともあれ舞台は整った。後はただ欲望のままに貪り尽くすだけでたる。
えろってこういうのですかわかりません。
どうしても現実的な問題が邪魔するので桃井をサキュバスにしました。これでなんでもできるようになったね!!
なんかこう……アホっぽいけど愛あるセッが書きたいなぁと思ったらよくわからないのができました。彼らには幼馴染という設定を生かしてもらってギャーギャー騒ぎながら最高に恥ずかしいセッをしてほしいと思っています^ ^