床に座ったまま、背中を丸め、北はズボンのチャックを完全に下ろした。窮屈だった場所から解放された熱には下着が張り付いていて、気持ち悪い。
シャツを羽織ったその姿は、緊張でわずかに震えていた。
「ふー…………」
長く、長く息を吐き切って、北は体の向きをくるりと回転させた。今まで桃井に背中を向けていたので、こうやって正面から向かい合うのはここが初めてである。
桃井は突然こちらを向いた北に驚いていたが、目線がそろりと下に引き寄せられて、キュッと眉が上がる。瞳は、動揺と好奇心で揺れていた。
張り詰めたそこを下着越しにまじまじと見られて、北とて羞恥を感じないわけではなかったが……次第にどうでもよくなる。
もう、彼の理性を抑える壁はどこにもない。
「下ろして」
「! え、」
「見たいんやろ。ここ」
「あ」
そう言われて、桃井は真っ赤な顔でコクコク頷いた。必死だった。まさかそんなお願いをされると思わなかったが、乗らない手はない。
北はここまで来ても性的接触を拒む可能性があるから、油断せずに追い込む必要がある、と桃井は大真面目に考えていた。
彼女にとってここはスタートラインであり、いかにして巨乳派に鞍替えしてもらうか、おっぱいにさらに興味を持ってもらうか、えっちなことに雪崩れ込むか、そればかりを考えていた。
まさかもうゴールに到達していて、今から追い込まれるのが自分であることに、桃井は全く気づいていない。
「し、失礼します」
「……ふっ」
「な、なんですか! 笑うだなんて」
「いや、すまんな。緊張しとんの、一緒やと思って」
だから、北に熱を帯びた目線で柔く微笑まれても、獲物を見る目で見つめられても、ドキドキするばかりで。
自分が優位に立っていると勘違いしている。
「……っ」
北の引き締まった腹に指を添えて、下着のラインに滑り込ませる。くいっとゴムを持ち上げて下ろせば、硬く張り詰めた男性器が勢いよく現れた。
桃井の息が止まる。初めて見るその形に、彼女の心臓がドクドクと暴れた。
生々しくて、ひくひく震えていて、目が離せない。
桃井の指先が震え、頬がカッと熱くなる。
「触って」
北の声は低く、かすかに掠れていた。桃井の目線が彼の顔に跳ねる。
「ぇ、あ」
「触りたいって言ったのはお前やろ」
その言葉に、桃井の喉がキュッと締まった。
そうだ。自分の口でそう言ったのに、すんなり事が運ぶと、夢ではないかと疑ってしまう。
だって、あの北信介に、触ってと言われるなんて。
婚前交渉とかしなさそうだし、不特定多数と遊ぶことを軽蔑しそうだし、付き合ってないのにセックスするのを馬鹿かと言いそうだし、告白しないと触れることも許さなそうなのに。
あ。ていうか、これいいのかな。
えっちな展開に持っていけば好きになってくれると思ったから、ここまで罠を仕掛けたけれど。
ここまで許してくれる時点で、もしかして北先輩って私のこと好きなのでは……。
「触れ」
「!」
興奮と困惑が混ざり合い、混乱していた頭に、低音が流れ込んだ。
それだけで桃井の思考は霧散してしまい、欲望に突き動かされ、震える両手をそっと伸ばす。
恐る恐る、温かく硬いそれに触れると、滑らかな肌と芯の硬さに驚き、指がピクンと跳ねた。北の体が小さく反応し、彼女の心はさらにぐちゃぐちゃになる。
桃井の指先は、まるで未知の物体を探るように、ぎこちなく動いた。
何もわからないまま、両手でやわやわと触れる感触。先端に滲むわずかな先走り汁が、指に触れて少しだけぬめりを与えるが、動きを滑らかにするには足りない。
桃井の視線はそれに吸い寄せられ、目をそらすことができなかった。
北先輩の……好きな人のを、触っている。
その事実に彼女の頭はクラクラし、太ももが無意識に擦れ合った。
「んっ……」
北は、桃井のそんな顔をじっと見つめていた。
彼女の初々しい反応、頬を染めて性器をガン見する姿に、彼の嗜虐心がさらに揺らぐ。
恐々と触るもどかしい刺激は、あまりに拙い手淫だった。気持ち良さは、正直ほとんどない。ただ視覚的な暴力だった。
さっきまであんなに自信満々に誘ってきた桃井が、今や性器を前にして照れた様子で身を捩っている。
これが逆に北の欲を煽った。首筋に新たな汗が滲む。
もっと乱したい。
「桃井、舌出してくれるか」
北の声に、桃井の顔がパッと上がる。違和感がちくりと胸を刺した。
「し、舌?」
「ん。こう」
北がベッと舌を出す。その初めて見る無防備な表情に、桃井の心臓がまたドクンと跳ねた。
真似して躊躇いがちに舌を出すと、北の目がスッと細まる。
「違う」
「ゔ!?」
突然、北の指が桃井の舌を摘んだ。彼女は目を白黒させ、驚きで身体が硬直する。
北に無遠慮に舌を掴まれるなんて。少し乱暴なその感触に、苦しさよりも羞恥が勝り、顔を背けたくなった。
舌を長く出す姿なんて、はしたない。こんな明るい場所で見られたくない。
だが北は彼女の舌を離さず、でろりと濡れた指を黒い目で見つめた。
「このまま」
「……、」
「唾液、出して。ここに垂らす」
北の視線が、桃井の手の中の熱い塊に落ちる。彼女は一瞬の沈黙の後、小さく頷いた。
口が開けっ放しなので、顔を下に向ければ自ずと唾液が溜まっていく。北の指が唾液を絡ませるように動くので、口内を犯されているような気分になって、桃井は目を伏せた。
やがて指が離れていく。
「濡らして。それで触られると、気持ちええから」
桃井がゆっくりと舌を動かし、唾液を滴らせると、透明な雫が北の性器に落ち、濡れた光沢を加えた。
指で触れれば、ぬと……と粘着性のある液体がまとわりつく。自分の唾液で汚した、という認識が、彼女の興奮を高めていった。
桃井の手が再び動き始め、ぐちゅぐちゅと湿った音が響く。ぬめりが増し、指が滑らかに滑るたび、北の体がビクンと震える。
濡れた先端がいやらしく光っていた。
「はっ……、……ん、そう、そんな感じで」
「あ……気持ちい、ですか?」
「うん」
素直に言葉にされて、脳が沸騰しそうなほどの喜びに桃井は包まれる。
嬉しい。私の手で北先輩が気持ちよくなってくれてる。呼吸が乱れて、吐息混じりに声を漏らしてるの、すごくドキドキする。……かわいい。
だんだん桃井にも状況への慣れが生まれてきて、性器だけでなく、北の顔や体を観察する余裕が出ていた。
だからどこを触れば彼が喜んでくれるか、学習するのも速かった。
触り方も触る箇所も格段に上手くなって、このまま北を手コキで射精させようと夢中になっていると。
「───あっ♡」
突然胸を揉まれて、桃井の背中は弓形に反り、甘い声を上げた。
「あ、あ……」
「大きい声出したらアカンやろ」
「ぁっ、え、あ、だ、だって……」
両手でブラジャーの上からむにゅむにゅ揉みしだかれて、性感よりも違和感が膨れ上がった。
この行為に突入するまでは、いかにして北の欲望や本能を引き出すかが鍵だと思った。
けど、もう、この人、とっくに……!
「んっ、ぁ、北先輩、」
乱暴に力強く揉まれたかと思いきや、ブラジャーに包まれた豊満な双丘を、指先でそっと撫で上げられる。
かと思えば、北の指がブラジャーの縁をなぞり、柔肉を軽く押し込んだ。
じりじり快感を引きずり出すような触れ方が、もどかしかった。自然と腰がくねる。
その感触に、桃井は唇を噛んで声を押し殺そうとする。
「好きにしてええんやな?」
その声色は、北にしては珍しく切迫していた。桃井の瞳が潤み、羞恥と興奮で息が乱れる。
「……っ、……はい、お好きなように……♡」
この人、とっくに理性崩れて、本能剥き出しで手を出してくれてる……!
桃井は今この瞬間、状況を正しく理解した。
理解して、全身の末端までもが喜びと快感に満たされて、ふしだらに濡れたのがわかった。
彼女の声は甘く湿っている。
北の指が大胆に動き、ブラジャーの上から胸を揉みしだく。汗で湿った柔らかな肉が指の間で波打ち、桃井の背筋がピンと伸びる。
声を我慢しようと手の甲を唇に押し付けているが、時折「あっ……」と小さな喘ぎが漏れた。
胸への愛撫は刺激が強くて、手淫の動きは止んでいる。
ただ添えるだけになった手の中で、熱くぬるい性器がヒクヒクしていた。
「ふっ……、ぅ、んっ、んっ」
北の目は、桃井の反応を捉え、欲望に曇っていた。
ずっと、ずっとこの体に触れたかった。
桃井はシャツを羽織っただけで、生白いおっぱいがずっと下着に押し込まれていた。
それを手コキされながら目の前で揺らされ、誘惑され続けたのだから、北の焼き切れた理性にダメ押しだった。
「これ脱がしたい、脱がすな」
「あっ、あ、」
「……、」
「………ん、あの、ぬ、脱ぎま、しょうか」
「……頼む」
「は、はい」
北はブラジャーを脱がそうとしたが、正面から手を回してホックを外すのは初めての経験で、構造がわからず上手くいかなかった。
見えないなりに頑張ってカチャカチャと試みたが、結局、彼女の背中を無駄に撫でるだけに終わった。
しびれを切らした桃井が、気を遣って自分から脱いでくれる。羽織っていたシャツをそっと脱ぎ、後ろ手にホックを外す。
その様子を黙って見つめていた北は、恥ず……俺、ダサすぎやろ……と心の中で思った。
本当は自分の手で脱がしたかったのに。
「、」
しかし、ブラジャーのホックが外れた途端、押える物ががなくなったおっぱいが、どっ……ぷん♡ とこぼれた瞬間。
北は本日2回目の、全てがどうでもよくなる感覚に満たされた。
桃井はブラジャーを片手で抑えて、肩紐を両腕から外していく。そうして手で胸元を隠したまま、下着を床に落とした。
彼女の手に包まれるおっぱいは、深い谷間を刻み、柔らかそうに形を変えている。桃井が手を下ろせば、北の眼前には、生白い胸が無防備に震えるだろう。
「………」
桃井は唇を噛んで、顔を背けた。赤い頬ときつく閉じられた目が、戸惑いで彩られる。
手が胸から外れそうで、離れない。乳首が見えそうで、見えない。その揺らぎは、ふにゅりと指から溢れそうになる乳房に、よく現れた。
生殺しだ。北は沸騰しそうな頭で、一刻も早く桃井の胸を見ることだけを考えた。
それ以外に思考を割く余裕を、目の前の女に奪われたのである。
「あ、の」
「……ん」
「い。今からする質問は、私にとってとても大事なことで」
「うん」
「実はさっきも同じ質問したんですけど」
「うん」
「胸の大きい人は好きですか?」
「うん」
「! あ、そ、そですか」
「うん」
「……話聞いてますか?」
「うん」
「じゃあ私が今なんて質問したか、覚えてますか?」
「………」
北の返事があまりに一辺倒なので聞いてみれば、彼はクッと眉間にシワを寄せて考え込んだ。
「今考えられる唯一のことは」
「はい」
「早く桃井に触れたい」
「……、もうっ」
話聞いてないじゃん! と文句を言いたいのに。
ミスター隙なしの、この人の余裕を剥ぎ取ったのが自分だと思えば、とても気分が良くなる。清らかで汚れなんか知らなくて、欲望とは一番程遠いところにいるだろう北が、欲に塗れている。
それだけで、桃井はどこまでも欲張りになれた。
北にとってこの状況はまんざらでもないと気づいて……むしろ乗り気なんだとわかって……もう彼女の自信を止める砦は決壊した。もともと備わっていた美貌への自信が、揺らぐことのない牙城となって舞い戻ったのである。
あの北が、自分の挙動にぐらぐら揺れているのが、はしたないほど嬉しかった。
「じゃあ、特別ですよ?」
「お、」
だから、勇気を出してもっと彼に近づこうと思った。
片手と腕で胸を隠したまま、桃井は向かい合う形で北の膝に乗っかった。むっちりしたお尻を逞しい太ももに下ろせば、いわゆる対面座位の姿勢である。空いているもう片方の手は、彼の首に回した。すると桃井を支えるように、北も彼女のすべすべした背中に両手をやった。
二人の間には勃起したままの性器があって、スカートに覆い隠されている。
それが桃井の下着越しに秘部に触れると、ぬちゅり♡といやらしく擦れるのが死ぬほど気持ちがいい。
ん、と鼻に抜ける声を漏らして、桃井は背中をそらした。
グッグッと何度か性器の裏筋に下半身を押し付ければ、北の手に力がこもり、低く唸るような吐息が漏れる。
「はっ、あっ、ん、気持ちい、」
「桃井、手っ、どかして、」
「ふふ、そんなにおっぱい見たいんですか?」
「見たい、見して」
「……素直でかわい」
汗で張り付いた髪を振り乱して懇願する北に、桃井はどんどん気持ちよくなっていく。
ちゅ、と北の赤い頬にキスをして、垂れた汗をペロリと舐めた。
ぽかんとする彼の顔がとてもキュートで、ちゅちゅちゅ……♡ と額や鼻先、首筋に唇を押し当てる。その度に北の体がビクビク震え、息が乱れた。
触れるだけのキスだ。こそばゆい。だがお預けを食らった状況では、北にとっては煽りにしかならなかった。
イラッとした心境を隠さず、性急に胸を隠していた彼女の手を剥がす。
「焦らすな」
「きゃっ」
そうすれば、いよいよ大きなおっぱいが北の視界に晒された。
ずっしりした重量感と、もちもちやわやわな柔らかさが同居した、男にとって夢のような胸だった。
ついさっきまで扱いていたので、汗と北の体液で乳首の周りがてらてら濡れており、ピンク色の先端がツンと立っている。
彼女の呼吸に合わせて上下する胸元は、ボリューム感がとにかくすごくて、自ずと目を奪われてしまった。
なんせ至近距離に絶景が広がっているのだ。北がこうなってしまうのも無理はない。
「あ、あのっ」
「何や」
「そんなに見つめられると、恥ずかしいです……」
明るい室内では桃井の胸部がバッチリ見えてしまっている。真正面からずっと見続けられると、何も感じないわけがなかった。
だから桃井は困ったように小さく囁いたのだが、北は「はあ?」と苛立ったような顔をした。
「俺のをガン見した桃井に言われたないわ」