「は~い! 『御伽原』でっす! お客さん……って、うわっ!」
「おっとと……客相手に逃げるなよ」
「だだだだってぇ! アレでしょ!? わざわざ金払って怒りに来たんだよね!?」
俺のルーム指定でデザインされた、如何にもな女の子らしい部屋。そこに現れた俺を見て慌てて逃げようとした「御伽原」──VTuber、御伽原江良に酷似した彼女、通称「ギバラ」の腕を掴んで俺は引き留めた。
「いや本当に悪かったって! その後に逃げ続けた事も含めて!」
「って事はやっぱり『童田』の事は分かってて俺を送り込んだんだな?」
「あっ……!」
この店のハロウィンイベントでこいつから「第二の刺客」童田を紹介させられ、危ういところで勝利した一件から暫く経つ。世間では既にクリスマスキャロルが流れ、年末の気配が迫る。
そしてその件以来、ギバラは俺から逃げ続けていた。明らかに暇してると分かるタイミングでロビーで呼び掛けても反応は無いし、気が付けば退勤している有様だ。
とはいえ俺としては彼女に確かめたい事もあり、何とか会いたいと思っていた。そこで今日は客として自腹を割いてギバラを予約したのだ。
「な、殴るの!? 蹴るの!? もッ、もしかしてッ、オラオラですかーッ!?」
「割と余裕あるなお前……とりあえず落ち着けよ。別に今は怒ってねえから」
本気で俺に怯えているギバラを下手に興奮させないよう出来るだけ丁寧に言う。彼女から少し距離を置いて椅子に腰かけ、攻撃する意図が無い事を示す。かつて彼女を猿に例えた事もあったが、実際これは警戒する野生動物との交流に近い。、
「……ほんとに?」
「例の『尊』の事で聞きたい事はあるけどな」
まだ怯えを残しつつもギバラはベッドに腰掛けた。俺は脚を広げ、椅子の背を前にした行儀の悪い格好で彼女に言う。
「尊様?」
「『様』付けなのか?」
「まあ敬称ってよりかは愛称かな。ジョーさんに次ぐこの店のNo.2だけど、そんな偉ぶらない良い人……ううん、『良い鬼』だよ」
「良い鬼、ねえ……」
ここまでの彼女との遭遇からは、どうもそういうキャラには思えないのだが。
『尊』。VTuber、竜胆尊に酷似した角を生やした(少なくとも外見は)小柄な少女。そして──どういう訳だが俺に対して、このギバラを通して「刺客」を送り付けてきた相手でもある。
「ギバラ、そろそろ教えてくれ。お前は尊に何て言われて俺にフレンや童田を紹介してきたんだ? いい加減、隠すことでも無いだろ?」
「……分かった、話す。って言っても、そんな仰々しい話も無いよ? あたしは只、『あの男を誘導できたらボーナスを出す』って言われただけ。あの人は色々と自由で何考えてるか分かんないから、それで兄さんに何をするつもりだったかまでは知らない。本当だよ」
「………」
「な、何? 疑ってんの!? 本当だって!」
じっと俺はギバラに視線を送る。二度も引っかかったとはいえ、今の彼女からはあの時の胡散臭さは感じない。おそらくは本当だろう。俺は彼女の警戒を無くす意味で視線を逸らし、ポケットからSDカードを取り出した。
「いや、信じるよ。お前に聞きたかったのはその事と、あと……彼女、尊自身の情報を知りたい」
「情報? 情報って言っても……」
「この前、その尊から『秘蔵映像集』ってのを渡されて見てみたんだが……正直、俺が初見で勝てる相手じゃなさそうだ。少しでも彼女を知りたい」
俺は素直にそう言うと、ギバラに頭を下げた。
そう、童田戦を終えた俺に彼女が渡してきた映像データ……約二時間に及ぶそれは、俺に
こちらの本気が伝わったのだろう。ギバラの表情から怯えが消え、神妙な顔で俺に尋ね返す。
「そんなに?」
「正直、言葉では説明しにくいからデータごと持ってきた。ちょっと見ながら聞きたいんだ、頼む」
「……いいよ。そこ使って、再生して」
無論、持ってきたSDカードも部屋の再生機器も本来はデータが形になったものでしかない。だが動きのイメージを作るためにこういった「小道具」が重要なのだ。俺はSDカードを再生機器のスロットに差し込み、モニターの電源を入れた。壁の大型モニターにメニュー画面が表示され、リモコンで再生を始める。
やがて再生が始まった。広い畳敷きの和室、大布団が敷かれ、その上に
『んぷっ……ンッ、はぁっ……どうしたのかの? 随分と勢いが落ちてきたではないか?』
唇から射精後の肉棒を解放しつつ画面上の尊が言う。一糸纏わぬその小柄ながらも蠱惑的な曲線を描く身体は、数人分の汗と精液で濡れている。
よく見れば彼女を包囲しているように見えた男性はどれも少年だ。ひとりは尊に組み敷かれるように仰向けにされて屹立した肉棒を呑まれ、左右に立つ少年は彼女の小さな手でそれぞれ扱かれ、先ほどまでは残る一人がフェラチオを受けていたようだ。
「うわ……!」
いきなり始まった5P展開に思わずギバラが声を漏らす。
画面上ではほぼ同時に尊に挿入していた少年が呻き、達したようだった。解像度は高く、薄暗い中でも結合部から溢れる精液までくっきりと見える。
『あぁ……良いのう、もっと出して、んっ、良いのだぞ?』
そう言う間にも尊は両手の動きを止めない。やがて間もなく両側の少年の腰がビクビクと跳ね、放たれた白濁液が尊の白い肌を汚してゆく。
画面越しからでも匂いが届きそうな迸りを尊は微笑みと共に受け、更に肉棒を扱いて出し切らせようとする。更に下では少年の肉棒を膣圧だけで食い止め、再度の勃起と射精を促そうと腰を使い始める。
『いや~、やっぱり青臭い少年の精液は別格じゃのう! 出来れば数時間もの全編をお届けしたいのじゃが、ここからは「だいじぇすと」でお送りするぞ?』
丁寧に編集までされており、別撮りの尊の声が挿入される。そこからはナレーション通りに場面が区切られ、尊と少年たちのプレイの射精時や彼女の絶頂時の映像が続く。
「……この調子で4時間ほど、少年を交換しながら続けてる」
「まあ……尊様ならそのくらい可能だろうね」
確かに俺も以前にVR旅館でるるやリゼ等の四人を相手に一晩かけて5Pをした事はあったが、アレは俺の挿入を彼女らが待ってくれたこともあり、ある程度は自分のペースで進める事が出来た。対して映像上の尊は「受ける側」であり、少年4人からの射精や挿入を受け続け、それに応え続けている。
俺の言葉に納得するように頷くギバラに尋ねる。
「可能……なのか?」
「うん。多分だけど『るる』ちゃんより体力は上だと思う。本人は『鬼としてはこれでも物足りん』とか、休憩中に話してるよ」
「鬼、か」
当然だが、如何にバーチャル技術が発展した現代とはいえ人間を実際に亜人化できる生体技術など在る筈もない。耳の尖ったエルフであれ、コアラに似た悪魔であれ、肌の色が青い吸血鬼であれ──中身は
そんな俺の戸惑いを感じ取ったのだろう。ギバラはモニター上の、前と後ろに同時に肉棒を迎え入れる尊の映像を観つつ言った。
「いや、そりゃあたしも信じてないよ? 本人は約9900歳とか言ってるけどさ。ただ……信じたくなるようなフィジカルを持ってるのは確か」
「分かった。あと聞きたいのが……」
俺はリモコンを持ち、チャプターを飛ばす。
「あー! これ分かる。尊様、このプレイの後で自慢してた! 『デカいだけでふにゃふにゃよ。最後は泣かせてやったわ』って……」
映し出された画像にギバラが声をあげる。
今度は尊と男性ひとりだが、その肉棒のサイズは俺以上に規格外に大きい。小柄な尊では彼女の膣内どころか胴に届くのではと心配になる程だ。
だが、その映像の中で主導権を握っているのは明らかに尊だった。男性は後背位で串刺しのように彼女に打ち込むがそれを130㎝の身体は平然と受け止め、男性を先に絶頂に送る。
『ほれっ……ほれっ! 妾をいわせるのでなかったのか? もっと、ンンッ! 暴れてみせいっ……!』
「その、凄ぇ失礼な質問になるかもだけど……これ、本当にVRスーツや股間パーツを付けてるんだよな?」
VRスーツは基本、着用者の身体に過度のフィードバックが来ないようにリミッターが搭載されている。
とはいえ性行為の主パーツとなる股間パーツはその限界ギリギリまで互いのサイズや硬度、あるいは女性側の膣内の感触や快感まで忠実に再現できるように設計されている。そうでないとVR世界で完全なセックスは難しいからだ。尊が感じている圧迫感は相当に強く、痛みが発生しても不思議ではない筈だった。彼女だけ一方的にパーツを外し、感じている
しかし、ギバラは俺の言葉に頷いた。
「それは保証する。ウチの店、VRスーツ着用は義務化されてるし、それを破って接客したら『ペナルティ』あるから」
「ペナルティ?」
「支配人とまい……『顧問』の間に正座させられて、一時間左右からアカペラの『ウェカピポ』を耳の至近距離で聞かされるの。食らったら一週間は耳から離れなくなって、精神を病んだ娘もいる」
「………」
色々と恐ろしいペナルティがあったものだ。
しかしそうなると、やはり尊はそういった小技を使わずにあの巨根を受け止めている事になる。硬度はともかく、肉棒のサイズに任せて屈服させるのは困難だろう。
『んっ……! りょ、量だけは、一人前じゃのう……』
そんな事を考えている内に画面上の男性が限界に達し、尊の膣内に精を放つ。うっとりとした口調で尊は言うが、相手を休ませることなく腰を再び使い始める。
実際、白い肌に汗を浮かべ、竜胆色の髪を揺らして悶える尊の姿は恐ろしく煽情的だった。あくまで資料として見ようとしている今も股間が疼き、勃起をどうにか抑えている状態だ──実を言えば、初見で観た時は普通に抜いてしまった。
「うわ、そんなトコに挿いるんだ……!」
それは一緒に見ているギバラも同じなのだろう。俺の問いに答えつつも映像上の尊の喘ぎに合わせて腰がぴくんと跳ねているのが分かる。
実際に金を払って彼女を予約しているのだ。別にここで俺がムラムラときてギバラとセックスするのは別に問題はない。
とはいえ──彼女と一戦交えるのは些かならず腰が引けた。理由は他でもない、彼女の盛り上がってきてからの喘ぎ声だ。アレは本当に発情した猿のそれに近い。
「……あ」
そんな俺の複雑な感情が入り混じる視線に気づいたのだろう。ギバラはモニターから視線を外すと俺の顔を見た。
「………」
「な、何だ?」
「え!? いや、その……
シンプルな問いかけ。
『どうした、んっ、ちゅ……この逸物は飾りか?』
画面上、巨根に唇を寄せる尊が空気を読んでいるのか読んでないのか分からない言葉を紡ぐ。
正直、俺も迷っている。とはいえここで無言のままとはいかない。ひとまず時間を稼ごうと俺は曖昧な返事をした。
「あ~……まあ、どうするかな……とりあえずコレを観終わってから……」
「あたしの声が汚いから?」
「!?」
間髪入れずの問い。俺は言葉に詰まった。
頬を膨らませ、ギバラは少し怒っているように見える。彼女は俺をまっすぐ見て言った。
「……あたしだって、好きであんな声を出してんじゃないっての」
「そりゃあ、まあ……」
「分かってる」とは言えなかった。それは彼女と普通にプレイしている男が言える台詞だ。
「『気にしてない』とか思われがちだけどさぁ、ンなわけないじゃない! 練習だってしてるし、ちゃんと可愛い声を出そうとしてるよ? でも、まあ、その、こう、ガ~ッって上がってきたらサ、抑えられないって!」
それはそうだろう。俺だって自分が射精する瞬間に「変な声を出さずに演技しながら出せ」と指示されたとして、それを出来るとは思えない。
確かに今の俺の反応は、そんな彼女の気にしている部分や努力に対して失礼な反応だった。それは間違いない。
では──ここで俺が本来、彼女にすべき行動とは何か?
「……え?」
俺は無言で椅子から立ち上がると、ベッドの上できょとんとするギバラを抱きしめた。
「な、何!? 同情? やめてよ、そういうのは!」
「ああ、同情だ。これは、猿みたいな声で喘ぐお前への同情だ」
抱きしめたまま俺は言う。
「客が嬢に同情して『抱きたい』って思ったんだ。今は黙って抱かれろ」
「……!」
ギバラが抵抗を止めた。俺の腕の中で顔を上げ、視線を合わせる。
「それ、ナンパの文句なら殴られても文句は言えないよ?」
「だろうな」
「あたしが『嬢』で……良かったね」
「ああ」
これが恋人同士の関係だったならば、俺かギバラのどちらかが拒否すれば終わる行為だったろう。
しかし俺とギバラは互いの「向こう側」も知らない、金で繋がる客と嬢の関係だ。それは時として感情よりも強い繋がりを作ってくれる。それが他愛ない慰めになる時もある。俺はギバラと唇を重ねた。
「んっ……」
「ンッ、はぁっ……」
実際、彼女は黙ってさえいれば艶やかな金髪と澄んだ青い瞳を備えた美少女だ。そこに中身の騒々しく、どこか親父臭い賑やかさが加わり「ギバラ」を作る。
そして──俺はそんなギバラが、嬢としてでなく気の置けない友人みたいな存在として、まあ、嫌いではない。
「ふうっ……ボタン、外すぞ?」
「い、いいよ……あふ、んっ……」
そんな友人めいた意識をしている相手とのセックスはどこか申し訳ないような罪悪感を感じるのと同時に、いつもと違う興奮を俺の中から湧き上がらせてくる。
彼女のシャツのボタンを外し、
「ちゅ、は、あむっ……」
「んガッ! ちょ、まだ強いっ……!」
乳首に舌を這わし、柔らかく舐めるとちょっと喘ぎに「片鱗」が出てきた。以前の時にはこれで思わず吹き出してしまい彼女を怒らせたものだが、今日は何とか音声認識をオフにせず乗り切りたい。俺はそう思いつつギバラへの愛撫を続ける。舌を丁寧に動かしつつ、エプロンドレスのスカートを捲り手を差し入れる。
「うほっ! あ! うぅ……」
「我慢すんなよ、逆にやり辛い」
「だ、だって、言ったら言ったで、萎えるん、でしょ……んひぃっ!」
ショーツのクロッチの上から彼女の秘所を弄る。くにくにと陰核の位置を確認しつつ、再び顔を上げてキスを重ねる。
「ちゅ……俺も頑張ってみるから、遠慮すんな」
「そ、そう言うなら、信じる……から、んっ、ねっ……ンッ、ンンッ……」
ギバラと舌を絡めながら言葉を交わす。
一方、彼女も俺の股間へと手を伸ばし躊躇なくジッパーを下ろして肉棒を引き出す。半勃起した竿にギバラの指が絡み、上下に動く。その手つきはちゃんと練習されたもので、同時に雑さを感じない丁寧なものだ。彼女なりに客を満足させたいという気持ちはしっかりと有る。それを感じさせる手淫だった。
互いの股間を弄りつつ、俺たちは着ているものを少しずつ脱ぐ。ギバラのスカートを外し、俺はスラックスを脚から抜く。
「あっ……」
ゆっくりと彼女の身体をベッドに倒し、俺はシャツを脱いだ。ギバラは自分から腰を持ち上げショーツに手を添えるとそれを脱ぎ、丸めて傍らに置く。
金髪に彩られた彼女の控え目な陰唇が目に映える。さて、ここからが
「んおっ……」
「挿れるぞ……く、ううっ!」
「わ、わかっ、うひょおぉっ!」
一気に奥まで肉棒を挿入すると、ギバラは背を反らしつつ部屋に響く声で叫んだ。その表情は快感に喘ぐ少女のそれだが、出てくる声は圧の強い「雄叫び」と呼んでよいものだ。
「ふうっ、うっ、ぐうっ!」
「うほっ! ほっ! フオオゥアァっ!」
「くうっ……おぉっ!」
「ほっ、ホアッ! ホアアァッ!」
ギバラの喘ぎが抑えたものでなく「本気」のそれへと変わってゆく。これが作ったものでないが故に彼女は悩み、そしてリピーター率の低さに繋がっている。俺は彼女の脚を抱え、早めの絶頂に導こうと健気に締め付けてくる膣内を細かく擦る。
「ウホァっ! ほっ、ウギッ、うぎぃぃ!」
「もう……ちょっと、だ、からなっ……!」
実際どこからこんな声が出るのやら。だが、そちらを意識してしまえば硬度が落ちる。
猿のような咆哮を発しつつ悶えるギバラの中へ突き込むように腰を使いつつ、俺は彼女に呼びかける。肉棒に絡みつく愛液の量が増し、粘度が上がってゆく。ギバラがちゃんと感じてくれている事に感謝しつつ、俺はとどめとばかりにスパートをかける。
「おほっ、ほッ、ウキャァッ!」
「ぐ、お、おおっ!」
「ウヒョ、ホ、ホオォォッ!」
少女らしい部屋の中に、少女とはかけ離れた叫びが響く。
俺はギバラを強く抱きしめ、彼女の膣内に精液を放った。
「……ありがとね」
行為を終えた後、ギバラは俺にそんなシンプルな礼を言った。
「礼を言われる事じゃねえよ。金をちゃんと払ってんだし」
「そうだけど……まあ、有難いって思ったって話」
俺の言葉に彼女はそう返し、少しの躊躇の後に顔を上げた。
「あの、後、さっきの事で」
「さっきの事?」
「『刺客』の話」
「……!」
ギバラの顔は神妙なそれに変わっている。俺は彼女と視線を交わした。
「また、お前が紹介するのか?」
「ううん、あたしはもう紹介しない。尊様が言ってたんだけど……『童田を攻略したなら、あとは
尊の真似をしつつギバラは言う。俺は怪訝な顔で彼女に尋ねた。
「仕掛けてくる、って……誰かが俺を逆指名するって事か?」
「いや、その、何ていうか……『例の怪談』、知ってる?」
ギバラが逆に問いかけてくる。
この店で「例の怪談」と言われれば、ひとつしか無い。俺はあっさりと答えた。
「『例の怪談』って……
「………」
ギバラの表情は固い。
「……おいおい」
「気を付けて。あたしにはそれしか言えないから」
そう警告するギバラの顔は実に彼女らしくなく──それ故に、真に迫っていた。