「電燈二次三次」は風俗店である。
風俗店である以上、そこに務める「嬢」たちは様々な事情で在籍しており──様々な事情により退職する者もいれば、新たに加わる者もいる。
『「環」──本日・最終出勤日』
「は?」
出勤している嬢を示すモニターに並ぶ源氏名、その中で見覚えのある名の横に書かれた簡素な備考欄に俺は思わず声を漏らした。
「いやいや……嘘だろ?」
彼女、「野良猫」こと「環」に俺がルームに引きずり込まれ、色々あった果てに彼女にVRスーツを着させた一戦からさほどの日は経っていない。あの時以来、俺から環を指名する事こそ無かったものの彼女は普通に勤務していた筈であった。
確かに彼女の事をそこまで知っている訳ではないが、そんな急に退職するようなキャラクターではないと思っていたのだが──
「………」
別の嬢を予約するつもりだったが俺は環の名をクリックして価格を確認し、振り込みを行った。その値段は恐ろしく安い。客の定着率を示すリピート率もかなり低めだ。
『ご入金を確認しました。ルーム設定はどうされますか?』
「……ハンバーガー屋。内装は綺麗目で、オプションでVRバーガーとVRポテト、シェイクも付けてくれ」
『承知しました。10秒後に転送を行います』
足元にいつもの光のサークルが出現し、視界がホワイトアウトしてゆく。
「っとと……」
光が収まった時、俺は指定通りのバーガーショップに立っていた。
「んふふっ、もぐもぐ、ほにいふぁん、もぐもぐ、ふぃはしふち……」
「……食うか喋るかにしろ」
そして横のテーブルで早くもVRバーガーを頬張る、猫耳を生やしたパーカー姿の少女がひとり。俺はその図々しさに呆れつつも椅子を引き彼女、環の前に座った。
「ん~……んっあっぐっぐっ。んふっ、サザエさんの真似。分かる? じゃんけんをする前の次回予告のサザエさんは、こうやって喉を詰まらせて……」
「知らねえよ! っていうか、どういう事なんだ?」
「……どういう事って?」
俺の問いかけに環はきょとんとした態度で聞き返す。独特の風味まで再現されたVRフライドポテトを摘まみつつ、俺は言った。
「退職するんだろ、今日で?」
「ああ、その事……うん、まあね。あむっ」
そこで初めて環は俺の話の方向性に気付いたようだった。軽く頷き、再びハンバーガーを頬張る。
「お前、VRスーツを入手して、これから本格的に嬢としてやって行くって話じゃなかったのか? 何でまた急に?」
「ん~……こう言っちゃなんだけど、お兄さんはあくまで
「………」
前置きをしてなお、随分な言われようだ。
確かに環の言葉にも一理ある。あくまで俺と彼女は客と嬢の関係だ。仮に環が一身上の都合などで退職するとしても、それに対して俺が何か言う筋合いは
だが、それでも俺は言った。
「後から支配人が補填したと言っても、最初に金を出してVRスーツや股間パーツを
「……ふふん、なかなか痛いところを突いてくるね」
「痛いのか?」
こいつが言葉で痛みを感じるとは到底思えないのだが。
そんな事を思う一方で、環は俺の言葉に納得したのか頷くと話を始めた。
「まあ、ひと言で説明するなら……『向いてないって分かった』から、かな?」
「向いてない?」
「もともと私はお兄さんみたいな、店に入り浸ってるっぽい人を自腹で引っ掛けて追い払うのを趣味でやってただけだからね。まあ、折角スーツも買ってもらった訳だし頑張ってみようとは思ったけど……どうもお客さんに『奉仕』するっていうのが、私には向いてなかったみたい」
何とも結構な趣味である。内心でそう思ったが、俺は環の話を聞き続ける。
「そうは思えないけどな……俺とした時だって、お前は随分と素直に相手してくれたじゃないか」
「お兄さん、自分が『押しが強い性格』って自覚した方がいいんじゃないかな? 実際は『こっちにサービスを任せる』ってお客さんが割と多いんだけど、そうなると何をやっていいか分かんなくなって……」
「満足なサービスが出来ない?」
「ううん。そのまま眠くなって、その場で寝ちゃうの」
「………」
思った以上に無茶苦茶な対応に俺は絶句した。確かに客側からしてみれば、嬢にいきなり眠られたら困惑するしかないだろう。
そして俺の反応を当然と思っているのか、環は特に気にする風でもなく続けて言った。
「『自由なところが気に入った』って言ってくれるお客さんも、まあ、ほんの少しは居たけど……大概は呆れられて終わり。やっぱり、さ。お金を貰っておいてそんなサービスしか出来ないようなら、それって『向いてない』って事なのかなって」
「そりゃ向いてる向いてない以前の話だと思うが……今からでも撤回するつもりは無いのか?」
「もう、書類も提出しちゃったしね。あとは今日、時間を潰して終わりの予定だったんだけど……お兄さんが来てくれたのは嬉しかったよ」
環はそう言うとシェイクを啜った。初対面の際からは想像もつかない、随分としおらしい態度。彼女なりにヘコんだ事や悩んだところもあったのだろうか。
俺は暫くの間、彼女を見つめ──ため息と共に言った。
「……分かったよ。俺がどうこう言っても、お前が決めて動かないってのなら意味はねえ。ただのお客として見送るさ」
「ありがとね。そういうのが、一番助かる」
環はそう答え、ポテトを一本呑み込んでから俺を見上げた。
「それで、
「え?」
「私としてはお兄さんが最後のお相手ってのは、うん、悪くないと思ってるんだけど」
緑の瞳でまっすぐにこちらを見ている環。
何とも
俺は席を立ち、一歩踏み出すと座ったままの環に顔を寄せるとその唇に軽くキスをした。
「ンッ……」
「ん、ふっ……」
互いの吐息を交換して、一度離れる。
「……せっかくだ。前回出来なかったのを、して貰えるかな?」
「例えば?」
「そうだな……胸で、出来るか?」
「んっ……ちょっと、やってみる。着たままでいい?」
そう言うと環はパーカーの前を大きく開けて黒のタンクトップの襟を摘まみ、テーブルの上のシェイクを掴んだ。
「お兄さんはそのまま脱いで、立っててね……よっ……」
そのシェイクの容器を傾け、タンクトップを大きく持ち上げる胸の谷間へと垂らす。クリーム色のとろりとした液体が乳房を濡らし、貼りついた布地が双丘の形を浮き上がらせる。ノーブラだったのか先端では乳首の突起が確認できる。
一方の俺もベルトを外し、スラックスを床に落とす。
「って……んふっ、いけないねぇ、お兄さん? まだ準備出来てないじゃない」
「真面目な話をしてたんだ。すぐに起きねえって」
股間に垂れ下がる肉棒を観つつ環がからかうように言う。
「って言うかお前も、ちょっとはコレに慣れたみたいだな。最初は直視できなかったろ」
「まあね、そこはまあ、色々なお客さんのを見せられたから。お兄さんのが平均から比べて大きいのも分かったよ」
「……そりゃどうも」
つまり、彼女も多少なりとも成長していたという事か。
多少の惜しさを覚えつつも俺は環に肉棒を晒す。彼女はそれに手を伸ばし、竿を柔らかく握ると扱き始めた。
「んふっ……いいね、どんどん大きくなってきてる……」
「くっ、ふうっ……」
しこしこと環の手が動く。ローションに触れたことで若干の湿り気を帯びた指が根元から竿を擦り上げると、次第に充血した肉棒は彼女の手の中で脈動し、次第にその大きさを増してゆく。
さほどの間を置かず俺の肉棒は重力に逆らって反り返り、環の眼前にひくつく亀頭を突き付ける格好になる。
──やはり環、彼女は上手くなっている。それは俺の股間に与えてくる刺激からでも十分に伝わってきた。
「(……もったいねえな)」
思わずそんな事を考えてしまう。男性を悦ばせる腕を持つ嬢というのは、それだけで店の財産だ。彼女の奔放な──奔放過ぎると言うべきか──キャラがこの仕事と噛み合わないものだったとしても、残念だなとは思う。
「ちょっとちょっと、辛気臭い顔になってるよ? ふふん、それならば私の胸で気持ち良くしてあげようじゃないか♪」
「っと、すまな……ううっ!」
そんな気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。眼下の環が窘めるように言ってくる。それに答えようとした俺だったが、股間を突然包んだ温もりある圧迫感に言葉が途切れる。
タンクトップの裾を引っ張り空間を作ると、環は俺の身体に胸を寄せ、そのままずり下げるように肉棒を包んだ。シェイクの冷たさと彼女の体温が合わさった不思議な感覚と、タンクトップの布地に押し込まれた乳房の弾力と柔らかさが与えてくれる感触。その気持ち良さに腰が思わず震える。
「ただ、まあ、なんだけど、あんまり胸でした事が無いから……痛かったら、言ってね?」
「……あ、ああ、分かった」
その直後に急に不安そうに言ってくるのもまた、彼女らしい。俺は腰を突き出してより密着させると、環の動きに身を任せる事にした。
「んしょ……よっ……こんな、感じ、かなっ……?」
「あ、あぁ……いい。もっと胸、寄せる感じで……」
環の胸は釣鐘型ではなく、胸の中央から左右に広がる欧米系の乳房のそれに近い。挟みやすいが、圧迫感を強めにくい作りだ。それを着衣のまますることで補い、更に環自身が胸を寄せることで乳圧を作り出す。椅子に座ったまま環は腰を揺すり、体ごと上下させてパイズリを行う。
バーガーショップ独特の食欲を誘う油の香り、それに互いの汗と先走りの匂いが混ざり合う。俺は微妙に腰の位置を変え、環がよりやり易いように調節する。
次第に加減が分かってきたのか、環は身体の動きをより大胆に、乳房を寄せて竿を扱く。タンクトップの襟から覗く深い谷間から時折亀頭が露出すると、環は舌を伸ばしてつつくように鈴口を舐めてくる。
「ぐ、おぉっ……!」
環の舌は普通の女性よりもややザラつきがある。とはいえそれは痛みにならない程度のもので、逆に新鮮な刺激を俺に与えてくる。
「は、ちゅ、あふっ……!」
「あ、あぁ……も、もう、そろそろっ……!」
次第に腰の奥から射精感がこみ上げてきた。俺は環の頭の耳を撫でるように手を置き、彼女に絶頂の接近を伝える。
「あむっ……い、いいよ、お兄さん。いつでも、出してっ……ちゅ、れろっ……」
俺の反応を受けて環が乳房で擦る動きを速めた。スチール製の椅子がギシギシと音を立て、テーブルの上のトレーがカタカタと鳴る。
出来るだけ環の乳房の感触を味わっていたいのが本音だったが、そろそろ我慢できなくなってきた。俺自身も細かく腰を振り、肉棒を絶頂へと押し上げてゆく。
「うおっ、あ、ああぁっ!」
「んふぁっ!? あ、ふぅっ……!」
腰がどくんと跳ねる。
俺は堪えていた射精感を解き放ち、環の胸の谷間に精液を迸らせた。
「んっ、うわ……凄いね、ベッタベタだよ……」
射精は一度で治まらず、腰が震える度に谷間から覗く亀頭から白濁液が零れ、彼女の汗に濡れる乳房を、黒いタンクトップを汚してゆく。
たっぷり一分近くそうしていただろうか。射精が収まり、半勃起まで治まった肉棒を俺は腰を引いて抜いた。環の下乳からシェイクと精液の混じった粘液が糸を引く。
「あふっ……凄い匂い……残っちゃうかも……」
そう言いつつ環はパーカーを、そしてタンクトップを脱いだ。粘液でテラテラと光る乳房がゆさりと重そうに現れる。「野良猫」の二つ名が示すような不摂生な生活のイメージがある環だが、そのプロポーションはこの店の上位の嬢に劣るものではない。
「んふっ、どうだった? 私の初パイズリは?」
「え? 初めてだったのか?」
「うん、初めて……いや、どうだったかな? 初めてじゃなくて二回目だったかな? いや、三回目……?」
「おいおい……」
相変わらず言った端からあやふやになってゆく言葉に呆れつつも、俺は自身の肉棒に手を添え、軽く扱いた。
まだまだ身体の奥からは活力が溢れてくる。これが最後になる環との交わりをギリギリまで愉しもうと再び肉棒は勃起を取り戻し、彼女に存在を主張する。
そんな怒張を眺め、環はどこか嬉しそうに言った。
「んふっ、本当にお兄さんは元気だね……次は、どうする?」
「そうだな……カウンターに乗ってくれ。足を広げて……」
「なかなかのシチュエーションだねぇ、いいよ」
そう言うと環はぴょんと椅子から立ち上がり、バーガーショップのやや高いカウンターにその小柄な体を乗せた。ミニスカートと黒タイツは履いたままショーツをもぞもぞと脱ぎ、床に落とす。
「……お?」
脚を広げる環、そのスカートから覗く秘所に俺はふと声を漏らす。
「
「ふぁっ!? そ、それはライン超えじゃないかな!?」
俺があの時にアラビア風ドレス姿の環とセックスした時、彼女の秘所はあまり手入れされておらず陰毛も濃い目だった。しかし今の彼女はちゃんとVラインを剃っており、繁みもやや控えめになっている。
その指摘に環は急に顔を赤くすると俺に言った。これからそこに挿入するとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。俺はスラックスから足を抜き、汗を吸った上着も脱いだ全裸になって彼女に近づいた。触り心地の良いタイツに包まれた脚を抱え、勃起した肉棒を擦りつける。環自身も片手を肉棒に、もう片方を自身の秘唇に伸ばすと指で弄り、挿入の準備を始める。
「んふっ……さ、さっきのでちょっと濡れたから、そんなにキツくないとは思う」
「分かった……ん、ふっ、ふうっ……」
何度か彼女の孔周りを亀頭で擦る。彼女はリゼと同じで処女のまま務めている嬢だ。その特有のキツさと締め付けへの期待で肉棒は更に充血し、赤黒い亀頭をひくつかせる。
「あふっ、ンンッ……!」
「そろそろ、いくぞ……う、くぅっ……!」
「ふぁ、あ、あぁっ!」
何とも可愛らしい声で喘いでくれる。俺はそんな事を思いつつ腰を突き出した。血管を浮かび上がらせた凶悪な怒張が、環の小さな孔を押し広げてゆく。
「んっ、あ、はぁっ……!」
息苦しそうに顔を歪めつつも環の手が俺の背に回され、強く抱きしめてくる。それに返すように俺は彼女の脚から肉付きよい尻へと手を移動させ、深い挿入が出来るように固定する。
彼女の奥に進む程に膣内は肉棒を熱く包み、締め付けてくる。処女の締め付けと同時に痛みでなく快感を得られるのはバーチャル空間でのプレイならではと言えるだろう。
「おっ……覚えとく、からなっ……お前の
「んっ、くっ……! い、いいよ、忘れて、もっ……!」
「いや、忘れ、ないっ!」
「んあぁっ!」
俺はそう言うと腰を大きく引き、打ち込むように環の中に再び肉棒を突き入れた。背を反らし環は悶えるが、その口から漏れるのは苦しみでなく快感の喘ぎだ。
カウンターが腰の動きと共に音を立て、それに合わせて互いの声と喘ぎが店内に響く。俺は腰の動きに緩急をつけつつ環の膣内が与えてくれる快感をじっくりと味わう。
「うくっ、ぐっ、おおっ!」
「あふ、んっ、んふぁっ……!」
ぱんぱんと肉と肉が打ち合う度に体温が上がってゆくようだ。俺は環の濡れた唇にキスをしつつ更に腰を使う。
「ちゅ、ふぅっ、はあっ……!」
「んむっ、ん、ふうっ……!」
熱い吐息を交換している中で次第に二度目の射精感が強まってくる。俺は環の尻を掴む手に力を入れ、抽送のスパートをかけた。がくがくと環の身体が揺れるが、彼女は俺の背に回した手の力を緩めない。
「あんっあっあぁっ! ごめっ、わ、わたっ、私、イク、かもっ!」
「ああっ、俺も、だっ! くうぅっ!」
「ふあ、あ、ああぁっ!」
きゅうきゅうと膣内が強く締めつける。
俺は堪らず、環の膣内に精液を吐き出した。
「あぁ……熱、熱い……焼けっ……!」
「ぐ、お、おぉ……!」
搾り取るような襞の動きに呻きつつ、俺は彼女の最奥に注ぎ込んでゆく。
荒い吐息の中、俺は言った。
「な、なあ……今日、延長は出来るか?」
「ンンッ……ちょ、ちょっと、なら……」
「……分かった。なら、その
「あ、ああんっ!」
時間と言うものは全て押し流す。美味い飯の味も、楽しんだ映画の記憶も、体を重ねた嬢の快感も。
それでも、記憶が薄れるのを少しでも遅らせたい。俺はそう思いつつ再び環への抽送を再開した。
──翌日。
「……おい」
「どーも、初めまして! 新人の『環』でっ……痛い! な、何をするかな!?」
改めて予定の嬢を予約しようとした俺は出勤表に表示された、
『「環」──新人・本日初出勤』
と表示された名前を確認し、案の定出てきた野良猫の頭をはたいた。ルーム指定は嬢の逆指定で何故か寺の境内になっている。
「そりゃこっちの台詞だ! お前、昨日で辞めたんじゃなかったのか?」
「うん、辞めたよ。『この店の古参の嬢』としてはね」
そう言うと環は「ふふん」と何故か偉そうに鼻を鳴らし、手にした筆を振りつつ答えた。
「そして今日からは『新人の環ちゃん』として勤める事にしたの。『新人』って肩書があれば、お客さんも多少の事は『新人だから……』で許してくれるじゃない? どうよ、この作戦?」
「……で、それは何をやってるんだ?」
もはや返す言葉もなく、俺は彼女が
「ああ、これ? いや、その……流石に支配人に怒られてね、『反省として般若心経を今日中に20回写経しろ』って……手伝ってくれないかな?」
一転して半泣きになった環はそう言うと、卓袱台に重ねられた半紙に筆を走らせる。疲労からか既に筆跡はふらふらだ。
「客に写経させる気かよ……」
「お願い! その分のサービスはするから、ね!」
こちらに手を合わせ、拝むように頼んでくる環。
「……分かったよ。延長料金はお前持ちで、あと尻も使わせろよ?」
「そ、それはちょっと踏み込み過ぎじゃないかな!?」
まあ──それがこの『野良猫』の持ち味なのだろう。
そんな事を思いつつ俺は彼女の向かいに座り、筆を手に取った。
反省文提出から般若心経に至る流れが綺麗すぎたので書かずにおれなかった。VR旅館編はもう少しお待ちを……