「べべべ、別にしょ、処女じゃねーし!」
前髪を綺麗に切り揃えた青い髪の少女は、そう言いながら部屋の隅から警戒心剥き出しで俺を見ている。
俺は彼女にかける言葉を慎重に選びつつ、ゆっくりと声をかけた。
「いや、だからここはバーチャルで、君の本体の処女が奪われる訳じゃ……」
「分かってる、分かってるよ!? その、新人研修でも教えられたし、ちゃんと事前説明は受けたし! でも、その、あの、やっぱり順序って言うか……」
「順序?」
「だから、その、最初はLINEの交換からとか、そういうの、とか……!」
駄目だ、おそらく本人もテンパって何を言っているか分かってない。このまま残り二時間、立て籠り犯と交渉人みたいなやり取りを繰り返して今日は終わるのだろうか。
「(ハズレ、引いたかなァ……?)」
自分の中に浮かびかけた悪い考えをあえて封印しつつ、俺は再び彼女に話しかけた。
「あー、リゼさん。まず落ち着いて聞いてくれ……」
バーチャル風俗店「電燈二次三次」。この店に務めている「嬢」の数は50~60人ほどで、利用者の評価や予約率の高低などで料金が変動するようになっている。
そして彼女らの出勤率だが──全体としては、お世辞にも高いとはいえない。15歳以下の少年専門の「詩子」のようにほぼ毎日出勤している嬢もいるにはいるが、多くは週に二、三日。レアキャラになると一週間に一度しかモニターに表示されなかったり、それこそ忘れた頃にポンと名前が表示される嬢もいる。
そして、こういった店では珍しくもないが卒業する者、新たに入ってくる者もいる。
「うーん……」
ホテルのフロントに似たロビーにて、俺はモニターを前に首を捻っていた。
『本日初入店!』
そんなアピール文が添えられた青い髪の、ヒヨコを肩に乗せた少女──VTuber、リゼ・ヘルエスタに酷似した彼女の写真。評価レートなどの各数字には奇麗にゼロが並んでいる。
「うーん……」
目当ての娘が休みだったため他の嬢を探していた途中で見つけたこの画面に、俺は深く悩んでいた。
他の嬢と比べても価格は決して高くはない。というかむしろ安い。新人は基本、経験を積ませるために安めで設定されている。問題は──この店における「彼女ら」の再現率の高さによる地雷の可能性だ。
「どう……かなあ」
この店の嬢のルックスに基本ハズレは無い。どこの企業が絡んでいるのかは知らないが「本家」と遜色ないモデルの再現率と、その本家ですら見せない肉体の美しさは文句のつけようが無いほどだ。
ただし──彼女らのキャラクターや個々人の性癖によって、色々とプレイに障害が出る娘はいる。詳しく知らず「健屋」さんの相手をした時には洗面器に吐瀉するよう求められたし、昂ぶった際の声が猿そのもので勃起の維持に本気で苦労した「ギバラ」との一戦は苦い記憶だ。
「でもなァ……」
同時に「初物」というのは惹かれる要素ではあった。様子見していたら人気者になって予約も取れなくなった、などは珍しくもない話だ。今日はロビーに他の客の姿もある。迷っている内に予約が入るかもしれない。
「……男は度胸、何でもやってみるもんさ、か」
更に数秒ほど考え、俺はそう呟くと予約ボタンを押した。慣れた動作で振り込みを行う。
『ありがとうございます、入金を確認しました。ルームのイメージはどうされますか?』
「夜景を望めるホテルのスイートルーム。時刻は夜で」
初めての娘に悪くない雰囲気を用意するとしよう。俺はそれっぽいイメージを指示して転送を行った。
「……おぉ」
ルームに降り立った俺の眼前に広がるのは、窓越しに見える無数の街の灯りだった。神戸か、横浜か、海沿いに並ぶビル群が艶やかな光を放っている。
思った以上の景色を用意してくれた。これなら彼女の緊張も解けるだろう。そう俺は思い、屋内に振り向き──
「ひゃあぁ!?」
──同時に、俺に声をかけるタイミングを計っていたであろうドレス姿の彼女、リゼは悲鳴と共に飛び退った。
「え?」
「あ? え? 違っ! あっ、あの……!」
きょとんとする俺の態度に彼女は焦りも露わに何か言おうとする。俺は一歩だけ彼女に歩み寄った。
「ひっ……!」
小さな悲鳴が漏れ、俺の歩幅と同じだけリゼは後ろに下がる。
「……」
「……」
謎の緊張感が部屋に満ちる。サバンナで偶然に遭遇した猛獣と草食動物のように、俺とリゼは視線を交わす。
「……いやいや」
俺は思わず呟いた。ここは別にサバンナでもスラム街でもない。バーチャル風俗店で嬢とセックスをする場所なのだ。
まずは言葉を交わせなければ状況把握も出来ない。俺は改めて彼女に話しかけた。
「え、えっと……リゼさん、だよな?」
「へ? あ、は、はい、リゼ……です。きょ、今日はよろしくお願いしま……す」
こちらの挨拶に対し、相変わらず構えたままだがリゼは返事をした。とりあえず「間違って来た」という訳ではないらしい。
しかし、この反応は──
俺は試しに、スッと片手を彼女に向けて掲げてみた。
「わっ」
まるで俺の手からビームが出たかのようにリゼは腕をクロスして、ガードの姿勢をとる。
「……」
「え? えっと、その……」
自分のリアクションが色々と間違っていることに彼女自身も気付いたのだろう。ガードこそ解いたが、こちらへの警戒心は緩まないままだ。
「(おいおい、これは幾ら何でも……)」
多少の緊張があろうことは予測していた。すんなりと事が運ばないとは思っていた。しかしこれは──度が過ぎている。
ここに勤務すると決めて来ている以上、俺と何をするのかは当然把握しているだろう。それでいてなお、リゼは俺との接触すら拒む勢いだ。どこかに行き違いか、致命的な誤解でもあったのか?
「(……まさか)」
頭にある仮説が浮かび、俺はリゼに話しかけた。
「その……なんだ、リゼさん、ひょっとしてあんた……こういう仕事が初めてどころか……」
「な、何ですか?」
「……処女なんじゃ、ないのか?」
「っ!?」
彼女の白い肌が急激に赤くなってゆく。
もはや半泣きの状態でリゼは言った。
「しょ、処女じゃねーし!」
──かくして、冒頭の状況に至る。
バーチャル風俗が発展してから界隈ではたまに聞くようになった話だ。男性経験の無い女性が「実際に抱かれる訳ではないから」という理由で門を叩くものの、いざ本番になるとそのリアリティに本当に処女を奪われるものと錯覚して、結局何もできないまま終わってしまったという失敗談。しかしまさか俺自身がそれに巻き込まれるとは。
「……まあ、だからフィードバックがあると言ってもそれは快感だけで、あんたの処女膜が破れる事はないんだ。安心してくれ」
「いや、だから、そこは分かってる、同じこと言われたし……」
「だったら……」
「そ、そこはほら、だから……」
言葉を交わしてゆく内にリゼは多少の落ち着きを取り戻し、この場において理不尽な事を言っているのが自分だということは理解し始めている。しかし怯えが彼女をそれ以上の行為に移らせない。
既にルームに入ってから30分近く経っている。日頃から世話になっているこの店に対してクレームは入れたくないが、これは止む無しか。俺がそう考え始めた時──
『あ、あー、聞こえてます?』
突如、ルームの壁に設置されていたテレビが点灯し、砂嵐が表示されると共に男の声が飛び込んできた。俺は驚きつつもそれに答えた。
「え? あ、はい、聞こえてます」
『あ、どーもどーも、お世話になっております~、当店の支配人をしとります「ジョー」と申します。お客様、この度はどーもウチの娘がご迷惑をおかけしてるみたいで、いや、ホント申し訳ありません。本来はプレイ中の干渉はNGなんですけどもね。今回のは明らかに此方の落ち度なもんですから、こうしてお話させていただいた次第でして』
「ジョー」と名乗った声の主は軽妙な、しかしこちらを落ち着かせる語調でテレビから語り掛ける。
『いやあ、本当にすいません。研修の時にはちゃんとしてたんですけどねえ、彼女、もともと人見知りなところがあって、それがちょっと悪い方に転んじゃったみたいでしてね』
「りっ……支配人さん……」
支配人の声を聴き、リゼは改めて自分が「やらかした」事を自覚したのだろう。申し訳なさそうに身体を縮こませている。
とはいえ俺も怒っていた訳ではない。頭を掻きつつ俺は答えた。
「その……あまり、怒らないであげて下さい。俺の方はそんな気にしてないので」
「……」
少し驚いたようにリゼは俺を見た。
『そう言って貰えると助かります~。えー、今、強制ログアウトさせるので……操作、どうだったかな……んん? え?』
ふと、支配人の言葉が途切れた。どうやら第三者が彼に話しかけてきたようだ。
『戻さなくて……いい? 私が行く? いや、でも……まあ、助かるっちゃあ助かるけど……んん~……』
第三者はリゼを戻さずにこの状況を何とかする方法を提案している。支配人は暫く悩んでいたが、どうやら方針を変えたようだった。
『そうだねえ、俺としてもリゼちゃんが初出勤即卒業ってーのは嫌だし……そうするか! すみませんお客様、ちょっと今、こちらから補助役に「もう一人」送りますので。あ、もちろんそっちの分の料金は不要でございます』
「それは……どうも」
『恐れ入ります~、私はこれで一旦下がらせていただきますので』
今ひとつ流れが把握できていないが、俺は了承する。数秒後に砂嵐はプツンと切れ、同時にモニターの前に少女が出現した。
「って……『るる』ちゃん!?」
「こんばんは、お兄さん。こんるる~♪」
上下を白の下着で揃えた彼女、「るる」はにこやかに俺に微笑むとリゼに歩み寄った。顔見知りが現れたからか、彼女から発せられていた警戒心が急に弱まったように感じる。
「るる……ちゃん」
「お疲れ様、リゼちゃん。ちょっと、上手くいってないのかな?」
「うん、その、ごめん……私、やっぱり無理だったみたい」
るるの言葉にリゼは弱々しく答えた。既に彼女の中では心が折れているようだ。
しかし、そんな状態のリゼにるるは強く言った。
「大丈夫だよ! リゼちゃん、研修の時に説明を全部真面目に聞いて『やります!』って言ってたじゃない」
「うっ……それは、そう、だけど……」
痛い所を突かれたリゼが呻く。それでもまだ、彼女は踏み出せないでいるようだ。
「何が……怖いの?」
「何がって……」
「別にこのお兄さんはリゼちゃんの事を壊しに来てるんじゃないんだよ? 勿論、気持ちよくなりたいから来てはいるんだろうけど……リゼちゃんにも、一緒に気持ち良くなってほしいって思ってるの」
「私にも?」
それはリゼにとって意外な言葉だったようだ。るるは頷き、今度は俺の方に近づいてきた。
「お兄さん……服を消して貰っても、いいかな?」
「ああ、分かった」
るるの意図を察し、俺は指を鳴らした。着ていたスーツが下着ごと消滅し、俺の肉体が全て曝け出される。
ビクッとリゼが反応する。おそらく本当に家族以外の裸など見たことが無いのだろう。
一方、るるは落ち着いた様子で腰を落とし、俺の前に跪くような姿勢になると垂れさがった肉棒に触れた。
「私、このお兄さんとは何回かした事があるけど……この人は大丈夫。リゼちゃんの事をちゃんと気遣って相手してくれる人、怖くないよ……」
「くっ……!」
そう言いつつるるは肉棒を柔らかく握ると竿を扱き始めた。細い指が絡みつき、勃起を促してくる。忽ちの内に肉棒は充血し、彼女の手の中で反り返ってゆく。
怒張へと変貌してゆく肉棒の様子をリゼは白い頬を紅潮させつつ、しかし目を逸らさずに見ていた。
「よいしょ、よいしょ……」
るるは呟きつつ手淫を続ける。やがて完全に勃起したのを確認すると彼女は手を放し、リゼに視線を向けたまま今度は顔を寄せてきた。
「凄いでしょ? こんなに大きくなるの。でも……これが私たちを、物凄く気持ちよくしてくれる」
「るるちゃん……!」
「ねえ、一緒にしよう? リゼちゃんが怖くないように、私も手伝うから……ぺろっ」
「うっ!」
おもむろにるるは舌を出し、亀頭を舐め上げた。俺の腰がびくんと震える。そのまま彼女は肉棒に舌を這わせ、舐めしゃぶり始める。
「んっ……ちゅ、ンンッ……!」
熱い吐息と共にるるの舌が肉棒を這いまわる。赤黒い亀頭が彼女の唾液に濡れ光り、血管が浮かび上がる凶悪な怒張に愛おしそうに頬を摺り寄せる。
後方で驚きと興奮を浮かべたままのリゼに、るるはフェラチオを途切れさせずに言った。
「んちゅ……リゼちゃん、ほら、来て……」
「……!」
ごくりと息を呑む音がここまで聞こえてくる。リゼは胸に手をあて、おずおずと足を踏み出した。まさに「おっかなびっくり」といった風情だがそれでも俺とるるの傍まで近づき、ゆっくりと腰を落とす。
「うわ、エグっ……!」
何とも素直な感想がリゼの口から漏れる。るるは肉棒に顔を寄せつつも位置をずらし、俺の右側に跪く姿勢に変えた。それを見てリゼは左側に座る。
「私は右からするから、リゼちゃんは左からね。アイスを舐めるみたいな感じで、歯は立てないで……んっ……」
「わ、分かった……あ、あぁ……ちゅっ」
そう言うとるるは竿に口を寄せた。彼女に促されたリゼは潤んだ瞳で肉棒を見つめ、口を大きく開けると震える舌で肉棒を少しだけ舐めた。竿が跳ね、亀頭から先走りが滲む。その反応にリゼは驚いたように顔を離した。
「わっ……」
「大丈夫、それはお兄さんがリゼちゃんに舐められて気持ち良かった証拠だから……あむっ……もっと、してあげて」
「わ、分かった……あの、すみません」
どうやら「いきなり暴れだすようなもの」でない事はリゼにも把握できたようだ。再び肉棒に顔を寄せつつ、リゼは俺に言った。
「その……さっきはああ言いましたけど私、本当は初めてで……痛かったら、言ってくださいね」
「大丈夫。そんな壊れるもんじゃないから、好きなようにやってくれよ」
「……ありがとうございます」
俺が笑って彼女に言うと、ここで初めてリゼは口元に笑みを見せた。青い髪をかき上げ、唇を肉棒に押し当てる。先ほどよりもより大胆な動きで舌を竿に這わせ、俺の反応を見ながら動かしてゆく。
「はむっ……れろっ……凄い熱い、これ……」
「ちゅうぅ……そうだよ、男の人のって、凄く熱く、固くなるの……」
まるで横笛を吹くかのようにるるは右側から肉棒を咥え、リゼに励ましを送る。一方のリゼはるるの動きを真似ようとしているようだ。不慣れなりに同様に舌で肉棒を濡らしてゆく。
リゼの口淫は確かに拙く、未知の行為への怯えが感じられるものではあった。しかし同時に健気な、何とか俺を気持ちよくさせようという姿勢も感じられた。何より二人の美少女に肉棒を同時に舐めさせているという絵面は、それだけで昂るに足るものだった。
「……♪」
ふと、るるが何かを思いついたのか左手をリゼのスカートの中へと伸ばした。舐めることに集中していたリゼが驚く。
「んあっ!? る、るるちゃん!?」
「リゼちゃんも準備しないと……お兄さんのおちんちん、リゼちゃんの膣内に挿れたいから、こんなに固くしてるんだよ?」
「え、ちょ、んんっ!」
びくんとリゼの身体が跳ねる。スカートの中ではるるの指が動き、リゼの秘所を弄っているようだ。
「ふあっ、あっ、んくっ……!」
驚きこそあったものの、リゼは行為を拒むことなく俺への口淫を再開する。どうやら最初の壁を越えた事で彼女も慣れてきたのだろう。丁寧に竿の根本から亀頭へ舐め上げるように舌を動かしてゆく。
一方でるるの方はリゼに身体を寄せつつ亀頭を咥え込んだ。赤黒い亀頭は彼女の淡い色の唇に挟まれ、ちゅぷちゅぷと音を立てながら快感を与えてくる。同時にリゼへの責めも忘れていない。見下ろしている俺の視界からでも、彼女の指の動きが大胆なものに変わってゆくのが分かる。
「ぐっ……その、二人とも、そろそろっ……」
そろそろ射精感が強まってきた。呻きつつ俺は二人に言った。
「っぱ……あの、『そろそろ』って?」
「『準備ができた』って事だよ、リゼちゃん」
まだよく分かっていないリゼをるるが立たせる。るるの手に引かれ、彼女は部屋の中央に置かれたダブルベッドにころりとその身体を横たえさせる。それを追うように全裸の俺はベッドに上がった。
「じゃあ、脱がすね」
「え? え?」
自分のペースでるるは言うと、リゼの下着を手際よく脱がせた。パステルカラーの青のショーツが何ともリゼのイメージと合っている。
「お兄さん、後は、お願いします」
「任された」
俺は答え、仰向けになったリゼの身体に覆いかぶさった。考えてみれば、事が始まってから彼女とここまで顔を近づけるのは初めてだ。
「あ……」
俺の視線を正面から受け、リゼはこれから自分がされる事を理解したようだ。潤んだ瞳に僅かの不安を籠めつつ、俺を見上げている。俺は彼女に言った。
「いいか、リゼちゃん?」
「……優しく、して、ください」
息を呑みつつも、彼女ははっきりと答える。
「いい子だ」
俺は微笑み、彼女の脚を抱えた。
【後編に続く】