「おめでとうございます~」
「うおっ!?」
ホテルのフロントめいた、いつものロビー。
その日の相手、「モイラ」さんの甘やかせ爆乳パイズリの感触を思い返していた俺の前に突然アップで現れたのは、ストライプスーツにピエロメイクの奇妙な男だった。
「あっと失礼! いやいや、今回のご利用でお客様がゴールド会員に昇格されましたんで、そのご報告とカードの贈呈のためにお待ちしてました」
「ゴールド会員……って、ひょっとして、この前の支配人さん?」
「はい、支配人の『ジョー』でございます~。その節はお世話になりましたホント」
そう言うと男は一歩下がり、胸ポケットから金色のカードを取り出すと俺に差し出した。
「こいつぁまあ、あくまでお客様のコードを疑似的に形にしたモンなんですがね。追ってご自宅にも現物を送りますんで」
丁寧な言葉遣いの節々にべらんめえ口調が混じるのは癖なんだろうか。そんな事を思いつつ、俺はカードを受け取った。
「特典としては利用料の5%OFF、リザーブ機能の拡張、延長料金の半額……他にも色々ありますんで、まあ、今後ともご利用いただいてお試しして貰えればと、ね」
「おぉ……」
『電燈二次三次』と書かれた金色のカードに俺の名前が入っている。何ともラグジュアリーな感じに、俺は思わず声を漏らす。
「……正直、俺ぇ個人としても、お兄さんとは長く付き合いたいと思ってんですよ」
ふと、ジョーは居住まいを崩して俺に言った。
「支配人さん?」
「ジョーで結構です。いやホント、リゼちゃんの時は助かりました。彼女、終わってから凄く喜んでましたよ。わりと自己評価が低い娘なんで、お客さんを喜ばせられたのが嬉しかったんじゃないですかね?」
「そう……ですか」
悪い気分はしなかった。今では彼女も店の一員として顧客の人気を集めている。
「あと、笹木の事を懲らしめてくれたでしょ? アレも助かったんですよ~」
「笹木の事って、あのレースゲームの件ですか?」
「ええ! ゲームで時間潰させて帰すアレ、身内でも『どうなの?』ってぇ声がありましてねぇ。とはいえ店のルールに違反してる訳でもないってんで、俺からも言い辛くって」
「あれからは、彼女は?」
「流石に懲りたみたいで
自分の言葉にウケたのか、ジョーは笑った。
「実際、お兄さんみたいな『普通のサラリーマン』なお客さんって珍しいんですよ。身内の紹介から始まった会員制クラブですからね」
「ははっ、そうですよね……俺もここまで入れ込むとは思ってませんでした」
それは本当にそう思う。事故めいた偶然で、俺はこの店に通っている。
──“ある酔っ払い”の身勝手な事情が無ければ、俺はそもそもこの店の客になれなかったのだから。
もう、結構前のことになる。
世界的な感染症の流行で在宅ワークが基本になったとはいえ、それでも仕事で他人との直接の打ち合わせが必要な時もある。向こうさんが資料の現物を求め、営業から頼まれて企画販売課の俺が出向いたのはそんな日だった。晩秋ながら蒸し暑い日で、マスクがやけに蒸れたのを覚えている。
「ありがとうございます。わざわざ遠くまで来てもらって……」
「いいよ、あちらさんも納得してくれたみたいだし……俺は直帰するから、詳しい話はまた明日に」
礼を言う営業の同僚に俺は軽く答え、駅の改札を抜けて電車に乗った。実際えらく郊外に来てしまった。家に着くころには真っ暗だろう。
まあその程度は予測していた訳だが、スーパーで晩飯を買ってマンションに戻ってきた俺は、自室の前で偉いものを見る事になった。
「うぅ……あ”あ”~……」
「……おいおい」
思わず声が漏れる。
よりによって俺の部屋のドアの前で、スーツ姿の女性が酔い潰れていた。
「あ~……あ、え……?」
顔をうつむかせたまま言葉にならない声を発している彼女に見覚えはあった。確か、上の階に住んでいる若い女性だ。エレベーターで挨拶を交わす程度で、当然ながら俺の家に泥酔して訪問してくるような仲ではない。
幸いにして周囲に俺たち以外の人影はない。俺は面倒な噂を避けるためにも彼女に声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
「え? あ~……ちょっとあんた、ドア開けて。鍵はポケットに……」
「いえ、ここは俺の部屋です」
「んあ?」
そこで女性は面倒そうに顔を上げた。素面であれば「長い黒髪の似合う整った顔」とでも言えるだろうその顔は真っ赤で、相当に回っているようだ。
緩慢な動作で視線を巡らせ、部屋番を見る。
「ここ、五階じゃないの?」
「三階ですよ」
そう俺に言われ、彼女はこちらを見上げて言った。
「あ”~……間違えた?」
ドアに手をあて、立ち上がろうとして──再び床に崩れ落ちる。
「ちょ、た、立てます?」
「無理ぃ……ちょっと肩貸して」
確かにそうでもしないと無理そうだ。俺はスーパーの袋を置くと彼女の横に回り、腕を自分の肩に回させると身体を持ち上げた。
「よい……しょっ!」
そこで初めて気付いたが、顔立ちもさる事ながら彼女は見事なプロポーションも備えていた。肩を貸しているだけでその豊かな胸が俺の身体に当たっている。これで彼女がべろべろで無ければ良いシチュエーションだったのだろうが。
「エレベーター、行きますよ?」
「うぅ……飲み過ぎたぁ……いやもぅ、オフコラボでさぁ、飲み放題なら、そぅ、そりゃあ、たた、高いのいくじゃん……」
色々とダメそうだ。
何かブツブツ呟いている彼女を肩に俺はエレベーターまで向かい、一緒に上に向かった。流石にこの状態のままエレベーター内で放置はできない。さほどの時間も待たず五階に到着し、もはや歩こうともしない彼女を引きずる。
「着きましたよ、五階! 部屋番は何番ですか?」
「うぇ? あ、あぁ……部屋番……えっと、部屋番って、何だっけ?」
「(おいおい)」
全く面倒なことに巻き込まれたもんだ。息苦しさからマスクを外し、内心で悪態をつきつつも俺は何とか彼女から部屋番を聞き出し、そこまで歩く。
やがて俺は彼女の部屋まで辿り着いた。下の階の俺の部屋と同じ位置。
「大丈夫ですか? 部屋ですよ?」
「ちょ、ちょっと、あえ、開けて……ポケットに、鍵、あるから……」
肩を回しつつ俺は彼女のスーツのポケットを探り、鍵を見つけるとそれでドアを開けた。
「すいません、中、入りますよ……」
一応の断りを入れて部屋に入る。とりあえずリビングで彼女を寝かせるところまで──
「……?」
奥に入るにつれ、俺は見慣れぬ部屋の様子に違和感を覚えた。
一見するとそれは「独り暮らしで不摂生なOLの雑然とした部屋」だった。キッチンの流しには洗い物が放置され、床には缶ビールの空缶などが転がっている。
しかしそれでいて、リビングの書棚には多くの参考書や教科書、難解そうな専門書が詰め込まれていた。学校の教師か何かをしているのだろうか。
そしてもう一つ俺の目を引いたのは、リビングに設置されたPCデスクだった。革製の立派なチェア──妙に鉄臭いが──の前に置かれているのはプロゲーマー仕様のハイエンドPCで、その周囲には様々な機器が置かれている。
「(YouTuberでもやってるのか?)」
そんな事を思いつつ、俺はリビングの床のゴミや書類を寄せてスペースを作り、とりあえず彼女を寝かせた。
「部屋、着きましたよ! もう大丈夫ですね!?」
「うぇ……あ、あぁ……だい、だいじょう……ぶ?」
いい加減切り上げたい俺は彼女に確認するように言った。それに対し、彼女は何かを探すように寝たまま視線を巡らせる。
「ご……ごめん、今、何時?」
「え? えっと……八時前ですけど?」
「八……時? や、ヤバッ……『出勤』じゃん。忘れてたっ……!」
俺が時間を伝えると、彼女は酔いつつも焦りも露わに起き上がろうとした。緩慢な動作で身を起こそうとして──やはり途中で力尽きる。
「ちょ、まだ寝てた方がいいですよ!」
「これから『仕事』なの、よぉ……! あー、どうしよ、行きたくないぃ……でもなぁ、無断、け、欠勤したらぁ、りぃ、りきぃっさんがぁ……!」
もぞもぞと身体を動かしつつ彼女は言う。スカートだというのに大股を開けて、タイツ越しの下着まで丸見えである。
どうやら彼女はこんな状態でもその「仕事」に向かわねばならず、同時にそれは重要なもののようだった。が、とはいえ他人事といえば他人事である。俺が助けにならない事であれば介入は余計に混乱を生むだろう。そう思い、俺は退出しようとした。
「ま、まあ、寝ていてくださ……え?」
彼女が俺の袖を掴んでいる。その指に力を籠めつつ彼女が言った。
「あんた、うぇっ……ちょ、ちょっと『お客さん』やって! か、紙とペン……」
「か、紙?」
「急いで! あと、あの、水!」
戸惑う俺に彼女は強い語調で言った。ここまで運ばせておいて何ともな言い草だが、かと言ってここで「知らん」と放置するのも難しい。マンション内のご近所付き合いはデリケートなのだ。
「(乗りかかった船、か)」
俺はやむなく最後まで付き合う事を決めて流しに向かい、ペンとメモ用紙、水の入ったコップを手早く用意して彼女に差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがと……ンッ、ンッ……プハーッ!」
上体を起こし、彼女は水を一気飲みするとおぼつなかい手つきでメモ用紙に書き始めた。何かの数字と英字の羅列されたパスコードのようだ。
それを書き終えると、彼女はまた俺に言った。
「あー、何とかイケそう。そこのクローゼットを開けて……中にある、あの、何だっけ、VRスーツ二着と股間パーツ出して。男性用もあるから……」
「クローゼット……ここか。ええっと……なっ!?」
言われるままに俺は壁のクローゼットを開け、その中身に驚いた。
電脳風俗の一般化によって、着用者の動きをトレースするVRスーツは割と普及するようになった。当然ながらその精度や性能によって価格はピンキリなのだが──
「おいおい、こりゃあ……」
そこに掛けられていたのは紛れもない、民間レベルで買える中でも最高級のVRスーツだった、情報誌の記事ではそれこそ新車並みの価格だったはずだ。しかもそれが二着用意されている。
「(何者なんだ、この人!?)」
ますます彼女の正体が分からなくなってきた。ひとまずスーツ二着と股間用パーツを取り出し、彼女の許に戻る。
「持ってきましたよ」
「ありがと……そんじゃ、着せて」
「着せ……ちょ、ええっ!?」
今までの事はまだ流せたが、流石にこれには俺も戸惑った。ほぼ初対面の酔っている女性を脱がせるのは流石に一歩間違えれば通報ものだ。
そんな俺の動揺に構う事なく彼女は言葉を続けた。
「怠くて、脱げない……いいから脱がせて、それ、着せて……」
どうやら譲るつもりは無いようだ。やむなく俺は上体を起こしている彼女の後ろに回り、ジャケットを脱がしてシャツのボタンを外した。黒いブラに包まれた豊かな胸が露わになる。不摂生な生活からか肌に若干の荒れはあるが、それが逆に何とも生々しい。
「下着も、外して……スーツ、擦れるから……」
指示に従い、背中のホックを外す。拘束を開放された乳房が揺れながら現れた。酔いで汗ばんだ乳房の先端には朱鷺色の乳首。色々と切羽詰まっているこの状況でなければ、興奮に足るものだったろう。
俺は続けて彼女のスカートに手をかけた。留め具を外してずり下ろし、タイツ、続けてショーツを下ろす。
そんな頻繁に女性の服を脱がしている訳ではないので多少のもたつきは有ったが、何とか彼女を全裸にした。今度は着せる番だ。作業服のような上下一体形成型で、ジッパーを下ろし、下半身を入れられるようにする。
「ちょっと足、上げてください」
「んっ……」
スーツを下から被せ、彼女の脚を上げさせる。濃い目の陰毛に包まれた朱色の秘所が僅かに覗く。俺はできるだけ視線を逸らしつつ、彼女の腰までをスーツに包ませた。そのまま腕を通し、ジッパーを閉じる。
「ふぅ……これでいいですか?」
「あと、股間パーツ付けて……まんこにくっ付ける感じでいいから……」
何とも直接的な言い方だ。俺は呆れつつもそれに従いスーツの鼠径部辺りのボタンを外し、彼女の股間を露出させる。汗の匂いと酒の強い匂いが鼻を突き、それだけで俺まで酔いそうだ。
「えっと、こう……かな」
「ンンッ……!」
初めて見るパーツだったが、おそらくこんな感じだろうと彼女の股間に押し当て、スーツと接続した。艶っぽい声が彼女の口から漏れる。
次は俺の番だ。手早くビジネススーツを脱ぎ、VRスーツを着用する。思った以上に肌触りはサラっとしており通気性もいい。流石は最高級品といったところか。
続けて彼女のように股間部のスーツを外し、男性用股間パーツを着ける。サイボーグ化したオナホールのようなそれに肉棒を挿入すると、ひんやりとした滑りが俺を包む。
俺が着用したのを酔った目で見上げ、彼女は言った。
「コード、繋いで……そこのPCに差しっぱの、太い奴……あと、バイザーも……」
スパゲティめいたコード群の中から彼女の言うVR用のコードを見つけ、それを彼女と自分のスーツに繋げる。スリープ中だったPCが起動し、呻りと共に電子音を発する。
最後に壁に掛けられていた、口元まで隠すタイプのバイザーを取ると彼女に被せ、次に自分が被る。
バイザーをスイッチを入れる直前に彼女が言った。
「くう……ああもう、頭痛がきっつい! ちょっと、今何時?」
「今……19:57です」
「間に……合った! いい? あたしが今からログインするから……あの、アレ、あんたは十秒後にログインして履歴を追って。そんで……その、着いたら即でそのメモ帳のコードを、あぁ……にゅ、入力して、あたしを予約」
「え? いや、待っ……」
「詳しい話は、後でする、から……そんじゃ!」
彼女は一方的に言い終えるとバイザーを下げ、再びくてんと身体を横たえさせた。
正直、まだ状況把握には程遠かったが俺は渡されたメモを手にしたままバイザーを下げた。ワイヤーフレームの世界が眼前に広がる。
「……履歴検索」
10秒待ってからそう俺が言うと、視界にウィンドウが表示された。様々なアドレスが表示される中で、一番上の、彼女が先ほど向かった先を指定する。
「っ!?」
直後、ワイヤーフレームの世界が消失し俺は高級ホテルのフロントめいた空間に放り出された。
「ここは……?」
周囲を伺いつつ、俺はカウンターに歩み寄る。ホログラフモニターが眼前に浮かんでおり、そこには、
『電燈二次三次へようこそ』
という文字が煌びやかに書かれていた。
「電燈二次三次……って、嘘だろ!?」
俺は驚き、思わずモニターを二度見した。
その店名には聞き覚えがあった。近年に急激に知名度を上げてきたバーチャル風俗界隈の中でも、トップクラスの高級店。紹介制の会員限定ながらそのクオリティの高さから風説が途切れることはなく、半ば伝説化している店だ。
初めて遊園地に連れて来られた子供のように、物珍しそうに俺は周囲を見回しつつモニターに顔を寄せた。
『ご新規のお客様ですね? 招待コードの入力をお願い致します』
やはり一見様はお断りのようだ。イメージを強め、先ほどのメモを現出させる。コードを打ち込むとモニターから滲み出るようにカードが出現した。これが会員証のようだ。
『お待たせ致しました。それではお楽しみください』
ナビゲーターの声と共にモニターが切り替わり、現在出勤中の「嬢」の名前が表示されてゆく。
そこに来て俺は彼女の源氏名を聞き忘れていた事に気付いた。慌てて出勤時間が直前の「19:57」になっている女性を探す。
「57分、57分……これか」
その時間に出勤した「美玲」という嬢を見つけ、俺は予約ボタンを押す。
『ご予約をいただきました。ルームが指定されています。承認をお願いします』
「『夕方の保健室』? ええと……承認っと」
『承認を確認しました。料金先払いとなっておりますので、お振り込みをお願いします』
「先払い……って、割と高いな!」
彼女の名前の横に表示されていた価格はなかなかの物だった。幸いにして口座にそれなりの貯金が残っていたため足りたが、ここで金欠なら俺は肩を落として帰る羽目になっていただろう。
ナビに従うままに口座番号を入力すると、数秒の後に電子音が鳴った。
『お振り込みを確認しました。10秒後に転送致します』
音声と共に足下に光るサークルが出現した。俺はそのまま静かに待つ。
やがて、視界がホワイトアウトして──
「……おぉ」
次の瞬間、俺はどこかの学校の保健室に居た。窓の外は夕暮れで、あかね色の陽光がグラウンドを照らしている。
正直、現実と言われても納得しそうなクオリティだった。俺の服装もVRスーツでなく紺のスラックスとワイシャツに変わっている。
「こりゃ凄い……」
過去に何回か他でバーチャル風俗を利用した事はあった。その際は気持ち良さは確かにあったのだが、動きのラグは存在したしルームや女性のモデリングにも荒さがあった。それに比べ、この空間はまさに別格だ。
「うぅ……」
「ん?」
俺が素直に感心していると、ふと衝立の向こうのベッドから呻き声が聞こえてきた。回り込み、そちらを覗いてみる。
「……え? あ? あんた誰?」
「いや、誰って……うおっ!?」
保健室のベッドの上で身を起こし、こちらを怪訝に見る彼女。
問題は彼女がシーツを被ることもなく全裸であったことだ。先ほどの着替えで見たとはいえ、俺は思わず声をあげた。
「えーと……ああ、思い出した。あたしがお願いしたんだっけ」
裸体を隠そうともせずに彼女は言うと起き上がり、頭を掻いた。「現物」より肌が綺麗なのは女の意地だろうか。
ふと、俺はそこでようやく彼女が誰かに似ている事に気付いた。確か──
「郡道……美玲、さん?」
「え? あー、まあ、なんて言うか、そのそっくりさんって所。『美玲』って呼んで」
VTuber、郡道美玲──に酷似した彼女はそう答えた。まだ酔いが強いのか、怠そうに彼女は再び横になる。俺は手近な丸椅子を寄せ、そこに座った。
「とりあえず言われた通りにしましたが……これで良かったんですか?」
「あぁ、うん、助かったわ。今のコレでお客さんとか相手できないから」
「お客さん?」
「ここ、そういう店だからさぁ……ベロベロでも親父相手にセックスしなくちゃ駄目なワケよ! そんなん今やったら絶対吐くって、ねえ?」
「はあ……」
美玲が同意を求めてくるのに対し、俺は曖昧な返事をした。やはり彼女はここに勤めている「嬢」ということか。
「あぁ、頭痛い……そんじゃ、とりあえずあたしは寝るから、適当にやってて」
「適当にって……」
ここに来てようやく俺にも彼女の狙いが分かってきた。酔っているが欠勤はできない。だからダミーの「お客さん」として俺を使って時間を確保して、そこで休もうという魂胆だ。
俺はため息交じりに答えた。
「分かりました。適当にしますけど、立て替えた料金、よろしくお願いしますよ?」
「……あー、そっか、お金の事言ってなかったっけ。うん、後でちゃんと戻しとくから」
そう言うと彼女は全裸のままごろりと横になった。豊かな乳房がたぷんと揺れる。
「………」
「ん~……ん~~」
美玲は呻りながらごろごろと寝返りを打つ。その度に胸は揺れ、隠す気配も無い陰毛や陰唇がどうしても俺の視界に入る。
「(うっ……)」
状況が落ち着いた事もあってか、俺の股間はそれらに如実に反応した。スラックスの中でむくむくと肉棒が固くなってゆくのが分かる。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、美玲は暫くごろごろとした後にぴたりと止まり、仰向けのまま言った。
「駄目~……全っ然、眠くならないわ……ちょっとあんた、何か話して」
「(無茶ぶりだなあ……)」
俺はそう思いつつ、とりあえず気になっていた事を聞いた。
「ここ……アレですよね、『電燈二次三次』。聞いたことあります」
「へ? ん、そう……何か最近、有名みたいね、ここ」
「良かったんですか? 会員証、初対面の俺に渡したりして」
「いいんじゃない? お客さんが増えるのは皆に良いことだし」
俺の心配が馬鹿馬鹿しくなる程のアバウトな答え。
「いや~……でも、助かったわ。あそこで潰れてたら完全に欠勤してた」
「完全に塞がれてましたからね、俺の家」
「アハハ、悪かったって」
美玲は愉快そうに笑い、俺の方を見た。その視線がある箇所で止まる。
「あ~、固くなってんねぇ」
「え? あっ……」
酔いの回った、とろんとした美玲の眼が俺の股間の膨らみに注がれていた。
何とか誤魔化そうとする俺に、彼女はさらりと言った。
「どうする? 『使う?』」
「つ、使う?」
「あたしのまんこ。寝たままのマグロで良ければ使っていいよ?」
「なっ……!」
直球すぎる言い方に言葉を失う。
しかし、一方で股間はその言葉に反応してビクンと跳ねた。それが面白かったのか、美玲は笑いながら言った。
「アハッ……うん、いいよ、使って使って。寝たままならあたしも楽だし……濡らすの面倒だから、棚のローション出して。今のあたし力が入んなくてユルいから、それで挿いると思う」
ごろんと寝返りを打ち、美玲はうつ伏せになった。こちらに向けた尻の谷間から秘唇が覗く。
「ほら、ハメてすっきりしなさいよ」
「……!」
そうまで言われては此方も引き下がれない。俺はシャツを脱ぎ、スラックスを下着ごと下ろした。保健室の窓にはカーテンもなく外から丸見えで、俺たち以外居ないと分かっていても倒錯的だ。
俺は壁のスチール棚を開け、ローションの容器を取り出して再び美玲の傍に戻った。ベッドに乗り、まずは自分の勃起した肉棒にローションを垂らし、扱く。既に半勃起だった肉棒は忽ち怒張し反り返る。続けて美玲の尻に垂らす。
「ンンッ……あ~、ひんやりしていいわ~……」
ローションの感触にうっとりした声を漏らす。俺は美玲の膣内まで多少浸透させ、彼女に体重が乗らないように注意しつつ亀頭を膣孔にあて、そのまま腰を突き出す。
「うっ……!」
「ふぁ、んっ……!」
ぬるりとした感触に肉棒が包まれる。酒が回っているせいか粘膜全体が熱い。俺は腕立て伏せのように身体を支え、寝バックの体位で腰を使い始めた。
「ンッ、け、結構大きいじゃない、あんた……っ!」
「そ、そりゃどう……もっ!」
彼女の言葉に応え、無心に腰を振る。
「あふっ、はっ、んんっ……!」
美玲は激しく悶えることもなく弛緩した身体を横たえ、吐息と共に俺の肉棒を受け止める。
「んっ、うぅ、ふぅっ……!」
一方、俺は気持ち良さを覚えると同時に物足りなさも感じていた。熱さはあるし滑りも悪くないのだが──彼女自身が言った通り、どうにも締め付けが弱い。細かく動くなどで擦り方を変えてみるが、それでも今ひとつ足りない感じが拭えない。
そんな俺の反応に美玲も察したのだろう。突かれながら彼女は言った。
「んあっ……や、やっぱ、ユルい、みたいねっ……」
「いや、そんな事は……」
「……しょーがない。あんた、体重乗っていいから、あたしの首に腕を回して」
「首?」
「そう、こうして……こう」
彼女の手が俺の腕を掴み、自分の首へ誘導する。右の二の腕を首に回し、左手でそれをロックする。いわゆるチョークスリーパーの体勢だ。
「ちょ、これって……!?」
「首の気道じゃなくって静脈を絞める感じでヤって……スーツにはリミッター掛かってるから遠慮なく。それでイケると思う」
「……大丈夫なのか?」
「嫌ならすぐに抜いて、自分でシコれば?」
俺の心配に美玲は苛つき混じりの言葉を投げ返す。つくづく此方の気遣いを無視する相手である。だが、確かにここまで来て半端に抜いて終わるのは余りに情けなかった。
「ああもう、知らねえぞ……!」
「いい、からっ、さっさと……ひゅっ」
美玲の言葉を待たず、俺は彼女の首に回した腕に力を込めた。鶏が絞められるような声が漏れる。
「うっ、うおっ!?」
同時に俺自身、股間からの急な刺激に思わず声を漏らした。弛緩していた美玲の膣が急に強く俺のを締め付けたのだ。
「ケホッ……そ、そんな感じ、それでイクまで、繰り返して……!」
「……分かった!」
「ひゅっ、はぅっ、あうぅっ!」
俺は今度こそ遠慮なく美玲の首を絞めつつ腰を振り始めた。緩急をつけ、出来るだけ早く済ませるように一気に、激しく。
黒髪を振り乱し、美玲が苦悶の表情を浮かべる。しかしその表情とは裏腹に、彼女は間違いなくそれまでより感じていた。ローション任せだった膣内には愛液が滲み、抽送をよりスムーズにしてゆく。
「ぐっ、うぅっ、くうっ!」
「ひぅっ! あっ、はぁっ! ひっ、ふぅっ!」
ヒューヒューと彼女の喉から漏れる音。保健室のベッドで首を絞めながら行うセックスという異常な状況は俺の理性を麻痺させてゆく。そして、その終わりは近づいていた。
「ぐっ、で、射精るっ……!」
「いっ、いい、からっ、全部、中に出してっ……ひゅぅっ!」
「ぐうっ! あ、があっ!」
「ッ!」
獣めいた声と共に俺は絶頂に達した。美玲の首をキメたまま、どくどくと彼女の膣内に精液を流し込む。
「あ、あぁ……」
「……ゲホッ」
脱力感と共に腕の力が緩む。美玲は俺の下でぐったりと身体を横たえ、咳をひとつした。
──それが、俺がこの店の会員になり、ゴールド会員になるまで通い詰めるようになった始まりだった。
果たしてそれが良縁だったのか、悪縁だったのか。正直今でも分からない。こうしてスーパーで晩飯を買った帰りなどはそんな事を考える。
「……おっと」
マンションに着いた俺は閉じかけていたエレベーターに慌てて飛び込んだ。中に居た先客が少し驚く。
「……どうも」
「あ……すみません」
五階に住むスーツ姿の女性。彼女に俺は軽く頭を下げる。
エレベーターの中、それ以外の言葉を交わすことなく、俺は三階で降りる。
エコバッグをぶら下げ、自室のドアの前に立つ。その時、ふとポケットの携帯が震えた。取り出し、画面を見る。
『美玲:今日ダルいから『お客さん』お願い。19:57』
──これが良縁だったのか、悪縁だったのかは分からない。
ただ、俺は今もたまにこうして、彼女のサボりの片棒を担いでいる。