「ぅ熱っつぅぅぅっ!」
突然の叫びと共に「二次三次」の事務所の壁が破壊され、ひとつの影が苦悶の叫びと共に飛び込んでくる。
「うおっ!?」
突然の事態に驚く俺の眼前にその影は転がるように着地し、ボリュームある紫の髪の縦ロールを歌舞伎の連獅子のように振り乱しながら更に叫んだ。
「熱っちぃですわ、クソ熱っちぃですわ~! 想像の1万倍くらいの熱を感じましたわ! パネェですわねバーチャル蝋燭! これ現実に戻ったら水膨れになってたりしませんの!?」
「……あー、その、大丈夫だ。確かに強い思い込みが身体に影響を与えるケースはあるけど、ほとんどの場合リミッターが防いでくれる」
「それならばオッケーですわ! って、あら……?」
そこで彼女は初めて俺に気付いたようだった。葡萄酒色のタイトなドレスに身を包んだ、一見するだけならば「高貴なお嬢様」といった出で立ちの端正な顔立ちの少女である。事務所でジョーと会話していた最中にいきなり壁を壊して突っ込んできたという一点からしても、その外見と中身が一致しないであろう事は俺も察したが。
「貴方は……ひょっとすると噂にお伺いした、ヤリチンの教育係様ですの?」
──思った以上に外見と中身が一致していない。
本人的には上品な口調を心がけているのだろう物言いに、俺は戸惑いつつも答えた。
「あ、ああ……って言うか俺、そんな風に噂されてるのか?」
「
色々とツッコミを入れたい個所はあったが、とりあえず彼女が何者かは分かってきた。
「ええっと……つまりアンタは、この店の新人って事だな?」
「はっ!? いけませんわ私ったら~! 初対面の殿方への自己紹介を忘れていましたわ!」
紫の縦ロールヘアーを揺らして彼女は思い出したように額に手をあて、スッと一歩引き下がるとスカートの裾を摘まんで優雅に頭を下げた。
「……お初にお目にかかります教育係様! 私の名は『サロメ』! 近しい方からは『百満点のサロメ』と呼ばれておりますわ! 不肖ながらこの店に癒しを求めて訪れる殿方に百満点の悦びを与えられるよう、精進させていただきますわ~!」
Vtuber・壱百満天原サロメに酷似したその少女「サロメ」はそう言うと顔を上げ、手元に豪奢な扇子を現出させて不敵に笑った。
半端な照れが混じれば寒いだけの所作だったが、彼女の動きはひとつひとつに迷いがなく堂々としたものだった。新人とは思えない、なかなかに肝の座った女性のようだ。
とはいえ未だに彼女が壁を破って飛び込んできた理由は不明のままだ。俺はサロメに尋ねた。
「新人さん……って、俺と初対面って事は研修もこれからだよな。何で店の蝋燭を使って悶絶して飛び込んで来たんだ?」
「私、支配人様にお願いして店舗内を見て回らせていただいてましたの。それでSMルームを見かけまして、設置されてましたツールを試したのですけど……いやー、ホント驚きましたわ。あそこまでクソ熱っちぃとは思っておりませんでして、それで熱さの余り事務所に慌てて戻ってきた次第ですの」
流石にそれは慌てすぎではなかろうか。そんな事を思いながら支配人デスクに座るジョーに視線を送ると、彼は苦笑交じりに頷き返してくる。おそらくは俺には後で話をするつもりだったのだろう。
「SMに興味があるのか?」
「はい。私、目標がありまして……本物の高貴なお嬢様になりたいんですの!」
ぐっと拳を握って言うサロメ。顎に手をあてて俺は更に聞いた。
「お嬢様に……って、俺には少なくとも外見ははお嬢様に見えるんだが」
「そこなのですわ! 私、生まれも育ちも超庶民! 夕方のスーパーでお惣菜に店員様がお値下げシールが貼られるのを待ち構えてしまう程の庶民! このドレスもヘアースタイルも『まずは形から入る』の実践に過ぎませんわ。だからこそ、だからこそ内面も本物のお嬢様に至りたいと日夜自己を磨いておりますの!」
なるほど、なかなか気合が入っている。しかしまだ今ひとつ話が繋がらない。
「それとSMプレイに何の関係が?」
「この店に入る上で私、クソ考えましたの。『果たして最もお嬢様らしい、お客様に百満点の悦びを与えられるプレイとは如何なるものか』……と。そこで至ったのが悪役令嬢プレイ! 庶民を見下し、汚れた野良犬を見るような眼で相手を踏みにじり蹂躙する! そんな最後には破滅しそうなお嬢様として接するのが最も『お嬢様』だと思いますの!」
最終的に破滅してはダメなんじゃなかろうか。そんな事を思い浮かべつつ俺は考えた。
新人の嬢が本人から自身の路線を希望してくるケースは実際珍しい。適正などは後から見てゆくとして、まずは希望に合わせた研修内容にした方が良さそうだ。
しかしそうなると──俺では手に余る内容になるかもしれない。
「う~ん……ジョーさん、この店でSMプレイが上手い娘となると、やっぱり
「そうですねー、まあ、女の子からの頼みは基本断らない人ですから、大丈夫だと思いますよ」
ジョーに問いかけると彼も同意を見せる。俺たちの会話に、サロメがきょとんと小首を傾げた。
「……彼女?」
「成程……ね」
最低限の照明で照らされた薄暗い部屋、ダークパープルに塗られた壁にはムチや拘束具が掛けられており、棚には様々な器具が並べられている。
そんな威圧的な空気の中、このルームの主である「巴」はそれが普通であるかのような何気ない素振りでサロメをじっくりと眺めていた。
「うん……うん」
「あ、あのぅ……?」
おずおずとサロメが巴の反応を伺う。対して巴はそんなサロメの様子を気にすることなく、時折艶やかな黒髪をかき上げながら足先から縦ロールの毛先まで値踏みするかのように見つめている。
Vtuber・白雪巴に酷似した彼女は一見しただけではおっとりした雰囲気の黒髪巨乳美人だ。だが二次三次において巴は内外からこう呼ばれている──「
この異名には二つの意味が込められている。ひとつはこの店でも珍しいレズビアンを──主に本人の希望により──メインとする嬢であること。もうひとつは、やはりこの店の嬢の中でも数少ないSMプレイを得意とする嬢であることだ。男性が巴を指名する場合は女性客の時より割り増しとなるが、それでも彼女に踏まれたいと嘆願する「駄犬」は多い。
「……いいわね。磨けば良い女王様になれると思う。よろしくね、サロメちゃん」
「ほっ……はっ、はいっ! よろしくお願いしますわ~!」
やがて巴は満足そうに頷くとサロメに柔和な微笑みを見せた。一気に緊張が解けたのか、大きく息を吐いてから慌てて礼をするサロメ。彼女の横で様子を見ていた俺も巴に頭を下げる。
「すみません、巴さん。助かります」
「いいわよ、教ちゃんにはチョモランマ高校でもお世話になったし」
手をひらひらと動かして軽く返す巴。「教育係さん」という言い方が固いからという理由で俺を「教ちゃん」呼びするのも、この店では彼女だけだ。
「やり方は巴さんにお任せします。フィードバックは俺を通さずに支配人に直接言って貰えればいいですから」
「あら、教ちゃんは研修をしないの?」
「本格的なSMとなると、俺も門外漢ですから」
意外そうに尋ねる巴に俺は答えた。
確かに美玲との首絞めプレイ等のアブノーマルなプレイの経験こそあるが、
そう思って巴に言ったのだが、彼女はじっと俺を見て言った。
「それじゃあ困るのよねぇ……」
「困り……ますか?」
「いい、教ちゃん? 女王っていうのは玉座に独りだけで座っていても女王にはならないの。それに
そう言いつつ巴は俺に近づき、右手で肩をポンと叩いた。同時に左手の指をパチリと鳴らす。
「つまり……『下僕』が必要なの」
「え? 巴さ……んッ!?」
突然、身体が下に引っ張られた。強制的に床に膝をつく姿勢にさせられたかと思えば、巴の右手から発せられた光が俺の服を消失させ、別のものへと変えてゆく。
「なっ……!?」
「……うん、やっぱり教ちゃんくらいの筋肉がついてると似合うわね」
穏やかなままの巴の口調。しかし俺に装着された衣装──これを衣装と呼んで良いのであれば──は、そんな穏やかさとは無縁のものだった。
まず感じたのが首周りの拘束感。触ってみれば指先には皮と金属の感触。これは──犬用の首輪だ。
更に視線を下に落としてみれば上半身は裸。下に履かされているのはいつもの下着でなく黒のレザーパンツで、それも丁度中央部が切り抜かれたデザインとなっており剥き出しになった肉棒が垂れ下がっている。急に座らされた原因を探ってみれば両の太腿と脛をやはり皮のベルトで締められていた。強制的に正座の姿勢になっているのはこれが原因か。
「サロメちゃん。私たちも着替えましょう。好きな色はある?」
「へっ!? あ、はい、えっと、紫が好き……ですわ」
「了解」
動揺を隠せない俺を尻目に巴は横で茫然としていたサロメに声をかけ、今度は彼女と自身に手を添える。光の粒に二人は包まれ──
「んっ……まあ、これは……!」
「私のデータを使ってるから、緩かったりキツかったりする所があるかも。その辺りは自分で調整してみて」
果たしてサロメの姿はドレスから紫のレザーコルセットへと変わっていた。コルセットとは言っても隠しているのは胴回りのみで両の形良い乳房は剥き出し。下半身は同様の紫色のレース付きのショーツにガーター、そしてストッキングという出で立ちだ。
「さて、それじゃあ始めましょうか」
また、そう言う巴も先程までのダークグリーンのセーター姿から黒のボンテージへと衣装を変えていた。レオタード状のそれは紐のような細さで巴の豊満な身体に絡みついており、この店でもニュイやドーラに匹敵する巨乳をぎっちりと締めつけ深い谷間を形作っている。股間の部分にはファスナーが付いており、履いたまま秘所を晒せるデザインになっているようだ。そしてその片手に握られているのは長い鞭だ。
「ちょ、ちょっと待った巴さん! 俺はそっちの気は……!」
「分かってるわよ。教ちゃんってどっちかと言えばS寄りだものね……でも」
ヒュウという風切り音の直後、部屋の空気そのものを弾くような鋭い
「ぐうっ!?」
「ひっ!?」
俺の呻きにサロメが小さな悲鳴をあげる。何が起きたかは考えるまでもない。巴が俺の腿を鞭で打ったのだ。
「……そういう子ほど、
鞭を逆手に持ち替え、柄を俺の顎に付けて強制的に上を向かせる。その口調はあくまで穏やかで、口元には微笑みが浮かんでいる。
「ふふ、安心していいわ。今日はサロメちゃんも研修初日だし、まずは初心者向けの内容にするから。今のムチだって痛くなかったでしょ?」
「えっ?」
巴にそう言われ、改めて打たれた筈の腿を見る。確かに音こそ派手だったが、打たれた箇所は少し赤くなっている程度で腫れてもいない。
そこで彼女は手にしていた鞭を軽く振った。一条の長い鞭に見えたそれはよく観察してみると細い紐が纏まったもので、打擲する際にはそれがバラける造りのようだ。サロメが感心して言った。
「なるほど……一条の太い鞭なら痛くても、これなら細い紐で打つようなもの。痛みが分散されますのね~……」
「初心者用のムチで九尾鞭って言うの。本気で虐められたい駄犬ちゃんはこれだとパワー不足だから、普通の一条鞭を使うけどね」
鞭を揺らしつつ巴は言い、柄で俺の肩をやや強めに押した。
「おっ……!?」
何とかバランスを取ろうとしたが、足を拘束されている状態では踏ん張れない。そのまま仰向けに俺は倒された。
芋虫のように身体をもぞもぞと動かす俺からサロメに視線を移して巴が言った。
「今日はここからは器具を使わない、SMの基礎を教えるわ。サロメちゃん、メモは取らなくていいから実践で覚えて」
「はっ、はいっ! ……って、あら? ムチも蝋燭も使いませんの?」
「いい質問ね」
勢いで元気に返事をしたサロメだったが、ふと疑問が浮かんだのか首を傾げて尋ねた。鞭を丸め、壁に戻しつつ巴が答える。
「SMと聞くと鞭や蝋燭、縛りとかのプレイを想像すると思うけど……そういうのはSMの中でもハードなプレイに入るわ。そのプレイにサディズムとマゾヒズムがあれば、それはSMなのよ。首絞めプレイや目隠しプレイ、言葉責めなんかも立派なSMのひとつ」
そう言いながら巴は再びサロメに歩み寄り、軽くキスをした。ピクンと反応を示すサロメ。
「ンッ……」
「そしてここが大事な所なんだけど、こちらが加虐者だからと言ってただ一方的に攻撃してはいけないって事……サロメちゃんは、ペットを飼ってた事ある?」
「ええっと、ありますわ。子供の頃、犬を一頭……」
「躾、大変だったでしょ? 関係ないところで粗相をする犬を覚えるまで叱ったり、無暗に吼えないように注意したり……でも、それは犬が嫌いだからした訳じゃない、そうよね?」
囁くように巴は言うと再び仰向けのままの俺に脚を向けた。黒いヒールがこちらの股間に伸びる。
「え……ええ、勿論好きでしたわ!」
「それと同じこと。愛情をもって躾けることで相手がどんな風に責められたいのかが分かってくる。愛情をもって、虐めるの」
「ぐ、くうっ!?」
細い踵が臍下にゆっくりと下ろされる。ぐりぐりと鈍い痛みと圧力が与えられ、俺は呻いた。
「愛情をもって責めれば、例え表面上では拒絶しているように見えたとしても……相手の身体はちゃんと反応してくれる」
ヒールへの力を緩めないまま巴は自身のショーツのファスナーへと手を伸ばした。ジッパーを下ろし切ると、その隙間から覗く鮮やかな朱色がレザーの黒と淫らなコントラストを形作る。本能的に俺の視線はそこに吸い寄せられ、ヒールに踏まれている箇所の直下の肉棒は勃起の兆候を示してしまう。哀しい男の
「なので今日はその初歩の初歩……『焦らし』について教えてあげる。教ちゃん、
「うぐっ、く、はぁっ……!」
どうやら俺は巴の事を過小評価していたようだ。色々と性癖的に噛み合わないからプレイをした事がなく、日頃の雰囲気からおっとりした大人の女性だとは思っていたが──油断していた。彼女はれっきとしたこのバーチャル風俗の名店「電燈二次三次」の一角を担うに足りる嬢なのだ。
ここで拒絶を示しても逃げられまい。観念した俺はヒールの圧力から解放されてようやく息をついた。
「まずは勃って貰わないとね……」
そう言うと巴は棚からローションの容器を取り、俺の股間近くに腰を落とした。彼女の目配せを受けてサロメもそれに続く。
ローション手コキだろうか? それならば普通のプレイと大して変わらないが──
そんな事を俺が思う間にも巴は容器を傾け、半勃起の肉棒にトロリとした液体を降りかけた。香料の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
そこで巴はふとサロメに尋ねた。
「サロメちゃん、そのリボンを貸してもらえるかしら?」
「へ? あ、はい、どうぞ」
彼女の指し示す、縦ロール髪を飾る紫のリボン。それを求められ、サロメはいそいそと解くと巴に手渡した。
「ありがと、それじゃコレを……こう」
「え? あ、ううっ!?」
急に肉棒に強い圧迫感を覚え、俺は思わず声を漏らした。何事かと見てみれば竿の根元をサロメのリボンでキュッと結ばれている。ご丁寧に蝶結びだ。
「お、おい、こりゃ何のつもり……うあっ!?」
俺の問いかけを待たずに今度は滑らかなレザーの感触が肉棒を包む。
「あの、巴様? これですと教育係様の汁が出なくなってしまうのではありませんこと?」
「勿論そうなるわ。でも、遠慮せずに扱いてあげて」
仰向けになった事で垂直に屹立する格好になった肉の柱に二人の美女が顔を寄せ、皮手袋を嵌めたまま竿を握る。
呼吸を合わせて肉棒を扱き始めた巴とサロメの動きに「根元を縛られている現状で怒張するとマズい」と頭では分かっていたが、与えられる快感に否応なく股間に血が集まってしまう。そんな俺の反応に巴は目を細め、開いた手で更に上からローションをドレッシングのように注ぐ。
「ぐうっ、くっ、ああっ……!」
「ほらサロメちゃん、教ちゃん、凄くいい顔してる。どう思う?」
「……苦しそうですわ。おちんちんはバキバキにお勃起されて、気持ちよくなってる筈ですのに……それに我慢されているよう」
「いい観察力ね。さあ、もっと気持ちよくしてあげましょう」
巴の吐息が露出した亀頭に吹きかけられる。根元を縛られた肉棒はリボンが食い込むほどにその太さを増し、その存在を主張する。そんな肉棒をサロメは興味深そうに見つめつつ巴に合わせて扱く。息が合ってきたのか両者の手の動きは速さを増し、ローションが泡立つ程になっていた。
「お、お、おおぉっ!」
堪らず腰の奥からどくんという衝動と共に精液の奔流が溢れ出そうとする。だが──
「……く、ぐうっ!」
その出口はリボンによって締め付けられ塞がれている。行き場の無い精液は通路の途中で滞留に、グルグルと俺の中で暴れる。気持ち良いのに解放されない閉塞感に呻きが漏れる。
「ふふっ……教ちゃん、気付いてる? 今の貴方、泣きそうな顔になってるわよ?」
容赦なく投げかけられる巴の言葉。悔しいが、実際俺は彼女の言う通りの顔をしているのだろう。
俺が一度は達したのを肉棒の反応から察したのか、巴は手を止めると立ち上がった。
「さて……サロメちゃん、ここからが今日の課題よ。この先は貴女だけで責めて、彼に懇願させてみて」
「わ、私がですの!?」
「もうギリギリまで仕上げてあるから、そんなには苦労しないわ。貴女の内側から溢れる素直な気持ちで、教ちゃんを射精させてみなさい」
口調こそ穏やかなままだが、その視線には拒否を認める気配はない。
「……分かりましたわ、私、やってみます」
それはサロメにも伝わったのだろう。ごくりと喉を鳴らし、サロメは頷くと立ち上がった。
「ええっと……では」
仰向けの俺の前でサロメはどう動くか少し考えていたが、やがて大きく脚を広げると俺の腿の上に跨ってきた。形良く白い乳房の先端では桃色の乳首が突起しており、紫のボンテージと合わさって淫猥ながらも美しい色合いを見せている。
とはいえ俺もそんな風情に浸る余裕はない。射精を強く求める股間の訴えに苦悶しつつ、サロメを見上げる。
「……教育係様」
「………」
「すぅ……はぁ……」
サロメは瞳を閉じ、息を吸い、再び目を開けた。俺の肉棒に視線を落とし、静かに言う。
「……幻滅ですわね、教育係様」
「げ……幻滅?」
「この程度の責めでおちんちんを苦しそうに勃起させて、腰を震わせるだけ……噂のヤリチンどころか、とんだクソ雑魚チンポですわ。恥ずかしくありませんの?」
そう言いつつ俺を見下ろすサロメの視線にはそれまでの戸惑いや不安は欠片もなく──ただ格下の存在を嘲る、侮蔑の光が宿っていた。
痺れる頭を懸命に働かせて俺は理解した。今の彼女は腹を括り、「冷徹な悪役令嬢」に徹すると決めたのだ。
「ンッ……ほら、ご覧になって? 私のおまんこ……如何ですか?」
サロメは自身のショーツに手をあて、それを消失させた。紫の薄い陰毛に彩られた、乳首の色に近い桃色の秘唇が露わになる。うっすらと濡れ光るそれをサロメは腰を浮かせ、肉棒に軽く触れさせた。
「うぉ……!」
「フフッ、感想を聞く必要は無いようですわね……『おまんこに挿入したい』って顔に描いてますもの」
ローションと先走りに塗れた亀頭が秘唇に擦れる。それだけで俺の腰は大きく浮き、そこへの挿入を求めてびくびくと肉棒を震わせる。まるで下半身だけが別の生き物になったようだ。
苦悶する俺の反応を楽しむような笑みをサロメは浮かべ、胸板に手を置いた。
「あらあら、我慢もできない、どうしようもないチンポですわねぇ……あんまりにも惨めなので少しだけ、味あわせて差し上げますわ……ンッ、あ、んんっ……!」
「く、う、ぐっ!」
サロメは挑発するように腰をくねらせると自身の孔に亀頭を宛がい、その先端だけを呑み込んだ。
「お、あぁっ……熱、いっ……!」
「んふふっ、だらしないお顔をされてますわぁ」
ここまでで彼女も興奮していたのだろうか。サロメの入り口は熱く潤っていた。亀頭を襞で撫でられるだけでこの奥の気持ち良さが容易に想像できる。
しかしサロメはそれ以上の挿入を許さずに腰を軽く浮かせたまま、きゅっとカリを締め付けた。
「ん、んんっ……」
「ぐっ、く、ううぅっ!」
肉棒の先端だけを熱い膣内で愛撫される。それは予想以上に気持ちよく、同時にもどかしかった。サロメは器用に上下の動きを加える事なく回転と締め付けだけで快感を与えてきており、それでいて一定のラインを超えさせない。
この熱い膣内を奥まで味わいたい。一気に奥まで突き入れ、思いきり肉棒を擦らせて溜まった精液を全て吐き出したい。肉欲に満たされた身体の奥から溢れてくるその衝動は抗い難いほどの強さで俺の理性を蕩けさせてゆく。だがその欲求を俺の上に跨る令嬢は許してくれないのだ。
「……はぁ」
ふと急にサロメが腰の動きを止めた。ため息をつき、つまらなさそうな顔で俺を見下ろす。
「何だか飽きましたわ~……抜きますので、後はご自身で勝手に私の膣内の感触でも想像しながら雑魚チンポを扱いて下さいな」
「なっ……!?」
素っ気なくサロメはそう言うと腰を持ち上げようとした。反射的に焦りの声が出る。
「……『な』って、何ですの?」
そして俺の反応は彼女の計算通りだったのだろう。ぴたりと腰を止め、口元に酷薄な笑みを浮かべる。
「まさか……下賤な庶民の分際で私のおまんこを全て味わいたいとでも言うつもりですの?」
「あ、いや、それは……」
「………」
ぱしん、と肉を叩く音が響いた。じんと胸に痛みが広がる。サロメが平手で俺の胸を打ったのだ。
「あらあら……」
「……まだ勘違いされてますのね。私に命令する権利は、貴方にはありませんのよ?」
俺たちを観戦していた巴の楽し気な声と、サロメの冷たい声。
「ほら、どうしましたの? 目上の者に『お願い』する時に何を言うか、大人なら分かりますわよね?」
刺さるようなサロメの言葉。それに抗う理性と気力は、既に俺には残っていなかった。
「お……」
「お?」
「……お願いします。サロメ……様。このリボンを解いて、貴方の膣内への挿入をお許し、下さいっ……!」
「………」
サロメは俺の言葉を吟味するように沈黙し──身体を傾けると、俺にキスをした。
「あぁ……」
「……よく言えましたわね。それでこそ、私の下僕ですわ」
北風が春風に変わったかのような、温かな微笑み。それと共にサロメはローションに塗れたリボンを解いた。塞がれていた血流が十全に流れ始め、怒張がひと際に大きさと固さを増す。
「よく味わいなさって。これが庶民には味わえない、高貴な膣内です、わっ……んっああぁっ!」
「うぉ、お、あぁっ!」
想像以上の熱さと潤みが肉棒を包み込み、俺は拘束されたまま打ち上げられたマグロのように腰を跳ねさせた。一秒も待っていられない。速く射精したい。その欲求だけが身体を動かしていた。
「んあ、あ、はあっ! おっ、大きさだけは、一丁前、ですわねっ!」
「あ、ぐ、あああっ!」
サロメの苛む言葉も興奮を煽る材料にしかならない。先ほど発射し損ねた分も合わせた強い射精感が早くもこみ上げてきた。
「あは、で、出そうなん、です、わねっ! 良くってよ! お出しなさい、下賤な薄汚い精液を、壊れた、蛇口、みたい、にっ!」
「す、すみませんっ! サロメ、様っ、出ます! 出っ……おああぁぁっ!」
謝罪の言葉と共に精液が溢れ、サロメの中へと吐き出されてゆく。
「……今日はここまでにしましょうか。教ちゃん、サロメちゃん、お疲れ様」
淫らな匂いが満ちる部屋の中、巴の静かな言葉が研修の終わりを告げた。
──その後、サロメは幾度かの研修を経て「二次三次」の悪役令嬢としてデビューした。人気のほどは上々で、ベテランの嬢を追い抜く勢いだ。
そんな予約も殺到している彼女だが、本人の要望もあり巴からのレクチャーは今も続いている。巴は巴で弟子のように自分を慕うサロメの事は気に入っており、指導にも熱が入っているようだ。
「いや、兄さんとしては大変でしたでしょうが正直助かってますよ。ウチはもともとSMが得意な娘は少なかったんで……今も、巴様のレクチャーには参加してるんですか?」
事務所のソファで向き合いあれこれ話をしていた中、ジョーが俺に労いの言葉をかけてくる。
「頼まれれば、ですけどね。ただ……」
「皆様、おはようございまっ……ううっぷ。おはようですわ~!」
答えようとした時にドアが開き、ゲップ混じりの聞き慣れた声が飛び込んできた。入ってたサロメに挨拶を返す。
「おはよう、サロメ。どうしたんだ?」
「おはようございます、教育係様! うぅ、お腹がタプタプ言ってますわ~……」
元気な声を上げながらも重そうにお腹を擦るサロメ。直前に現実の方で食事でもしていたのだろうか。
「大丈夫か? ちょっと休んでも……」
「あ、いえ、違いますの。巴様から『今日は放尿プレイを教えるから、イメージしやすいように現実でちゃんと水分補給してきて』と言われましたので、ログイン前に麦茶2Lを一気飲みしてきただけで……げぷ」
「……放尿プレイ?」
不穏な言葉に背筋に悪寒が走る。そんな俺の悪寒に気付くことなくサロメはこちらにサムズアップして得意げに言った。
「はい! なので本日のプレイでは自分でもびっくりする位のオシッコが出るかと思いますわ! 教育係様、遠慮なくがぶ飲みして下さいませ!」
どうやら俺が「飲む側」なのは確定事項らしい。
「……分かった。そんじゃ
とりあえず今日は付き合うとして、浣腸までエスカレートする前に逃げよう。そう固く誓って俺は答えた。
──巴の事を自然と「様」付けで呼ぶようになっている自分にそれが出来るのか、そんな小さな不安を抱えつつ。