※この作品はR-18です。

特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) 殺人許可書を持つ「特殊な部隊」   作:橋本 直

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人類最強のちっちゃいエースとの遭遇

第1話 史上最悪の落ちこぼれ。その配属辞令

 

 

 

 神前誠(しんぜんまこと)少尉候補生は目の前の配属辞令を手にしてブツブツつぶやいていた。

 

 周りに人がいないのを確認するとそれを読み上げる。

 

「遼州同盟会議・遼州同盟司法・治安局 遼州同盟保安委員会 直属実力行使機動部隊、機動部隊、第一小隊に配属する……ってなんだよ、遼州同盟保安委員会って……司法・治安局って警察じゃん。パイロットいらないと思うんだけど……」

 

 と言って誠は周りを見る。朝の出勤時間と言うこともあり、通り過ぎる人も少なくはない。それでも誠を気にかけることなく、大柄の誠をかわして自動ドアを出たり入ったりしていた。

 誠は再び辞令に目をやった。

 

「それに実力行使機動部隊……。総本部の人事課まで、出てこいって言われて、来たら、こんなの渡して「はい、地下三階の駐車場入り口で女の人が迎えに来るって……あそこは『特殊な部隊』だって言うから、『「特殊部隊」ですか?』って聞いたら『「特殊部隊」じゃなくて、「特殊な部隊」だよ』って……なんで、「な」が入るんだよ……エロゲか?嫌いじゃないけど、僕はパイロットじゃなくてキャラデザインで呼ばれたのか?あのスダレ禿の眼鏡の大尉……木刀があったら、ぼこぼこにしてやる……」

 

 誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州(りょうしゅう)』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。その首都の『東都(とうと)』。その都心にたたずむ赤レンガで知られる建物だった。

 

 目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。9時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。

 

 そんな中神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の荷物を持って立ち尽くしていた。

 

 8月半ば。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットがこの時期に辞令を持っていることは実は奇妙なことだった。

 

 前年の3月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。

 

 本来ならばその時点、6月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら6月の出来事である。

 

 普通ならそこで配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっているものである。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。

 

 しかし、誠だけにはどの部隊からもお呼びがかからなかった。教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、「自宅待機』と言う一言であった。

 

 

 

 

第2話 逃げようがないパイロット失格の烙印

 

 

 

 

 

 誠にもその理由が分からないわけではなかった。誠は操縦が下手である。下手という次元ではない。ド下手。使えない。役立たず。無能。そんな自覚は誠にもある。運動神経、体力。どちらも標準以上。と言うよりも、他のパイロット候補生よりもその二点においては引けを取らないどころか絶対に勝てる自信が誠にもあった。ただ、こと今の主力の戦闘兵器である、『アサルト・モジュール』の操縦となるとその下手さ加減は前代未聞のものだった。

 

 確かに自動車の運転免許を取ったときも、実技で相当苦労して同じ教習を何度も繰り返した前科があるのは確かである。だが、それ以上に誠の操縦はひどいものだった。最低、最悪、教習課程制度始まって以来の最低の落ちこぼれが誠だった。

 

 そんな誠も意地でもパイロットになりたかったわけでもない。教習が始まった三日後には自分の不適格を自覚して、教官に技術士官教育課程への転科届を提出した。しかし、なんの音沙汰もない、途中で紛失されたのかと、次から次と、自分で思いつくかぎりのそういうものを受け付けてくれそうな部署に連絡を入れた。回答は決まって「しばらく待ってください」というものだったが、何一つ回答は無く、パイロット養成課程での訓練の日々が続いた。

 

 そして、そういう書類を提出した日には必ずある男から電話が入った。

 

 嵯峨惟基特務大佐。古くからの母の知り合いと言う事は誠も知っていた。実際、実家の剣道場には時々この男が現れ、母と親しげに談笑し、庭に出てタバコを一服し、そして母に挨拶して帰っていく。そういう光景は何度も見た。見たところ二十代半ば、長身でがっちりとしたどこか抜けた雰囲気のある男。それが嵯峨だった。

 

 この男こそ、誠を東和宇宙軍のパイロット候補の道に進ませた張本人だった。大学四年の夏、持ち前のめぐりあわせの悪さで内定の一つももらえずに四苦八苦していた誠にちょこちょこ寄ってきて耳元で「いい話があるんだけどさあ……聞いてみない?」などと、何を考えているのか分からないにやけた面で話しかけてきたのが嵯峨。その声に耳を貸さなければ、今こうしてすることもなく、地下駐車場で立ち尽くすという状況にはならなかったはずだ。

 

 その日はそのまま嵯峨の手にしていた応募要項を受け取り、それに必要事項を記入してポストに投函した。なぜか、次の日に一次面接があり、建物が公共施設だった以外はこれまで受けた民間企業と変わらない一次面接を済ませて家に帰ると、誠の持っていた携帯端末に一次面接の合格と二次面接が次の日に東和宇宙軍総本部で行われるというメールが来た。

 

 今思えば、明らかにおかしな話だった。場所が東和宇宙軍総本部に変わっただけで、質問内容も説明のセリフも一次面接と何一つ変わらない二次面接を済ませると、前日と同じくそのタイミングでメールが入った。内容は内定決定。あまりの出来事にあれほど待ち望んでいた内定通知をただぼんやりと眺めていた。その時それを辞退する勇気があれば……今でも誠はそのことを後悔している

 

 その後も奇妙なことは何度もあった。内定者に対する最初の説明会で、今の時点での希望進路を記入するアンケート。誠の名前が印字されたマークシート用紙。本来空欄であるそこにはすでに、パイロット志望の欄に印がついていた。消しゴムで消そうとしたが、完全に名前と同時に印刷されているようで全く消えない。諦めて誠はそのまま提出し、そうして誠はパイロット養成課程に進んだ。

 

「誰かが何か企んでるな……ってまあ企んでるだろう。人の覚えは一人しかないけど」

 

 そう独り言を言いながら誠はただ行きかう人々を眺めていた。

 

 

 

 

第3話 敗戦国の英雄の影(赤い幼女)

 

 

 周りを見回していた誠だが、あることに気づいた。ちょうど正面のこの駐車場の一番奥の柱の前に小さな女の子が立っていた。そして、誠がここにきてからこうして周りを見回している間も彼女は誠をじっと見つめていた。

 

「なんで女の子が?」

 

 ここは軍の施設である。関係者以外はそもそも駐車場に入るゲートのところで止められるはずだ。

 

「あれか……ここの職員の子供かなにかか……」

 

 誠はそう考えを切り替えて小さな女の子から目をそらした。

 

 誠は別に好きでここに立っているわけではない。誠は人を待っていた。彼を迎えの車に乗せて、辞令に書いてある配属先の「火盗」とか言う変な略称の部隊に連れて行ってくれる迎えの人物を待っていた。

 

 誠も馬鹿ではないので、その人物が何者なのかは、名乗りもしなかった辞令を渡した禿に聞いて名前と身分、その人物の略歴ぐらいは知っていた。

 

 クバルカ・ラン中佐。女性だという。十年前、ここ島国東和共和国の西に浮かぶ巨大な大陸「リャオ大陸」南部であった遼南内戦。その際に、エースと呼べる人物として二番目に名が上がる人物。その隙間禿メガネが言うにはそういう過去を持つ女性だという事だった。

 

 その後、なぜか内戦終了後成立した遼南社会主義共和国ではなく、ここ東都共和国に移り、陸軍のアサルト・モジュール部隊のアグレッサー部隊のエースとして活躍後した凄腕だという。そして、その禿中年太りのが言うには「変な気を起こして」三年前に発足した司法局実働部隊のパイロットをまとめる仕事についている。誠が彼女について知っていることはそれだけだった。

 

「クバルカ・ラン中佐か……」

 

 誠はせめて写真ぐらい見せてもらっても良かったのではないかと後悔した。

 

 これは誠の得意の妄想力でそのエース女性パイロットを想像して、それらしい人に声を掛けてみるほかはない。そう考え、誠は自分の想像するクバルカ・ラン中佐像を作り上げることにした。

 

「十年前の戦争でエース……ってことは、当時二十歳前後ってことだから、今は三十歳より上のお姉さんってことか……エースって言うぐらいだからがっちりとした大柄の人なんだろうな……」

 

 まあ、ここまでは普通の想像である。だが、誠は人より少し、想像力が豊かだった。

 

「美人だと良いな……養成課程の座学で見た、二十年前の第二次遼州大戦で、遼北人民共和国のエース、通称「魔女機甲隊」の指揮官で知られる女性エースの周麗華大尉の写真もすごい美人だっからな……もしかして……巨乳だったりする?」

 

 自分の妄想に取りつかれだらしない顔でニヤニヤしながら誠はぼんやりと低い天井を眺めていた。

 

「おい、出来損ない!」

 

 誠の視線の下でガラの悪そうな女の子の声がした。誠は我に返って視線を下におろす。

 

 少女が立っている。先程から誠を見つめていた、小さな少女。誠と目が合うと誠を挑発するように自信に満ちた笑みを浮かべている。

 

 先ほどは遠くてよく見えなかったが、彼女の着ている服は東和警察の夏服である。

 

「あのー君」

 

 誠はいいお兄さんを演じるべく、腰をかがめて目の前の小さな女の子の視線の高さに合わせた。

 

「どこから来たのか知らないけど、ここは関係者以外は入っちゃいけないんだよーわかるかな?」

 

 そう言いながら、誠は目の前の女の子を観察した。年のころは8歳ぐらい。黒い髪で後ろ髪をおさげにしている。顔は整っていて、「美少女」と言えなくもないが、その目はランランと鋭い眼光を放ち、にらみつけるようなその視線は彼女のガラの悪さを表しているように感じられた。

 

「使えない奴は考えることもおめでてーんだな。アタシがここにいるのは関係者だからに決まってんだろ?馬鹿じゃねーか?こういうところに出入りする人間じゃなきゃ、こんなもの持ってねーだろうが!」

 

 少女は完全にあきれ果てて軽蔑しているような口調でそう言った。さすがに日頃は穏やかな誠も、ここまで罵られれば、しつけのために怒鳴りつけたくもなる。ただ、彼女がそう言って自分の右腰を叩くのが気になってそちらに目をやった。

 

 革製のポーチが腰のベルトにぶら下がっている。誠も軍の関係者である。そのポーチの中に何が入っているかの察しぐらいはつく。

 

「拳銃……」

 

 誠は絶句した。軍の関係者は日常勤務では拳銃は携帯しない。このビルで銃を携行しているのはこの駐車場のゲートの警備員と、この建物の入り口に立っている警備員達ぐらいである。

 

「なんだよ、銃ぐらいでビビッてんのか?うちじゃあこんなもん年中見ることになるぜ……まあ、年中持ち歩いてるのはあの馬鹿ぐらいだがな」

 

 青ざめつつある誠を見下すような口調でランはそう言った。

 

「本当にそうですか……本当に英雄なんですか……」

 

誠は驚いていた。少し目つきが悪い少女がかつての内戦を勝敗を左右したほどのアサルト・モジュールパイロットには見えなかった。

 

「クバルカ・ラン中佐ってのはアタシだ!とりあえず車の中で話をしよーや。色々聞きてーことも、あるからなアタシを納得させてみろ!まー面接みてーなもんだ」

 

 そう言って手を伸ばしてくる。小さな手に誠は右手を伸ばし握手した。

 

『このちんちくりんが……エース』

 

 頬を引きつらせながら握手をする誠はそう言って放心状態になった。

 

 

 

 

第4話 味噌とたらの白子と冷奴と酒

 

 

 

 握手が終わり、呆然とした表情で目の前のちっちゃな女の子を見下ろした。

 

 どう見ても育ちの悪い雌ガキにしか見えない。

 

「理解できないのはわからねーわけでもない。テメーみたいな落ちこぼれ、どうしてオメーみたいな落ちこぼれを必要とする部隊があったかってことだろ?」

 

 腕組みをしてただ立ち尽くす誠をにらみつけながらランは言う。

 

「あのー『特殊な部隊』って、幼女趣味の変態が喜ぶんですか?その人達。僕、そう言う趣味は無いんで」

 

 『特殊な部隊』と言われて、そう言う意味で性癖が『特殊』なのかと思い口に出してみた。

 

「うーん。ショタなら運航部の部長がそうだぞ。幼女趣味は………」

 

 ランは急にとんでもないことを言いながら天井を見回す。誠は呆然と立ちつくす。

 

 ゆったりとした時が流れる。ホトトギスのSEが流れるくらいのおまぬけな空間。

 

 ランは気が付いたように誠を見つめ。大きくため息をついた。

 

「そこはツッコミだろ?笑いの分からねー奴だな……。脳みそ、八丁味噌でも入ってんじゃねーか。無能な上に空気を読めなきゃ、組織じゃ出世できねーぞ。まーおつむに醗酵する別の味噌でも入ってんなら、開けて食えるからいーけどよ。世の中、組織って奴は厳しーんだよ」

 

 誠の前で呆れたというポーズをとる。

 

「クバルカ中佐ですよね、貴女は」

 

もう一度繰り返すように誠は言った。

 

 ランは呆れたように真面目な顔をして誠を見上げる。

 

「アタシはクバルカ・ラン中佐。あの長い長い遼南内戦でアタシの国が負けたのは、アタシが落ちたからだ。だけどよー、そんな過去いーどーでもいーじゃねーか。過去なんか気にすんな。目の前のリアルを信じろ。アタシはクバルカ・ラン中佐だ。そして、こーしてオメーを迎えに来た。それだけは事実なんだ」

 

「リアル……事実……」

 

 誠はランの言葉を繰り返しながら立ち尽くす。

 

「目の前のリアル、現実を信じろってことだ」

 

「で、無能なただでかいだけの落ちこぼれ。オメーここでさっきから何してる?おちょくられて気分が悪りーか?だったらちゃんとつっこめ」

 

 馬鹿にするのは飽きた。そんな感じで笑顔に切り替えた少女がそう言った。

 

「でも、その『特殊な部隊』にそんな英雄がいるんですか……」

 

 とりあえず、目の前の少女が只者でないことだけは分かったので、誠は丁寧にそう言った。

 

 そして、誠に背を向けてランは歩き出す。

 

「ついてこい、車に乗せてやんよ。麦味噌が詰まってるおめーにゃ、不向きな後部座席に乗せてやんよ。ああ、味噌だから、トランクが向いてるか。ポリ公に見つかっても、味噌でごまかせるからな。そーしてやんよ。それがいーや」

 

 ほとんど味噌扱いされながらもランを見失わないように誠は走り出した。

 

 ランは超高級のドイツ製の車の運転席のドアに手を掛ける。

 

「僕は……」

 

 ランの言葉を真に受けて、誠は後部のトランクの前で立っている。

 

「味噌は味噌でも高級味噌みたいだな。あの駄目人間……が、必要なんだと。あの脳ピンク、味噌汁でも作るんじゃねーか?高級品だから後部座席だ。乗れよ」

 

 まるでやくざの親分が乗るような高級外車である。左側の後部座席のドアが自然と開いた。

 

 誠が乗り込んだところで自然にドアが閉まる。

 

「ドイツ製高級外車だ珍しくもなんともねーよ。あと一つ言っておく。人の過去は詮索するもんじゃねー。テメーの過去を詮索する権利なんざ誰にもねーよ。それがわかりゃー……味噌頭であるオメーの味噌が変わるんだ……」

 

 ランはそう言いながら、左のコンソールに移る後部の風景を確認する。

 

 誠はその見事な運転に感心していた。そしてちょっとどういう反応をするのか聞いてみたいことがあった。

 

「味噌じゃなくて、何になるんですか?」

 

 ちょっと聞いてみた。ランは見事な運転を見せながら、地下駐車場の出口に車を進める。

 

「タラの白子にポン酢かけた奴か……アタシは好きだぜ。あれを肴に熱燗なんて、最高じゃねーか、それと、夏なら良い豆腐で奴か。あれで冷やしたの。これは日本酒だけじゃねーな。焼酎。それもイモだな。芋焼酎。あれがいい。という訳でオメーの頭の中は豆腐に決まった……」

 

 ランの車はゲートに向かう。見事な運転で車は大通りに出た。誠はこんなお子様が食通気取っている事実に呆然とした。

 

「今は酒のアテの話をしてんだ。詮索屋は嫌われると相場が決まってる。言いたくねー人間にはそいつが心を開くまでだまって、空気読んでそいつの話をきいてやれ。そんだけだ」

 

 ランの黒い高級外車はそのまま信号の右折車線で止まる。

 

「詮索屋……」

 

 誠は黙って高級外車の後部座席でじっとしていた。

次回メインヒロインにして欲しいキャラ

  • 西園寺かなめ 
  • カウラ・ベルガー
  • アメリア・クラウゼ
  • ローラ
  • 神前ひよこ
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