特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) 殺人許可書を持つ「特殊な部隊」 作:橋本 直
第25話 通行人A(ガソリン自動車を整備中)との会話
廊下に出た誠。人影は全く無い。完全な無人。
「どこだ?入口があっち」
そこまで言って軽く周りを見回す。右に顔を向けると、この建物に入ってきた時に使った自動ドアが見えた。
「つまり、逆に行けばいいんだな」
独り言を言いながら、誠は入口の反対側に進んだ。
突然行き止まりになったが、そこには物々しいドアがあった。
「なんか、秘密基地っぽいな。こういう時は右側に……」
そう言いながら誠は扉の右側に大きな緑色のボタンを発見した。その下には赤いボタンがある。緑のボタンが出っ張り、赤いボタンはへこんでいる。
「こういう時は出っ張ってる方を!」
誠は勢いよく緑色のボタンを叩いた。緑のボタンがへこみ、赤いボタンが出っ張る。
それを合図にゆっくりとその鉄の扉が開き始めた。
「こういう時はドライアイスで煙が出ると雰囲気出るんだけどな」
ここがすでに『娯楽の殿堂』であることを確信した誠は、そう言う風に変な思考をすることでなんとか自分のどうかしている運命に立ち向かうことに決めていた。
扉が開いた向こうから音楽が聞こえてきた。不良が好きそうなロックンロールである。うんこ座りのヤンキーがタバコを吸いながら車座になって、隣のスピーカーから流れているあれである。
「まさに不良のたまり場」
誠は少しビビりながら不良のたまり場に足を踏み入れた。
すぐにガソリンエンジン向けのエンジンオイルの匂いが鼻を突いた。そして、ガソリンをはじめとする揮発油の匂いが混じった刺激臭が鼻を突く。
『匂いが……』
理系大学なので自動車部があり、大学に入った時に新入生歓迎レースでその匂いを嗅いだが、これほどその匂いが染みついている場所に行ったことが無い。
三十メートルぐらいの奥行き、幅は相当あるとしか誠にはわからない。車、いわゆる『旧車』が並んでいる。
「すいませーん」
人影がまるでないので、誠は叫んでみた。
誰も来ない。相変わらずロックンロールが流れている。
「誰かいますかー」
今度は少し大声で叫んでみた。
「うるせーな、いい曲聞いてんだよ。雑音混ぜんな……」
ジャッキアップした白と黒のツートンカラーのガソリンエンジンの旧車の下から声が聞こえた。
「あのー班長さんですか?」
車の下から出てきた185㎝の誠よりさらに大きな恰幅の良い男がはい出してきた。水色のつなぎは整備班の指定のものだろう。右胸に『火盗』の刺繍がある。
空調が無いのでむっとした空気の中、顔中油だらけの男は立ち上がった。
「ちげーよ。班長は駐車場。また、バイクでもいじってんだろ」
そう言うと大男は再び車の下に潜ろうとする。
「ったく、邪魔しやがっって。班長が『こいつはこれまでの青瓢箪と違って、見どころがある』って言ってたけど、身長だけじゃねーか。他よりましなところ」
そうぶつぶつ言いながら男は車の下に潜ろうとする。
「あのー駐車場は……」
仰向けになって車の下に入ろうとする大男に声を掛ける。
「あっち」
右手の方を指さすと男はそのまま車の下に潜りこむ。
「こういう時、何を言っても無駄ですよね……」
誠は遠慮がちにそう言った。
「わかってんなら行けよ!ガソリン車の旧車のバイクの前で座って、タバコ吸ってる上半身裸の兄ちゃん。そんな馬鹿他にいねーから。格納庫の入り口からすぐわかる!さっさと行け!俺は忙しいの!」
顔だけ出したオイルだらけの男はそう吐き捨てるように言うと、誠を無視して車の下に潜ってしまった。
「なんだかなあ……」
とりあえず上半身裸の馬鹿そうな男を見つけたら声を掛けようと決めて、誠は歩き出した。
第26話 気の弱い好青年がヤンキーに気に入られるとこうなる
誠は高さ二十メートルを超える大きな扉の隙間から外を眺めた。
そこにはこれまでの話を総合した結果、あるべき駐車場がそこにあった。
車の数はまばらで、その中央に明らかに場違いなランの黒い最新型の高級自動車があった。多くはスポーツカー、そして規格上税金が安くなる『軽自動車』の可愛らしい車が並んでいる。
誠は車の見本市と化している駐車場に足を踏み入れた。
「スポーツカーは技術部の人達のかな?技術系の人は男が多いからこう言うスポーツカーに金を惜しまない人多そうだな。運航部の女子は基本的に軽かな。ポップな色は女の子っぽいもんな。どう見ても型落ちの軽。これも技術部の男衆だな。金が無くて廃車置き場にある鉄くずを再生した……そう言う先輩いたな……」
そんな独り言を口にしながら、誠は学生時代を思い出していた。
「上半身裸の馬鹿そうな兄ちゃん……」
車が無くなって、ラインが適当に引いてあるだけの地面の向こうに、誠は人影を探した。
すぐにそれは見つかった。駐車場の隅に見える掘っ立て小屋の前にその奇妙な生き物は背中を向けて座っていた。
「あそこか……それにしても……敷地内に森?」
何故かその危険生物の向こうには森があった。東和陸軍の敷地の中には、こうした森があることがあるので、誠はどうせ神社でもあるのだろうと割り切って、深く考えないことにした。
近づくとその日焼けした背中を見せる、力ですべてをねじ伏せてきた男の向こうにバイクが停まっていることと、その隣の青い箱がクーラーボックスらしいことがわかった。誠は汗をぬぐいながらそのチンピラの方に向かった。
空は先程の曇り空から、カンカン照りの快晴にかわっていた。日差しが容赦なく誠に照り付ける。東和共和国宇宙軍の夏服がいかに東和の夏に向かないものか、誠は身をもって体験していた。
急に後ろに気配を感じて誠が振り返るとそこには軽自動車が一直線に誠に向かっているのが見えた。型落ちのボロボロの軽自動車。明らかに技術部の所属であることは誠には一目で分かった。
おんぼろ車はそのまま誠を避けて一直線に、いわゆる『班長』のところに向かった。
「遅れました!」
もうすでに大声なら聞こえるところまで、誠は『技術部部長代理』の兄ちゃんとの距離を詰めていた。声の主の運転席から降りてきたのは小柄なつなぎを着た整備員だった。その色から先程のつっけんどんな態度に終始した大柄の技術部員と同じ所属であることは誠にもわかる。
急いで後部のハッチを開ける技術部の水色のつなぎを着た若者。彼が取り出したのは、クーラーボックスだった。彼は整備班長と思われる半裸の男の脇に置かれたクーラーボックスと持ってきたクーラーボックスを取り換える。その作業の間に誠と目が合った。
若者は持っていたクーラーボックスをアスファルトの地面に置くと誠に向けて敬礼した。
「そいつは新米。お前は先輩だ。気をつかうことはねえんだ。甲武ではそうかもしんねえが、俺の兵隊は俺流で育てる……敬礼なんぞ止めて、そこにある空き缶の箱。とっとと積んで帰れや。オメエの仕事はそこまでだ。とっととやれ」
その言葉を受けても、二十歳に届くかどうかの若い整備員は誠と整備班長の間で困っていた。
「さっさとかたずけろ!」
整備班長の怒鳴り声でその若い整備員は弾かれるように段ボール箱に飛びつき、それを軽自動車の後ろに押し込んでそのまま車を走らせて消えていった。
「あのー」
誠は先程の指示があまりに乱暴なので注意しようとした。
誠が半裸の男の真後ろに立った時、その男はクーラーボックスを開けた。
「ビール飲むだろ。冷えてるの持ってこさせた」
それだけ言うと男はクーラーボックスを開けた。先程の空き缶の数からして、相当飲んでいるはずだった。
男の前にはバイクがあった。実に見事なバイク。エンジン回りはは磨き上げられて光を放っていた。
「バイク……好きなんですね」
半裸の男の隣に立って、誠はそう言った。
誠に男はビールを手渡した。
「勤務中ですよ」
拒む誠を見て男はニヤリと笑う。笑顔の似合う二枚目。醤油顔の典型的な顔。見える上半身は鍛え上げられていて、筋肉質だった。
『この人童貞なんだ』
間違いなく口にしたら殺されるような言葉が、誠の頭にひらめいた。ある種、同病相憐れむの感情から、差し出すビールを手に取る誠。
「島田……島田正人」
ビールのプルタブを開けながら男はそう名乗った。
「僕は……」
誠が話し出そうとすると、島田は一気にビールを口から流し込んだ。
「知ってるよ。部長権限があるからな。そんぐらいわかる。下手なんだって操縦」
そう言いながら、島田は隣に立っている誠を見上げてニヤリと笑う。
「めんどくさいねえ、障害物にどっかーんなんてされた日にゃ、うちの兵隊いくらあっても足りねえや。動けなくなって回収もうちがやるんだ。シミュレーターと、あの偉大なるちびっ子の指導で多少ましになってくれ」
それだけ言うと島田はビールの残りを飲み干す。
誠もやけになってビールを飲んだ。のどが渇いていたのでそれなりにおいしい。そしてビールをくれた島田を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
「これまでの連中とは違うな。バイクを褒められて悪い気はしねえよ。気に入ったよ俺は」
そう言って笑う島田の手にあるアルミの缶が握りつぶされる。誠はまた変なのに気に入られた事実を悟って、現実から逃避するために残りのビールを飲み干した。
第27話 『アパム1号』爆誕
島田は空き缶を握りつぶすと、クーラーボックスから缶を取り出した。
「今度は缶チューハイ。レモン系が良いね。これをビールとちゃんぽんで飲む。ああ、いいねえ」
そう言いながら島田は笑顔で缶を開けて、笑顔で誠を眺める。
「一応、勤務中ですよね」
そう言いながら、缶に残ったビールを飲む。
「新米のお前が気にすることじゃねえな、それは。何かあったら先輩の俺に勧められたと言えば司法局の連中は、まただと言ってみて見ぬふり。そんなもんだって」
そう言いながら島田はチューハイを飲む。誠の喉はまだ乾いていた。
「まだ飲み足りないみたいだな。でっかいから飲むだろ?お前が来ると思って用意しておいた。受け取んな」
そう言って島田はクーラーボックスから瓶にはいった酒を取り出す。そして、そのままその瓶を誠に投げた。受け取った誠はじっとその白っぽい液体を眺めた。
「なんですか?酒ですよね」
誠はとりあえずラベルに書いてあるアルファベットが何語か考えながら見つめていた。
「お前さんの上司の西園寺かなめ大尉殿が大好きなラムのカクテル。モヒート。それをあのメカ姉ちゃんに見せると、ラムのうんちくがうるせえから俺がそいつを飲ませたなんて言うなよ。うるせえんだ、あのメカ姉ちゃん。自分の好きなものは徹底的にこだわるからな。お姫様に付き合うのも大変だわ。庶民の俺には聞く耳がねえから関係ねえけど」
誠は瓶を開けて匂いを嗅ぐ。アルコールの匂いに柑橘類の香りが混じっている。
「飲めよ。うまいから」
島田の言葉に勧められて、誠は一口飲んでみた。柑橘類の味のさわやかさと強いアルコールが誠の口の中に広がった。
「アルコール度高いでしょ」
困った顔を作ってチューハイを飲む島田に顔を向ける。
「高いんじゃない?飲んだことねえからわかんねえや」
島田は無責任にそう言うと、地面に飲みかけのチューハイを置いた。
「おい、バイクは好きか……」
そう言って島田は自分のピカピカのバイクを見せた。
「嫌いじゃないですよ。メカニカルなものが好きなんで」
とりあえず話題を合わせようと誠はそう言った。事実ではあるので、そのことばに疚しさは感じなかった。
「そうか!好きか!やっぱ良いわ、お前。ますます気に入った。パイロットでメカを理解しようとしているのは、あのちっちゃな姐御だけだからな。好きか……好きなんだな」
そう言って島田は満足げにうなづき、自分のアイシャのバイクのシートをなでる。
「大学もそれで選んだんで」
確かにそれも事実だった。何かわからないが、何かを作りたい。その為に必要な機械、化学のことを学べる学科に入りたい。その為に理科大にその学科があるので、それなりに勉強して合格した。それもまた事実だった。
「そうか、理科大は色々学科がそろってるからな。俺の出た電大は電気系の学科は色々あるが、機械となると……少ないんだ学科が」
瓶の『モヒート』の味は癖になるものだった。誠はそれを味わいながら、上機嫌の島田を観察していた。
「今、少し俺のこと馬鹿にしてる?俺の方が偏差値高いとか思ってる?」
島田はチューハイの缶を握るとそう言いながら誠をにらみつけた。
「違います!そんな目してないです!」
瓶のモヒートを飲み終わった誠は、そう言いながら空いた感を地面に置いた。
「じゃあ……」
そう言いながら、島田はつなぎの後ろのポケットから小銭入れを取り出した。
「なんです?」
島田は立ち上がって小銭入れを脇に挟んだ。そのままバイクに近づいていく。
「何か言いたいことがあるんじゃないですか?」
「ちょっと待ってろ、タバコだ」
そう言って島田はバイクの前輪の前に置いてあった缶を手に取る。
「タバコじゃないんですか?」
その缶を眺めて手に取って見回している島田に誠は声を掛ける。
「缶ピー。缶に入っってる。ほら」
そう言って島田は白いものを取り出した。タバコが身近なものではない誠にもその白く細長い物体はタバコにしか見えなかった。
島田はそれを口にくわえると、別のポケットから取り出したジッポーでタバコに火をつけた。そして、脇に挟んでいた小銭入れの中を見ながら誠に近づいてくる。
ニコニコ笑いながら近づいてくる島田を見て、誠は直感で悪いことが起きるようなそんな雰囲気を感じた。
「ここに五円玉あるじゃん」
そう言って島田は誠に見えるように小銭入れの中から五円玉を取り出して誠の前に取り出す。
「ええ、確かに五円玉ですね」
自然と誠は手を伸ばす。島田は当然のようにそれを誠の手の中央に置いた。
「五円やる。それでスパゲティーナポリタンを作れ。時間は五秒やる。それで作って俺に食わせろ」
突然、島田は理解不能な鳴き声をあげた。誠は理解できずにただこういうしかなかった。
「そんなの無理ですよー!」
明らかに困り果てている誠に島田はタバコの煙を吹きかけた。
「やってもみねえのに、あきらめるな!やりゃあできるんだよ!なんでも……じゃあ数えるぞ。五秒で作れ。1,2、3……」
島田は右手を出して指を折って数えていく。
「できないですよ!そんなこと!できないと何をするんですか!」
誠は半泣きで叫ぶ。島田はその表情に満足したように話を続けた。
「んなもん、決まってるだろ?俺がタバコを吸っててこう言ったら……そして、その願いがかなえられない時は当然……根性焼き」
そう言って島田は咥えていたタバコを手に取る。
「根性焼き……聞いたことはありますが……何をどおするか……」
誠はどうせ島田のことだから、ろくでもないことをするとは想像しているが、確認のためにそう尋ねた。
「さっきの五円玉を渡したのと同じ要領でこのタバコを手のひらに押し付ける。それが根性焼き」
島田はそう言うと悪党の笑顔を浮かべながら誠を見つめた。
「それは単なるいじめですよ!この職場にハラスメントがあるって聞いてましたけど、アンタがほとんどやったんじゃないですか!」
もう目の前の不良そのものの島田にはこうしてジェスチャーで伝えなければ理解できない。その思いから誠は大げさに両腕を振り回しながら叫んだ。
「嘘だよー。ビビった?そんなのできるわけないじゃん。おめえ、偏差値高いわりに馬鹿だな」
そう言ってニヤリと笑うと、島田は誠に背を向けた。
「島田先輩!酷いですよ!これじゃあいじめです!いたずらにしても度が過ぎます!」
誠は本気で怒りながら、歩いてバイクに向かう島田の背中に向けて抗議した。
「なあに、お前を気に入ったのは本当。これはちょっとしたいたずら。俺はどうにも度が過ぎるってちっちゃい姐御からいわれるよ。まあそうなんだろうな」
そう言うと島田はバイクの前にしゃがみこんだ。
「まあ、そうだな。お前はこれからパシリになる。俺の」
島田はバイクのエンジンをなでながらそう言った。
「パシリ?」
この永遠の不良少年の言う事がまた理解できず、誠は島田の言葉を繰り返す。
「お使い係のこと。俺らヤンキーの間じゃ『パシリ』って言う。まあ、軍の隠語じゃ、『アパム』とか言うのもいるみたいだな。要するに、買い物とかの時の荷物係とかやるわけ、お前が。そうだ、これからはお前を『アパム1号』と呼ぶことに決めた。俺が『アパム1号』と呼んだらすぐ来いよ、必ず来いよ」
島田のとんでもない提案に誠は絶句した。島田は立ち上がって誠に向き直る。そして、咥えていたタバコを右手でつまんでニヤリと笑う。
「嫌なんですけど……荷物持ちなんて……『アパム1号』なんて嫌です。拒否します」
誠は本当にそんなことをされるのは嫌なので素直にそう言った。
「なあに、先輩として道を学習する機会を与えてやろうってんだよ。少しは感謝しな『アパム1号』君」
それだけ言うと、近くに置いてあった缶コーヒーの缶にタバコを突っ込んだ。
要するに迷惑なヤンキーの用事をこれから押し付けられる生活が始まる。それだけは確実だった。
次回メインヒロインにして欲しいキャラ
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西園寺かなめ
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カウラ・ベルガー
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アメリア・クラウゼ
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ローラ
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神前ひよこ