御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
俺の名は、御手洗ジャンク。ハートフル小説を書くのを夢見るネット小説家だ。勢いで付けたHNが、後から入ってきたネット小説家の方が有名になったせいで検索妨害だの面白くない方の御手洗ジャンクとか言われたりしている。だが、俺は名前を変更する気がない。意地だ。
現在、俺は高校生から自主的に春休みを継続している。ぶっちゃけ親が金持ちだから働く必要ないんだなぁ。
さて、衣服住に困らない俺にも悩みはある。それは、ハートフル小説を書けない事だ。俺はボーイミーツガールが書きたい。なのに、毎回失敗する。どういう訳かいつの間にかヒロインか主人公か死んでしまう。
小学生時代、孤独だった俺を巣食ってくれたのは漫画やアニメだった。憧れて書き始めたのは中学生時代。今ではすっかり慣れて色んなものに着手するようになったが、共通して荒んだ内容しか描けない事だ。今でも児童向けアニメをたまに見るぐらいハートフルアニメが好きなのに、持ち前の作風がこんなに荒む事ってある?
俺はパソコンに最終回を打ち込んだ。ふう、この瞬間は何にも代えがたいな!
さて、今作は学園ラブコメものだった。1話目で主人公とヒロイン予定だった登場人物がダンプカーに轢かれたため復活するように頑張っていたら、彼らを復活させるために動いていたシャーマン的な人物の2人が結ばれて終わってしまったぞ。
新しい最新作はすでに決まっている。
人間らしい感情がなかったヴァンパイアハンターが、より人間臭いヴァンパイアと恋に落ちるがその立ち位置上殺しあう事になってしまい、転生した先で再び出会い今度こそ恋に落ちるという物語だ。ああ、早く書きたい。
カタカタカタカタカタ…。
1話目の冒頭。ヴァンパイアハンターは恋人がヴァンパイアだと気付いて殺しにかかる。ヴァンパイアは抵抗しながらも、敢え無く心臓に杭を打たれてしまう。
『私がヴァンパイアでさえなければ…。お前がヴァンパイアハンターでさえなければ…。出会う形が違っていたなら…。私達は結ばれただろうか』
『もしもの話はない。お前は滅ぼされるべき存在で、私はお前を滅ぼすべき存在だった。それだけの事』
かくいうヴァンパイアハンターも死んでしまう。杭を打ち込むその時、必死の抵抗を試みたヴァンパイアによって腹を突き刺されてしまったのだ。そしてお互いに死んでしまう。そして転生させて…。
そうだな。主人公はむっつりスケベにしよう。来世はこの時代のヴァンパイアハンターをベースにちょっとスケベにして、そうだな…ヴァンパイアは幼馴染にしよう。ヴァンパイアは16歳の誕生日、かつての記憶を取り戻す。そして変わらない愛を主人公に示す。
だが、それは主人公には幼馴染が拗らせた中二病にしか見えず2人はすれ違う…。よしよし。そうだなぁ、クラスメイトの複数人が悪魔だったとか妖怪だったとか面白いかもしれない。最初に2人を襲うのは誰にしようかな…。そうだな、主人公の親友あたりにしよう。テンション上がって来たぞぉ!
月を見て暴走する親友。ヴァンパイアハンターとしての記憶を取り戻し、命からがらも親友に手斧を振り下ろす!ザクッザクッ!切れる肉、砕ける骨!血、血、血!駄目だな。狼男になった親友はこれぐらいじゃ死なない。抵抗して主人公を引き裂かんとする。うんうん。
ここで幼馴染を差し向けよう。金属バットで狼男の後頭部を何度も殴打。よし、死んだ。続きはどんな風にしようかなぁ。
テンション上がって書き続けて5話目。クラスメイトの中から6人が悪魔として主人公を襲った。悪魔に魂を売った親戚が1人。先生が1人。何か色々とかなり減ってしまったけど…まあ大丈夫。まだまだ熱い恋愛パートに入れる。このぐらいの展開、バトルものではよくあるしな!
しかし、どんなにヴァンパイアハンターとしての記憶を持っても主人公は元の人格もあって悪魔と化したとはいえ人間を殺めてしまう事に葛藤をしている。ここをヒロインが支えて…。あれ、おかしい。駄目だ。記憶を持って人格と上手く馴染んでるヒロインの方は特に罪意識がないぞ?まあいいか。
物語のバランスを取るためと、主人公への心の治療が上手くいかなかったのでクラスメイトから聖女キャラクターを出したらそっちがヒロインっぽくなってしまった。いかん。どこかで始末しないといけないな。嫉妬に狂ったヒロインに殺されるなんてどうだろう。いや、さすがにまずいな。
ヒロインは元の記憶のみならずヴァンパイアとしての力も使えるようになった。これで、悪魔や妖怪たちに話を持ち掛けて人間を襲わないように働きかけ、このあたりのボスみたいな立ち位置になった!これで安心して主人公とラブコメできるぞ!
そうだな。遊園地イベントで手を握ったり、パンチライベントを作ったりしよう。ふひひ。
えっと、まず遊園地に連れて行って…。
いかん、聖女キャラが悪魔に殺されてしまった。まあ…いつか死ぬ予定だったしいいか。そう思っていると、ヒロインが悪魔と手を組んでいることが分かって主人公が怒ってしまった。えーっ、怒るなよ…。そこは主人公のためにヒロインが必死にあれこれしてくれたのに。いや、その悪魔が聖女を襲ったのは飽くまで独断なんであって…。やべえ、どう誤解を解こう。
困った。ここは冷却期間を置こう。主人公には1人でブルータイムを用意しておいて、ヒロインはその間に悪魔との協力関係を強めてもらおう。そしてよりこの町の治安は良くなるはず。よおし、主人公の気持ちの整理ができたらとあるイベントで2人は熱愛に落ちて…。
もう我慢できない!この小説は18禁にしよう!唸るリビドーをぶつけるのだ!!俺の性癖をぶつけるのだー!!
…ヒロインが死んだ。なんで?
ヒロインはどうしたら振り向いてくれるのかと船の上で主人公に半ば半狂乱で告白した。それでも聖女への愛を忘れられない主人公は振った。なんでだよ。目の前が真っ白になったヒロインは全てがどうでもよくなり海に身を投げてしまう。
ヴァンパイアである彼女は海の流れに耐え切れず絶命。主人公も自身が死ねば聖女に会えるのではないかと思って首をナイフで掻いて海に落ちた。どうしてこうなった。
「どうしてだよおおおおおおおおお!!!!」
最終回を書き上げて俺は机を殴った。あ、手がものすっごく痛い。
恋愛どこ行った…ピンク色エロエロなシーンはどこ行った…。何だよこれ。俺が書きたいのはこういうのじゃないんだ。もっとこう…心温まるシナリオをだな。どこで間違えたんだ?一体どこでどうしたら俺はちゃんとこれをハッピーエンドにしてやれたんだ!
…ピンポーン。
ドアベルが鳴った。誰だろう。俺は玄関を開けた。そこには幼馴染の片桐京間がいた。
「よお!相変わらずニートしてるか?遊ぼ!」
「俺はインテリジェンスな遊びに興じておるのだ。疾く帰れ」
「やだ!」
片桐は俺に抱き着いてきて離れない。昔から人見知りが激しいこいつは何故か俺にだけ懐いている。可愛い事には可愛いんだが、俺は異性愛者だ。少なくとも俺はそうだと思っている。
頑張って引きはがそうとしたが、俺の体力低下も相まってこいつを引きはがす事はできなかった。仕方がない。家の中に入れよう。俺は自分の部屋に片桐を運ぶと、ベッドに寝かせて俺は次作の小説について考えを巡らすのだった。