御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
この間、灼けたアスファルトの上をのたうち回る大根ミミズの夢を見たぜ!
他に言う事ないぜ!!
タナトスラスターの搭乗者も2人になっていた。前席に4号、後部席には博士が。操縦者が戦闘慣れしていないと踏んでいた3号と主人公だったが、その操縦技術は想像以上のものでかなり痛い初手をもらってしまった。
『ハハハハハ、いつも研究室に篭ってておると思って油断したなイロスゲインのパイロットよ』
『圧勝しちまうんじゃねえかって不安になってた所よ』
主人公は言い返す。とはいえ、ほぼ防戦一方だった。反撃の隙のない猛攻に為すすべもなく徐々に追い詰められていく。ガードを固めていたが、重い右フックを受けてボディががら空きになる。そこを叩きこまれて大きく後ろにのけ反って倒れた。
何とか起き上がるイロスゲインを見下ろし、博士はため息をついた。
『まさか、これまで我らを小手ずらせておった連中がこうも脆弱だとは。出来損ないなぞこさえてないでとっとと儂自らが出撃すれば良かったわい』
『出来損ないだと…?』
『そうとも。アルカッドのブレインそのものである儂が出撃せねばならんようなったのだ。役目も果たせない個体ばかりか裏切る個体までおって、これが終わったらまとめて処分してくれる。この出来損ないどもめ』
タナトスラスターが赤く光る。タナトスラスターの第2形態だ。本気で殺しにかかってくる。放たれる赤い光の職種を切り払い、真っ向からの攻撃をいなし、ビームを回避する。主人公も雄たけびを上げた。イロスゲインの出力が上がり、3号に快楽が雪崩れ込む。
3号が死ねば一気に戦況は悪くなる。それをわかっているからあまり無茶をできない。主人公は苦虫を噛んだような表情で一度下がった。
『主人公…、イロスゲインの真の力を引き出そう』
『どうすればできる!?』
『イロスゲインの真に搭乗者に求めるのは生きる喜び、生への渇望だ。それが性的快楽として僕らに要求されているが、本来のその心を満たせばその力を引き出せる』
『そんな事なのか!?し、しかしそれならとっくに真の力を引き出してても…』
3号は首を横に振った。
『俺らがここにいるのはタナトスラスターと、搭乗者を倒すため。殺意と敵意に満たされている。その力で答えるのはあっちの機体だ。この機体の要求に応えられないから、いつまでも覚醒できない』
何度も何度も叩きつけられながら、そのことについて意識する。それでもイロスゲインは反応しなかった。死ぬ気で戦っているから。最悪、相打ちになっていいと心底では思っているから。イロスゲインの力を引き出すには及ばない。
タナトスラスターに搭乗する博士の殺意は凄まじいもので、出力を上げる度に叫び声をあげて苦しむ4号の死への恐怖も同様だ。4号は3号よりグレードダウンしてある。ゆえに苦痛にも恐怖にも耐性がない。操縦できなくなるための欠陥だったが、それを敢えて戻す事で活用したのだ。
タナトスラスターの刃が当たりコクピットにわずかに穴が開く。
『分からねえ…生きる喜びとか、渇望とか分からねえよ!!』
主人公が狼狽する。ヒロインも、親友も亡くした彼には決定的にそれに欠けている。集中力が続かなくなり、段々と操作も粗が出てくる。機体のおうダメージも大きい。絶望から立ち上がったばかりで、無理矢理快楽を注ぎ込まれる3号にも疲弊が見え始めた。
タナトスラスターは遠くに離れると、ビームをチャージし始める。イロスゲインは棒立ちになった。主人公も3号も、戦意を失っている。
『そのまま動かなければ楽に死ねよう。せめてものの情けだ。一思いに殺してやるから動くな』
今までよく戦ってきた。考えれば、もう楽になっていいかもしれない。主人公は操縦レバーから手を放し、3号はそのまま目を閉じて最期の時を待つ。
『もう、諦めるの?』
声が聞こえた。世界中の時が止まっている。主人公の目の前には死んだはずのヒロインがいた。一瞬驚いたが、力なくうなだれる。
『ああ。もう疲れたんだ。体も、心も。お前の所に行きたい。お前と会いたい。花の咲く岸辺でお前と一緒にとりとめのない事を話して…笑いあって…』
ヒロインは彼のそばで座る。
『辛えよ…なんで俺より早く死んじまうんだよ…。俺はお前さえ生きててくれれば…』
主人公はボロボロと涙を流す。ヒロインは彼の手の甲の上に手を添える。
『ごめんね。でも、皆を守るためだったの。もちろんあなたも』
主人公はヒロインの手を握る。ふわりとしていて実体と呼ぶにはあまりにはかない手。それを今できるだけ握りしめた。
『辛いんだよ!生きる事が!お前のいない人生なんて灰色で、つまんなくて…』
『死人である私に、もうあなたの人生委干渉する力はない。でもね…』
泣き叫ぶ主人公の周りに色んな人が現れる。子供のころの先生や、ヒロインの親族。クラスの友達や両親。色んな人が周りに立っていた。そして光の粒子となって消える。
『今のが私が死を賭してまで守りたかったもの。ここで主人公が死ねば皆死ぬ。私は死んだけれど、私の意志はあなたの中に生きている』
『ああ…』
『私の護りたかった物を護って…。そして、生きて…』
『それがお前の願いなら…』
ヒロインは光の粒子と共に消えていく。向こう側へ行くヒロインに手を伸ばそうとしたが、消えてしまってつかめない。視界に現実が戻ってくる。タナトスラスターは既にチャージを終えていて、今にビームを射出してきそうだった。
3号も鼻をすすって泣いている。どうやら、同じように何かを見たようだ。俺は静かに操作レバーを握った。彼は涙をぬぐってタナトスラスターを見据えた。
『俺達は…生きる喜びに飢えている』
『そうだな。行こう、3号。生きるために』
†
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
俺は背もたれに思いきりもたれかかる。いよいよ最終回だぁー!でもこれ以上は体が持ちそうにない。少し休もう。そう思ってベッドに倒れる様に飛び込んだ。その時、明らかに布団の感触とは思えない何かを感じた。
「ぐえーっ!!!」
ベッドが喋った!?!?俺は思わず驚いてベッドから離れる。掛け布団から出てきたのはイソフラボンだった。
「痛いじゃないか…」
「い、いや何でお前が俺の部屋にいるの?」
「メールもしたし、電話もしたし、玄関チャイムも鳴らしたし、部屋もノックしたし…」
「マ?」
イソフラボンはスマホを取り出して俺に見せてくれた。そこには動画が移っている。俺の部屋の前で何度ノックしても中から俺の返事がある様子はなく、入ってもパソコンに食い入るように見てるだけで反応もしない。それから耳のそばで呼びかけたり、肩を叩いたりしても気づく様子がない。
それからクローゼットの中にしばらく隠れてたようだ。そこで一度録画が切れ、次に移る頃にはベッドで寝転がりながら俺を撮影している。それでも少しも動かず小説を書いている。動画の中のイソフラボンが最後に「それじゃ、ベッドに隠れたいと思います」といって録画が切れた。そして今に至るというわけか。
「ジャンクはね、小説を書いている時はまるで周りが見えてないんだよ」
「マジか…。じゃあこの間、俺に一言も言わずに帰ったのは?」
「私を祝ってくれたあの翌日?皆それぞれあんたに一言言って帰ったよ」
気付かなかった。俺にそんな集中力があるだなんて…。というかそれって、天才とか職人によくあるアレなんじゃね!?俺って実はすごいんじゃね!?そう思うと段々うれしくなってきた。
が、よく考えるとそれでいて閲覧数が伸びず、人からも評価さてない事を考えると天才型のステータスでポンコツってもう本当にどうしようもないやつじゃん…。俺は先ほどまでの嬉しさが北の大地まで飛んで行ったのを感じた。
最近じゃアンチすら他所に行ってしまった。人気が出始めると現れ、もはやアンチにさえ相手にされなくなると閑古鳥が鳴くだけというわけだ。クソツ、またお前らとレスバしたかったぜ!
イソフラボンはあくびをする。
「今から寝るんだろ?ほれ、こっちゃ来い」
彼女は敷き布団をぽんぽんと叩く。眠いのは間違いないし、俺も遠慮なく寝転がった。そして一緒に毛布と掛け布団を被って寝る。人が少し前まで履いていた靴とか、寝ていたベッドとかにありがちなあの妙な温かみって色々と考えさせられるものがある。
俺の手足はかなり冷えていたので、この温かみがなんとも…。
「…寒い」
さっきまで温かったはずが寒い。見やると、既に熟睡しているイソフラボンが掛け布団を独り占めしている。
「おい大豆、ふざけんな。俺の掛け布団返せ」
「ZZZzzz…」
「おい陽子」
「イソフラボンとお呼び!!!!」
そこは寝言でも返事するんだ…。俺は力に物を言わせてはぎ取ろうとする。うおっ、こいつ腕力すごっ。俺は寝ているイソフラボンから布団を奪おうと躍起になるが全然離してくれない。マジかよ…。
「くそっ、返せよ俺の毛布と掛け布団!さもなくばどっちか分けろ!!」
「鯉は濃汁が一番よか…鯉は濃汁が一番よか…」
イソフラボンは寝言を言いながら険しい顔で掛け布団にしがみついている。毛布は抱き枕代わりに使っているようだ。おのれ、そうしてまで俺を苦しめたいか!そうして俺はしばらく、眠ったままのイソフラボンと激闘を繰り広げるのだった。