御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
やっとの事で書いてた小説の最終回を迎えたぜ!
余韻に浸っていたい所だったが、現実はそんな暇も与えてくれない。
どうしたもんだか…。
荒れ果てた大地に2つの朽ちた機体。やがて片方の機体から2人の搭乗者が出てきた。3号と主人公だ。タナトスラスターの搭乗席に行き、コクピットを開ける。中には博士と4号がいた。博士は2人を見上げる。
『…終わりか』
『そうだ』
これから彼らは身柄を拘束される。タナトスラスターをこうして撃破し、人間側に回収させる事でこれからはアルカッド軍を押し返す事ができるだろうが、彼にはまだまだ聞くことがたくさんある。4号は博士に覆いかぶさって庇う。
3号は黙って拳銃を取り出した。
『待て、殺すな』
『俺も元はアルカッド軍だ。人間に捕まるぐらいなら死を選びたいだろう』
『3号は優秀だな』
博士は笑った。憎い相手でも、生みの親だ。3号の手はわずかに震えていた。
『あの日死んだ息子もそんな目をしていた。あの日の朝、もう一度だけでもこの腕に抱きしめたかったと何度もあの日のワシを呪ったよ』
博士の作っていた人造人間のモデルは息子だった。完全なコピーを作るにあたって莫大な費用を要したため、タナトスラスターの搭乗者として作るという名目を得て息子を復活させるべく軍事開発に携わった。しかし、いつでも完成するのは似ても似つかないものばかり。
そして皮肉にも初めて親への反抗を試みた3号が、一番自分の息子に似てしまった。それでも3号は息子じゃない。彼は何もかも空しくなった。
『今までしてきた事、赦してほしいとは思わない。ただすまなかった』
そういうと博士は大きく口を開いた。奥歯にあるピンが抜けると、小さな爆発音が彼の頭から聞こえた。彼は顔の至る所から血を流して死んだ。4号は泣きながら博士を揺さぶる。3号は静かに4号に問いかける。
『博士はもういない。もうアルカッド軍にも帰れないだろう。4号、これからどうする』
『博士は…強情だけど寂しがり屋だから。手を引いてあげなきゃ。…3号、頼めるかな』
『了解』
3号は拳銃を4号の頭に向けて撃った。同じように死ぬ。後は主人公と3号だけ残された。彼は拳銃をその場に捨てる。
『主人公。お前と会えて良かった。今となっては親しみを感じるのもお前だけだ』
『3号…』
『だが、もう戦いには飽きたんだ。俺の事、見逃してくれないか』
『ダメだな。お前1人楽しい思いはさせない』
主人公は彼の肩を叩いてタナトスラスターから降りた。3号は彼の背中を追う。そして、2人で今まで戦ってきたイロスゲインの雄姿を眺める。今まで激しい戦いばかりだった。何度も窮地を乗り越えてきた。あのコクピットには色んな人の想いがこもっている。
それでも、もうここでお別れをしなければ。主人公はしばらく感傷に浸っていたが、歩き出した。3号も一緒に歩き出す。軍事機密を知りながら勝手に逃亡してしまった彼らの人生はその後も楽なものではなかった。それでも、彼らの自由を拘束できるものは何もなかった。
人間軍はアルカッド軍を押し返して制圧した。今は共存方法とか文化の違いとか様々な問題を抱えつつ解決のために動いている。
あの2つの機体はあれから全く動いていない。誰が乗っても起動しない。しかし、朽ちる事もなく残り続けている。
それはまるで平和のシンボルとして佇む守護神のようでもあり、次なる戦いのための搭乗者を待っている闘神のようでもあった。
――変態奏功イロスゲイン、完――
†
小説を書き終える頃には俺も疲れ切っていた。エナジードリンクも飲んだけど、効果は切れた気がする。そろそろいい時間だ。俺もそろそろ寝ようかな。そう思っていると、スマホに連絡が来た。なんだろう。
そう思って出ると、妹の美穂からだった。
「何だこんな遅くに」
「それが…」
弟の隆盛が深夜俳諧で補導されたらしい。親に連絡が行ったが手が離せないため俺に行くように頼んでくれとのこと。こんな時間帯まで何してるんだか。俺はそう思いながらも聞いた場所に弟を迎えに行った。
俺は警察と少し話をしてから弟を連れて家に向かった。
「今日は兄さんの家に泊まりたい」
「何でだよ。お前、着替えとか諸々困るだろ」
「兄さんの服があるでしょ」
まあサイズはちょっと合ってないんだが、間違ってもいない。しかし、美穂を1人にするのも気が引けたので俺は隆盛を説得して一緒に家に泊まる事にした。俺の部屋は物置になっているらしいが、両親が帰らないらしいので両親の部屋に泊まろう。
帰る最中はほとんど何も話したがらず気まずかった。深夜俳諧の理由も教えてくれないし。
「なあ、母さんは?なんで来れなかった?」
父はどう仕事か何かだろう。母は仕事はしていないはず。
「凛々解脱の会っていう団体の講演会のための準備があるんだって」
それって最近ネットで注意喚起されてる団体じゃないか…。
法律すれすれの強引な勧誘をしていて、団体から抜けるのが非常に難しいと聞いていたが…。
「兄さん、助けてよ。母さんが僕たちに入団しないかってしつこいんだ」
「う…、そうは言ってもだな…」
美穂も勧誘されてるのか…。
既に団体の仲間が家に来て美穂や隆盛と交流しようとしたりしてるらしい。美穂は何とか話を適当に受け流しているものの、隆盛はよく理由をつけてその場から離れるらしい。
最近は美穂もしつこく入団を迫られるためあまり実家にいないようにしているんだとか。
「本当は今日は兄さんの家に行こうと思ったんだ。そしたら補導されて…」
「そうだったのか…」
「兄さん、家に戻るか僕らを兄さんの家で匿ってよ!どうせ兄さんだってネットのニュース見てるんだろ?」
まぁ…うん。色々と書いてあった。滅茶苦茶他人事だと思ってたけど。俺は頭を搔いた。もちろん、隆盛も美穂も救ってやりたい。しかし、向こうには親権がある。俺が無断で匿えば兄弟と言えど誘拐になるんじゃないのか…。更に言えばもう少年法も俺には適用されないんじゃないか?
親権と児童虐待は色々と議論されるところではあるが…。
かといって俺も家には帰りたくない。しかし、このままでは2人が危ないし…。
「児童相談所に連絡しよう」
「僕がまだしてないと思う?」
まぁ…考えればそれもそうか。隆盛がしないはずがない。この様子からすれば結果はまぁ…うん。隆盛が言うにはこの市区の児童相談所は前からあまり評判も良くないらしい。
「父さんは?」
「もうすぐ耳に入ると思う」
今度ばかりは俺が何かできる事はないんじゃないだろうか…。俺は気が遠くなってきた。
「母さんに今の兄さんの自宅の事を伝えなきゃ僕らは安全だ。それに、弁護士に駆け込むなんて事もしないだろうしお願いだよ僕たちを助けて!!」
「待ってくれ、お前も少し冷静になって考えてくれ。向こうの団体には頭が切れる奴がいる。入れ知恵だってするかもしれない」
「兄さんは…僕らがどうなってもいいの?」
「分かった!分かった!…分かったよ、お前らは可愛い弟妹だ。だが俺はお前ほど頭は回らない。だから、匿えなくなった時の事は何ら考えておいてくれ」
「…ありがとう、兄さん」
俺は一度家に帰ると、美穂と話をして2人の荷物をまとめて俺の家に連れて行った。こればかりは仕方ないもんな…。しかし、これで母さんは余計に1人になってしまった。美穂も隆盛もいないんじゃ余計に宗教にめり込むようになるだろう。
しかし、俺にどうしてやることができるんだ?探偵でも雇って親父の不祥事を探らせて座を引きずり下ろせばいいか?活動団体と衝突してでも母さんを脱退させる??両親と縁を切る??親権は???
もう駄目だ。俺はいったいどうしたらいいんだ。
自身の不安をできるだけ2人に気取られない様にしつつ、3人で俺の家を目指した。
今度、機会を見て母さんと話し合ってみよう。根はやさしい母さんだ。話せばわかってくれるかもしれない。それに、俺だけ逃げて家庭問題について放置してたのは確かに良くなかったことだし俺にも責任はある。親父にも連絡すべきか…、いや、出ないだろうな。
これからすべきことなどを考えつつ、俺は2人のために晩御飯を作る支度に入った。