御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
御手洗ジャンクが階段から転げ落ちたり、高熱を出しちゃったりして…。
本人はもう治ったって言ってるんだけど、まだ顔色も優れないし心配。
ちゃんと休んでたらすぐに治るだろうものを、時間がもったいないからって
色々やるから治りが遅くなるんだよね。
京間と私がいる間はしっかり休んでくれると思う!
私はスマホで小説を確認する。最新話はまだ更新がない。スマホで書き進めていると思っていたけれど、そうでもないようだ。もう一度読み直してみたけれど、やっぱりできる事なら他に新しい小説の執筆をして欲しい。これはちょっと…。
それに、この小説は最終的に話の着地点をどこに持って行きたいんだろう。途中で本当に手を出したりしないだろうか。例え架空であろうと実在であろうと、好意を抱く相手の年齢がそもそも恋愛対象としてはいけないはずだ。その性癖を治すために一所懸命に頑張って、同年齢とかに恋をする話ならまだしも…。
自身に子供がいたなら、そういう性癖の人間がいるというだけでどれだけ怖いだろう。作中の主人公はそういう性癖というだけで悪いんだろうか、と疑問を持っている様子だがもし常々「人肉が食べてみたい」という人が近所にいたら気が気じゃななくなったりしないか。
とにもかくにも今ジャンクが書いている小説はそういう性癖を擁護するものにしか見えない。それも、ジャンク自身はロ〇コンでもないしそれで悩んでる訳でもないのに思い付きだけでそれを書く事にして、挙句に理解を深めようとしている。その過程で彼がロ〇コンにでもなったりしたら…そう思うと怖い。
どれだけ多様性を認めようと、性癖への寛容性が必要な社会になろうと「性癖だから」で片付けて良くないものだってあるはず。成立しようがないし、させようがない。仮に児童の方から付き合いたいと言い出した所で、大人との恋愛は純愛たりえるだろうか。
答えは否だ。子供が子供であるのは、生きてる年数が少ないため取り返しのつかない重大な決断をするための充分な経験も知識も持たず心身ともに未成熟であるからだ。故に大人同様の背禁能力も有しえない。それが本当に愛だというのなら、相手が大人になるまで待ってこそだ。大人になったら恋愛対象外になるのなら、何が純愛なものか。
確かに内心の自由はあるべきかもしれない。しかし、かの性癖はまず普通でない事を自覚し、密かに胸に秘めておくべきもの。触れて回ったり胸を張っていいものであるべきじゃない。
少なくとも私はそう思っている。それを、ジャンクがそうでない小説を書いているというのだから複雑な気分だ。
「はぁ…」
私は頭を抱えた。
「さっきからため息ばかりですね、イソフラボンさん」
「うん…まあちょっとね」
兄さんが突拍子もなくあの小説を書いてるなんて言えない。
隆盛君は京間が途中で置いて行ったゲームの続きからをプレイしている。あのパズルゲーム、見た目は割と質素なんだけどそんなに面白いんだろうか。遊び方を覚えるのも大変そうに見える。私は遠目にそれをぼんやりと眺めていた。
しばらくそうしていると美穂ちゃんがある画面を開いてスマホを見せてきた。長文が書いてある。どうやら小説らしい。
「あの、良かったら読んでもらってもいいですか?」
「うん、いいよ」
前よりも文章は長くなった。成長は見られる。さて、どう感想を述べたものか…。最後まで読み進めると、もう一度スクロールして読み直してみたりする。美穂ちゃんは割とベタな恋愛が好きなんだなぁ。
美穂ちゃんは目をキラキラとさせながら私からの感想を待っている。
「とても王道的な展開でいいと思う。でも全体的にちょっと駆け足気味かな。キャラの心理描写が多めなのはいいけど、場面とかキャラの説明不足もそこそこある。次の課題はそのあたりかな」
私は具体的にいくつかの文章を指さしてあれこれアドバイスをしたりする。
「そこに関してはこのキャラはこうで…」
一部のキャラに関して少し不可解な行動をしているキャラがいたが、なるほどそういう事か…。
「後はその辺りの説明を何とか本編に上手い事組み込んでいきたいね」
「少し後の展開のための伏線にしようかなって思って」
「既にこの場面でフック掛けができてるから、こっちで出すべきではないかな。結果的に複雑になるのは仕方ないけど、基本的に小説は単純明快で読者に親切な方がいい。ここでこれをやっちゃうと読者が混乱しちゃう」
「うーん…」
美穂ちゃん的にはこだわっている場面らしい。この先の展開とかを聞いたり提案したりして想像を膨らませていく。数十分ぐらい熱心に話し合いをすると、設定の練り直しと続きを書くと言って隣のソファで寝転がりながらスマホに向かってぽちぽちと操作しだした。
美穂ちゃんを見ていると昔のジャンクの小説の事を思い出す。ジャンクも昔に比べてかなり成長したなぁ…。昔からファンだった訳じゃないけど、ある作品を知ってからは更新があまりに遅いので過去作を見て最新話を待っていた。あの作品からは想像もできないほど過去作は酷かった。
内容は非常に独りよがりで、描写不足に関して自己完結しててキャラの言動や物語は超展開のオンパレード。その日会ったキャラクターといきなり生涯の恋人同士みたいになってたり、世界の命運をかけて戦ったり。ごく普通の主人公を名乗る人物がマシンガンの弾をつまんで受け止めたり、航空機を追うために地上からジャンプで追いかけたりもしていた。
何より酷かったのは描けるキャラのレパートリーの少なさだ。登場人物の殆どが似たような考え方をしていて、喋り方も同じだから括弧が続けば誰がしゃべっているかまるで分からない事が頻発する。キャラの行動原理が全てジャンクに引っ張られている。辛うじて全く異なる価値観を持つ敵キャラが出てきたかと思えば非常に薄っぺらいキャラで適当にサンドバッグにされて死んだりする。
まだあの頃の面影を残している所もあるものの作風と呼べるレベルに収まっていて、キャラクター各々も個性あって面白い。ただ、最近の傾向としてはやたらとバッドエンドに向かったり鬱展開になったり、私の好きなキャラに限って死んだりする。そこが好きじゃない。昔はもっとハッピーエンドとか大団円とか多かったのに。
ハートフル小説を書きたいというのは本気なんだろうか…。ジャンクの言う事はどこまでが本当か分からない。
美穂ちゃんが大きく背伸びをした後にスマホを置いて寝転がった。
「もう無理…」
「まあ無理はしないでマイペースに書くのが一番だよ」
「さっきのアドバイスの事ばかり考えてたら、粗ばかり見えてきちゃって…」
彼女は口をとがらせてため息をついた。それからこちらにとぼとぼと歩いて来ると、私の膝に頭を置いた。
「イソフラボンさんの膝枕…」
「アドバイスは参考にするものであって、囚われる物ではないよ。基本的には自由に楽しく書くのが最優先」
「そうやって私を混乱させるんでしょ」
美穂ちゃんは私の膝の上で頬ずりをする。ヤバイ。可愛い。控えめそうな雰囲気してるけど意外に大胆なんだよね…。美穂ちゃんは私の膝の上で寝てしまった。私は頭をなでてこの多幸感に浸る。美穂ちゃん…美穂ちゃん…美穂ちゃん…。
私は手の上に乗った小鳥をあやす様に彼女の頭をなで続ける。
「はい来たぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
隆盛君が急に大声をあげて立ち上がった。私は驚いたあまり美穂ちゃんの頭を落としそうになる。どうやらゲームをクリアしたようだ。途中から見てる感じ絶対にクリアできそうになかったけどな…。凄い集中力だ。
その場で狂喜乱舞し、どこで覚えたのかキレッキレのダンスを踊り出す隆盛君。え、ちょっと待ってシュートダンスできるの?目の前で見てもどういう動きをしてるのか分からない。マジでどんな動きしてるのそれ。教えてマジで。どうやって手と足の動きを合わせてるのそれ。
「隆盛うるさい…」
美穂ちゃんが起きてしまった。彼女は起き上がって隆盛君の方へ行くと、文句を言うのかと思いきや一緒になってシュートダンスをする。美穂ちゃんもできるんだ…。ていうか2人ともそのやり方教えて…。