御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
たまたまやり始めたクソゲー実況がウケたせいでクソゲー実況者の仲間入りしてしまいました。
でも、近々名作と呼ばれた作品の続きをしたいと思います。
クソゲーは健康のためにも、節度を守ってプレイしましょう。
「ではでは」
僕は配信を切った。今日も投げ銭がそれなりに来た。再生数でお金はあまり稼げなくなってきたので嬉しい事だ。いつまでも続くとは思えないが…一時的に売れているのであればその一時で稼ぐだけ稼ぎたい。貯金通帳を見ながらうなずく。
大人が必死に汗水流して働いてようやく得るであろう金額が、学生生活の間にやっているこのぐらいの娯楽で稼げてしまうというのは…どうなのか分からない。ズルいなんて事はない。汗水たらして稼ぐのも、こうして楽して稼ぐのも本人の能力と行い次第なのだ。
しかし、今回のクソゲーは手強かった…。
「おーい、隆盛~」
兄さんだ。朝ごはんができたらしい。すぐに下に降りてご飯を食べる。兄さんにはくっつくようにして京間さんがいる。
「今日はお前は仕事だろうが、さっさと離れい」
「今日は休もうかな~」
「あのな」
京間さんは頬ずりをして甘えている。いいなぁ…。数年前なら僕もああして甘えても兄さんは僕に優しかった。でもさすがに今やったら嫌がられるかなぁ。いいなぁ…。
「京間さんと兄さんって本当に仲いいよね~」
美穂姉さんはその様子をニコニコとして眺めている。姉さんもずるい。兄さんの前ではわざと子供っぽい事をして頭をなでてもらったり構ってもらっている。僕はしっかり真面目をしているというのに、誰からも褒めてもらえない。真面目って損だ。
僕も兄さんに抱き着きたい。頭をなでなでされたい。兄さん…。
「隆盛?」
「あ、ああ何でもないよ姉さん」
僕は朝食を掻き込んで食べる。
「体調悪いのか?」
兄さんも心配している。僕は「何でもないってば」と言ってすぐに食事を終えて準備をすると学校に登校した。
学校では既に予習を済ませた授業を時間をかけて先生が説明し、たまっていくプリントをファイルに止めていく。生徒は当然の様にやる気がなく、先生も事務的に授業を行うだけだ。隣の席の黒糖君は日に日に絵が上手くなっていく。
やがて休み時間になると、僕は教室でスマホをいじってネットニュースを確認する。今日も特に良いニュースはなく憂鬱になるようなものばかりだ。明るい1日を過ごしたければまずニュースを見ない事、とは誰が行ったか…実にその通りだ。でも、この情勢でそうはいっていられない。
ごく一部の思想界隈によるクレームでまた企業が謝罪した。ここ最近は毎日だ。そのたびに表現の自由派が頑張って企業を擁護したりその会社の商品を買ったりしているが…企業がそのたびにこうして事を荒立てまいとして謝罪するのでいつもあっち側の勝利で終わってしまう。きっとまた総括される。
「はぁ…」
「元気ないね」
「そりゃそうだよ。社会的『弱者』のおかげで今日も社会的『強者』は理不尽を強いられなきゃいけない」
「ニュースの見過ぎだよ。もっと気楽に行こう?」
黒糖君は非常に甘い。現実が見えていない。僕がこの世で最も嫌悪している事なかれ主義だ。現実に向き合わないからと言って現実は僕らの方に好転したりしない。人生どうにかなるとかいう人がいるが、そんな事はない。どうにかしている人物がいるだけなのだ。
皮肉なものだ。差別を取り払うために作られた概念が新たな差別を作り出している。サイレントマジョリティはノイジーマイノリティによって権利を奪われている。声の大きい人間の声だけが響き渡る世の中になってしまった。オールドメディアは彼らの拡声器として非常に優秀な役割を果たしている。
ニューメディアの登場によりその力は少し弱まったが、それでも非常に大きな力を持っている。少子高齢化社会において、未だにネットニュースに慣れずテレビや新聞などを情報源としている世代も多い。スポンサーやバックについているものによってどんな風にでも世論操作できる連中を未だに公平性のあるものだと信じている人々が多い。
現地へ赴かずネットから情報を仕入れる事も増えたため『意図せず』デマを流す事も増えたというのに、彼らは「ネットにはフェイクニュースが増えているため注意が必要」などという。実際にネットニュースはフェイクが非常に多いが、立場によって記事の書き方は異なるためそれらを見比べてより複眼的に情報を見る事ができる。
しかし、現在のオールドメディアと言えばカッティングは非常に恣意的でとても情報として取り入れられたものではない。報道局の意に沿うような意見しか言わないコメンテーター、有識者。あれを茶番と呼ばずして何と呼ぶべきなのか。
「ねぇねぇ、隆盛君。次の授業、教科書見せて」
黒糖君はまた教科書を忘れて来たらしい。1日に1科目、必ず何かの授業の教科書を忘れてくる。仕方がないと思って机を付けた。ついでに彼も僕に引っ付いて来る。
「…隆盛君温かい」
「あのね…」
世の中、甘えん坊キャラが好きだという人がいるが僕はどちらかというと甘える方が好きだ。黒糖君は僕に甘える事が好きなようだが…。
「お前ら付き合えよ」
そう茶化してくるのは、クラスメイトであり僕の親友の麦芽だ。
「黙れ麦芽」
彼はここ最近のゲーム情報を持ってくる。お互いに悪態を付ける仲で、いつもクソゲー収集のお世話になっている。僕がニコチューブを上手く回していけるのも彼のクソゲー情報と、チャンネルの方向性について相談に乗ってくれるからだ。
次の授業が始まるまでのわずかな間、僕らは色んなことについて話し合った。
家に帰る時、僕はワクワクしていた。家にゲームが届いたらしいのだ。「黒いイクラ」…。制作費が跳ね上がり、ゲーム制作のハードルが上がり続けるこのご時世で、敢えて古いゲーム性を持ちだして製作費を抑えゲームは画質じゃないと新たな風を送ってくれた作品なのだ。
ここ最近の作品は画質はいいが、そこに製作費が偏ったためかゲーム性自体は面白くなかったりとか起きる事がある。ゲームシナリオライターがせっかくユニークなシナリオを作ってもそれをゲーム上で実現するのが難しいため泣く泣く実現範囲に収めようと残念な出来になる事もある。
その中で生まれたこの革命児…。その続編が出たのだ。僕の心の踊りようと言えば、ステップを踏んでしまうほど。
「そのゲーム、クソゲーじゃないの?」
黒糖君も僕のクソゲー実況を見ている。
「クソゲーマーだってクソゲー以外をしたくなる事もある」
「…早く『人生シミュレーター』の続きが見たいなあ」
何故かウケがいいが、正直虚無を極め過ぎて僕はやりたくない。見る人は面白いかもしれないが、あの虚無から笑いを生み出すのはもはや錬金術をも超えている。今朝の生配信にも「人生シミュレーターやれ」とコメントが来たが、もうしばらくやる気はない。
現実への風刺ゲームなどと冠しているがとんでもない。クソゲーはただのクソゲーである。驚くほどの内容の無さ、操作性の劣悪さ、独りよがりなだけで特に伝わってくるものない主張。風刺はクソゲーの免罪符じゃねえぞ。
ちなみに次の動画のための収録は終わっているが、正直どう編集したものかもわからない。
そんな僕の癒しのゲーム、それが黒いイクラだ。早くやりたい。
「今日は遊びに行ってもいい?」
「兄さんに聞いてみる」
僕は兄さんに確認を取ると、一緒に我が家を目指した。
有名SNS、カリンカを開くと既にトレンドでにぎやかになっている。内容に関するネタバレもあったのですぐに閉じる。これだけ話題沸騰しているのだ。早く話に交じりたくてしょうがない。
我が家に到着すると、黒糖君と一緒に部屋に入ってノートパソコンを立ち上げた。兄さんから渡されたパッケージをあけてディスクを入れて待つ。…初回限定のグッズは、見本と違って割とクオリティが低い。まあ許容範囲だ。
さて、ゲームはどうなっているかな…。