御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
すげー今更だけどおてあらいジャンクじゃなくて
みたらいジャンクだぜ!
細かい事かもしれないが俺は気にするからそこの所よろしくな!
「どおしてだよぉぉおおおおおおお」
僕は椅子から転げ落ちて叫んだ。
「~~~~~~~っ…、どおおしてだよおおおおぉぉぉおおお!!!!!」
心の叫びはのど元で収まるはずがなく、吐く様に言い続ける。黒糖君は僕を心配して「大丈夫?」と声をかけてくれているが、大丈夫じゃない。僕の心は塩の様にサラサラと粉微塵に砕けてしまったのだ。心の複雑骨折、深刻なまでのフェイタルダメージ。
僕は麦芽に電話した。
「どおしてだよぉぉぉおおおおおおぉぉおぉぉおお!!!」
『いや、草』
「なんだよこれぇぇえぇえええええええ!!!!」
『プレイしちゃったか、黒いイクラ2』
「こんな事なら続編なんてやるんじゃなかった…」
『俺も買わなきゃ(使命感)』
電話が切れた。僕はこのゲームを神ゲーとしてやるはずだったのだ。だがしかし、残念ながら僕の前に飛び込んできたこの続編はもはや原型もとどめないほどに変わり果ててしまったものだった。できの悪い二次創作だと言われれば素直に信じてしまえそうなほど…。
麦芽の悪戯であって欲しい、そんな淡い期待も儚くネットで調べると既に複数のプレイヤーも似たような書き込みをしている。exeゲームかこれは…。どうしちゃったんだよ作者…。
「ま、まあ落ち着いて…。これはもう前作と繋がりのない別ゲーだと思えばまだ楽しめるかもしれないよ」
黒糖君が僕をなだめてくれている。まぁ…そうかもしれない。これは黒いイクラ2だと思うからいけないんだ。期待が膨らみすぎているんだ。これを改めて他のゲームだと思ってプレイする事でまだ楽しみようがあるかもしれない。
前作のメインキャラはほぼ全滅してしまった。主人公のガロンとあんなに熱かったヒロインのアルカは寝取られ、まるで過去の事をなかったかの様な態度をしている。今作の主人公は事情を知らないからアルカの言葉の酷さに気付かないが、過去作をやったプレイヤーであれば殺意が芽生えるほどの発言を息をするようにするのだ。
しかも、オープニングの間に過去先のハッピーエンドが覆されてしまう。殆どのモブキャラは死んでしまったガロン達を恨んでいて、死体が埋まっている墓を倒して新しい便所を作る始末。世紀末かな??
今作の主人公も前作同様、世界を救おうとするのだが…正直いっそ滅んだ方がいい。そう思えるほどに登場人物の民度が低い。真面目に魔王軍になって人間を滅ぼす話が出たら1万出してでも絶対に買う。
「こんなのあんまりだぁ~…」
「どうかした?」
兄さんが部屋にやって来た。パソコンに映っている黒いイクラ2の画面を見て噴き出すと、腹かかえて笑い出す。
「買っちゃったかそれwwwwwwwwwwww」
「笑うなァ!!」
「でもそれなぁ。その作者の素の作風らしいぞ」
「え?」
ハンドルネーム(HN)は異なるが、前に活動していた時の作品があるらしい。それらもそれなりに好評だったらしく、いくつか画像を見せてもらった。確かに黒いイクラ無印の頃とは違い黒いイクラ2の様な作風の作品ばかりだ。
HNを変えてる事もあって黒いイクラがデビュー作だと思ってた。日本はそこまで知名度がないためそう勘違いされてる様だ。
「俺としてはこの作者の気持ちも分かるんだよ。飽くなきリアリティの追求、細部へのこだわり…。ストーリーは無印に比べればアレではあるんだが、納得できる範囲なんだよ」
兄さんは頷きながら熱弁する。黒いイクラは外国のインディーズゲームであり、日本語のローカライズにあたって期間が空いている。しかし、外国語であればパグオンで先にリリースされている。
一部の有志が先に非公式和訳パッチを作っていたらしく、それを兄さんは一足先にプレイしたらしい。作者とローカライズ班がしっかり話し合った公式に比べ少し意図を読み違えた誤訳などあるらしいが、まぁ大筋は間違っていないんだとか。
海外では賛否が分かれており、憤慨した一部のファンは無印時代の作風に沿った続編を二次創作していてそれが話題になってるんだとか。しかし、公式の続編も評価の声が大きいのも確かだ。
「批判を覚悟で作りたいものを作る勇気!俺は尊敬するね」
「このゲームを制作するまでのプロセスの方が面白そう」
黒糖君はのほほんと言った。
「何が勇気だ、そんなのは勇気じゃない!」
僕はなおも怒る。そしてゲーム画面を指さした。ゲーム画面の主人公は死んでいる。空腹ゲージが0になっているからだ。このゲームはアドベンチャーだ。ローグライクゲームではないし、サバイバルゲームでもない。
他の欲求もいくつかあり、それを満たさなければ町民から冷たい扱いをされたりステータスが下がったり、一部のイベントが行えなくなったりする。
物資の少なさも半端なく、序盤は生きるのに必死でストーリーなんて楽しんでる余裕はない。と言うか余裕があってもストーリーそのものも楽しめない。
「こんな機能、前作にはなかった!これがプレイヤーが黒いイクラに求めた物か?!」
僕はゲーム内のスクショを画面に映した。元ヒロインのアルカが他の男との性交していた事を示唆する発言だ。
「これがプレイヤーの求めていたリアリティか?!」
最後にゲームを初めからにしてオープニングを流す。前作の主人公らが殺され、墓を倒され、その上に便所が立つ映像が流れる。
「これが僕らの求めた黒いイクラ2か?!勇気?!ふざけるんじゃない、ただの自己陶酔、自己満足じゃないか!」
「わ、悪かったって。落ち着けよ」
兄さんは困惑気味で僕を諭す。僕は怒りで拳をわなわな震わせる。後ろで黒糖君がゲームオーバーにならない様に主人公のロロを使って食料を漁って食べている。
「フィクションは!嘘を楽しむためのものだ!あり得ない、くだらない、馬鹿馬鹿しいを求めて!架空の非常識を楽しむためのものなんだ!」
姉さんがドアからひょっこり顔を出した。目があったが気にせず続ける。
「リアリティがなんだ…。こんなの、黒いイクラ2の続編でやらなくてもいいじゃないか…。どうして別作品じゃないんだ…」
僕は泣きそうになる。後ろで黒糖君が便所にぶつかり続けている。ひょいと壁にめり込むと、デバッグモードのスイッチを見つけたようだ。よく発見できたなそんなもの。
「兄さん、考え直してくれ。小説には読者が。ゲームにはプレイヤーが。絵には閲覧者があってこそなんだ。こんなの…こんなの…」
「分かった分かった。俺が悪かったよ。だから泣くなって」
兄さんは僕を抱きしめ背中をぽんぽんと叩いてくれた。
このゲーム、楽しんでる人もいる。これは僕のわがままかもしれない。それでも、僕はこのゲームが許せなかった。
次に画面を見る頃、黒糖君はあらゆる欲求ゲージの減少をオフにし、所持金をカンストさせていた。天才か?
…弟を宥めると、俺は部屋に戻って行った。あのバグまだ修正されてなかったのか…と言うのも気になるが隆盛の言葉が胸に突き刺さったまま取れないのだ。
俺は商品ではなく作品を作っている。前の様にファンもいないから自由だ。俺の投稿先のアクセスを覗くとそれなりに閲覧数が入っているが、これは小説投稿者のモチベーションをキープするために運営がそれなりに閲覧数の数値をぼちぼち上げる様にプログラミングしてるんだと思ってる。
しかし、しかしだ。もし読者がいるのなら…今書いてるあれは作品としてどうなのだろう?
面白いだろうか…。
タイトルはロ◯コン向けに設定した。来るとしたらその趣味の人だろう。だが、中身は彼らにはとても楽しめないものだ。もう何話も書いたが◯リは1人も登場してない。
書いてる俺もロ◯コンではないし、内容もロ◯コン向けではない。もちろん、ロ◯コンを嫌悪してる人は好き好んでこの作品を読みにはこないだろう。どちらかと言うと擁護する内容だからだ。
…あの作品はどこに向けて描かれ、どんなテーマで、どんなコンセプトで、どう楽しんでもらうべきなのか。何となく書いてるだけの俺には何も考えがなかった。
書いてる俺は楽しかった。読者は?
…前に見て後悔したクソ映画、主義主張とか人権問題を中心とする人間ドラマばかりで目玉の怪物はちっとも出ない物だった。悪役は自身の主義主張とは反する思想の持ち主で、いかにも貶める様なキャラになっている。一言で言えばヘイトに溢れた下品な映画だった。
それと同じになってるんじゃないか。そんな風に思えた。
「これじゃいけない…」
読者がいるのなら、読者に楽しんでもらえる作品にしなきゃ。俺は決意を新たにして、パソコンを起動した。