御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
命の恩人、沙織さんを助けるためだ。仕方がない。
割とあっさり職に就けるんじゃないかと思ったが…。
俺は父親に電話した。
「なんだ」
「今時間ある?」
「どの時間にかけても暇な時間なんぞない。要件を話せ」
あるならあるって言ってくれればいいのに。俺は手短に凛々解脱の会から脱会させたい人がいる事を話した。しばらく言葉を挟まずに聞いていたが、俺が言い終わると少し間をおいて言葉が返ってくる。
「俺と母さんは何とか出来ても赤の他人を脱会させるみたいな真似は俺には無理だな」
「どうして」
「そんな権限がないからだよ。本人と団体の問題だからな」
あっさりと…。
「団体の維持のために向こうもかなり考えを張り巡らせている。助けたいなんて思わずに放置しておけ」
「その…俺の恋人なんだよ」
嘘をついた。こうでもしなきゃこのまま電話を切られそうだったからだ。俺について父さんが心配する問題は2つ。1つは就職、1つは恋人と孫の事。こうすればもう少し協力してもらえるかもしれない。しばらく黙っていたが、「もしもし?」と言うと面倒くさそうに生返事が返って来た。
それから沙織さんについて詳細を聞いてくる。年齢とか、親の事とかその他もろもろ。
「退会届を本部に郵便で提出して家で匿え。後は可能な限り外に出さずに半年以上空けるんだ。失踪届を出されて捜索されたら危ないからスマホはどっか離れた場所で契約するなりして連絡手段は持たせておけ。お前の家への仕送りの額は増やさん。彼女の分は働いて稼げ。以上」
そう言って電話を切った。色々と思う所はあったが今は父さんの言う意見以上の事は出来そうにない。言われたとおりに退会届を書いてもらい、それを提出した。それからこれからは活動範囲が非常に狭まる事と、後々の口裏を合わせるために父さんには便宜上で恋人だと伝えた事も話した。
沙織さんうなずいて了承してくれた。あまりお金を使う事もなかったので生活費は割と余っている。だがさすがに1人分の生活費は2人分にはできない。
「…すみません。私が何かお金を稼ぐ手段があれば…」
「足がついたら危険です。お気持ちだけで結構です」
弟妹と、イソフラボン達にも話しておく必要がある。そして口外しない事も。凛々解脱の会は大きな団体だ。どこから情報が漏れたものかわかったものじゃない。
それから時間を見計らって貴重品と私服も回収しに行った。親と同居していたらしいので、特別な手続きが必要ないのは助かった。入団していると月に買わされるものが多いらしく、貯金もそれほど多くないと貯金通帳を見せてくれた。
ここ最近の体調不良と仕事上での人間トラブルもあって求職中だったらしくそっちも問題ない様だ。
後は彼女を誰かの目に触れないように努力しつつ、自分がバイトする場所を見つけるだけだ。そうして朝ご飯を作ろうとしている所に沙織さんが来た。
「あの!…私は仕事ができないので、せめて家事一般はやらせてください!いえ、むしろさせません!」
「え、ああ…わかりました」
俺は厨房を任せて居間でくつろいでいると、キッチンでとても料理してるとは思えない様な音が聞こえてくる。不安だな…。いきなり「ひん!!」と聞こえて来たので行くと指を切っていた。俺はすぐにアルコール消毒して傷口に絆創膏をあてる。
それでも料理がしたいと言うので見守っているが、どうも動きが怪しい…。
「沙織さん…?」
「グスッ、私は料理できるんです…」
泣き出してしまった。今までは基本的に親が作るか買ってきたりしてたらしくあまり経験がないらしい。俺は包丁の持ち方から色々と教える。義務教育の時の調理の授業は、刃物系は危なっかしいと持たせてもらえず計量とかに回っていたらしい。
教えたそばから包丁の持ち方がおかしい。俺はもう一度、持ち方を直す。
「食材を抑える手はこうです。いいですね」
「はい…。えへへ、何か恋人みたい」
可愛い。
そう思っていると向こうから欠伸をするイソフラボンとまだ眠そうな美穂が起きてきた。キッチンで料理を教えている俺達をぼんやり眺める。
「パパもママも朝から熱いね」
イソフラボンがけたけた笑いながら言った。
「お前みたいな大きな娘を持った覚えはない」
「沙織さんがママで兄さんがパパなら、イソフラボンさんは私のなんなの?」
美穂がぼんやりしながらイソフラボンに尋ねる。確かに。
「そりゃ血の繋がりのない義姉よ」
「義姉さん!!」
「美穂!!!」
抱き合う2人。勝手にやってくれ。沙織さんはまるで2人も妹ができたみたいだと笑っていた。聞けば年は俺より2つ上だったらしい。彼女がサラダを作ってる間に俺は他の料理を作る。少し遅れて隆盛が起きてやって来た。
居間にてテレビのチャンネル権を巡ってじゃんけんをして、無事に勝った弟はゲームをプレイする。
そうこうやってる間に料理を終えて食卓に料理を並べた。途中でつまずきそうになった沙織さんを何とか支え、料理も守った。
「ありがとうございます。すみません、そそっかしくて…」
「それも個性ですよ」
そうして食卓に並んで手を合わせて「いただきます」を言って食事を始めた。
「どうしようイソフラボンさん。想像以上に見せつけてくるよあのカップル」
美穂がイソフラボンに言う。彼女もうなずく。
「こりゃ負けられませんわ。私達もいちゃいちゃしよ///」
どんな対抗心だ。沙織さんはそのやり取りを見て笑う。隆盛は肩をすくめてからただご飯を掻き込む。俺も流し込む様にして食べると、早速とパソコンで求人内容を確認することにした。
いいバイトが見つかった。そこに応募した。そして落ちた。これが5件続いた。
「なして…?」
確かに学校を卒業してからそれなりに空白期間は空いたがこんな事ある!?親が何かやらかして脛をかじれなくなた時のために資格はそれなりに取っておいた。勉強はクラスの中の上はキープしていた。体力もそれなりにあると思っている。
面接は上手い方だと先生に褒めてもらっていた。そもそも割とどんな会社の面接でもほぼ緊張しない。それは並大抵の会社なら父さんより規模が小さいのでその点で心の余裕があるあからだ。だから応答はきちんとできる。
ネットのニュースを見ても不景気が来たなんて話しは聞かない。身だしなみだって、何度もイソフラボンに見てもらった。
「何が駄目なんだ…何が…」
俺は公園でベンチに腰を掛けながらサンドイッチを食べていた。隣におじさんが座る。パーソナルスペースとか気にしない人たまにいるよね。
「お疲れ様です。あれから求職活動はどうですか」
おや…見た事があると思えば前の前の会社の入社試験の時に一緒にいた人だ。
「手応えありませんよ。今回の会社も駄目そうです」
「ははは…。まだ私も上手くは行ってませんが、1つアドバイスいいですか?」
就職活動が上手くいっていないという点については俺と同じなのにアドバイス?…まあ聞いてみよう。
「それはですね…その会社が本当に社員を必要としているかどうかを見極める事です」
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「社員を必要としていないのに求人募集するなんて変じゃないですか」
おじさんは首を横に振る。
「確かな情報じゃないですけどね。噂があるんです。今どこも人手が足りてて…職業を案内する所が困るじゃないですか。それで企業側に求人を出してもらうんです」
彼の言う様に確かな情報じゃないので、頭の隅に覚えておくぐらいに留めておくべきかもしれない。それから、比較的に通りやすい会社の特徴とか、今後どの辺が人手不足になるかとか色々と教えてもらった。一通りを教えてからため息をついた。
パッと見は…その…、あまり冴えない様に見えるが様々な物事に対して面白い観点を持って物事を観察している様子だ。見た目通りの人にはあまり見えないが…。若い頃はどんな風だったんだろう。
「この年で職を離れると中々再就職先が見つからないですね…。でもあなたはまだお若い。もし良い就職先を見つけたら紹介していただけませんか」
そう言って名刺を渡してきた。俺は会釈をして受け取る。柊 勘太(ひいらぎ かんた)さんというらしい。俺も名刺とか作った方がいいのかなぁ・・・。とりあえずメールアドレスだけ教えた。
それから、お互いに就職活動を頑張りましょうと励ましてから別れた。
石の上にも3年とかいうけど、マジでこの会社やべえと思ったらすぐにでも転職の準備に取り掛かる事をお勧めするよ!新卒の離職率が高いとか耳にした事あるけど、若人に関しては自身の人生の黄金期をブラック企業に勤める時間でつぶすべきじゃない。
特に命の危険を感じる会社に関しては本当に早く準備にかかって。これ最後は思考を奪われて、辞めるという思考がなくなって行って……なんてこともあり得るから。
「ここで通じないなら他に行っても通じない」「今時の若者は根性がない」とか言われた事あるけど、転職していい就職先に就けた。確かに本当に辛い事とか忙しい事とか悩む事はたくさんある。でも、前にいた会社より何百倍もいい。
きっとブラック企業のやり方が通じない時代が訪れる。そんな時代で最後に笑うために、何とか生き抜いていきましょう!!