※この作品はR-18です。

御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい   作:ヤングコーン

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僕の名前は檜木隆盛。
いつも思うんだが、カップルって人前でイチャイチャしなきゃならない使命でもあるのか?
こんな事を言うと僻みだとか非リア充だとか言われるが、人間って基本的に微塵も興味ない人のプライベートを見せられるのは嫌う生き物なんだぜ!
あ、ちなみに今日の晩御飯はサーロインステーキです。うまそぉ〜↑↑


30話 獅子奮迅

俺は隆盛と京間に沙織さんについての事を話していた。どう向き合えばいいのかわからない。父さん対しては便宜上そうだと伝えたとは言え、正式に恋人になると言う事がどういうことなのか考えていた。

 

その時に真っ先に思い浮かぶのはイソフラボンだ。親友以上、恋人未満。そんな絶妙な関係。恋人ができた時、あんな風な悪ふざけもできなくなるのだろうか。あるいは沙織さんなら許容してくれるだろうか。

 

頭の中でぐるぐると回り続けている。

 

「おい、聞いているのか」

 

京間はぐっすりと眠っている。パチリと目を開けると目をこする。

 

「だってそれは貞夫の気持ち1つじゃん。好きな方を選べばいいんだよ。後悔しない方を。簡単な事じゃないか」

 

「…一応言っておくと、改めて沙織さんが俺と恋人になった場合はお前がこう懐いてくる事だってできるか怪しいんだからな。同異性関係ないぞ」

 

「それは困るゥ…」

 

そういうと飛びついて来た。お前は変わらんな…。頭を撫でた。

 

「意見に関しては京間さんと同じ意見だよ。何かを得るには何かを失う。選ばないという選択もある」

 

隆盛は至って淡白だった。

 

「このまま気持ちを引き摺るのもそれはそれで嫌だな」

 

そのまま話し続けてもこれだという結論は出なかった。でも1つ確かな事がある。イソフラボンとこの事について話したいと言う事だ。彼女は沙織さんが俺に対して好意を抱いていると言う事を理解していた。そのことについて何をどう思っているのか。

 

あるいは何も思っていないのか。俺たちはずっと一緒にいたのにこれと言って色恋沙汰にはなってこなかったが、一緒にいる時間は何にも代えがたいほどに心地の良いものだった。

 

恋という気持ちを理解した今でも、彼女との関係が分からないでいる。

 

「決着をつけないと…」

 

思う気持ちは沢山あるが、今の気持ちに最も的確な言葉はそれな気がした。俺はイソフラボンに電話をした。話したい事があるから、3時間ほど時間の空きが欲しいと言った。今夜の21時頃なら大丈夫とのことだったので予定はそれで決定した。

 

イソフラボンもちょうど俺に話したい事があるんだそうだ。お互いに今はそれ以上は聞かない。それでも、長らくの付き合いからか何の話なのかお互いに理解している気がした。

 

 

 

 

約束の場所まで車で来た。自宅からはそこそこ遠い。イソフラボンは何故か同乗しなかった。予定時刻より15分は早く着いたが、その頃には先についている様子だった。スマホをするわけでもなく、誰かといる様子もなく、ただ闇夜に紛れてどこか遠くを眺めている様子だった。

 

空は雲行きが怪しい。雨が降るかもしれない。俺の到着に気付いたようでこちらを向く。

 

「来たかジャンク…、いや貞夫」

 

「急に呼び出したりしてすまん、陽子」

 

「奇遇にも私も話があったんだ。丁度良かった」

 

お互いに、人間1人分ほどの距離を空けて向かい合う。

 

話す事は散々頭の中で考えてきた。切り出すフレーズとか、内容とか…そしてたった今それを忘れた。今まで一番話してきた人物なのに、こんな時に限って言葉が見つからない。陽子は何を考えているのか、ただ拳を握って俺の目を見据えていた。

 

雷が鳴った。雨がぽつぽつと降って来る。

 

「陽子、俺にとってお前は…」

 

「貞夫、私にとってお前は…」

 

言い出して止まる。風がビュウビュウと吹く。次第に雨も強くなってきた。それでもお互いに立ち尽くして何も話せない。これだけ近くにいるのに触れ合えない。稲光が何度も瞬いた。

 

口にする言葉はない。

 

ならば、交わす言語はもう1つしかないんじゃないのか。不器用過ぎる2人はお互いにそれを察する。友達だから、親友だから、敵だから、家族だから…。今の俺達にはこうする他にコミュニケーションができない。

 

初動はわずかに陽子が早かった。その体格からは想像できないほど鈍重で威力のあるパンチ。顔が狙いなのは分かっていたから腕で受け止める。もう片方の手で殴りかかると相手ももう片腕で振り払う。

 

陽子の蹴りがみぞおちに入った。息苦しくなって屈んだ勢いのまま彼女のデコに頭突きを食らわせる。わずかにのけ反った様に見えたがあっちもそのままの勢いで頭突きを返してきた。俺はもう一度頭突きを食らわせる。

 

お互いにデコから血を流す。汗じゃなくとも雨が目元に落ちてきて視界が非常に悪い。陽子は見えているのか見えていないのかほぼ目元をぬぐう事なく襲い掛かって来る。勢いをつけた右フックを掴み、勢いを利用して後方に倒れ込んで巴投げを決めた。

 

ぬかるんだ足元にも関わらず即座に体制を立て直すそして再び同じ勢いで駆けてくる。今度は右足で回し蹴り。俺は足首を掴んだ。しかし、今度は左の軸足が締めを蹴って2撃目が放たれる。完全に予想できなかった俺はこめかみに蹴りが直撃した。

 

衝撃で掴んでいた右足首を離してしまう。綺麗な着地はできず地面に倒れる陽子。俺は視界がぐらつき、ふらふらと後ろによろめていて膝をついた。意識を失わない様に、ダメージを悟られない様に今度は俺が走り寄る。

 

陽子は俺の飛び膝蹴りを直前でぐるっと回りながら回避して俺の背中に回る。そしてその勢いでエルボーを俺の背中に放った。俺は体勢を崩して手を地面についてしまう。そこに更にかかと落としで追撃。

 

腹まで地面に着く。次の攻撃が来るのは分かっていたので、痛みに耐えながらも体を転がしてその場を離れた。

 

しかし、俺の視界が次に陽子をとらえた時には既に攻撃の動作に入っていた。大きく足を後ろにやって蹴りを繰り出そうとしている。俺は体を捩って勢いをつけて陽子の軸足を刈った。俺は少し転がって離れた場所で起き上がる。

 

陽子はゆっくりと起き上がる。体中にこびりついた泥をも洗い落とすほどの強い雨の中、お互いににらみ合う。

 

駆け出したのはほぼ同時だった。俺の拳がヒットする距離から一気に詰めると、胸部に掌底打ちを加える。非常に強力だったが、足場のぬかるみが仇をなしてか完全な威力を出す事が出来なかった。俺は勢いは削がれたもののそのまま拳を突き出して陽子の顔面を狙う。

 

そして直前でピタッと止めると人差し指と親指で輪っかを作ってデコピンをした。

 

「いたっ」

 

間の抜けた声で言った。お互いにデコは怪我してる。怪我した所は避けた。俺たちは笑いあうと、すぐに車に乗り込んだ。あああ、車の座席まで濡れてしまった。

 

車に乗っていた、車検の時にもらったまま乗せてあるタオルを2つ取って片方を陽子に渡した。俺はエンジンを入れて暖房を入れる。

 

「…聞かせてよ、貞夫。あの言葉の続き…」

 

「陽子が先に」

 

「やだよ」

 

ほぼ同時にシートを倒して車の天井を眺める。

 

「…俺達の関係って結局何なんだろうな」

 

「肉体言語を交わしても駄目なら、もう知る術はないんじゃないかなぁ…」

 

陽子は目元を手の甲で押さえた。

 

「大丈夫か、まだ痛むか?」

 

あの殴り合い加減はしなかった、出来なかった。海外で俺の人生の比じゃない修羅場を潜り抜けた彼女の力は半端じゃない。万全な状態での喧嘩なら、俺はただじゃすまなかったかもしれない。

 

俺は陽子の手首を持ち上げ異常がないか確認をする。その目は明らかに潤っていて、泣き出しそうだった。

 

俺が困惑して戸惑っていると手を振り払われる。

 

「見んなバカ」

 

何もなくてよかった。俺はほっとして座席にもたれかかる。

 

「…私は怖い。沙織さんにばかりかまけて、私に構ってくれないお前の事を想像するのが。今までみたいに悪ふざけしたり、一緒に笑いあったりできなくなるのが」

 

「陽子…」

 

「お前が沙織さんと付き合うなら私は喜んで祝福する。でも、それだけが気がかりなんだ。そうなると、いよいよ貞夫と私の関係が分からん。自分が抱く気持ちの正体も…」

 

声色に涙を隠せない。

 

…思えば俺たちはお互いの関係を男女と言う枠にこだわっていたのかもしれない。俺はふと思い浮かんだことを口にする。

 

「相棒…」

 

「?」

 

「俺達の関係」

 

「相棒か…」

 

今のお互いの関係に一番ぴったり来る気がした。陽子も頭の中で反芻してうなずいていた。

 

「俺達の関係は今後も変わらない。きっと。だから踏み出そう」

 

俺は手を出した。陽子もその手を握った。

 

俺たちの関係は1つ終わり、そして新たな関係が始まった。そんな気がする。まだ天気は晴れないが、きっとこれからの俺達の人生の旅路は暗くない。皆が一緒なら、どこまでも遠くへ歩んでいける。俺はそう確信していた。

 

「イソフラボン、これからもずっと一緒にいてくれ」

 

「頼まれたって、意地でも離れるもんか」

 

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