御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
…今まで色んな事があって紆余曲折したよな。
これから書こうと思うのはハートフルストーリーだ。
上手くいくかな…不安はある。上手く行っても行かなくてもこれが最終回。
まだまだ未熟な俺だが、楽しんでいってくれ。
†
俺の名前はスポイト。そういうHNの物書きだ。ハッピーエンドが書きたくて長らく小説を書き続けているが、まるでハッピーエンドが書けそうにない。俺は皆が幸せになる物語が書きたいだけなのだが…、よくてメリーバッドエンド、よくバッドエンドになってしまう。
一作書き終えて俺は深くため息をついた。今回も大勢が死んでしまった。どのへんで選択をミスったんだろう。
ぼんやり考えているとドアチャイムが鳴った。誰だろう。開けるとその先にはオフ会であった物書き友達のクラムボンがいた。
「私の推しがまた死んだじゃないか!!!」
「あれはあの時死んだ方が丸く収まったんだよ」
「鬼!サイコ!シャイニング!」
随分な言いようだが、彼女は俺の小説の一番のファンだ。だが、何故か決まって彼女の推しだけはほぼ必ず死ぬ。「お前に推しを言うとそいつを殺すだろう」という疑いをかけられたため推しを聞き出せなくなってしまったが、毎回というほどピンポイントでクラムボンの推しが死ぬ。
俺も何となく狙いをつけてクラムボンが推してそうなキャラが死なない様に頑張ってみたが、無事に狙いは外れて今回も死んでしまったらしい。
玄関で立ち話もなんなので、家の中に入れた。仕方がない事には仕方がないのだが、やはり機嫌が悪い。
「出だしは良かったじゃないか。大体、何がどうしたら学園ラブストーリーから宇宙大戦争物になったんだよ」
「俺にも詳しい事は分からないが、気が付いたら戦争に突入してた」
学園の秘密を探るあたりからおかしくなっていっていた気がする。やっぱり学園長が宇宙人でしたはまずかっただろうか。
クラムボンはUSBメモリーを取り出して俺のパソコンに刺した。そこの文章ファイルを開く。
「これを見て。私が考えた次回作のあらましを書いた文章。これに沿って書けばあなたはハッピーエンドも書けるし、私の推しも死なない!どう!?」
俺はそれを読んでみる。あまり乗り気じゃなかったが、作風は俺に寄せていて非常に面白そうだ。これなら書ける。俺は頷いてこれをもとに書くことにした。
「やっぱり死んだじゃないか!!!」
次の作品を書き終え、投稿してしばらくすると彼女がやって来てそんなツッコミを受けた。
「殺すつもりはなかったんだ」
「見事に死んでいったよ!!ヒロインの腕の中で!!!」
本当に申し訳ない。
とりあえず大筋からはずれさえしなければ後は割とオリジナル要素とかガンガン入れて行っていいかと思ってたら、段々とその微妙な軌道のずれが大きくなっていって段々と取り返しがつかなくなっていっていた。その結果がこれである。
クラムボンは頭を抱えてため息をつく。
「もうハッピーエンドは諦めた方がいいんじゃないか?」
「俺は諦めん」
そこは譲れなかった。
それからと言う物、何作品も何作品も書き重ねていった。いずれにせよ、ハッピーエンドとは程遠いものばかりである。それバッドエンドとは程遠い、または縁のないジャンルから始めてもわずかにバッドエンドの余地が残っていれば必ずバッドエンドになる。
一体なぜなんだ…。
どんなに酷いシナリオであっても、クラムボンは決して俺の作品を読まなくなる事はなくしっかり読んでくれた。時にはシナリオ進行の事で献花した事もあった。それでも読んでくれた。
ある時、俺は今までにない経験をすることになる。それは小説の続きが書けなくなるという物。最終回までもう少しだと言うのに。それなのに書けない。一体どうして…。どれだけ書き連ねても、それが本編の続きの物語の様には思えない。こんな物語じゃいけない。俺はそう思うと何度も書いては消した。
クラムボンも姿を消して連絡すらない。俺は唯一無二の最大のファンであり、親友であるクラムボンをなくしてしまったのだ。
書けない…。
俺は打ちひしがれていた。書けない、ただそれだけの事がショックで。ハッピーエンドどころか、バッドエンドも、メリーバッドエンドも…俺は書けない。
「筆を折るか…」
「悩んでいるみたいだな」
塞ぎ込んでいた俺は、自宅に引き篭もっていた。密室。どこにも入り口なんてない。目の前にいるクラムボンは一体どこから現れたというのだろう。
「スポイト…。私の事がまだ分からないのか」
「クラムボンの事…?」
そこで俺は気が付いた。目の前にいるこの人物は、クラムボンこそは…今俺が書いている小説の物語のラスボスなのだ。どういう…事だ…。
「私はな、未来から来たお前の物語から具現化した登場人物だったのだ。お前にハッピーエンドの物語を書かせたくて」
「何だと?それじゃ、本来は今作でさえバッドエンドなのか?」
「本当に救いようがないぐらい。…しかし、私と過ごした日々の中でスポイトは成長した。今こそ、ハッピーエンドを描く事ができる。だが…」
「だが…?」
「今の物語がハッピーエンドを迎えれば私はもうスポイトの書く次作を読む事ができなくなるんだ。…私は……、死ぬからな」
「そんな……」
だから、俺から物語を奪って姿を消していたのだ。結末を迎える事を悩んでいたから。俺が筆を折ってしまえばそもそも物語は作られなくなる。未来は消える。クラムボンの先もないから消えてしまう。だからこうしてやってきて、それを阻止しに来たのだ。
聞いてて辛かった。クラムボンは俺の親友なのだ。妄想の産物なんかじゃない。俺の小説のために産まれた彼女を、この手で殺さなきゃいけなくなるだなんて。彼女の手から離れた物語が俺の元に帰る。アイデアが頭の中に浮かぶ。それは彼女の迎える死の物語を示していた。
「新作を書く!この物語は永遠に休載だ!そしたらクラムボンは消えない!」
「甘ったれるな!始めた物語の結末ぐらいつけろ!でなければ私がお前の元に来た意味がない!!」
彼女は指を弾く。パソコン画面が開かれ、作品の編集画面が出てくる。
「書け!この物語を終わらせるんだ!…頼む」
「…クラムボン……」
彼女は死を覚悟してやって来たのだ。自らの死を覚悟しながら、俺に物語の結末を描くように頼んできたのだ。その覚悟を無碍にはできない。
書き始めればもう自分には物語の進行を止める事はできない。俺はクラムボンを…殺す。
書く。書いて書いて書き殴る。こうする事が物語にとってのハッピーエンドと感じた全てを描き切る。クラムボンの喉も掻き切る。ラスボスを倒した後のキャラごとの後日談まで書いた。その頃には既にクラムボンは消えてなくなっていた。
これで満足か…?
ハッピーエンドが書けるようになった俺は新作を書いていた。続編は心に決めていた。前作のスピンオフだ。主人公は…クラムボン。
物語の進行は俺にはどうする事もできなかった。それでも、伏線を残す事には成功した。だから書ける。本編後、復活するための伏線を。今度は戦闘メインの話じゃない。前作では完全に理解し合うという事ができなかった主人公と和解して、一緒に暮らす話だ。
そうだな…ジャンルはさながらハートフル系といった所か。
「続編のための伏線、やっぱり無理があるって書き込みがあるぞ」
クラムボンが笑いながら言った。まぁ…俺もそう思ってた。それでも書きたかったからこれでいいんだ。クラムボンがこうして俺の傍にいてくれるなら。
物語を綺麗に終えられなくなるだけでハッピーエンドが描けるようになるなら、ごてごてで…、無理のある物語でもいい。俺が描きたいものを描くんだ。
今、次のネタで困っている。
「ネタ切れだクラムボン。何かいいネタはないか?」
「そうだなぁ…。私に小説を書かせるなんてどうだ?」
「ははは、面白そうだな。小説内のキャラに小説を書かせる…アリだ。ペンネームを決める必要があるな」
「ヤングコーンなんてどうだ?」
「じゃあそれで」
†
おっすおっす、ヤングコーンです。ご愛読ありがとうございました。
32話では檜木貞夫の物語、最終話で御手洗ジャンクの物語を書き終えました。
成長した御手洗ジャンク君はハートフル小説を書けてました?
正直私は書きたいものを意図して書けるほど器用じゃないのでどんな風な仕上がりになってるとかさっぱりわからないんですよね←
もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
今しばらくは次回作は書かないんじゃないかとは思うんですが…(多分)
機会があればまたお付き合いください。お願いします。
ちなみにイソフラボンの正体は宇宙人です(嘘)